Ministry of Health, Labour and Welfare

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別添1


育児支援家庭訪問事業に関する調査結果

I. 目的
 育児支援家庭訪問事業(以下「事業」という。)を推進するための参考資料を得る。

II. 調査期間
 平成16年12月〜17年3月

III. 調査方法
 都道府県、指定都市、中核市の児童福祉主管部(局)及び母子保健主管部(局)の協力を得て、(1)平成16年度に先駆的に事業を実施している市町村の取組方法、(2)事業を実施していない市町村の理由について調査した。

IV. 調査結果
1. 先駆的に事業を実施している市町村の取組方法
1) ヒアリングを実施した市町村
 都道府県、指定都市に先駆的な取組例の推薦を依頼し、以下の6市町村に対してヒアリングを実施した。
(1) 保健部門に中核機関を置いている市町村
 北海道札幌市・茨城県水戸市(水戸市担当者の他に茨城県担当者も含む)・千葉県千葉市・高知県中村市(現四万十市)
(2) 福祉部門に中核機関を置いている市町村
 愛知県犬山市・福岡県福岡市

2) 事業計画上の課題と解決策
(1) 訪問支援者の人材確保及び育成方法
(1) 県が公募及び研修を実施し、人材を確保した例(茨城県)
 訪問支援者の人材確保、育成について、市町村での実施が難しいため、県が公募及び研修を行い、市町村は研修受講者の推薦を行っている。平成16年度に研修を2回実施し、123人が研修を終えている。実際に活動している研修修了者は少ないが、フォローアップ研修を行い、資質の向上を図っている。フォローアップ研修は講義形式ではなく、実際に支援した事例をもとに、自分だったらどういう支援をするのか、どういうところに気をつけて訪問するのか、といった細かな点まで議論することで、事業の実施経験がない者も臨場感を持てる様な工夫をしている。また、今後県で事例集を作成し、市町村に活用してもらうことを検討している。

(2) 母子保健事業等をとおして人材を確保した例(中村市)
 市が実施している母子保健事業に来所する住民や、日頃関わっている関係者から在宅の専門職者に関する情報を収集し、事業に従事することが可能な人に依頼している。

(3) ファミリー・サポート・センター事業の援助会員の中から人材を確保した例(犬山市)
 ファミリー・サポート・センターの援助会員の中から、事業に対して理解がある保育士や看護師等の有資格者に対して個別に依頼している。

(4) 訪問支援者の採用にあたって児童福祉問題に関する考え方等のレポートを実施している例(福岡市)
 訪問支援者は公募制とし、志望理由や今の児童福祉をめぐる様々な問題についてどのように考えているか等のレポートを提出してもらい、その内容によって訪問支援者として適切かどうかの判断を行った。

(2) 予算確保
(1) 県の児童相談所等の人材を活用して予算を確保した例(中村市)
 従来から行政機関と医療機関とで連携を図り、母親の精神的な支援を行ってきたことから、虐待の発生予防事業を実施していく条件が揃っている市であることについて、県の児童相談所や事務部門が市の幹部を説得することが事業の予算化につながった。

(2) 次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画に盛り込むことが予算確保の根拠となった例(茨城県)
 事業について次世代育成支援行動計画に盛り込んでおくことにより予算確保につながっている。新規事業であっても、全国的・全県的にみて重要と考えられるものは優先度を高く位置づけている。

(3) 市町村合併
(1) 合併前の活動の実績が推進要因になった例(水戸市)
 事業を実施する自治体を中核に周辺自治体が吸収される形での合併だったため、相手の自治体の了解が得られると事業を継続できる環境にあったことに加え、合併前に母子保健活動のノウハウや実績が地域でよく認められていたので、事業の理解を得ることに時間をあまり要しなかった。

(4) 行政機関の多部署・多職種の連携例(水戸市)
 年度途中からの事業実施であったため、時間的余裕のない中、中核機関の選定や要項策定にあたっては、保健福祉部内各課で慎重に検討した。
 特に要項については、本事業がこれまでの保健事業とは異なる取り組みを求めており、現場の保健師には戸惑いがあったため、総務課をはじめ関係各課との協議を必要とした。
 また、本事業の重要性や中核機関の事務量について、管理部門(人事課、総務課、財政課)との協議を重ねることによって、平成17年度においては、本事業の専従嘱託員の定員1名を確保することとなった。

