平成21年9月30日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室

室長   鈴木  裕二
電話 03(5403)2172
FAX 03(5403)2250

エッソモービル石油(13年度ボーナス)不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第57号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成21年9月30日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

〜賃金交渉未妥結を理由とした一時金妥結及び仮払の拒否は組合弱体化を意図したものではないとされた事例〜

賃金交渉における会社の回答内容や対応が不当であったとは評価できず、会社の不誠実な対応の結果、賃金交渉が延伸したとはいえないこと等から、会社が、賃金交渉未妥結を理由に、一時金の妥結および一時金の仮払を拒否したことは、組合弱体化の意図に基づく不当労働行為とは認められない。

I 当事者

スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(以下「組合」)
再審査被申立人エクソンモービル有限会社(以下「会社」)、初審申立時はエッソ石油有限会社(以下「エッソ」)及びモービル石油有限会社(以下「モービル」)

II 事案の概要

本件は、会社が、組合に対し、平成13年度(以下「平成は省略」)の賃金交渉(以下「 本件賃金交渉」)が妥結していないことを理由に、同年度一時金交渉(以下「本件一時金交渉」、本件賃金交渉と併せて「本件賃金・一時金交渉」)の妥結を拒否し、本件賃金交渉が妥結するまでの間の一時金の仮払を拒否したこと(以下「本件一時金妥結・仮払の拒否」)が労働組合法第7条第3号に該当するとして、エッソ及びモービルをそれぞれ被申立人として、東京都労働委員会(以下「東京都労委」)に救済申立てがあった事件である。
 東京都労委は、エッソを被申立人とする事件及びモービルを被申立人とする事件を併合して審査し、組合の救済申立てを棄却することを決定したところ、組合はこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要等

1 主文

本件再審査申立てを棄却する。


2 判断の要旨

(1) 会社による本件一時金妥結・仮払の拒否は、労使慣行を破壊するものか
 組合は、「賃金交渉妥結前の一時金妥結・仮払は慣行であり、仮払等を拒否した会社の対応は、労使慣行を破壊する行為である」旨主張する。
 昭和58年度から12年度までの間に、エッソにおいて過去1回、モービルにおいて過去3回、賃金交渉未妥結のまま一時金交渉が妥結され、一時金の仮払が行われたからといって、直ちに、これが労使慣行として定着していたということはできない。
 したがって、本件一時金について、会社が本件賃金交渉未妥結を理由として一時金の妥結・仮払に応じなかったことが、労使慣行を破壊するものである旨の組合の主張は採用できない。
(2) 会社による本件一時金妥結・仮払の拒否は組合弱体化の意図に基づくものか
 組合は、「会社は、その不誠実な対応の結果、本件賃金交渉を延伸させ、本件賃金交渉において、会社の提案する不利益条件を一方的に強制して組合の団結を弱体化するため、本件一時金妥結・仮払の拒否を行った」旨主張する。
 ア 本件賃金交渉について
 (ア)本件賃金交渉における会社回答
 組合は、13年度春闘要求として、39万7000円の賃上げを要求(以下「本件組合要求」)し、会社は、5490円(賃上げ率1.3%)の賃上げを回答(以下「本件会社回答」)した。本件会社回答は、12年度に組合と妥結した賃上げ額とほぼ同じであった。会社は、別組合らに対しても同様の回答を行い、その内容で別組合らと妥結しており、また、組合との間でも、別組合らからは3か月以上後ではあったものの、本件会社回答どおりの内容で妥結している。
 そうすると、本件組合要求と本件会社回答は、相当異なる内容のものであったが、上記事情や下記(イ)の会社の説明内容を考え併せると、本件会社回答自体が合理性を欠くものであるとか、組合にとって到底受け入れ難いもので、組合を殊更に差別しようとするものであったとはいえない。
 (イ)本件賃金交渉における会社の対応
 組合は、「会社が賃上げ回答、基本給上限設定の根拠や0.1%別枠調整などについて団体交渉で具体的な説明を行わず、不当な対応をとり続けた」旨主張する。
 しかしながら、会社は、本件賃金・一時金交渉に関して、エッソにおいては14回、モービルにおいては15回、組合との間で団体交渉を行っており、その具体的な経過をみてみても、会社は、本件賃金交渉において組合から求められた点につき必要な範囲で説明を行ってきたものと認めることができ、かつ、その説明内容にも不合理な点は認められない。
 また、本件賃金交渉における会社の交渉態度が、別組合らに対する場合と比べて、組合を殊更に差別したり、不利に取り扱ったりする不当なものであった等の事情はうかがえない。
 (ウ)小括
 以上からすると、本件賃金交渉における会社の回答内容や対応が不当なものであったとは評価できず、会社の不誠実な対応の結果、本件賃金交渉が延伸したということはできない。  イ 本件一時金妥結・仮払の拒否について
 本件一時金は、本件賃金交渉の結果によって決定される賃金を前提としているものであるから、 会社が本件賃金交渉妥結と同時ないしそれ以降に本件一時金交渉の妥結を図ろうとすることは、相当であるといえる。また、組合の賃上げ要求は前年度妥結実績と大幅に異なるものであったこと、会社と別組合らとの間では、賃上げ・一時金について会社回答どおりの内容で妥結していたこと、会社が、一時金を旧賃金に基づき仮払すると、新賃金妥結後に遡及支払が必要となる等の事情も存する。
 これらにかんがみれば、会社が、組合が現実味のない賃上げ要求に固執していると考え、そのような賃金交渉が妥結するまでの間、別組合らに対するのと異なる対応をしてまで、組合に一時金の仮払を行うのは適切でないと判断したことには合理性がある。
 ウ 上記ア・イからすると、会社の本件一時金妥結・仮払の拒否は、組合弱体化の意図に基づく行為であると認めることはできない。
(3) 結論
 以上の次第であるから、会社が、本件賃金交渉の未妥結を理由として、本件一時金の妥結・仮払をしなかったことは、労働組合法第7条第3号の支配介入の不当労働行為であるとはいえない。

【参考】

本件審査の概要
初審救済申立日 平成13年7月3日(東京都労委平成13年(不)第59・60号)
初審命令交付日 平成18年9月7日
平成18年9月11日(労)

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