平成19年10月22日

中央労働委員会事務局
 第三部会担当審査総括室
  審査官 高橋孝一
    電話 03-5403-2265
     faX. 03-5403-2250

ワタナベ学園 不当労働行為再審査事件
(平成17年(不再)第75・76号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長赤塚信雄)は、平成19年10月22日(平成の元号は以下省略)、標記事件に係る命令書を当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は次のとおりです。

I 当事者

75号事件再審査申立人 学校法人ワタナベ学園(以下「学園」)。

76号事件再審査申立人 全労協全国一般東京労働組合(以下「組合」)。学園内に分会あり。

II 事案の概要

本件は、学園が、組合分会長Xの雇用継続を含む定年延長問題に係る団体交渉(以下「団交」)を拒否したこと及び同人を雇用継続しなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。初審埼玉県労委は、上記団交の拒否が不当労働行為に当たるとして、学園に文書掲示を命じ、その余の救済申立てを棄却した。これを不服として学園、組合とも再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文 初審命令主文第1項を取り消し、これに係る救済申立てを棄却する。
組合の再審査申立てを棄却する。

2 判断の要旨

(1) 団体交渉拒否の不当労働行為の成否について

ア 労働組合法第7条第2号の適用の有無

学園はXの定年退職により学園には組合員がいなくなったから、その問題に関し、労働組合法第7条第2号の適用はない旨主張するが、Xと学園との間に雇用契約が存在していた当時から存在している同問題に係る労使紛争が継続しており、同法条の適用は認められる。

イ 学園がXの定年退職後の団体交渉申入れを拒否したことの正当な理由の有無

学園は、定年延長問題に関し、組合の求めに応じ、回数を重ねて就業規則上の60歳定年制の堅持の方針やその根拠となる経営状況について具体的数値を挙げて丁寧かつ詳細に説明をし、組合がXの特別扱いを要求したことに対しても、上記定年制を堅持し特別扱いはできない旨の方針を説明してきている。一方、組合は、定年延長方針について労使が12年に合意したと主張する一方で、Xの特別扱いを求めることに終始するなどしており、学園の上記説明に対応した意見表明をせず、互譲により解決を図る交渉姿勢がうかがわれない。その上、12年6月の定年引き上げ要求以降13年3月のXの定年退職に至るまでの間、組合から定年延長に関する具体的・建設的提案がなされた形跡もなく、X定年退職以降についても事情変更は認められず、結局定年延長問題に関し、組合は従前の問題を蒸し返したに過ぎないものである。

組合は、組合ニュースの記載を根拠として12年6月に学園が定年引き上げの方向性を表明したと主張するが、その後労使間でこの問題に関し、具体的な交渉がなされた形跡がなく、13年4月に60歳定年制を存置する就業規則の改正を行い、同年11月5日の学園理事会で同定年制の堅持及び定年退職後職員の再雇用を行わない旨の決議をしている。一方、組合は機関紙等で学園に対し労働委員会における定年延長合意を指摘したところ、学園が調査する旨回答したと指摘したに留まっている。そうすると、12年6月当時、学園が定年延長の方向性までを表明してはいないと認めるのが相当である。

また、組合は、14年11月28日付け組合ニュースに同月5日の理事会決定に関する抗議の記事がないことや、高齢者雇用安定法上、雇用者の高齢者雇用確保に関する努力義務が規定されていることからして、同理事会決定の存在自体疑問であり、仮に理事会決定があったとしても、同月28日の団体交渉で説明がなかったと主張する。しかし、上記理事会決定については議事録があるところ、その内容は当時の学園の経営状況に符合し不自然な点はない。他方、組合の15年2月6日付け抗議文書には、14年11月27日の団体交渉で学園が就業規則上の60歳定年制を根拠にXの定年延長に難色を示した旨の記載があること、学園のB理事が上記団体交渉で理事会決定について説明した旨を一貫して証言していることなどからすれば、学園が上記理事会で定年制堅持の方針を決定し、これを14年11月27日の団体交渉で組合に説明したものと認められる。

なお、組合は、埼玉県労委において、学園が定年延長に関し公式合意したと主張するが、これを認めるに足る証拠はないから、組合の上記主張は採用できない。

(2) 団体交渉応諾命令の適否

団体交渉拒否の不当労働行為が認められない以上、団体交渉応諾命令を発する余地はないから、組合の再審査申立てには理由がなく、棄却を免れない。

(3) 学園がXの雇用継続をしなかったことの不当労働行為性

13年4月の就業規則改正以降、教職員を定年後も引き続き再雇用した例はなく、定年退職後の雇用継続が常態化していたとは認められない。学園は、私立の法人であるので、学生確保等の観点から、60歳以上でも教職員として特別の技量・能力のある者をあえて雇用することもあり得るところであり、定年退職後の再雇用者と、他から雇い入れた高年齢者とを同一に論じることはできない。単に60歳以上の在職者の人数をもって不当労働行為意思の有無の判定の基礎とすることは相当ではない。また、学園がXに命じた草刈りは同人の業務の一つであり、Xは昇格して給与も増額されたこと、分会長の立場にはあったがXの活動は顕著ではないことなどから、Xの雇用を継続しなかったことは同人の組合活動等の故をもってしたものとは認め難い。

【参考】 1 本件審査の概要 初審救済申立日 15年8月8日

初審命令交付日 17年10月18日

再審査申立日   学園)17年11月1日、 組合)同月2日

2 初審命令主文要旨 上記IIのとおり


トップへ