3) 事業実施上の工夫点
(1) 行政機関と医療機関の連携についての取組例(札幌市)
 医療機関からの情報提供を促進するために、医師会、市立病院の産婦人科及び小児科の医師に検討会に参加してもらい、診療情報提供書の様式や母子保健事業を掲載した医療機関用のマニュアルを一緒に作成することで、医師の理解が得やすくなり、連携が図りやすくなった。

(2) 訪問支援者のサポートについての取組例
(1) 訪問支援者のサポート例(千葉市)
 訪問支援者は保健師又は助産師の資格を持った者であるが、事例の中には訪問してみると収集した情報よりも重い事例もみられた。訪問支援者は家庭訪問から帰ると保健センター長に状況を報告し、担当保健師だけでなくセンター長が訪問支援者を支えている。また、子ども虐待の事例に関わると支援者自身が落ち込み、精神的なサポートが必要となることから、保健所において支援者自身の心のケアをする会を月1回開催してサポートしている。
 また、精神科医による事例検討会も開催している。このようなサポートをすることで、支援者個人で事例を抱え込まずチームで支援する体制を構築することができ、さらに支援技術の質の向上を図ることができている。

(2) 訪問支援者のサポート例(福岡市)
 訪問支援者は、訪問から帰ると担当者(児童福祉司・保健師)に報告書を提出することにしており、その際、支援方法等について協議を行っている。しかし、報告の場に担当者がいない場合の対応が課題となっている。またフォローアップ研修を行っているが、きめ細かなフォローが重要だという声が現場から出ている。
 初回の訪問は保健師又は児童福祉司が同伴しており、訪問支援者はその時の専門職の支援方法を2回目以降の家庭訪問の参考にしている。

(3) 保健部門と福祉部門の役割分担の改善例(犬山市)
 これまで虐待相談は児童福祉部門で受け、乳幼児健康診査の未受診者や養育支援が必要な家庭への支援は母子保健部門で行っていたため、育児支援家庭訪問事業は母子保健部門で運営すべき事業だと当初考えた。しかし、事務局の業務と訪問支援という実践活動の両方を一部門で担うことはかなりの負担になることから、福祉部門は中核機関となって情報を一元的に受けて管理する役割を担い、母子保健部門はそれらの情報をこれまで蓄積してきたアセスメント手法に基づいて支援計画を立て実践していくことについての責任を持つという役割分担とした。

4) 事業開始後の課題
(1) 様式の更新(犬山市)
 配布されたアセスメント指標は専門用語が多く、福祉部門にいる事務職では理解しにくいという意見もあり、事務職が理解できるような簡略的な説明資料が必要である。

2. 事業を実施していない理由
 各都道府県に、人口規模を勘案した上で約10市町村の抽出を依頼し、事業を実施していない理由(主たる理由2つ)をたずねた。回答があった指定都市9か所、市町村443か所の回答は表1のとおりである。

表1  事業を実施していない理由(主たる理由2つ)(指定都市9、市町村443)
項目 市町村数(%)
人材確保が難しい 205(45.4)
予算確保が難しい 201(44.5)
市町村合併を控えている 112(24.8)
事業の内容がわかりにくい 66(14.6)
新規事業の案内が遅かった 50(11.1)
虐待防止等ネットワーク等がない 45(10.0)
地域でニーズがない 42(9.3)
他に似たような県単独事業を行っている 21(4.6)
福祉(又は保健)部門との連携が難しい 16(3.5)
その他 128(28.3)

 事業を実施していない理由としては、「人材確保が難しい」、「予算確保が難しい」が多く、「その他」で多かったものは、常勤の職員(保健師、心理職員等)で対応している45か所(10.0%)、市町村単独で類似事業を実施している21か所(4.6%)であった。
 また、443市町村を人口10万人未満、10万人以上50万人未満、50万人以上100万人未満、100万人以上で比較したところ、人口10万人未満の自治体を除き、「人材確保が難しい」と「予算確保が難しい」が困難理由の1、2位に挙げられ、人口10万未満の市町村のみ「市町村合併を控えている」が2位であった。
 上記の調査結果等を踏まえて、事業を実施していない理由として以下が考えられた。
(1) 本事業は平成16年3月18日の全国家庭福祉政策担当者係長会議において公表された新規事業であったこともあり、新規事業の予算を確保することが困難であったのではないか。
(2) 事業開始までの準備期間が十分でなかったことに加えて、訪問支援者が非常勤職員で、かつ児童虐待の知識やその対応のノウハウを有することが望まれるため、人材を短期間で確保することが困難であったのではないか。
(3) 従来保健師、助産師等が母子保健活動の一環としてリスクアセスメント指標に基づいた訪問支援活動を行っているが、福祉部門の事務職員にとっては、これらの用語、方法が理解しづらいものになっていたのではないか。

