平成19年11月1日

中央労働委員会事務局

第一部会担当審査総括室

室長  西野 幸雄

Tel 03−5403−2157

Fax 03−5403−2250


神谷商事不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第70・71号)命令書交付について

中央労働委員会第一部会(部会長 渡辺章)は、平成19年10月31日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者

第70号事件再審査申立人     神谷商事株式会社 (東京都渋谷区)

(第71号事件再審査被申立人)  従業員約60名(平成18年10月3日現在)

第71号事件再審査申立人    労働組合東京ユニオン

(第70号事件再審査被申立人)  組合員約900名(平成18年10月3日現在)

II 事案の概要

1   本件は、会社が、平成17年度昇給、夏期一時金及び年末一時金に係る団交において、組合の要求した財務資料の提示や常勤取締役の出席を拒否するなどの一連の対応が労組法第7条第2号の不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件である。

2   初審東京都労働委員会は、会社に対し、(1)会社の回答の根拠を具体的に説明するとともに、必要な範囲内において財務資料を提示するか、又はこれに代わるべき具体的数値を示すなどして、誠実に対応すること、(2)謝罪文の交付、掲示を命じたところ、会社は、不当労働行為の成立を認めたことを不服として、組合は、常勤取締役を団交に出席させることを命じなかったことを不服として、それぞれ再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文の要旨

(1) 初審命令主文を次のとおり変更

ア 会社は、組合が申し入れた平成17年度の昇給、夏期一時金及び年末一時金に係る団交において、常勤取締役等の実質的交渉権限を有する者を出席させ、会社の回答の根拠を具体的に説明するとともに、交渉に必要な範囲内において財務資料を提示するか、又はこれに代わるべき具体的数値を示すなどして、誠実に対応すること

イ 謝罪文の交付、掲示

(2) 会社の再審査申立てを棄却

2 判断の要旨

(1) 本件団交の不誠実団交該当性について

認定事実によれば、本件団交開催に至る経緯、団交の日時、場所については特段の問題はみられないが、6月29日及び11月24日の団交はわずか10分程度で終了しており、その主な原因は、会社が回答に変更の余地がない旨の返答をしたことにあったと認められる。会社は、会社回答の根拠について、「同一労働・同一賃金を基準として考えている」など、具体性を欠く説明に終始しており、組合の求める財務資料の提示はもとより、口頭においても合理的根拠を示した説明をしていない。会社は、会社回答は経営状態や業績に基づくものではないから、財務資料やこれに代わる具体的数値を提示する必要はない旨主張するが、本件団交における双方の主張の相違は相当大きく、会社は具体的根拠を示した説明をしていないから、組合が会社の財務資料の提示を求めたことには相応の理由があり、交渉に必要な範囲内で財務資料又はそれに代わる具体的数値を示すべきであった。会社側団交出席者は、あらかじめ用意された会社回答を読み上げるのみで、組合の質問に対しても、抽象的かつ形式的な説明を繰り返すにとどまっており、団交の場で何らかの譲歩や判断をした事実は認められず、組合からの要望については、常に持ち帰って会社役員等に伝えるとの対応に終始していることから、実質的交渉権限を有していないと判断せざるを得ない。会社は、団交出席者が持ち帰った組合の要望事項に対しても、従前の回答書のとおりとする旨を記載した文書を送付しているのみで、極めて形式的対応をしている。

これらの事情を併せ考えると、会社の一連の対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

これに対し会社は、会社回答は、中労委における和解交渉で示された額と同額であり、組合もこれを認識していたから、不誠実とはいえない旨主張するが、組合が団交開催を申し入れている以上、改めて労使が協議した上で決せられるべきものであり、中労委における和解で合意された額が絶対的基準になるものではないから、会社の主張は採用できない。

よって、本件団交に係る会社の一連の対応が労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるとした初審命令の判断は相当である。

(2) 常勤取締役の出席を命じることの当否について

必ずしも会社代表者や常勤取締役が出席していなければ、誠実な団交と認められないものではないが、本件においては、会社側団交出席者が実質的交渉権限を有していたとは認められない。

会社は社長一族が役員を占める同族会社であって、役員の意向のみによって会社回答が決定されていることが窺われる。従前、都労委で行われた立会い団交には、当時の社長及び専務も出席し又は別室で待機するなどして、実質的協議が行われ、一定の合意が成立している。会社は、14年度ないし16年度の各団交における対応について、それぞれ都労委から誠実な団交を命ずる救済命令を受けながら、本件団交においても、前年度までの態度を改めることなく、同様の不誠実な対応に終始しており、これまで都労委が命じてきた内容の救済命令を重ねて発するのみでは実効性に欠けるというべきである。

以上のとおり、会社側団交出席者に実質的交渉権限があったと認められないことに加えて、上記会社の経営実態や団交に対する姿勢を併せ考えると、今後の誠実な団交の実現のためには、常勤取締役等の実質的交渉権限を有する者の団交へ出席を命ずることが相当である。

(3) 結論

以上より、初審命令に加えて、団交に常勤取締役等の実質的交渉権限を有する者を出席させることを命じ、 会社の再審査申立ては理由がないことから棄却する。

【参考】

初審救済申立日 平成18年3月13日(東京都労委平成18年(不)第18号)

初審命令交付日 平成18年12月6日

再審査申立日   平成18年12月12日(使)

平成18年12月13日(労)


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