労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 松蔭学園
事件番号 東京地裁平成19年(行ウ)第582号
原告 学校法人松蔭学園
被告 国(処分行政庁 中央労働委員会)
参加人 松蔭学園教職員組合
個人3名
判決年月日 平成21年2月12日
判決区分 棄却
重要度 重要命令に係る判決
事件概要  本件は、学園が、組合員X1・X2・X3(学園が設置・運営する高等学校部門の教員)に対して、平成7年度ないし14年度の給与引上げ・一時金支給(組合員により、一部年度の給与引上げ・一時金支給を除く。)を差別したことが不当労働行為に当たるとして、申立てがあった事件である。
 初審東京都労委は、上記申立てに係る年度の給与引上げ・一時金支給差別の是正(是正水準については、請求額のおおむね8割程度である。)、是正差額の支払(年5分の金員付加)及び文書手交を命じ、中労委は、初審命令の一部を変更し、上記申立てに係る年度の給与引上げ・一時金支給差別(平成11年度ないし14年度の年度末一時金支給差別を除く。)の是正(是正水準については、おおむね初審命令と同じである。)、是正差額の支払(年5分の金員付加)及び文書手交を命じ、学園及び組合のその余の本件各再審査申立てを棄却した。これを不服として、学園は提訴した。
判決主文 学園の請求を棄却する。
判決要旨 1 本件当事者間における別件不当労働行為事件の平成7年和解(X1に対する昭和61年9月2日付け自宅待機・研修命令の解除、職場復帰等を内容として、平成7年3月1日、中労委において和解が成立したもの。)及び平成8年和解(X2に対する昭和56年11月20日付け解雇の撤回、職場復帰等を内容として、平成8年5月29日、中労委において和解が成立したもの。)における職場復帰時の給与額は、平均的な非組合員に比して大幅に低いものであったところ、学園は、組合に対し、同給与額を基礎として、その後の給与額を提示しているから、これら提示の給与額も平均的な非組合員の給与額に比して大幅に低いものとなる。
 X1・X2の能力は平均的な非組合員と比較して劣ってはいなかったと認められ、また、学園は、X1・X2に対して自宅待機・研修命令や解雇処分等をしたほか、学園と組合間には多くの救済申立てがなされるなど紛争が続き、学園が組合を嫌悪していたと認められる。そして、上記各和解は、X1に対する隔離や自宅研修が不法行為であるとの判決や、X2に対する解雇が無効であるとの判決を受けて、組合において、X1・X2の職場復帰を目指して交渉を始めた結果としてされたものであり、とくにX1・X2は、異常に長期間にわたって教室や学校から遠ざけられている状態(X1については約14年間、X2については約15年間)を少しでも早く解消するため、職場復帰時の給与額について、学園の提示額をそのまま受け入れざるを得なかったことが明白にうかがえる。しかも、職場復帰と給与額に関する交渉の過程において、学園は、非組合員の賃金実態について個別にも総体的にも明らかにしないだけでなく、学園における賃金体系も一切明らかにせず、上記各和解以後に、一定限度で明らかにしたにすぎないのであって、組合は、上記各和解をする際に、学園の提示額について、平均的な非組合員の給与額との比較など的確な検討をすることが可能な状況では全くなかったことが認められる。このような事実経過に照らすと、上記各和解において明文の合意がない以上、上記各和解における給与が、その後の賃金決定の基礎となるとの合意はなかったと認めるのが相当である。
 したがって、同給与を前提として提示し給与を引き上げないことは、X1・X2を組合員であることの故をもって不利益に取り扱うものであり、かつ経済的打撃を与えることにより組合の弱体化を企図してその運営に支配介入したものということができ、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である(一時金について、平均的な非組合員より低い支給月数を提示したことも同様の不当労働行為である)。平均的な非組合員と同様の賃金になるよう是正を命じた本件命令に裁量の逸脱はなく、正当である。
 (なお、本訴訟において、学園は、X3に関しては、給与引上げ・一時金支給の不当労働行為性及びその是正水準について、特に争わなかった。)
2 学園は、組合員の給与・一時金については、組合に対し、毎年7月の団体交渉において当該年度の給与額と夏期一時金の割合を提示し、毎年12月の団体交渉において当該年度の冬期一時金の支給月数を提示していたが、組合との間で妥結に至らない場合は、給与については、最後に妥結した年度の給与額(上記各和解の給与額)のみを支払い、一時金については支払っていない。このように、学園においては、組合に対し、毎年同じ時期に、組合員の給与・一時金について、具体的な給与額や支給月数を提示していた事実はある。
 しかしながら、学園は、組合との間で妥結していないことを理由として、学園が提示した額すら支払わず、任意の支払としては、最後に妥結した年度の給与額を支払い続けているだけであるから、学園が毎年何らかの形で賃金決定をしたとは評価できないし、当該決定に基づく毎月の給与支払をしたともいえない。さらに、学園は、X1・X2からの仮処分命令の申立てを受けて、和解により、学園提示額と、既に支給した額の差額の約7割を仮払金として支払っていたが、仮処分申立て事件における裁判上の和解に基づく支払であって、学園の自主的な支払とは性格が違うし、その金額は、学園提示額にも届かず、かつ、和解において、給与額・一時金額の合意がされていないこと、すなわち、給与額・一時金額が決定されていないことを確認した上での支払にすぎないのであるから、このような支払をもって、学園における賃金決定に基づく支払をしたとの評価もできない。
 上記のとおり、学園は、組合に対する給与・一時金提示の前提となる何らかの決定をしたとは認められず、賃金決定に基づく支払をしたともいえず、学園は、賃金決定をしないという不作為を継続しているといわざるを得ない。そうすると、本件救済申立てが、行為の日から1年を経過してされたとはいえず、労働組合法第27条第2項により却下すべきとはいえない。このように、申立期間経過の問題は生じないという解釈は、組合において、学園による賃金決定とそれに基づく支払がない以上、賃金差別があるかどうか判断し難い状態あったと評価できることからしても正当である。
 よって、学園の請求には理由がない。

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顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
東京都労委平成15年(不)第102号
東京都労委平成13年(不)第20号
東京都労委平成14年(不)第29号
全部救済 平成17年12月20日
中労委平成18年(不再)第4号、同第7号 一部変更 平成19年8月1日
 
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