V. 育児支援家庭訪問事業の推進のための方策
 今回の調査及び事業設立後に地方自治体から寄せられた意見を踏まえると、事業の推進方策として以下が考えられる。

1. 人材確保及び育成について
(1) 市町村間での協働等による人材の確保・育成
 人口規模の小さい市町村では、市町村内に居住する者だけでは専門職を確保・育成することが難しいと考えられる。このため、近隣の市町村で人材を確保するために、市町村の協働によって人材の募集、研修及び登録の業務を実施したり、研修の実施にあたって保健・福祉関係の専門職能団体等を活用する方法も考えられる。なお、平成16年度においては人件費のみが交付対象となっていたが、平成17年度より訪問支援者に対する研修費についても交付対象となっている。

(2) 既存の事業への参加者等の活用
 市町村が実施する児童福祉事業や母子保健事業には、事業実施のための一定の研修を受けた登録者や、日頃から地域活動を行っている母子保健推進員等のボランティア等が参加している。また、全国には子ども虐待防止相談を実施している民間団体が増えてきており、訪問支援者としての資質を持ち合わせている会員に協力を依頼する方法もある。

2. 予算確保について
 ○  国の施策(次世代育成支援対策推進法や子ども・子育て支援プラン等)の活用
 平成16年末に策定された「子ども・子育て応援プラン」(平成16年12月24日少子化社会対策会議決定)では、育児支援家庭訪問事業について「全市町村での実施を目指す」と明記している。また、平成17年度からは、「次世代育成支援対策交付金(ソフト交付金)」の中の重点配分となる事業として位置づけられており、児童虐待に関わる部門の協働により、各市町村の状況を把握し本事業への取組を推進していく必要がある。
 また、本事業が、次世代育成支援対策交付金に位置づけられたことで、事業内容、実施方法等は、地域の特性や創意工夫を活かしたものにすることが可能となったため、それぞれの自治体の実情にあわせたものとして活用することが可能である。

3. 関係機関(特に医療機関)との連携

 厚生労働省において把握している虐待を受けて死亡に至った子どもの事例の検証を行ったところ、死亡した子どもの約4割が0歳児であり、0歳児のうち約8割が月齢4ヶ月以下であった。また、行政がすべての子どもに関わる最初の機会が4ヶ月健診であることが多いことがわかっている。
 虐待は、発見や対応が遅れるほど手厚い支援が必要になることを踏まえると、妊娠期間中及び出産後の母子の健診や、子どもの疾患等による受診を契機として支援が必要な家庭と接点を持つことのできる医療機関からの積極的な情報提供は重要な意味を持つ。平成16年3月には、医療機関から市町村に情報提供を行った場合は診療報酬が支払われることとなっており、市町村から医療機関に対してこうしたシステムの積極的な活用を依頼する等、医療機関との連携を密にしておくことが重要である。

4. その他(様式等)

 厚生労働省が提示した「訪問支援の必要性を判断するための一定の指標(アセスメントシート例)」については、保健部門では通常用いている指標であるが、他分野の職員には専門用語が理解しづらいという意見があるため、事業の趣旨を踏まえつつ、各市町村の実情にあわせてシートを改良することも方策の一つである。



参考資料 先駆的自治体の参考事例


北海道札幌市
茨城県水戸市
千葉県千葉市
愛知県犬山市
高知県中村市(現四万十市)
福岡県福岡市


参考のために、各市町村から提供のあった資料を添付している。



【参考事例】北海道札幌市<保健部門による医療機関連携型大都市モデル>

1. 札幌市の概要
1) 人口:1,862,269人(平成17年1月1日現在)
2) 出生数(率):14,999人(8.1)(平成15年度)
3) 0歳から18歳までの児童数:(平成17年1月1日現在)
0〜4歳  74,411人
5〜9歳  78,388人
 10〜14歳  84,444人
 15〜19歳  98,097人
4) 市の特徴
 人口186万人と北海道の人口の約3割を擁し、行政区は10区に分かれている。平成15年度の出生率は8.1と政令指定都市の中で最も低い状況となっている。

