平成19年8月29日

中央労働委員会事務局第二部会担当

審査総括官  伊藤敏明

TEL 03−5403−2162

FAX 03−5403−2250

北海道旅客鉄道(北労組転勤)不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第36・37号)命令書交付について

中央労働委員会(第二部会長 菅野和夫)は、平成19年8月29日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令書の概要は次のとおりです。

I 当事者

再審査申立人(18-36)・再審査被申立人(18-37)

北海道旅客鉄道株式会社(「会社」) 「従業員 約8,700名」

再審査申立人(18-37)・再審査被申立人(18-36)

JR北海道労働組合(「組合」)   「組合員 約1,400名」

個人3名

(参考)上記組合は、平成15年10月26日に、T組合の組合員全員とK組合の一部組合員で結成された労働組合であり、社内には外にH組合等がある。

II 事案の概要

本件は、会社が札幌車掌所の車掌である組合員4名に対し、平成16年2月1日付けで釧路運輸車両所勤務を命じたこと(以下「本件転勤命令」)が、組合の組合員であることを理由とした不利益取扱いであるとともに、会社が組合の組合員に当該不利益取扱いの意向を示すことによって組合の弱体化を企図した支配介入であるとして、救済申立てのあった事件である。

初審北海道労働委員会は、会社に対し、(1)転勤を命じる際に組合の組合員であることを理由としてことさら差別的な取扱いをしてはならないこと、(2)(1)に関する文書掲示を命じ、その余の救済申立てを棄却した。組合及び組合員3名並びに会社は、これを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文の要旨

(1) 初審命令を次のとおり変更する。

(1) 組合員3名に対する本件転勤命令のなかったものとしての取扱い及び原職復帰

(2) 上記(1)に関する文書手交及び掲示

(2) 会社の本件再審査申立ては棄却

2 判断の要旨

(1) 本件転勤命令の必要性

釧路運輸車両所の要員状況等からみると、本件転勤命令により5名を補充する必要があったとする会社の主張には疑問がある。また、同運輸車両所に欠員が生じていたとしても、同運輸車両所の人員対策として、本件転勤命令によらざるを得ないという必要性については疑問がある。

(2) 本件転勤命令の人選基準、実施の手続等

当面の人事対策として行われた本件転勤命令に当たって、会社は、年齢構成の歪みの是正を挙げているが、会社がこれに計画的に対処してきたことを窺わせる証拠はなく、また、本件転勤命令による年齢構成の改善の効果はごく限られたものであることから疑問がある。

また、当時、釧路運輸車両所には若手車掌を指導する能力を有する者が10名程度存在していたこと等から、会社が他の車掌に対する指導・教育を行うための人材の補充の目的のために本件人選を行ったとみることは困難である。

以上によれば、本件転勤命令の人選基準の合理性及び人選の相当性には疑問がある。さらに、本件転勤命令は対象候補者の生活上の不利益への配慮を求める組合の団体交渉の要求にも応じずになされたもので、その実施の手続等においても問題を含むものであった。

(3) 本件転勤命令の不利益性

本件転勤命令は、遠隔地への長期間の異例の転勤として、転勤者の生活に多大の影響を与えるものであり、札幌車掌所の社員によって客観的に不利益な措置と認識されていた。

(4) 本件転勤命令当時の労使事情

会社は、H組合との関係を重視しその苦情・要求には前向きに対処する一方で、組合に対しては、T組合当時の方針・活動を変容させるのではないかとの懸念を持ち、その申入れには積極的に対応しなかった。本件転勤命令についても、会社は、大卒総合職の者を除き、本件転勤命令をH組合の組合員には命じず、組合の組合員のみに命じて、組合員の組合活動意思を萎縮させた。しかも、この過程では、会社は、H組合には何らかの方針を示していたと窺われる一方、組合にはこれを最後まで秘匿するなど、対立関係にあるH組合と組合との本件転勤命令に至る労使関係において、H組合を優遇して取り扱っていた。

(5) 結論

以上に加え、本件転勤命令が組合結成のほぼ3か月後になされていることを勘案すると、会社は、T組合の組合員とK組合の一部組合員で結成した組合を快く思わず、会社における車掌の中心的職場である札幌車掌所における組合の勢力が拡大することを懸念し、これを抑制することを願うとともに、協調関係にあるH組合の組合員には彼らが嫌忌する本件転勤命令を回避することを意図して組合員4名に対し本件転勤命令を行ったものとみざるを得ない。これらは、組合の組合員を、社員の配置において、組合の組合員であるが故に不利益に取り扱うものであるとともに、組合員の組合活動意思を萎縮させ、組合の組合活動を抑制するものであるから、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為に該当する。

【参 考】

初審救済申立日  平成17年 1月21日(北海道労委平成17年(不)第2号)

初審命令交付日  平成18年 6月 9日

再審査申立日 平成18年 6月22日


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