平成19年9月28日



 中央労働委員会事務局
   第二部会担当審査総括室
    室 長   伊 藤 敏 明
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 Fax 03−5403−2250



竹屋不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第60号) 命令書交付について


 中央労働委員会第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成19年9月28日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

 命令の概要等は、次のとおりです。


I 当事者

再審査申立人:  株式会社竹屋(「会社」)[従業員約270名(平成17年3月現在)]

再審査被申立人: 連合福岡ユニオン(「組合」)[組合員約300名(平成17年3月現在)]


II 事案の概要

1 本件は、(1)会社が、組合員A及びBの2名に対し、平成15年度期末決算賞与(以下、賞与の名称を示すときは元号を略し、期末決算賞与については「期末賞与」という。)並びに16年度夏期及び冬期賞与について著しく低額の支給をしたこと、(2)支店長らが、組合員に組合からの脱退を慫慂したり、朝礼の場で組合員を非難するような発言をしたこと等が不当労働行為であるとして、救済申立てがなされた事件である。


2 初審福岡県労働委員会は、会社に対し、組合員2名の15年度期末賞与及び16年度冬期賞与について役員考課係数を1.0として再計算し、既に支払った金額との差額を支払うよう命じ、その余の申立てを棄却したところ、会社は、これを不服として、当委員会に再審査を申し立てた。


III 命令の概要

1 主文

本件再審査申立てを棄却する


2 判断要旨
(1)不当労働行為の成否について

ア 会社の賞与制度とその運用について

 会社の賞与は、賞与基準額(基本給等に、個人考課係数、役員考課係数、部門考課係数等を掛け合わせたもの)に、ファンド数(総原資を全従業員の賞与基準額総額で除したもの)を乗じて算出されるが、各係数を決定する際の評価項目・基準等、賞与決定に係る重要事項が就業規則等に定められておらず、従業員への周知等を行った形跡も窺えない。

 また、役員考課係数は、全社的な調整を図るという観点から、0.5ないし1.5の間で係数が付与されるものであるが、最低の0.5を付与された場合には賞与額が一挙に半減することになる。役員考課原案は、会社のC専務が各所属長からの報告等で得た情報をもとに作成し、役員会に掛けられるが、ほぼそのまま承認される仕組みであり、同専務の主観的判断に基づく運用を許容するものであった。

イ 組合員Aに対する役員考課の相当性について

(ア) 15年度期末賞与

 Aが、(1)見積書の作成ミスで顧客に迷惑をかけたこと、(2)繁忙期に帯状疱疹を患い2週間有給休暇を取得し会社に貢献がなかったことが低評価の理由とされたが、(1)については、C専務はミスの内容や顧客に生じた被害等につき把握しないまま原案を作成しており、(2)については、C専務はAの休暇開始以降8日目までには当該賞与の役員考課原案を作成しており、Aの最終的休暇取得日数が確定せず、診断書も提出されないうちに劣位の評価を下したものといえることから、これらの評価に相当性があるとすることはできない。

(イ) 16年度冬期賞与

 Aのパーラー研修での勤務態度が積極性に欠けたことが低評価の理由とされたが、他の研修生と比較して勤務態度に特に問題はなく、特に同研修においてリーダーシップを発揮して積極的な態度で臨むよう注意や指導が行われていたとの事実も認められないから、低評価の相当性には疑問がある。

ウ 組合員Bに対する役員考課の相当性について

(ア) 15年度期末賞与

 Bの過失により交通事故を短期間のうち二度も起こす無反省な態度が低評価の理由とされたが、既に個人考課において最低ランクの係数0.6とされた上、これらの交通事故を理由として特に0.8を乗じることで、係数が0.48にまで重畳的に下げられており、そのうえ役員考課でこれをさらに0.24へと半減することになる0.5という係数を付したことにより著しく大きな減額となるものであってその相当性は疑わしい。

(イ) 16年度冬期賞与

 Bが会社福岡支店事務所に深夜に立ち入ったことに対し、会社がその目的等の報告を求めたにもかかわらず従わなかったことが、低評価の理由とされた。しかし、会社の就業規則には会社施設への勤務時間外の立入りを禁止する規定はなく、同事務所の従業員は警備会社による入退出の自動記録の管理の下、入退出を行っている。そして、Bは、当時、D主任のBに対する暴力事件に端を発する会社との係争の中、仕事上のミスは許されないとの強迫観念を持ち、翌日の仕事の確認等のために数回にわたり勤務時間外にも同事務所へ立ち入っていたことが認められる。また、勤務時間外に同事務所へ立ち入った者はB以外にも存したが、当時、会社がこれを特に問題にし、注意していたことの立証はない。さらに、Bが、会社が求めた報告において正確な記憶がないとして明確な説明をしなかったことも、既に当該立入りから相当の時間が経過していることや、当時の同人の心理状態からいって理解できないわけではなく、報告の不十分さにより業務上の具体的支障等が生じたとの立証もない。これらに加え、Bが既に個人考課において、当該事項に係るマイナス評価をなされていることを勘案すると、当該立入りに関する報告の不十分さを理由に役員考課で低査定することの相当性には疑問がある。

エ 不当労働行為意思について

 A及びBは会社との団交に常時出席し、その活動には一定の成果が認められるほか、福岡県労委にあっせんを申請するなど、組合活動は極めて活発であった。このような状況の中、C専務のAに対する「あまり追い詰めるな」「俺も本気で暴れるぞ」といった発言は、組合員であるAを個別的に威嚇することにより同人ひいては組合の活発な要求活動を牽制しようとしたものと推認でき、さらに、会社のE福岡支店長が、同支店の朝礼時に団交で問題となった事案を挙げ、これについてことさらBに名指しで問い質したことなどは、組合員であるBを孤立させる行為として行ったとみるのが相当である。

オ まとめ

 A及びBの役員考課は、会社の人事上の裁量権が認められるとしても、評価の相当性が疑わしい低査定が行われ、両名の賞与支給額が組合加入前に比べ著しく減額されていること、C専務らの言動からは、両名及び組合に対する嫌悪の念が推認できることを併せ鑑みれば、両名の組合加入及び組合活動を嫌悪したC専務らがそれらの故に低査定の考課を行ったものと判断され、労組法第7条第1項に該当する不当労働行為である。

(2)救済命令について

 会社は、本件初審及び再審査を通じ、A及びB以外に役員考課係数が1.0未満であった者の具体的評価内容を証明せず、両名の役員考課係数の会社にとってあるべき是正措置についての主張立証をしていない。したがって、労働委員会としては適正な裁量により諸般の事情を勘案して救済措置の内容を決定することとし、A及びBの組合加入前の役員考課係数がいずれも1.0であったこと及び会社従業員の概ね80%が同係数を付されていることを考慮し、両名の役員考課係数を1.0として再計算し、既に支払った金額との差額の支払いを命じた初審命令をもって相当と判断する。


【参考】

本件審査の概要

初審救済申立日 平成17年3月17日(福岡県労委平成17年(不)第2号)

初審命令交付日 平成18年9月29日

再審査申立日 平成18年10月13日





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