労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 昭和シェル石油(大阪)
事件番号 東京地裁平成17年(行ウ)第175号(甲事件)・平成17年(行ウ)第415号(乙事件)
甲事件原告兼乙事件補助参加人 昭和シェル石油株式会社
乙事件原告兼甲事件補助参加人 全石油昭和シェル労働組合大阪支部
個人6名
甲、乙事件被告 国(処分行政庁 中央労働委員会)
判決年月日 平成19年5月28日
判決区分 (甲事件)全部取消、(乙事件)棄却
重要度  
事件概要  会社が、組合大阪支部のX1外5名について、①職能資格等級を低位に格付けたこと、②賃金・賞与について差別支給をしたことが不当労働行為であるとして争われた事件である。初審大阪府労委は、人事考課差別及び昇格差別があったとして、①組合員5名の職能資格等級の是正、②組合員6名の賃金額の是正、③①及び②の是正をもとに行った賃金及び賞与にかかる査定のやり直しとバックペイ及び文書手交を命じ、救済申立期間を徒過した賃金及び賞与の格差是正についての申立ては却下した。
 組合ら及び会社はこれを不服として、再審査を申立てをしたところ、中労委は、初審命令主文第2項の「平均賃金額」を「平均賃金額(該当する本人を除いて算定した額」に改め、その余の申立てを棄却した。これに対し、組合ら及び会社は、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求に係る中労委命令を取り消し、組合らの請求について棄却した。
判決主文 1 中央労働委員会が,中労委平成12年(不再)第2号・第7号事件につき、平成16年11月4日付けでした不当労働行為救済命令のうち、甲事件補助参加人兼乙事件原告らの申立てを棄却した部分を除いた部分を取り消す。
2 甲事件補助参加人兼乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、甲事件の補助参加によって生じた費用及び乙事件によって生じた費用を甲事件補助参加人兼乙事件原告らの負担とし、その余の費用を披告の負担とする。
判決の要旨 (争点1)組合員X1ら6名に対する組合差別による不当労働行為(不利益扱い、支配介入)該当性について
① 会社の本件中央労働委員会命令が違法であるとの主張に対し、中央労働委員会は、会社のX1ら6名に対する職能資格等級の格付、本件人事考課における査定、これらに基づく賃金、賞与の支給が不当労働行為(不利益取扱い、支配介入)に当たることを主張立証しなければならない。すなわち、中央労働委員会は不当労働行為の成立要件として、X1ら6名に対する行為が不利益取扱い、支配介入に当たる事実、X1ら6名が組合員であること、上記行為が不当労働行為意思に基づくものであることを主張立証しなければならないとされた例。
② 会社の社員数は約2200名であったのに対して、本件組合の組合員数は約70名であり、同期、同性、同学歴に限っても本件組合の組合員数は極めて少数であり、このような著しい人数差がある状況下において、単純に職能資格等級を比較して、一方が他方に比べて差別的取扱いを受けていると推認することは相当でない。会社では、経歴や職務内容を同じくする従業員であっても、個別にその成績・能力・情意(勤務態度)等に基づいて昇格判断及び人事考課がされるのであって、その結果として同期、同性、同学歴であっても職能資格等級の格付、査定に格差が生じることは当然といえ、X1ら6名と同期、同性、同学歴との間に職能資格等級及び賃金について格差が生じているからといって、直ちにX1ら6名に対する職能資格等級の格付、人事考課に合理的理由がないと推認することは相当でないとされた例。
③ X1ら6名は、会社に対して、「目標記述書」、「自己診断カード」を提出せず、目標の設定、自己評価の機会を放棄するなどして、会社における職能資格制度に基づいた人事考課を拒否しているのであって、X1ら6名の査定内容を単純に比較し、X1ら6名が相対的に低査定を受けていたからといって、当該人事考課に合理的理由がないと推認することも相当でないとされた例。
④ 大多数の従業員が配転を経験しているところ、X1ら6名は、実質的に配転を拒否するとの意向を示し、大阪支社の同じ課に長期間にわたり勤務し続けていたことが認められる。そうだとすると、X1ら6名は、長期間同一部署で同様の職務を担当していたのであるから、これまでの職務経験に応じて、ある程度の成績を上げることができるのは当然であって、X1ら6名の成績、査定内容と同一部署の他の従業員の成績、査定内容を単純に比較し、相対的に低査定を受けていたからといって、当該人事考課に合理的理由がないと推認することも相当とはいえないとされた例。
⑤ 会社における人事考課においては、12%から14%の割合でC評価を受ける者がいること、これはX1ら6名の本件組合に所属する組合員に限られないこと、D評価を受ける者もいることが認められる。そうだとすると、X1ら6名がC評価を付けられた比率が多かったといって、X1ら6名の本件人事考課に合理的理由がないと推認することも相当とはいえないとされた例
⑥ 本件組合大阪支部及びX1ら6名は、会社は本件所属組合の組合員以外の従業員について、実際には学歴、男女別に設定した職能資格滞留年数を基準にして年功序列的賃金昇格管理を行っており、X1ら6名は本件組合に所属しているがゆえに上記基準から外されていると主張するが、滞留年数に基づく管理が行われていたと認めるに足りる証拠は存在しない。のみならず、X1ら6名と同期の者が本件中央労働委員会命令が命じた職能資格等級に昇格した年次には、9年から13年以上のばらつきがあること、基準から外れた年次で昇格した者が少なからず存在することから、会社が本件考課時、本件組合所属の組合員以外の従業員について、学歴、男女別に設定した機能資格滞留年数を基準にして、年功序列的賃金昇格管理を行っていたと認めることは困難であるとされた例。
⑦ 会社がX1ら6名に対して行った本件人事考課における査定及び職能資格等級の格付について、各人ごとに個別に検討したところ、合理的理由を欠いているとまで認めることは困難である。したがって、会社の本件組合大阪支部及びX1ら6名に対する不当労働行為意思の存否について検討するまでもなく、会社はX1ら6名が本件組合に所属し、組合活動を行っていたことゆえに、本件考課における査定及びこの間の職能資格等級の格付において、不利益扱いをしたとはいえず、不利益扱いが認められない以上、この存在を前提とする支配介入を認める余地もないということになるとされた例
(争点2)申立期間の経過の有無について
 X1ら6名の昭和60年から62年までの間の賃金及び賞与額の是正、差額の支給を求める部分は、その基準となる考課査定及び職能資格等級の格付に基づく賃金の最後の支払いの時(各年12月)から1年を経過してされたものであり、労組法27条2項所定の期間経過後にされたものとして、不適法になると解するのが相当であるとされた例。

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地労委平成元年(不)第10号・平成2年(不)第6号 一部救済 平成12年1月11日
中労委平成12年(不再)第2号・第7号 一部変更 平成16年11月4日
東京高裁平成19年(行コ)第206号 一部取消、棄却 平成22年5月13日
 
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