平成21年7月6日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室
室長   鈴木  裕二

Tel 03−5403−2172

Fax 03−5403−2250

間口陸運不当労働行為再審査事件
(平成20年(不再)第19号)命令書交付について

中央労働委員会第二部会(部会長菅野和夫)は、平成21年7月6日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

〜重大な人身事故を含む交通事故を1年間に3回起こしたことを理由とした組合員の雇止めが不当労働行為に当たらないとされた事例〜

会社が、雇止め通知時には、別組合の組合員であった者を組合の組合員となった後に雇止めとしたのは、重大な人身事故を含む交通事故を 1年間に3回起こしたことを理由とするものであり合理性が認められ、不当労働行為には当たらない。また、組合員の雇止めを議題とする 団体交渉における会社の対応は不誠実であったといえない。

I 当事者
再審査申立人   全国金属機械労働組合港合同(以下「組合」)(大阪府大阪市)組合員800名(初審審問終結時)
再審査被申立人  間口陸運株式会社(以下「会社」)(大阪府大阪市)300名(初審審問終結時)
II 事案の概要
本件は、会社が、(1)配送業務に従事する契約社員である組合員を、同人が重大な人身事故を含む交通事故を 1年間に3回起こしたことを理由として雇止め(以下「本件雇止め」)にしたこと、(2)本件雇止めを議題とする団体交渉(以下「団交」)に 誠実に応じないことが不当労働行為であるとして、大阪府労働委員会(以下「大阪府労委」)に救済申立てがあった事件である。
大阪府労委は、(1)及び(2)のいずれも不当労働行為に該当しないとして、組合の救済申立てを棄却したところ、 組合はこれを不服として再審査を申し立てた。
III 命令の概要
1 主文
本件再審査申立てを棄却する。
2 判断の要旨
(1)本件雇止めは労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
(ア)本争点に関する組合の主張が、A組合員が組合の組合員であることを理由とする不利益取扱い ないし組合に対する支配介入をいうものであるとすれば、A組合員は、本件雇止めが通知された時点では別組合の組合員であり、 また、同時点で組合に加入しようとしていたとも認められないのであるから、会社が、A組合員が組合の組合員であること、 または、組合に加入しようとしたことの故に、ないしは組合を弱体化しようとして、A組合員を雇止めしたとは考え難い。
(イ)また、本争点に関する組合の主張が、A組合員が別組合の組合員であることを理由とする不利益取扱い ないし別組合に対する支配介入をいうものであると解して、本件雇止めが相当性を欠いている旨の組合の主張を検討してみても、 下記のとおり、その主張はいずれも認められない。
a 組合は、「会社は事故隠しや処分隠しをしており、本件雇止めは、事故を起こした他の運転手への処遇と整合性を欠いている」旨主張する。
しかしながら、組合が挙げる事故隠しや処分隠しの例はいずれも物損事故であり、A組合員と同程度、同頻度、同過失割合の 交通事故を起こしながら、雇止めを免れた契約社員がいるとは認められない。また、交通事故を理由として雇止めとなった他の事例に かんがみても、本件において雇止めの処遇が、A組合員に対してことさら厳しく、不当なものであったとは認めることはできない。
b また、組合は、「A組合員と会社間では、短期契約が反復して更新されてきたというよりも、期間の定めのない契約が交わされているというべきであるから、 本件雇止めは、実質的に解雇に相当し、解雇法理に基づく手続が必要であるにもかかわらず、会社はこれを踏んでいない」旨主張する。
しかしながら、会社は、本件雇止めの1月以上前に、理由を付した上、文書で本件雇止めを通知しており、かつ、本件雇止めまでの間、自宅待機中のA組合員に平均賃金を支払っている。 これが、有期雇用契約を複数回更新し、長期間継続勤務している者に対する雇止めの手続として直ちに不当なものであるとはいえない。
c さらに、組合は、「会社は、別組合との団交で、懲罰委員会の設置を約束していたにもかかわらず、同委員会を開催せずに、雇止めをもって一方的に雇用関係を終了させた。 会社は、A組合員の処分について、情状酌量の余地が議論される可能性があったため、同委員会を回避するために雇止めを選択した」旨主張する。
しかしながら、本件交通事故等を起こしたA組合員の処遇につき、別組合は、処分手続の公正さを求めていたものの、会社が温情的配慮により懲戒解雇から雇止めへ変更した旨説明すると、 会社の対応に理解を示し、懲戒解雇ないし雇止めの撤回については強く追及していない。
そして、本件雇止めは、A組合員への懲戒処分としてではなく、運転手の適性の観点から行われたものであるから、手続上、懲罰委員会は要しなかったのであって、 これを開催しなかったことを不当ということはできない。
d 他にも、組合は、「A組合員の処分決定の根拠は損害調査委員会における損害の大きさの判断にあったはずであるから、同委員会が、別組合との第1回団交から 本件雇止めが通知されるまでの間に開催されていないことは不当である」などと主張する。
しかしながら、本件交通事故に関する損害調査委員会は、本件交通事故による経済的・社会的不利益の実態を調査するために設置されたものであり、 A組合員の処遇を検討するための機関とは認められない。また、同委員会は、本件雇止めの通知の前に2回開催されており、概ね損害内容が確認できていたのであるから、 別組合との第1回団交から本件雇止めが通知されるまでの間に同委員会が開催されなかったことを不当とする組合の上記主張は採用できない。
e なお、上記組合の主張はA組合員が別組合の組合員であった時期の労使関係に関するものなので、 組合の申立人適格ないし救済利益の有無の問題も含まれているが、下記(エ)のとおり本件事実関係からは不当労働行為の成立を認めることは到底できず、 また、本件再審査手続において、会社が特段この問題を争っていないので、この問題には立ち入らないこととする。
(ウ)会社が運送会社であり、運送業務における安全性を確保する必要があることにかんがみれば、1年に3回も交通事故を繰り返し、 3回目には重大な人身事故を惹起したA組合員に対して、会社が本件雇止めを行ったことには合理性が認められる。
(エ)以上の次第であるから、本件雇止めは、労組法第7条第1号の不当労働行為の要件を充たさず、また、 会社が本件雇止めをもって組合に対して同条第3号の支配介入を行ったとも認められない。
(2)本件雇止めを議題とする団交における会社の対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか
組合と会社間では、合計3回の団交が開かれたが、本件雇止めには問題があるとして撤回を求める組合に 対して、会社は、A組合員が起こした事故の頻度や相手方の被害の大きさに言及し、運送業を営む上で安全性の確保や得意先の 信用の保持は重要である等として、本件雇止めの撤回要求には応じられない旨を繰り返し述べるとともに、その理由として、 A組合員の行為は十分懲戒解雇に相当するが、検討の結果、雇止めにしたこと、本件交通事故は重大な人身事故で、 他の事故とは比較できず、過去にも事故を起こしたことによる雇止めの事例が数件あること、組合が指摘した約10件の 事故に関して、これらは全て物損事故でA組合員の事案とは異なること等、会社は組合が問題とした点について相応の説明を 行っているとみることができる。そして、第3回団交以降、組合が会社に対して、A組合員の処遇に関して、協議の継続を求め、 団交を申し入れた事実はない。
以上の次第であるから、本件雇止めを議題とする団交における会社の対応を不誠実であるということは できず、労組法第7条第2号の不当労働行為は成立しない。

【参考】

1 本件審査の概要
初審救済申立日  平成18年12月11日(大阪府労委平成18年(不)第67号)
初審命令交付日  平成20年4月30日
再審査申立日   平成20年5月13日(労)

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