平成19年8月22日

中央労働委員会事務局
第三部会担当審査総括室
 室長 神田義宝
TEL 03(5403)2172
FAX 03(5403)2250

松蔭学園不当労働行為再審査事件(平成18年(不再)第4、7号)
命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成19年8月22日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者

再審査申立人(4号) 学校法人松蔭学園(東京都世田谷区)
再審査被申立人(7号) (教職員数(中高)53名(12.4.1現在))
再審査被申立人(4号) 松蔭学園教職員組合
再審査申立人(7号) (組合員数4名(12.4.1現在))
組合員A、B、C

II 事案の概要

1  本件は、学校法人松蔭学園(以下「学園」という。)が、学園の設置運営する高等学校の教員であって、松蔭学園教職員組合(以下「組合」という。)の組合員であるA、B及びCに対して、7年度から14年度までの給与引上げ及び一時金支給(組合員により、一部年度の給与引上げ及び一時金支給を除く。)を差別したことが労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるとして、組合、A、B及びC(以下「組合ら」という。)が、13年3月27日、14年3月28日及び15年11月7日に、東京都労働委員会に救済を申し立てた事件(併合)である。

2  東京都労働委員会は、17年12月20日、本件救済申立てに係る年度の給与引上げ及び一時金支給差別の是正(ただし、是正水準については、Aの請求額のおおむね75パーセント、B及びCの請求額のおおむね85パーセントである。)、是正差額の支払(年5分の金員付加)並びに文書手交を命じることを決定し、18年1月30日に命令書を交付した。これを不服として、学園は、同年2月9日、初審命令の取消し及び救済申立ての却下を求めて、また、組合らは、同月14日、請求する救済どおりの救済を求めて、それぞれ再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文の要旨
(1)初審命令を次のとおり変更する。

ア 本件救済申立てに係る年度の給与引上げ及び一時金支給差別(11年度から14年度までの年度末一時金支給差別を除く。)の是正並びに是正差額の支払(年5分の金員付加)

イ 文書手交

(2)学園の本件再審査申立て及び組合らのその余の本件再審査申立てを棄却する。
2 判断要旨
(1)不当労働行為の成否

学園は、非組合員に対しては、特段の交渉なしに給与引上げ及び一時金支給を行う一方で、組合員らに対しては、合理的な理由を示さぬまま、非組合員に比べて明らかに低額な回答を提示し、実質的な団体交渉を行わずに、自らの回答にあくまで固執し、組合がそのような回答を受諾せず、未妥結であることを理由に、回答で提示した給与引上げさえ実施せず、一時金は全く支給していない。

上記に加え、A、B及びCの勤務成績が平均的な非組合員と比べて劣っていたと認めることのできる証拠はないことを考え合わせると、格差の存在は、学園が、組合員らに対する給与引上げ及び一時金支給を非組合員に比べて大幅に低く押さえ込み、これによって組合員らを経済的、精神的に追いつめるとともに、組合の弱体化をも意図していたことによるものと判断せざるを得ない。

そうだとすると、本件救済申立てに係る学園の行為、すなわち、各年度において、非組合員に比べて明らかに低額な回答を提示した上、実質的な団体交渉を行わず、交渉未妥結の状態になることを利用して、給与引上げ及び一時金支給の決定をしないことにより、組合員を不利益に取り扱うとともに、組合の弱体化を図る行為は、労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当する(ただし、平均的な非組合員に対する支給実績のない11年度から14年度までの年度末一時金未支給を除く。)と判断するのが相当である。

したがって、学園の「本件救済申立てに係る年度の給与引上げ及び一時金支給については妥結に至っておらず、未だ決定されていないのであるから、不当労働行為の存否を議論する理由はない。」旨の主張は、理由がなく採用できない。

(2)救済方法

学園は、A及びBの是正水準は前件不当労働行為事件(解雇等)の中労委和解(Aは7年に、Bは8年に和解した。)で定められた給与額をそれぞれ前提とすべきである旨主張する。

しかしながら、これらの和解は、それぞれの和解が成立した日以前の紛争を解決したものにすぎず、和解所定の給与額が将来の給与額決定の基礎となることについては何らの合意もされていないことは、その条項自体から明らかである。しかも、7年和解及び8年和解に至る当事者間の交渉過程において、組合が学園の給与体系、非組合員の給与実態等を明らかにするよう求めたのに対して、学園はこれに一切応じなかった。学園が初めて給与体系、非組合員の給与実態等について一定限度まで明らかにしたのは、本件初審審査においてであった。上記のことから、各和解所定の給与額が将来の給与額決定の基礎となることについて合意があったものとはいえず、将来の給与額については、改めて決定されることが予定されていたということができる。そして、本件では、労使交渉の未妥結の故に給与引上げ及び一時金支給の決定を行っていないことが不当労働行為と判断されるのであるから、学園の上記主張は採用することができない。

以上から、本件初審命令主文を上記1(1)のとおり変更するほかは、本件各再審査申立てには理由がない。

【参考】本件審査経過

本件救済申立年月日 平成13年3月27日、14年3月28日、15年11月7日
(東京都労委平成13年(不)第20号(一部)外2事件)

初審命令交付年月日 平成18年1月30日

再審査申立年月日 平成18年2月9日(学園)、2月14日(組合ら)


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