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第4章 要保護児童対策地域協議会
第4章 要保護児童対策地域協議会
第1節 要保護児童対策地域協議会とは
1. 平成16年児童福祉法改正法の基本的考え方
(1) 虐待を受けている子どもを始めとする要保護児童の早期発見や適切な保護を図るためには、関係機関がその子ども等に関する情報や考え方を共有し、適切な連携の下で対応していくことが重要であるが、こうした多数の関係機関の円滑な連携・協力を確保するためには、
[1] 運営の中核となって関係機関相互の連携や役割分担の調整を行う機関を明確にするなどの責任体制の明確化
[2] 関係機関からの円滑な情報の提供を図るための個人情報保護の要請と関係機関における情報共有の関係の明確化
が必要である。
(2) このため、平成16年児童福祉法改正法においては以下の規定が整備された。
[1] 地方公共団体は、要保護児童の適切な保護を図るため、関係機関等により構成され、要保護児童及びその保護者(以下「要保護児童等」という。)に関する情報の交換や支援内容の協議を行う地域協議会を置くことができる。
[2] 地域協議会を設置した地方公共団体の長は、地域協議会を構成する関係機関等のうちから、地域協議会の運営の中核となり、要保護児童等に対する支援の実施状況の把握や関係機関等との連絡調整を行う要保護児童対策調整機関を指定する。
[3] 地域協議会を構成する関係機関等に対し守秘義務を課すとともに、地域協議会は、要保護児童等に関する情報の交換や支援内容の協議を行うため必要があると認めるときは、関係機関等に対して資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる。
(3) こうした改正により、
[1] 関係機関のはざまで適切な支援が行われないといったケースの防止や、
[2] 医師や地方公務員など、守秘義務が存在すること等から個人情報の提供に躊躇があった関係者からの積極的な情報提供
が図られ、要保護児童の適切な保護に資することが期待される。
特に、地域協議会を構成する関係機関等に守秘義務が課せられたことにより、民間団体をはじめ、法律上の守秘義務が課せられていなかった関係機関等の積極的な参加と、積極的な情報交換や連携が期待されるところである。
(4) なお、平成16年児童福祉法改正法においては、地域協議会の設置は義務付けられていないが、こうした関係機関等の連携による取組が要保護児童への対応に効果的であることから、その法定化等の措置が講じられたものである。また、参議院厚生労働委員会の附帯決議においても、「全市町村における要保護児童対策地域協議会の速やかな設置を目指す」こととされているところである。これらの経緯を踏まえ、市町村における地域協議会の設置促進と活動内容の充実に向けた支援に努めるものとする。
2. 要保護児童対策地域協議会の意義
地域協議会においては、地域の関係機関等が子どもやその家庭に関する情報や考え方を共有し、適切な連携の下で対応していくこととなるため、以下のような利点がある。
[1] 要保護児童等を早期に発見することができる。
[2] 要保護児童等に対し、迅速に支援を開始することができる。
[3] 各関係機関等が連携を取り合うことで情報の共有化が図られる。
[4] 情報の共有化を通じて、それぞれの関係機関等の間で、それぞれの役割分担について共通の理解を得ることができる。
[5] 関係機関等の役割分担を通じて、それぞれの機関が責任をもって関わることのできる体制づくりができる。
[6] 情報の共有化を通じて、関係機関等が同一の認識の下に、役割分担しながら支援を行うため、支援を受ける家庭にとってより良い支援が受けられやすくなる。
[7] 関係機関等が分担をしあって個別のケースに関わることで、それぞれの機関の限界や大変さを分かち合うことができる。
3. 対象児童
地域協議会の対象児童は、児福法第6条の3に規定する「要保護児童(保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童)」であり、虐待を受けた子どもに限られず、非行児童なども含まれる。
4. 他のネットワーク等との関係
3のとおり、地域協議会の対象児童は、虐待を受けた子どもに限られず、非行児童なども含まれる。
少年非行問題を扱うネットワークとしては、地域協議会の他に、学校・教育委員会が調整役となっているネットワークや、警察が調整役になっているネットワークも存在するが、これら3つのネットワークは、それぞれ、中心となって活動する機関やケースに取り組む際の視点・手法が異なっていると思われる。実際に少年非行ケースを扱う際には、ケースごとにその子どもが抱える問題に最も適切に対応できるネットワークを活用することが望ましいことから、地域協議会としても、日頃から、他のネットワークとの連携・協力に努めるものとする。
なお、これら3つのネットワークの構成メンバーは重複する場合も少なくないと思われることから、地域の実情を踏まえつつ、運営の効率化を図るとともに、地域住民に使い勝手の良いものとなるよう適切に対応すること。