2. 行政機関の担当部署
 札幌市保健福祉局健康衛生部地域保健課

3. 中核機関名
 各区保健福祉部地域保健課(保健センター)

4. 事業名称
 保健と医療が連携した育児支援ネットワーク事業

5. 事業開始時期
 平成15年6月

6. 事業概要
 育児不安や育児困難、または児童虐待に結びつく可能性の高い要因を有する妊婦及び親子(以下「ハイリスク母子」という。)を早期に把握し、医療機関と保健センター等が連携して育児を支援する体制を整備する。
1) 市内の医療機関(産科・婦人科、小児科)において、ハイリスク母子を把握した場合に、診療情報提供書を活用し、保健センターへの情報提供を行う。
2) 医療機関から情報を受けた保健センターは、ハイリスク母子に対する訪問指導を実施するとともに、その結果を医療機関に報告し、保健と医療の情報を共有しながら適切な育児支援を行う。

7. 事業規模
 予算額:9,833千円
 平成16年12月1日現在の受け持ち事例数:149

8. 対象家庭の決定方法
 市内に居住する以下の者で、医療機関から情報提供のあった者
1) 2,500g未満の低出生体重児のうち、育児上支援が必要な児
2) 障害や重症の疾患を有する児
3) 精神・運動発達の遅れのある児
4) 虐待を受けるおそれのある児
5) 医療関係者が不安を感じる等、養育に支援を必要とする親

9. 支援者の職種等
 保健センター:保健師・助産師
 母子保健訪問指導員:保健師・助産師

10. 支援者の研修等
 保健所実施の職員研修:年1回
 母子保健訪問指導員研修:年2回
 職員派遣研修:3回

11. 連携がとれている関係機関名及びか所数
 児童相談所、医療機関:25か所、療育施設:1か所、患者会:1か所

12. 虐待防止ネットワークの有無及び活用状況
 虐待防止ネットワーク:有り
 活用状況: 訪問指導の結果、虐待のおそれのある事例の場合には、虐待予防防止ネットワークのワーキンググループを活用し、事例検討を行い、関係機関との連携を図りながら支援している。

13. 事業の周知方法等
 市内産科婦人科・小児科医療機関211か所に事業内容を周知

14. 事業を実施する際に出てきた問題点や課題及びその解決策や工夫点等
 医療機関との全市的な連携システムを構築するため、事業開始にあたり、医師会代表、医療機関(小児科、産婦人科)代表などの外部関係者や、市立病院及び保健センター関係者による「検討会」を設置した。
 検討会では、本市の母子保健をめぐる問題の共有化を図るとともに、事業目的や対象者及び連携方法等について検討し、情報提供が必要な事例の具体例や保健センターが行う母子保健事業(訪問指導における支援内容等)について、医療機関の理解を図ることとした。
 これらの検討結果を踏まえ、対象とするハイリスク母子の概念や診療情報提供書の様式及び保健センターにおける母子保健事業を掲載した医療機関用のマニュアルを作成し、事業開始前に小児科、産婦人科を有する医療機関に送付するとともに、産婦人科及び小児科医会に対する説明会を実施し、周知を図った。

15. 今後の課題等
医療機関に対する事業内容の周知徹底
支援結果の集積と事業評価



【参考事例】茨城県水戸市<保健部門による中規模市モデル>

1. 市の概要
1) 人口:263,748人(平成17年4月1日現在)
2) 出生数(率):2,441人(9.9)(平成15年)
3) 0歳から18歳までの児童数:(平成17年4月1日現在)
0〜4歳  12,818人
5〜9歳  12,914人
 10〜14歳  12,902人
 15〜19歳  13,872人
4) 市の特徴:
 首都東京から約100Kmの距離にあり、関東平野の北東端に位置する茨城県の県庁所在市である。市街のほぼ中央には、日本三公園の一つである偕楽園や千波湖を中心とした大規模な公園・緑地が広がり、歴史と伝統に恵まれた緑豊かな街である。
 本市の合計特殊出生率は、昭和45年の2.15から平成15年の1.35へと、年々減少の一途をたどり、少子化への対応は重要な課題となっていることから、平成15年度に全国に先駆けて次世代育成支援対策行動計画を策定した。さらに、平成16年度国の子育て支援総合推進モデル都市に指定された。

