平成19年9月3日

中央労働委員会事務局

第二部会担当審査官 榎本 重雄

電話 03−5403−2175

FAX 03−5403−2250

ネスレジャパンホールディング(団交)不当労働行為再審査事件
(平成16年(不再)第31・32号)命令書交付について

中央労働委員会(会長 菅野和夫)は、平成19年9月1日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者

[第31号再審査申立人・第32号再審査被申立人]:ネスレ日本株式会社(以下「会社」)
従業員数2800名(平成14年9月17日現在)

[第32号再審査申立人・第31号再審査被申立人]:ネッスル日本労働組合島田支部(以下「島田支部」)
組合員数20名(平成14年9月17日現在)

II 事案の概要

1 本件は、会社が、自ら提案する団体交渉方式(以下「会社団交方式」)でなければ応じられないなどとして、島田支部が平成13年10月3日、同年11月6日、同年12月25日、同14年1月17日に申し入れた4回の団体交渉(以下「本件4回の団体交渉」)を拒否したこと(第1事件)、給与支給明細書等に関連会社の名義(以下「他社名義」)が使用されていることについて、島田支部が団体交渉を申し入れて説明を求めたのに会社が応じなかったこと(第2事件)が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件。

2 初審静岡県労委は、平成16年4月16日、(1)島田工場内での団体交渉応諾、(2)会社団交方式を理由とする団体交渉拒否の禁止、(3)会社と関連会社3社との間の各法律関係に関する文書による説明、(4)上記(1)から(3)に係る文書手交を命じたところ、会社及び島田支部はこれを不服として、再審査を申し立てた。

中労委は、初審命令を一部変更したほかは、本件各再審査申立てを棄却した。

III 命令の概要

1 判断の要旨

(1) 本件4回の団体交渉について(第1事件)

ア 団体交渉議題が、組合本部と労働協約締結済であるとの会社の主張について

本件4回の団体交渉に係る議題である(1)組合事務所・掲示板の貸与、(2)配転に関する協議・同意、(3)永年勤続表彰の適用の3項目のうち、上記(1)については13年協定書において組合本部と会社との間で合意済みで、島田支部もその旨認めているから団体交渉を行う必要はないが、上記(2)及び(3)については、島田支部組合員に関する固有の事項が議題となっていること、会社は、本件4回の団体交渉に係る議題の中に組合本部との間で解決済みの議題があることを島田支部に指摘し、それらを除いた他の議題について団体交渉に応じる措置を講じていないことなどから、会社の主張は採用できない。

イ 組合本部及び支部間で議題の重複等があるとの会社の主張について

(ア) 島田支部と組合本部及び4支部の団体交渉要求日が近接・重複しているとの指摘について

島田支部と組合本部及び4支部(霞ヶ浦、東京、神戸及び姫路の各支部)の団体交渉要求日が重複している日はなく、会社が団体交渉を受けることができないほど日数が接近していると認められる日もない。仮に、日程上困難であったなら、会社は、その旨を述べて日程調整の提案をすれば足りるのに、そのような事実も認められないことなどから、会社の主張は採用できない。

(イ) 団体交渉議題が多く、組合本部及び4支部の議題と重複しているとの指摘について

団体交渉申入れの中には、議題が35項目に及ぶものもあるが、議題の内容をみると職場環境関係など5項目に類型化でき、会社の回答が困難なほどの議題数であったとまではいえず、他の3回の団体交渉に係る議題は、各回とも1項目であった。また、議題のほとんどが島田工場の職場改善や島田支部組合員に関する島田支部独自の要求であり、二重交渉等の弊害が生じる具体的なおそれがあることが判明したわけでもないことなどから、会社の主張は採用できない。

ウ 業務の都合があったとの会社の主張について

会社は、団体交渉要求日に業務の都合があるなら、そのことを島田支部に連絡して、後日の開催に向けて日程調整を行えばよいはずであるのに、そのような簡単な連絡や日程調整の努力をしたことを窺わせる事実がないことなどから、会社の態度は不誠実の誹りを免れず、会社の主張は採用できない。

エ 会社が「既に団体交渉を申し入れていた」との主張について

会社が申し入れた団体交渉は、会社団交方式によるもので、従前から島田支部が申し入れていた団体交渉の方式と、開催場所、参加者数などが異なっており、同支部は、支部の団体交渉権を否定するものとして一度もこれに応じず、団体交渉ができない状況が続いていたものであるから、会社が、会社団交方式による申入れをしていたことをもって、団体交渉拒否の正当な理由とすることはできない。

オ 不当労働行為の成否について

以上のことから、会社が島田支部の団体交渉申入れに応じない行為は、労組法第7条第2号に該当する。

なお、初審命令は、本件について、同条第3号にも該当すると判断したが、この団体交渉拒否をもって、同条第3号に該当すると認めることはできない。

(2) 他社名義使用に関する団体交渉に係る会社の対応について(第2事件)

ア 島田工場では、組織再編以降、現実に他社名義が使用され、特に、自らの労働条件に直接関係する給与支給明細書等に会社以外の名義が使用されていたのであるから、島田支部が支部組合員の問題として会社に説明を求めたことには相応の理由があるといえる。一方、会社が、他社名義の使用はタイトルであって労働条件に何ら変更がなく、誰が法的に島田工場従業員の使用者なのかを左右するものではないとの理由で、島田支部からの説明要求に応じようとしない態度は肯認できない。

また、会社は、島田支部の団体交渉要求日と同じ日に、会社団交方式による団体交渉の開催を申し入れ、結局いずれの団体交渉も開催されなかったが、島田支部はこの方式による団体交渉に一度も応じておらず、この方式で団体交渉を申し入れても島田支部が応じないことは十分予想できたはずであるから、会社団交方式による団体交渉が開催されなかった責任を島田支部のみに問うことは適当ではない。

イ さらに、団体交渉議題をみると、島田支部は、島田支部固有の問題として説明を求めており、島田支部が、組合本部の団体交渉と重複して団体交渉を求めたものではない。

ウ したがって、会社が、島田支部の団体交渉申入れに対して、会社団交方式を提案するなどして団体交渉に応じていないことは、労組法第7条第2号に該当する。

なお、初審命令は、本件について、同条第3号に該当すると判断したが、会社が団体交渉を開催して島田支部に改めて十分説明すれば足りることなどから、この団体交渉拒否をもって、同条第3号に該当すると認めることはできない。 

【参考】本件審査の経過 初審救済申立日 平成14年9月17日 (静岡労委平成14年(不)第2号事件)
平成15年5月 2日 (静岡労委平成15年(不)第1号事件)
初審命令交付日 平成16年4月16日  
再審査申立日 平成16年4月28日 (平成16年(不再)31)
平成16年4月30日 (平成16年(不再)32)

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