平成19年6月29日

中央労働委員会事務局
 第二部会担当審査総括室
  室 長   伊 藤 敏 明
  Tel 03−5403−2162
  Fax 03−5403−2250


ナック不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第42号) 命令書交付について

中央労働委員会第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成19年6月29日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者

再審査申立人:      (1)全日本建設交運一般労働組合東京都本部(「都本部」)
(2)全日本建設交運一般労働組合東京都本部南部支部(「南部支部」)
(3)全日本建設交運一般労働組合東京都本部南部支部ナック分会(「分会」)
再審査被申立人:   株式会社ナック(「会社」)[従業員1,455名(平成17年4月現在)]

II 事案の概要

1 本件は、都本部、南部支部及び分会(以下、三組合を併せて「組合」)から、組合員が分会を結成したことを会社に通告したところ、(1)会社の役員が組合の存在を否定するような言動を行い分会壊滅を指示するとともに、組合員に対して組合からの脱退を強要したこと、(2)会社が従業員会を利用して組合を排除しようとしたことが、不当労働行為(支配介入)にあたるとして、救済申立てがなされた事件である。

2 初審東京都労働委員会は、会社に対し、(1)組合の存在を否定し、又は組合に加入することを牽制し、若しくは組合からの脱退慫慂を行うことの禁止、(2)従業員会を利用して、組合を排除しその弱体化を図ることの禁止、(3)謝罪文交付及び掲示、及び(4)履行報告、を命じたところ、会社はこれを不服として、当委員会に再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文要旨

(1)会社は組合を排除することを表明し、組合への加入を抑止し、組合活動を抑制し、又は組合からの脱退を慫慂するなどして、組合の運営に支配介入してはならないこと

(2)会社は従業員会を組合への加入抑止及び組合排除のために利用することにより、組合の運営に支配介入してはならないこと

(3)文書手交及び掲示(上記(1)、(2)に関して)

2 判断の要旨
(1)社長、会長及び支社長の言動について

分会結成翌日の平成17年11月28日にその通告を受けた会社のA社長は、分会の執行委員長Bに電話し「君はとんでもないことをしてくれたね、何でこんなことをしたんだ」と分会結成を非難し、同年12月4日にはBと飲食の席をもち、分会をなくすことができるかとの趣旨を述べたことが認められる。そして翌5日、会社のC支社長が、特別な事情がない限り訪れない営業所を訪れ、B及び分会の書記長Dに対し、組合の上部団体である全日本建設交運一般労働組合が会社にそぐわない、組合をつくるなら違うところがいいのではないかなどと述べたことが認められる。

また、同日の首都圏店長会議においては、A社長が「組合は断固排除しなければならない」などと述べており、これは、招集された店長等に対し、会社の組合に対する対決姿勢を示し、組合の排除の意図を表明し、店長等に会社の考えに呼応するよう求めたものとみるのが相当である。

同月10日の従業員会設立大会においては、出席した従業員に対し、A社長が、組合を信用するのか、自分を信用するのか、自分を信用してほしいなど、会社のE会長が、A社長の敵は絶対許さないなどと、組合に対抗する旨を述べており、これらは、会社の組合に対する嫌悪の情を示すとともに、組合加入の抑止について呼びかけ、組合を会社から排除する意図を表明したとみるのが相当である。

さらに、同月19日、A社長が、全従業員にあて、一命を賭けても闘うなどと述べた文書を送付したことは、会社の組合に対する対決姿勢を全従業員に対し一層明らかに示すことにより、会社からの組合排除のため重ねて攻撃を行ったとみるのが相当である。

以上により、分会結成通告後1か月足らずの間に相次いでなされたA社長、E会長及びC支社長の一連の言動は、組合嫌悪の情から組合を排除する意図を表明し、新たな組合加入を抑止することにより、組合の運営に支配介入したものといわざるを得ず、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(2)従業員会について

従業員間の親睦と社内交流の促進を本来の目的とする従業員会は、分会が結成されたことを機に、その設立を前倒しするという会社の方針に呼応する形で、F次長が同会の発起人代表となり設立されたものであるが、上記(1)の分会結成直後からのA社長らの言動、及び会社が同会の運営経費を負担するなどして同会を援助していること等からすると、会社は、従業員会を利用して新たな組合加入を抑止し、究極的には組合を会社から排除すること企図して、F次長をして同会を前倒しで設立させたと認めるのが相当であり、これを組合排除のために利用した会社の行為は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(3)社長らとG副執行委員長との会合について

会社は、平成17年12月17日に開催された第1回団体交渉で、正社員であるGが分会の組合員であることを知り、その数日後には、A社長はGと酒席を共にし、不満があるのならざっくばらんに言ってくれなどと述べ、また、休日の同月23日には、A社長を含む会社取締役らがGとの酒席を持ち「せっかく10年もいる会社なのだから一緒に会社を盛り立てていこう」などと述べているが、これらは、Gの組合加入を好ましくないとする会社の意向を示すとともに同人が会社側の立場に立つことを促すことにより、組合からの脱退を慫慂したとみるのが相当である。

さらに、同18年1月4日のG宅での新年会においては、A社長と会社のH専務はGに対し「団体交渉には出ないでくれ」、「組合員には誰がいるのか」と述べており、その後の同月7日、GはB執行委員長ら組合員に精神的にいっぱいいっぱいだなどと話したうえ、同月10日には分会を脱退したことにも照らせば、A社長らのこれらの発言は、Gの組合活動を抑制しようとしたものと認めるのが相当である。

以上のとおり、Gが組合員であることを会社が知ってから間もない時期に相次いで行われた酒席や新年会で、A社長らがGに対し上記のような発言を行ったことは、会社がGの組合活動を抑制し、組合からの脱退を慫慂することによって、組合の運営に支配介入したものとして、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

【参考】

本件審査の概要

初審救済申立日      平成17年12月6日(東京都労委平成17年(不)第92号)
初審命令交付日   平成18年6月27日
再審査申立日   平成18年7月10日

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