2. 行政機関の担当部署
 水戸市保健福祉部保健センター

3. 中核機関名
 水戸市保健センター

4. 事業名称
 水戸市育児支援家庭訪問事業

5. 事業開始時期
 平成16年10月

6. 事業概要
 乳幼児の養育について支援が必要でありながら、積極的に自ら支援を求めていくことが困難な家庭に対し、訪問による育児支援を実施することにより、安心して育児のできる環境づくりを行う。

7. 事業規模
 予算額:1,600千円
 平成16年12月1日現在の受け持ち事例数:5

8. 対象家庭の決定方法
 乳幼児を養育する家庭と接点のある市役所窓口や医療機関等からの情報を中核機関で集約し、関係者で構成する「子育てアドバイザー派遣検討委員会」で訪問支援者(子育てアドバイザー)派遣の要否を決定する。
 なお、検討委員会においては、支援者の職種や支援の期間等についても討議し、対象家庭ごとの支援計画を決定している。

9. 支援者の職種等
 保健師、看護師、栄養士、保育士、子育てOB

10. 支援者の研修等
 茨城県が実施する「子育てアドバイザー養成研修」

11. 連携がとれている関係機関名及びか所数
 茨城県福祉相談センター、茨城県水戸保健所、水戸市児童福祉課、水戸市療育センター等

12. 虐待防止ネットワークの有無及び活用状況
 虐待防止ネットワーク:有り、「水戸市児童虐待防止連絡協議会」を設置。
 活用状況: 本協議会を活用する事例はまだ発生していない。

13. 事業の周知方法等
 関係機関への説明、新聞掲載、少子対策・子育て支援総合ガイドブックに掲載

14. 事業を実施する際に出てきた問題点や課題及びその解決策や工夫点等
1) 人材の確保について:水戸市育児支援家庭訪問事業実施要項の中に(応募資格等)を定め、本市の要項に基づいて研修参加者を推薦した。今後も県等が実施するフォローアップ研修を活用し、本市に登録している子育てアドバイザーの資質の向上を図っていきたい。
2) 情報提供について:関係機関に情報提供を依頼しているが、情報提供が少ない。今後関係機関へさらなる連携を求めるとともに、事業の周知を図りたい。
3) 中核機関について:中核機関として関係機関との連絡、訪問調査、情報集約等を行い事務量が増加している。保健センターは情報提供を行う機関としての役割を担う方が効果的ではないか。
4) 情報集約書、訪問支援計画等の様式について:関係書類の様式を再検討し、課題や計画がわかりやすいように工夫していきたい。

15. 今後の課題等
1) 検討委員会は少人数で実施しているが、今後事例が増えると予想され、委員の構成等の見直しが必要と考えられる。
2) 市窓口担当部署からは、本事業が基本的にはプライバシーを守るとともに、本人の同意を得る必要があることから、一般市民の利用する窓口では説明等が困難であるとの意見が出されている。
 まだスタートしたばかりの事業であるため、今後の進捗状況をみながら、必要に応じて改善し、全庁的な取組としていきたい。



【参考事例】千葉県千葉市<保健部門による大都市モデル>

1. 市の概要
1) 人口:924,000人
2) 出生数(率):8,376人(9.1)(平成17年1月1日現在)
3) 0歳から18歳までの児童数:(平成17年3月31日現在)
0〜4歳  43,422人
5〜9歳  44,070人
 10〜14歳  41,268人
 15〜19歳  43,311人
4) 市の特徴:
 千葉県のほぼ中央部、東京から約40Km東に位置し、市域面積は約272Km2。平成4年に政令指定都市に移行し、首都圏の一翼を担う大都市として発展を続けている。

2. 行政機関の担当部署
 千葉市子ども家庭部子育て支援課

3. 中核機関名
 各区保健センター(6か所)

4. 事業名称
 千葉市育児支援家庭訪問事業

5. 事業開始時期
 平成16年4月

6. 事業概要
 育児不安の強い家庭に対し、過重な負担がかかる前の段階において、訪問による援助で当該家庭において安定した児童の養育が可能となることを目的とする。

7. 事業規模
 予算額:平成16年度4,645千円
 平成16年12月1日現在の受け持ち事例数:549

8. 対象家庭の決定方法
 乳幼児集団健康診査事業等から、育児不安・育児ストレスの問題により孤立感等を抱え、虐待に至る恐れ又は、そのリスクを抱える家庭を事業の対象とする。

