平成21年7月17日

中央労働委員会事務局

第一部会担当審査総括室

室長  西野 幸雄

Tel  03−5403−2157

Fax 03−5403−2250

田中酸素不当労働行為再審査事件
(平成20年(不再)第14号)命令書交付について

中央労働委員会第一部会(部会長 諏訪康雄)は、平成21年7月16日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

−命令のポイント−

−賞与及び賃金の減額が差別取扱いの不当労働行為に当たるとされた事例−

1  組合員3名の賞与の支給額がそれ以前の傾向からみて低額(以前の3分の1又は4分の3)であり、不利益な取扱いに当たる。また、賞与に関する査定制度の運用が恣意的であり、組合員3名の減額に合理的な理由が見当たらず、組合と会社が継続的に対立関係にあったことに照らすと、不当労働行為意思が認められる。したがって、会社が賞与を減額したことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる。

2  19年以降の賃金(職能給)を減額された者は、従業員28名中、組合員3名ほか1名だけであること、組合員3名の減額に合理的な理由が見当たらないこと、会社が、前記1のとおり不当労働行為意思に基づいて賞与を減額していたことによれば、会社が賃金の減額をしたことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる。

I 当事者

再審査申立人:田中酸素株式会社(以下「会社」)【山口県宇部市】従業員60名

再審査被申立人:田中酸素労働組合(以下「組合」)【同上】組合員5名

II 事案の概要

1  本件は、会社が、[1]組合員Aに対し、営業支援を命じたこと(以下「本件支援命令」)及び[2]組合員A、B及びCの17年夏季ないし18年冬季の賞与及び19年1月以降の給与を減額したことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる、[3]Aに対し注意書を交付したこと及び[4]Bに対し戒告処分とし、営業所においていわゆる職場八分としたことは、同条第3号の不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。

2  初審山口県労委は、前記[1]について、Aを本件支援命令が発せられる前の職場に速やかに復帰させること、[2]について、17年冬季ないし18年冬季の各賞与について、明確かつ具体的な査定基準と支給手続を明示した上で、再査定に基づいて賞与支給額を定め、既支給額との差額を支払うこと、19年の月例賃金の基本給を18年と同額とし、既支給額との差額を支払うことを命じ、その余の申立を却下ないし棄却したところ、会社は、救済を命じた部分を不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文の要旨

(1) 初審命令主文第1項(本件支援命令に関し救済を命じた部分)を取り消し、この部分に関する救済申立てを棄却する。

(2) その余の再審査申立てを棄却する。

(3) 主文第2項を訂正する(再査定に関し、組合員3名が組合員であることを考慮しないこと、組合に明示した査定基準及び手続きに則って行うことを明らかにする内容に訂正)。

2 判断の要旨

(1)【本件支援命令は不当労働行為に当たらない】

本件支援命令の内容は、毎朝本社に出勤した後社用車で営業所に赴き、同営業所での勤務を終えた後、定時の勤務終了時刻までに社用車で本社に戻るというものであり、Aの給与、就業時間等の基本的労働条件を不利益に変更するものではなかった。また、Aの勤務態様に照らせば、昼の休憩時間を除き、勤務時間外の本社での組合活動は制約されず、仮に昼の休憩時間における組合活動が制約されるとしても、本件支援命令により組合活動がどのように制約されたのかは明らかでないから、Aに救済すべきほどの不利益があったと認めることは困難である。更に、本件再審査が申立てられた後、本件支援命令は解除されており、Aは本社に復帰している。

以上によれば、Aに救済すべきほどの不利益があったと認めることは困難であるから、本件支援命令は労組法第7条第1号の不当労働行為に当たらない。

(2)【査定制度に基づく賞与減額は不当労働行為に当たる】

Aら3名の17年冬季ないし18年冬季における賞与の支給額が、それ以前の支給額や他の従業員の支給額の傾向からみて低額(以前の約3分の1又は4分の3)であったと認められること、会社が、前年同季の支給額を基本として賞与の支給額を決定していたと推認されることに照らすと、不利益な取扱いに当たるというべきである。

また、賞与に関する査定制度の運用が客観性、合理性を欠く恣意的なものであったと認められること、会社が主張するAら3名の勤務態度を減額事由とすることに合理的な理由が見当たらないこと、組合と会社が継続的に対立関係にあったことに照らすと、会社は、Aら3名の組合活動を嫌悪し、同人らに経済的不利益を課す意図に基づいて賞与の減額を行ったものと認められる。

したがって、会社が、Aら3名の17年冬季ないし18年冬季における各賞与を減額したことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる。

(3)【査定制度に基づく賃金減額は不当労働行為に当たる】

19年の職能給を減額された者が、従業員28名のうちAら3名を含む4名しかいないこと、Aら3名の19年の職能給を減額する合理的な理由が見当たらないことから、Aら3名に対する19年の職能給の減額(前年比9600円ないし1万5000円減)は、Aら3名に対する不利益な取扱いであると認められる。

また、会社が、(2)のとおり、不当労働行為意思に基づいて賞与を減額していたことも併せると、会社は、Aら3名が組合員であることもしくは正当な組合活動を行ったことを理由として、19年の職能給を減額したものと認めるのが相当である。

従って、会社が、Aら3名に対する19年の職能給を減額したことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる。

【参考】

初審救済申立日 平成18年8月15日(山口県労委平成18年(不)第2号)

初審命令交付日 平成20年4月1日

再審査申立日 平成20年4月11日(使)


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