厚生労働省


平成20年7月4日

中央労働委員会事務局
第三部会担当審査総括室

室長 鈴木裕二

Tel 03(5403)2172
Fax 03(5403)2250


季朋会員光園(きほうかいかじみつえん)不当労働行為再審査事件(平成19年(不再)第37号)
命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成20年7月4日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要は、次のとおりです。

〜組合執行委員長の配転等が争われた事例〜

命令のポイント

Aは、入所者への投薬に関する事故を起こした上、その責任を他に転嫁するように受け取られるような発言をし、誠実に自己の事故に関するミスを反省しているとはいえない対応をしていた。法人の反組合的意図ないし動機は否定し得ないものの、投薬ミス等を奇貨として、あえて組合員のいない施設にAを配転したものとまでは認め難い。

I 当事者

再審査申立人 社会福祉法人やまばと会員光園(山口県下関市)
(職員数145名(18.8.1現在))
再審査被申立人 かじみつ福祉労働組合
(上記法人職員で組織。組合員数等非公開)

II 事案の概要

1 本件は、上記法人(旧名称「社会福祉法人季朋会員光園」(19.6.25変更)」)が、[1]上記組合の執行委員長Aに対し、18年6月1日付けで、知的障害者更生施設員光園(本部施設の一つ)から高齢者デイサービスセンター「陣屋の森」(出先施設の一つ)に配置転換したこと、[2]組合員に対し、組合からの脱退を迫るなどの言動をしたこと、[3]上記配転に関する団体交渉を一方的に打ち切ったこと、[4]就業規則の変更に当たり、組合との事前協議を行わなかったこと、[5]その他の支配介入等をしたことが不当労働行為に当たるとして、救済申立てがなされた事件である。

2 初審山口県労委は、[1]ないし[4]は不当労働行為に当たるとして、法人に対し、[1]Aに対する知的障害者更生施設員光園以外の本部施設への配転、[2]組合からの脱退を迫るなどの言動の禁止、[3]就業規則変更に際しての組合との事前の誠実協議、[4]文書手交(上記1の[1]、[2]及び[4]に関し)を命じ、その余の申立てを棄却した。これを不服として、法人は、再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文要旨

(1)上記IIの2の[1]を取り消し、これに係る救済申立てを棄却する。

(2)同[3]及び[4]を文書手交(上記IIの1の[2]、[3]及び[4]に関し)に変更する。

(3)その余の本件再審査申立てを棄却する。

2 判断要旨

(1)本件配転

Aは、1年に満たない間に、二度にわたり、「自分の思い込み」等により、入所者への投薬に関する事故を起こした。いずれも、入所者の生命の安全をも害しかねないようなミスであった。その上、Aは、「薬は看護師の業務にしてほしい。」などとその責任を他に転嫁するように受け取られるような発言をし、また、園長から何度も求められた始末書の提出に応じないなど、誠実に自己の事故に関するミスを反省しているとはいえない対応をしている。上記事情から、法人においては、Aを少なくとも知的障害者更生施設員光園以外の施設に配置換えせざるを得ない状況にあったと認められる。なお、法人は、保護者会において、Aが、投薬は看護師の仕事であるから事故は看護師の責任であると責任転嫁しているなどと、保護者との契約書の条項(「事業者は、利用者の質問等に対して適切に説明しなければならない。」)が求めていると解される以上の内容を、誇張した意見を交えて、法人側から積極的に報告している。これは、法人の反組合的意図ないし動機をうかがわせるものである。

法人は、上記のとおりの状況にある中で、18年5月2日、陣屋の森の職員Bから同年6月30日をもって退職したい旨の退職届が提出されたため、この欠員を補充する必要が生じた。Aは、Bと同じく国家資格(看護師、介護福祉士、社会福祉士)はもちろんホームヘルパー、ケアマネージャーの資格さえ有していなかった。Bの後任として配置転換の対象となり得る他の職員で、Aの事情以上に配置換えすべき理由があった職員は見当たらない。

本件配転により、Aは、毎月2万円から3万円の収入減となったが、上記収入減は、陣屋の森が通所型の介護施設であるため、夜勤がなくなったことによるものである。

以上を総合勘案すると、本件配転は、不合理な措置であるとはいえず、かつ、法人の反組合的意図ないし動機は否定し得ないものの、Aの投薬ミス等を奇貨として、あえて組合員のいない陣屋の森に配転したものとまでは認め難い。したがって、本件配転は労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらない。

(2)本件言動

17年10月27日、園長は、知的障害者更生施設員光園の中庭において、組合員Cに対し、日ごろの支援の仕方について、「入所者に対して怒鳴るように声をかけるのは虐待の一種である。」などと注意した上で、「職安に行かせたくない。」、「Aとつるんでいてはいけない。」などと発言した。

上記発言の趣旨につき、園長は、審問において、「Cが知的障害者の支援に不適ということで、いやになって辞めさせたくない。Cは、孫のいるAとは今後の人生の取組方が違う。自らの立場を考えてほしい。」などといった思いであった旨証言している。

しかし、「職安に行かせたくない。」とは、「失業させたくない。」、すなわち、辞職ないし法人による解雇を示唆するものであり、また、「Aとつるんでいてはいけない。」とは、「執行委員長のAと一緒に行動してはいけない。」、すなわち、暗黙に組合からの脱退を要求するものであることは明らかである。園長の上記証言は単なる後付の弁解にすぎず採用することができない。

園長の上記発言は、組合の組合運営に対し支配介入したものとして、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たる。

(3)本件団交

法人は、本件配転は通常の人事異動の一環であり、撤回はあり得ないなどと回答した以上には何ら説明等をせずに、本件団交を終了させた。法人の対応は、極めて不十分であって、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

(4)本件就業規則変更

本件就業規則変更の内容は、変形労働時間制の採用、懲戒解雇を含む解雇事由の改定等、基本的労働条件にかかわるものであり、義務的団交事項に当たることは疑問の余地がない。したがって、法人は、労使関係の信義則上組合に事前協議を申し込むか、少なくとも変更する旨を通知すべきであったというべきである。それにもかかわらず、法人は、18年6月2日、組合との事前協議はもちろん何らの通知をすることもなく、下関労基署へ本件就業規則変更を届け出ている。これは、労使関係において対等な当事者であるべき組合を軽視し、組合の立場を著しく不安定にするものであり、その団結力及び団体交渉力を減殺し、組合を弱体化するおそれのある不当な行為であって、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるというべきである。

(5)救済方法

本件当事者間の労使関係、労使紛争の推移等を考慮すると、法人に対し、上記IIの2の[2]のとおり支配介入行為を禁じるとともに、この支配介入行為並びに本件団交における法人の対応及び組合に対する事前の協議や通知なしの本件就業規則変更について、文書手交を命じるのが相当である。

よって、主文のとおり命令する。

【参考】本件審査概要

18.7.11救済申立て、19.6.19初審命令交付、19.6.20再審査申立て


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