9. 支援者の職種等
 保健師、助産師

10. 支援者の研修等
 平成16年度1回実施

11. 連携がとれている関係機関名及びか所数
 児童相談所、子育て支援センター、保育所

12. 虐待防止ネットワークの有無及び活用状況
 虐待防止ネットワーク:有り
 活用状況: 具体的な事例を検討する虐待対応チームがあるが、現時点では開催はない。

13. 事業の周知方法等
 健診時、健診後に保健師から個別に説明する。

14. 事業を実施する際に出てきた問題点や課題及びその解決策や工夫点等
 4ヶ月児、1歳6ヶ月児、3歳児健診で発見された人を対象としてきたが、もっと早い時期でのアプローチが必要と考えられ、新生児訪問、2ヶ月児訪問等での事後フォロー者を対象に拡げている。

15. 今後の課題等
健診未受診者への対応
エンゼルヘルパー(産褥期ヘルパー)事業や福祉部門との連携について検討が必要である。



【参考事例】愛知県犬山市<児童福祉部門による中規模市モデル>

1. 市の概要
1) 人口:74,490人(平成17年4月1日現在)
2) 出生数(率):612人(8.3)(平成16年)
3) 0歳から18歳までの児童数:13,355人(平成17年4月1日現在)
0〜4歳  3,469人
5〜9歳  3,785人
 10〜14歳  3,319人
 15〜19歳  3,549人
4) 市の特徴:
 犬山市は、名古屋市の北25Kmに位置し、大都市近郊の住宅都市としての側面を持つ、人口約7万4千人、面積約75haの自治体である。国宝犬山城、茶室如庵、木曽川うかいなど、多くの歴史的・文化的資源を有するとともに、市域の東部には豊かな緑が残され、博物館「明治村」、野外民族博物館「リトルワールド」、「日本モンキーパーク」、京都大学霊長類研究所などの観光・文化・研究施設が立地している。
 昭和29年の市施行以来、人口は一貫して増加傾向にあるものの、18歳未満の児童人口については、昭和55年(1980年)の19,592人が平成16年(2004年)には12,564人となり、7,028人の減少(35.9%減)がみられるなど、本市においても少子化傾向は顕著であり、子育て支援施策の充実が重点課題となっている。

2. 行政機関の担当部署
 犬山市民生部福祉課児童担当
 (犬山市民生部子ども未来課児童担当(平成17年4月1日より))

3. 中核機関名
 犬山市民生部福祉課児童担当
 (犬山市民生部子ども未来課児童担当(平成17年4月1日より))

4. 事業名称
 犬山市育児支援家庭訪問事業

5. 事業開始時期
 平成16年10月

6. 事業概要
 児童の養育について支援が必要でありながら、積極的に自ら支援を求めていくことが困難な状況にある家庭に、訪問による育児支援を行うことにより、当該家庭において安定した児童の養育を図ることを目的とする。

7. 事業規模
 予算額:1,896千円
 平成16年12月1日現在の受け持ち事例数:0

8. 対象家庭の決定方法
 要保護児童に関する相談や通告のあった家庭、乳幼児集団健診事業等から対象となる家庭、児童福祉関連の窓口において気になった家庭をリストアップし、所定のアセスメントを行うことで対象家庭を決定する。

9. 支援者の職種等
 看護師、保育士、社会福祉士等

10. 支援者の研修等
 なし(今後の検討課題)

11. 連携がとれている関係機関名及びか所数
 保育所、小中学校、児童館、ファミリー・サポート・センター、子育て支援センター、保健センター、家庭児童相談室、心身障害児通園施設、母子生活支援施設、児童養護施設、警察署、児童相談センター等

12. 虐待防止ネットワークの有無及び活用状況
 虐待防止ネットワーク:有り
 活用状況: 犬山市危機児童家庭連絡協議会を設立(平成17年10月1日に犬山市要保護児童対策協議会を設立)し、実務者会議(関係機関による情報交換会)を月に一度実施することによりハイリスク家庭の把握・進行管理を行っている。

13. 事業の周知方法等
 関係機関への周知については、危機児童家庭連絡協議会(平成17年10月1日より要保護児童対策協議会)などを通じて行う予定。市民への周知については、事業の趣旨から対象家庭となることに拒否感がでる可能性があるため、今のところ、積極的に広報を行う予定はない。

14. 事業を実施する際に出てきた問題点や課題及びその解決策や工夫点等
 市民に対する「児童虐待予防」の趣旨を意識させないよう事業の周知方法と初回訪問時の対応方法。

