平成21年10月1日

中央労働委員会事務局

第一部会担当審査総括室

室長   西野 幸雄
電話 03(5403)2157
FAX 03(5403)2250

クボタ不当労働行為再審査事件
(平成20年(不再)第41号)命令書交付について

中央労働委員会第一部会(部会長 諏訪康雄)は、平成21年9月30日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

−派遣先の会社が、直雇用化(会社の従業員とすること)を予定している派遣労働者 との関係で労組法7条の使用者に当たるとされた事例−
 労組法7条にいう使用者は、労働契約上の雇用主に限定されるものではなく、雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存すれば雇用主と同視でき、労組法上の「使用者」と解すべきである。
 本件においては、19年1月26日の時点で、会社が派遣労働者である本件従業員らを直雇用化することを決定していること、2月16日の説明会において、会社が本件従業員らに対し、4月1日より希望者を全員契約社員として直雇用化する旨説明等し、「同意書」を提出すれば約2か月後に会社の従業員となることが確実になったことから、少なくとも、2月28日に団体交渉申入れが行われた時点においては、会社は、労組法7条の使用者に該当する。

I 当事者

人: 株式会社クボタ(以下「会社」)(大阪府大阪市)
従業員約11,000名(初審審問終結時)
再審査被申立人: 全日本港湾労働組合関西地方大阪支部(以下「組合」)
組合員約700名(初審審問終結時)

II 事案の概要

1 会社は19年1月26日、同社の恩加島工場で就労している派遣労働者を、4月1日を目処に直接雇用すること(以下「直雇用化」)を決定した。その後、組合は、直雇用化実施前に会社に団体交渉を申し入れたところ、2月26日に1度は団体交渉に応じた(以下「第1回団体交渉」)ものの、2月28日、3月14日及び3月23日付けの4月1日以降の組合員の労働条件等に係る団体交渉申入れ(これらを併せて以下「本件団体交渉申入れ」)に対して、「3月中に団体交渉を持つことは考えていない」、「団交応諾義務があるとは考えていない」などとして、直雇用化が実施されるまでの間、これに応じなかった。
 本件は、会社が、(1)団体交渉開催以前に組合員らに対し、直雇用化後の労働条件についての説明会(以下「2.16説明会」)を実施したこと、(2)組合からの本件団体交渉申入れに応じなかったことが、それぞれ労組法7条3号、同条2号の不当労働行為であるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事案である。

2 初審大阪府労委は、(1)会社が第1回団体交渉開催以降、直雇用化実施までの間に本件団体交渉申入れに応じなかったことは、労組法7条2号の不当労働行為であるとして、会社に対し文書手交を命じ、(2)その余の申立ては棄却する旨決定したところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要等

1 主文(初審の一部救済命令を維持)

(1) 本件再審査申立てを棄却する。

(2) 主文第1項を訂正する(今後の労使関係の運営において、適切な時期に団体交渉が実施されることを期するという趣旨を明確にするために、手交する文書の内容を訂正)。


2 判断の要旨

(1) 会社は、本件団体交渉申入れに関して、労組法7条の使用者といえるか
ア 労組法7条にいう「使用者」は、同法が助成しようとする団体交渉を中心とした集団的労使関係の一方当事者としての使用者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的にこれに該当するものの、必ずしも同雇用主に限定されるものではない。雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者もまた雇用主と同視できる者であり、労組法上の「使用者」と解すべきである。
イ 本件についてみると、19年1月26日の時点で、会社は4月1日より本件従業員らの労働契約上の雇用主となることを決定したものと認められる。そして、本件従業員らを対象とする2.16説明会において、4月1日より希望者を全員契約社員として直雇用化する旨説明し、会社の契約社員の申込みを受けることについての「同意書」等を配布したのであり、この時点で、組合員を含む本件従業員らにおいても、「同意書」を提出すれば約2か月後に会社の従業員となることが確実になったのである。
 そうすると、少なくとも、本件団体交渉申入れの19年2月28日付け申入れが行われた時点においては、会社は、組合員との関係において、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者として、雇用主と同視できる者であり、労組法7条の使用者に該当するというべきである。

(2) 会社が本件団体交渉申入れに応じなかったことに正当な理由があるといえるか
 会社は直雇用化後の労働条件を2.16説明会において初めて明らかにしたのであり、かつ、事前に組合には何らの通知もしていなかった。そして、本件団体交渉申入れにおける団体交渉議題は重要な労働条件の変更に係るもので、直雇用化実施前の段階において団体交渉を開催する必要性が大きいものであるから、会社としてはこれに誠実に対応すべきであるところ、会社は、「3月中に団体交渉を持つことは考えていない」などとして本件団体交渉申入れを拒否したのである。このような会社の一連の対応からすると、会社は一貫して組合と協議する姿勢を有していなかったものといわざるを得ず、会社が主張する就業規則等の翻訳作業の時間的制約等をもって団体交渉拒否の正当理由とすることはできない。

(3) 本件について救済利益は存在するか
 会社は、本件については、団体交渉拒否の再発は考えられない旨主張するが、本件において会社は適切な時期に団体交渉の開催に応じなかったのであり、かつ、直雇用化後の団体交渉の状況をみても労使間で妥協点を見出すには至っていないのであるから、再発の可能性がないとはいえない。


【参考】

1 本件審査の概要

初審救済申立日 平成19年 3月23日(大阪府労委平成19年(不)第11号)

初審命令交付日 平成20年10月29日

日 平成20年11月11日(使)

2  初審命令主文

(1) 文書手交(団体交渉拒否に関して)

(2) 組合のその余の申立ては棄却


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