労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  医療法人一草会  
事件番号  名古屋地裁昭和43年(行ウ)第36号  
原告   医療法人一草会  
被告   愛知県地方労働委員会  
被告補助参加人   総評全国一般労働組合愛知地方本部  
判決年月日   昭和48年12月26日  
判決区分   全部取消  
重要度   
事件概要  1 法人が、看護婦の勤務を従来の三交替制から当直制に変更したこと及び看護婦の静脈注射が法令に違反しているとしてこれを拒否したことを理由に、夏季一時金及びベースアップの支給額を別組合の組合員と差別したことが不当労働行為であるとして争われた事件である。
2 愛知地労委は、法人に対し、差額金額の賃上げ実施及び夏季一時金に係る差額金額の支払を命じ、その余の請求を棄却した。
 本件は、これを不服として、法人が名古屋地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、法人の請求を認容して、命令の救済部分(主文第1項)を取り消した。
判決主文   被告が、被告補助参加人組合と原告との間における愛労委昭和41年(不)第7号不当労働行為救済申立事件につき昭和43年6月17日なした別添命令書記載命令主文第一項の命令を取消す。
 訴訟費用のうち原告と被告との間に生じた分は被告の、原告と被告補助参加人との間に生じた分は被告補助参加人の負担とする。  
判決の要旨  1 地労委は、原事件において主張・立証されなかった事項については、本訴において採用し得ないと主張する。
 しかし、裁判所は命令について手続上のかしの有無はもとより事実認定、または、法令の解釈適用等の当否を審査するものであって、この場合の認定は地労委のなした事実認定に拘束されることなく、独自の権限に基づいてなし得るものと解すべきである。
 従って、裁判所は、地労委の審査の過程で提出されなかった訴訟当事者の新たな主張と証拠の提出をも許容すべきであり、これに基づいて命令の当否を判断し得ると解するのが相当である。
2 病院における考課査定の観点とされたものは主として、①医師等上長の指示命令の徹底度、②本人の看護業務状況、③患者または従業員間の協調性、の3点であったが、具体的評定観察の内容となったのは、看護要員については、医師の意見、患者の訴え、患者の容態表の記載における観察度・記入回数等の記録状況、院長や管理部長等各評定者が、病院内を巡回した際における各従業員の勤務態度、出勤時間等であり、第一組合員については、多くが容態表の記載を簡略に記入していたことや、主任看護婦については「看護者週間勤務予定(実施表)区分および配置」または月間予定表の提出をなさず、或いは提出が遅れたことが不利に評価され、また、当直勤務拒否行為や静注〔注;静脈注射〕拒否行為が業務に対する非協力的態度として不利に評価された。
3 病院における考課査定制度は、査定の前提となる原資や、対象を所属組合にかかわりなく全従業員としていること、考課に際しては、予め設定された項目につき数次にわたって多数の評定者による査定をなすなど、方法的・内容的にも極力客観性・公平性を保持できるよう配慮されていることが窺われ、制度自体として特に不合理な点は認められない。
4 昭和40年6月18日より当直制が実施され、第一組合員が当直拒否行為を行うようになったことを併せ考えると、昭和40年年末一時金の査定以降第一組合員の殆んど全員がマイナスの査定を受けるに至った理由は、専ら当直拒否行為の評価にあったものと認められ、静注拒否行為は、殆んど影響のない程度に参酌されたにすぎないものと推認できるから、これをもって考課が第一組合員であるが故をもって不利益取扱いをなしたものということはできない。
 次に地労委は春季賃上げにおける考課査定が病棟毎に一率になされたことから、病院の不利益取扱いを推認しているが、右は一般に、病棟毎に看護要員の勤務態度がまとまって良好であったり、或いは不良であったりする傾向がある外、考課点一点の単価が一円余であり、これを最終的には10円未満の端数を切上げ或いは切捨て調整したため、わずかな考課査定の差が消滅したためであることが認められるから、右事実のみをもって不利益取扱いと見ることも困難である。
5 病院が従来の三交替制勤務による基準看護を廃止したことは、その経緯に照らして首肯でき、仮に当直制勤務への変更が医療の低下を来たすものであったとしても、すでに三交替制勤務を維持できない以上はこれに代るものとして当直制勤務の採用は必然的なものというべきである。また、当直制勤務の採用に伴う勤務内容の変化も、必ずしも労働条件の悪化とはいえず、労働時間の延長は否めないとしても、これに対する反対給付の存在と当直制勤務採用の高度の必要性からみて、未だ不合理なものとはいえない。その他、運用の実情においても当直制勤務の採用を不合理ならしめる事由の存在についてこれを認めるに足りる証拠はない。
 従って、当直制勤務の採用は、制約された看護要員によって最大の治療効果をあげるために合理性を有するものであり、当直制勤務の採用に伴う就業規則の改正は合理性がある。
6 地労委は使用者が一方的に就業規則を変更したとしても、それをもってこれに同意しない労働者の個々の労働契約の内容が直ちに就業規則の改正どおりに変更されるものではないから、当直制の採用に伴う就業規則の変更に同意しなかった第一組合員に対しては、改訂した就業規則に基づく業務命令により当直勤務を命ずることはできないと主張する。
 一般に就業規則は、多数の労働契約関係を集合的・統一的に処理する必要があるところから、労働条件についても、統一的かつ画一的に決定するため、個別的労働契約における労働条件の基準として、使用者が定めたものであり、労働条件の定型である就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めている限り、労働条件はその就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範性が認められるに至っているということができる。
 従って、労働者は、就業規則の存在、および、内容の知悉の有無、またはこれに対する個別的同意の有無にかかわらず、当然にその適用を受けるものというべきである。
 また、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特に統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由とし、その適用を拒否することは許されず、これに対する不服は団体交渉等の正当な手続による改善にまつのほかはない。
 しかして、当直制採用に伴う就業規則の改正は合理性があるから、第一組合員がこれに同意しなかったとしても、同人らに対しても当然に適用されるものである。
7 地労委は、第一組合員の当直拒否行為は全組合的な統一的な意思決定に基づいて行なわれたもので正当な組合活動であると主張する。
 しかし、改正後の就業規則は第一組合員にも適用され、病院は第一組合員に対して適法に当直勤務を命じ得るから、第一組合員の当直拒否行為が正当な組合活動であるか否か、或いは、争議行為に該当するか否かを論ずるまでもなく、右行為は一面において病院の業務に対する非協力的態度を有するものと評価することは何ら差し支えない。
8 結局病院の昭和41年春季賃上げ、および、夏季一時金の考課配分は妥当であり、これを不当労働行為にあたると認定して妥結平均額との差額の支払を命じた本件命令はその認定を誤った違法があるのでこれを取消す。
掲載文献  労働委員会関係裁判例集13集124頁 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛知地労委昭和41年(不)第7号 一部救済 昭和43年6月17日
 
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