15. 今後の課題等
 対象家庭を把握すべき関係機関(窓口業務等)の職員に対する意識づけが課題。

16. 児童福祉部門と保健部門との連携
 子ども未来課児童担当と健康推進課母子保健担当で、月に一度、「育児支援検討会議」を開催することで個々の家庭に係る情報を共有し、支援方針の決定を行っている。



【参考事例】 高知県中村市(現四万十市)
<保健部門中心の児童相談所連携型小規模市モデル>

1. 市の概要
1) 人口:34,740人
2) 出生数(率):309人(8.9)(平成16年12月31日現在)
3) 0歳から18歳までの児童数:(平成16年12月31日現在)
0〜4歳  1,487人
5〜9歳  1,588人
 10〜14歳  1,634人
 15〜19歳  1,824人
4) 市の特徴
 転勤族(官公庁の宿舎、大型スーパー、県内外企業)が多く、中心部から数キロ離れて住宅地域が点在し、乳幼児を抱える世帯が集中している。市全体の総面積は広く(四国第1位384.50k平方メートル)、しかも交通の便が極めて悪いため、自家用車等がないと実施する事業への参加が困難である。
 なお、平成17年4月10日に西土佐村と合併し、四万十市となっている。

2. 行政機関の担当部署
 中村市保健介護課

3. 中核機関名
 中村市健康管理センター

4. 事業名称
 育児支援家庭訪問事業

5. 事業開始時期
 平成16年4月

6. 事業概要
1) 育児支援による育児支援の必要な妊婦等を、産婦人科受診時や母子健康手帳交付申請時等に実施する妊娠届アンケートや乳幼児健診等で把握する。
2) 要支援妊産婦等に対し、育児支援や家事援助を行う。
 1)、2)を実施することにより、育児不安の軽減や育児混乱を解消し、児童虐待の発生を予防する。

7. 事業規模
 予算額:2,460千円
 平成16年12月1日現在の受け持ち事例数:110

8. 対象家庭の決定方法
 母子健康手帳交付申請時に実施する妊娠届アンケート及び乳幼児健診

9. 支援者の職種等
 保育士、保健師

10. 支援者の研修等
 県主催の母子保健指導者研修会:年1回
 児童相談所企画の乳児院視察研修・保育所(高知市)視察研修:年1回

11. 連携がとれている関係機関名及びか所数
 児童相談所・医療機関:4カ所
 子育て支援関係:4カ所
 幡多保健所
 福祉事務所

12. 虐待防止ネットワークの有無及び活用状況
 虐待防止ネットワーク:有り
 中村市子ども支援ネットワークを定期的に開催し、その他支援する必要が生じた家庭には、必要に応じてケース検討会を開催して、ネットワークを活用した支援を行っている。

13. 事業の周知方法等
 母子健康手帳交付申請時に周知し、支援員による乳児訪問を紹介する。

14. 事業を実施する際に出てきた問題点や課題及びその解決策や工夫点等
1) 母子健康手帳交付申請が他課で実施され、妊娠届アンケートの集約だけを行っていたため、面談による支援家庭の把握に欠け、訪問の必要性を判断する情報が不足していた。
 解決策:平成17年から、保健師事務所(健康管理センター)で交付が可能となるために、交付時の面接で信頼関係を築き、その後の継続訪問へとつなげていく。
2) 妊娠届アンケートを実施して、虐待発生の世代間伝達の遮断を試みており、予防的な支援に必要な内容への改善と、適切な活用方法の確立が必要となってきた。
 解決策:児童相談所とともに、アンケート内容の中にある妊婦の心の問題をさらに検討し、要支援家庭の把握方法を確立し、適切な支援を行っていく。

15. 今後の課題等
 平成12年より、子育て支援に重点をおいた活動として、育児サークル、子育て応援団の育成に力を注いできた。児童相談所との連携では、虐待の疑いがあったケースの状況確認の依頼があった場合、第一に育児力を低下させないことを念頭におき、過去の乳幼児健診、乳幼児相談の状況を確認しながら協議の上、保健師が訪問を継続して虐待防止につなげている。
 育児支援家庭訪問事業を開始する経過として、20年前から中村市母子連絡会と称して、保健所、公立病院、民間病院、児童相談所、保健介護課の職員が、年1回の自主的な交流会を持ち、情報交換していた。その会の中から、今まであった未熟児防止対策を目的とした妊娠届アンケートを、虐待発生予防の目的を加えた妊娠届アンケートとする検討がなされ、平成14年3月から妊娠届アンケートととして開始する。特に、アンケート内容については、児童相談所の医師より指導があり、中村市版を作成し、現在に至る。
 中村市では、これまでも乳児健診の受診率は98%であり、乳児健診で問診票、診察から母子の状況を把握し、健診後のカンファレンスで、要支援家庭のフォローをしていた。この妊娠届アンケート(心の問題を含む)の実施により、妊娠時から要支援者に対応することができ、4ヶ月未満の乳児の虐待予防対策が可能となった。しかし、マンパワー不足で妊婦のハイリスク者への対応が困難な中、県のモデル事業「高知県育児支援家庭訪問事業」の話をいただき、これまでの経過を踏まえ、児童相談所、事務部門から市への事業説明を受け、当事業を実施することで、より早い段階の妊婦への支援が可能となった。
 今後は、世代間伝達を遮断するための保健師のスキルアップが最重点課題である。



