平成19年7月17日

中央労働委員会事務局
 第二部会担当審査官 榎本 重雄
 電話 03−5403−2175
 FAX 03−5403−2250


北九州市(病院局)不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第45号)命令書交付について

中央労働委員会(会長 菅野和夫)は、平成19年7月17日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者

再審査申立人   :   北九州市(以下「病院局」)従業員数1242名(平成17年8月1日現在)
再審査被申立人   :   自治労連北九州市病院局パート・嘱託職員労働組合(以下「組合」)
組合員数110名(平成17年8月19日現在)

II 事案の概要

1 本件は、病院局が、地方公務員法(以下「地公法」)第3条第3項第3号に定める特別職非常勤の嘱託職員(看護師)として期間を1年とする委嘱を繰り返してきた組合員A(以下「A」)を再委嘱しなかったこと(以下本件雇止め)、Aの再委嘱に関する団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件。

2 初審福岡県労委は、平成18年7月10日、上記行為を不当労働行為と認め、[1]Aを同17年4月1日から1年間、病院局の嘱託職員として再委嘱したものとしての取扱い及びその間の賃金相当額の支払い、[2]本件雇止め及び団体交渉に応じなかったことに関する文書交付を命じたところ、病院局はこれを不服として、同18年7月25日に再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 命令主文要旨

上記[1]に関する初審命令主文第1項を取り消し、上記[2]のうち、団体交渉に応じなかったことに関する文書手交を命じ、その余の再審査申立てを棄却した。

2 判断の要旨
(1)  本件雇止めが労組法第7条第1号に当たるか
[1] 地公法第3条第3項第3号に定める特別職非常勤の嘱託職員について

Aは、地公法第3条第3項第3号に定める特別職非常勤の地方公務員であって、地公法第4条第2項の規定により、地公法ではなく労組法が適用されるから、病院局が、Aが組合員であること又は正当な組合活動を行ったことの故に、「解雇その他の不利益な取扱い」を行った場合には、労組法第7条第1号の不当労働行為が成立する。また、非常勤嘱託職員であっても、再任用が反復され相当の期間継続した後に再任用を拒否された場合には、実質上、継続的な任用関係について「免職」(解雇)と同視できるような措置となるので、組合員であるが故にそのような措置が行われた場合、それは「解雇その他の不利益な取扱い」に該当すると解すべきである。Aの本件雇止めに関しても、再任用の拒否に係る病院局の行為が同条第1号の不当労働行為と認められる場合には、労働委員会は、当該不当労働行為を排除し、正常な労使関係秩序を回復するため、適切・妥当な救済命令を発することが出来る。

[2] 60歳に達した嘱託職員を本人が希望すれば再委嘱するという慣行ないし労使合意の有無について

昭和60年度から平成7年度までは60歳以上で再委嘱された者が延べ23名いるのに対し、同8年度以降同17年度までは2名しかおらず、同8年度を境に著しい差がある。また、60歳に達した嘱託職員には総看護師長から新年度の委嘱はない旨を告げるなどの運用がなされており、嘱託職員間には、60歳に達した者は再委嘱されないとの理解が広まっていた。さらに、病院局が同15年に60歳に達した者は原則として再委嘱しないとの方針を文書で示したことについて、組合がそれを問題とした事実はなく、やむを得ないものとして受け止めていた節がある。また、本人が希望すれば再委嘱されるという労使合意が成立したことを裏付ける事実もない。以上のことから、標記のような慣行ないし労使合意があったとは認められない。

[3] その余の組合の主張について

団体交渉の中でのAの病院管理者に対する発言や当時の総務課長のAに関する発言から、Aを嫌悪して本件雇止めを行ったと推認することは困難である。また、委嘱期間が満了した嘱託職員5人のうち2人の非組合員についても再委嘱されておらず、Aが組合員であることの故に差別された訳でもない。

[4] 不当労働行為の成否について

以上のことから、本件雇止めは、病院局が、原則として60歳に達した嘱託職員については再委嘱しないとの方針により行った措置と認められるから、これを労組法第7条第1号に該当すると判断した初審命令は相当でない。

(2) 本件雇止め問題に関する団体交渉に応じなかったことが労組法第7条第2号に当たるか

地公法第4条第2項の規定により、Aには労組法第7条第2号が適用されるから、Aを任用して職務に従事させる当該地方公共団体は、Aを組織する労働組合に対し、Aの労働条件に関する団体交渉に応ずべき地位にあると解される。

また、特別職非常勤の地方公務員の再委嘱については、病院局は裁量権を有しているから、組合の求めに応じて裁量権を行使して再委嘱するかなどについて説明すべきであり、Aに再委嘱を請求する権利がないことなどの理由で団体交渉事項に当たらないとするのは適切でない。

さらに、組合は、Aが再委嘱されないことを解雇問題としているので、病院局は、組合の団体交渉に応じた上で、60歳に達した者を再委嘱していない事情や60歳に達した者の再委嘱に関する過去と現在の運用状況等を誠実に説明すべきであるのに、団体交渉に全く応じない態度は、是認できない。

以上のことから、病院局が団体交渉に応じなかったことは労組法第7条第2号に該当すると判断した初審命令は相当である。

【参考】 本件審査の経過       初審救済申立日      平成17年8月19日(福岡労委平成17年(不)第6号事件)
    初審命令交付日   平成18年7月10日
    再審査申立日   平成18年7月25日

トップへ