中央労働委員会事務局
第三部会担当審査総括官 神 田 義 宝
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平成19年12月6日


広島県(教育委員会)不当労働行為再審査事件(平成18年(不再)第23号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成19年12月6日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

《懲戒処分そのものは管理運営事項に当たり、その当否は団交事項には当たらないが、当該処分の実施により労働条件に影響が及ぶ場合には、その労働条件については団交応諾義務があるとされた事例》

【命令のポイント】

組合は、職務命令(組合年休取得状況調査)に応じなかった組合員になした県の懲戒処分に関する事項について団交を申し入れた。県が、組合員の労働条件に関わる限度においては団交に応ずべきであったのに、懲戒処分は管理運営事項であるから団交事項ではないとの立場から拒否したことは、組合年休の慣行の破棄に合理的理由があったとしても、正当な理由によるものとは認められず、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。


I 当事者

再審査申立人   広島県 (広島市中区) 普通地方公共団体で、執行機関として、知事部局等のほか、県立学校を所管する教育委員会等の行政委員会を置く。県立学校には所属長として校長(職務は、校務を司り、所属職員を監督する。)が置かれている。

再審査被申立人  (1)広島県高等学校現業職員組合 (広島市中区) 地方公務員法上の単純労務職員で構成。組合員数94名(18.12.21現在)。組合及び組合員は職員団体である教職員組合に加盟。

(2)個人6名

II  事案の概要

  広島県内の県立学校では、組合員を含む教職員が勤務時間中の職員団体活動又は労働組合活動を行う際、一旦年次有給休暇の届出をしておいて、何事もなければ後に破棄する等の方法(組合年休)が慣行的に行われていた。
  本件は、県が、任命権者である教育委員会(県教委)を通じて、(1)これを無効とする通達を発して当該慣行を一方的に破棄したこと、(2)職務命令により組合員の組合年休の取得状況を調査し、応じなかった組合員を懲戒処分(戒告)したこと、(3)当該処分に関して、「懲戒に関する事項」等を交渉議題とした団交申入れを、かかる申入事項は地方公営企業等の労働関係に関する法律(地公労法)第7条の「管理運営事項」に当たるとして拒否したこと等が不当労働行為に該当するとして、組合らから救済申立てがあった事件である。
  平成18年3月23日、初審広島県労委は、救済申立てのうち、上記(3)の団交申入れに関し、誠実団交応諾を命じ、その余を棄却したところ、労使双方はこれを不服として、県は当委員会に再審査を申し立て、組合らは広島地裁に取消訴訟を提起した。

III  命令の概要

1  主文の要旨

I個人6名に対する再審査申立てを却下。

II組合に対する再審査申立てを棄却

III初審命令主文第1項を次のとおり訂正。

1  平成12年1月19日及び同年2月17日付けで申入れのあった団交に関し、組合員の昇給延伸の基準などの労働条件に関わる事項について、誠意をもって団交に応じなければならない。

2  判断の要旨

(1) 個人申立人に対する再審査申立てについて

  団交義務違反の申立人になり得るのは組合に限られ、初審命令も組合のみを申立人としたと解されるから、個人申立人に対する再審査申立ては、不適法であり却下する。

(2) 本件団交拒否について

管理運営事項と団交事項について

ア 労働条件との関連について

  地公労法(第7条)のもとでは、懲戒処分そのものは管理運営事項に当たり、その当否は団交事項には当たらないが、当該処分の実施により組合員の賃金その他の労働条件に影響が及ぶ場合には、県は、その労働条件については団交に応じなければならない。
  本件は、職員が懲戒処分を受けた場合、自動的ではないが原則として昇給延伸措置を受け、組合員にはその結果、給料表切替時の1号俸低い位置付けや定年退職時の特別昇給の不実施等の労働条件面の影響が生じている。そして、現業職員の昇給は、労働協約により労働条件として交渉の対象となっており、昇給延伸の基準はその裏返しのものであり労働条件として交渉の対象となり得る。
  本件団交申入れは、本件処分への抗議と取消しに主眼を置いているともみられるが、組合が昇給延伸やその基準等の労働条件に直接言及していなくとも、懲戒処分の結果として問題となる労働条件についても交渉における検討対象となることが当然予想され、本件処分により影響を受ける労働条件問題も含めて交渉を求める趣旨と認めることができる等の事情のもとでは、県は、労働条件面に限定して団交に応ずることが可能であり、少なくとも交渉申入れの対象に労働条件が含まれるか否かを予備交渉等によりまず確認したうえで団交に応ずるかどうかを判断するなどの対応をとることが可能であったのに、団交申入書の文言に拘泥し、本件処分が管理運営事項に属するとの理由で、予備交渉を含め一切の団交に応じなかった対応は正当な理由によるものとはいえない。

イ 交渉事項の細目について

  本件団交申入書においては、交渉事項の細目として、「(1)技術職員の職務」及び「(2)職場長との合意事項」が記載されている。(1)は、組合は組合年休取得状況調査の職務命令との関連において技術職員の職務内容を問題とし、本件処分がなされた根拠の具体的説明を求めて交渉を申し入れているものと認められ、(2)は、組合は、「組合年休」が職場における労使慣行として職場長(校長)により認められてきたとの立場から、本件処分に至った根拠の具体的説明を求めて交渉を申し入れているものと認められる。
  本件処分により影響を受ける労働条件について応ずべき団交において、これら細目との関連で処分の根拠について具体的な説明が求められている以上、県はこれに応じなければならないものと解すべきである。法令上及び事実上の根拠を欠く懲戒処分がなされた場合、労働条件たる懲戒処分基準について法定と異なる基準が存在する場合と同様に考えられるため、当該処分の根拠の説明は、労働条件についての団交の一環をなすと解されるところ、本件において組合は、本件処分を根拠を欠くものと捉え、処分の根拠について具体的な説明を求めて団交を申し入れているとみることができるからである。また、職務の内容それ自体は管理運営事項として団交の対象にはなり得ないとしても、いずれの細目についても関連性を有する「組合年休」については、労使慣行の法的評価はともかく、年次有給休暇の利用方法という点で労働条件に関わるものである。
  細目の趣旨には不明確な部分があるものの、県教委のA補佐も、何について交渉が申し入れられているのかを一応理解したうえで話合いの方法について意見を述べていること等から、予備交渉を含め一切の交渉を拒否することを正当化し得るほど不明確なものとはいえない。なお、2つの事項は交渉申入れの細目にすぎず、その内容に不明確な部分が一部含まれるとしても、前記アの判断を左右するものではない。

【参 考】 本件審査の経過

1  本件審査の概要

初審救済申立日  平成12年 3月 1日 (広島県労委平成12年(不)第1号)

初審命令交付日  平成18年 3月23日

再審査申立て    平成18年 4月 7日

2  初審命令主文要旨

(1) 平成12年1月19日及び同年2月17日付けで申入れのあった団交について、速やかに誠意をもって応じなければならない。

(2) その余の申立てを棄却。


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