【参考事例】福岡県福岡市<児童福祉部門による大都市モデル>

1. 市の概要
1) 人口:139万人(平成17年4月末現在)
2) 出生数(率):13,091人(9.5)(平成16年12月末現在)
3) 0歳から18歳までの児童数:260,515人(平成17年4月末現在)
0〜4歳  63,842人
5〜9歳  63,257人
 10〜14歳  62,378人
 15〜19歳  71,038人
4) 市の特徴:
 福岡市の人口は年々増加しており、年少人口(14.1%)生産年齢人口(70.6%)老齢人口(15.3%)の比率構成となっており、政令指定都市の中では比較的若い年齢構成である。
 産業構成は第3次産業に集中(89.3%)し、金融機関、大企業の支店も多く転勤族が多いのも特徴である。

2. 行政機関の担当部署
 福岡市保健福祉局こども総合相談センター子ども虐待防止推進担当課
 (平成17年度から福岡市こども未来局こども総合相談センターこども緊急支援担当課に変更)

3. 中核機関名
 福岡市こども総合相談センター(児童相談所)

4. 事業名称
 育児支援家庭訪問事業

5. 事業開始時期
 平成16年10月

6. 事業概要
 子育て不安や軽度な被虐待経験等家庭養育上の問題を抱える家庭に対し、子ども家庭支援員を派遣し、子育ての相談・支援を行い、地域における児童虐待の未然防止や再発防止のための安全ネットを図る。

7. 事業規模
 予算額:1,864千円(平成17年度:3,517千円)
 平成16年12月1日現在の受け持ち事例数:15(平成17年12月1日現在:35)

8. 対象家庭の決定方法
 事業導入が必要な家庭を、こども総合相談センター及び各区保健福祉センターで構成する育児支援家庭訪問支援方針会議で決定することとしている。
 (支援対象家庭)
 ・ 出産後間もない養育者が、子育てに対して不安や孤立感等を抱える家庭
 ・ 虐待の恐れやそのリスクを抱える家庭
 ・ 被虐待経験等家庭養育上の問題を抱えた家庭
 ・ 児童養護施設等を退所後、自立に向けたアフターケアが必要な家庭

9. 支援者の職種等
 保育士、看護師、教員、社会福祉士、助産師等の資格所有者を公募、選考試験を経て、養成研修を修了したもの。

10. 支援者の研修等
 養成研修を3日間(1回3時間)実施

11. 連携がとれている関係機関名及びか所数
 保健福祉センター(7区)

12. 虐待防止ネットワークの有無及び活用状況
 虐待防止ネットワーク:有り
 活用状況: 各区保健福祉センターが主催する、子どもの虐待防止ネットワーク会議において、事業内容や実績の報告等を行い、関係機関と連携を図っている。

13. 事業の周知方法等
 10月の事業開始時記者発表。各区保健福祉センンターへの事業説明、パンフレットの配布。

14. 事業を実施する際に出てきた問題点や課題及びその解決策や工夫点等
 支援員の確保をどうするか→公募制と研修の実施。
 対象家庭の決定、支援内容をどうするか→準備段階から区保健福祉センターの保健師に参画してもらい、実務者による支援方針会議を設置し、対象家庭及び支援内容の決定、支援員とのマッチング、評価を行うようにした。

15. 今後の課題等
支援を必要とする家庭の把握について、関係機関との連携やシステムが不十分である
対象家庭のニーズと、本事業が目的としている保護者への自立支援の間にギャップが生じている
対象家庭は様々な問題を抱えている家庭が多いため、支援員のスキルアップを図っていく必要がある

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