また、各種の子育て支援事業を有効に活用し、子どもや家庭に適切な支援を行う観点から、子育て支援事業の調整を行う子育て支援コーディネーターの確保・育成を図るとともに、日頃から、同コーディネーターとの連携・協力に努めておくことが必要である。
第2節 要保護児童対策地域協議会の設立
1. 設置主体
(1) 地域協議会の設置主体は地方自治法第1条の3に規定する地方公共団体であり、普通地方公共団体である市町村及び都道府県のほか、特別地方公共団体である特別区や地方公共団体の組合(一部事務組合や広域連合)等も含まれる。
(2) 地域協議会は、個別の要保護児童等に関する情報交換や支援内容の協議を行うことから、基本的には住民に身近な市町村が設置主体となると考えられるが、地域の実情に応じて複数の市町村が共同で設置することも考えられる。
なお、こうした複数の市町村による共同設置については、一部事務組合や広域連合を設けることなく、事実上共同で設置することも可能である。
2. 構成員
地域協議会の構成員は児福法第25条の2第1項に規定する「関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者」であり、具体的には以下の者が想定されるが、これに限らず、地域の実情に応じて幅広い者を参加させることが可能である。
なお、関係機関等の地域協議会への参加に際しては、地域協議会の業務内容や構成員に課せられる守秘義務等について、その内容や違反した場合の罰則等について、あらかじめ説明しておくことが適当である。
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3. 設立準備
(1) 準備会、勉強会の開催
関係機関によって、地域協議会に対する期待やイメージは、当初ばらつきがあるため、地域協議会を設立させるには、事前に十分な協議、調整が必要となる。
なお、関係機関等の地域協議会への参加に際しては、地域協議会の業務内容や構成員に課せられる守秘義務等について、その内容や違反した場合の罰則等について、あらかじめ説明しておくことが適当である。
このため、地域協議会の中心となる機関(事務局)による準備会や勉強会を開催し、地域協議会運営の骨格部分について協議、調整しておくことが必要である。
(2) 要綱の作成
児福法上、地域協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、地域協議会が定めることとされており(児福法第25条の4)、地域協議会の設立に先立ち、この内容を関係機関等と十分に協議、調整しておく必要がある。
また、この内容については、設立運営要綱等として文書化、制度化しておくことが適当である。
要綱の内容は、地域の実情に応じたものとなるが、[1]目的、[2]事業内容、[3]組織(構成員、要保護児童対策調整機関等)、[4]運営、[5]守秘義務、[6]事務局等が考えられる。
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4. 公示
(1) 地方公共団体の長は、地域協議会を設置したときは、厚生労働省令で定めるところにより、その旨を公示しなければならない(児福法第25条の2第3項)。
(2) 具体的には、
[1]地域協議会を設置した旨
[2]当該地域協議会の名称
[3]当該地域協議会に係る要保護児童対策調整機関の名称
[4]当該地域協議会を構成する関係機関等の名称等
[5]関係機関等ごとの児福法第25条の5第1号から第3号までのいずれに該当するかの別(「国又は地方公共団体の機関」、「法人」、「その他の者」のいずれに該当するかの別)
を公示することが必要である。
(3) ただし、要保護児童対策調整機関に名簿を設置した場合については、個人資格での参加者(児福法第25条の5第3号の資格で参加している者)については、「○○市長が指定する者」という形で公示することが可能であるので、この方法を積極的に活用することとし、原則として個人名を公示することのないようにすることが適当である。(1)守秘義務を課せられている対象者を特定する必要があること、(2)守秘義務は構成員及び構成員であった者に課せられていることから、名簿は常に最新のものとしておくとともに、過去の名簿についても保存しておく必要がある。
(4) なお、「国又は地方公共団体の機関」又は「法人」以外の構成員(児福法第25条の3第3号の資格で参加している者)は、全て個人の資格で参加することとなり、任意団体の構成員という形で参加することはできないので、留意すること。
第3節 要保護児童対策地域協議会の運営
1. 業務
(1) 地域協議会は、要保護児童等に関する情報その他要保護児童の適切な保護を図るために必要な情報の交換を行うとともに、要保護児童等に対する支援の内容に関する協議を行う(児福法第25条の2第2項)。
(2) 地域協議会については、個別の要保護児童等に関する情報交換や支援内容の協議を行うことを念頭に、要保護児童対策調整機関や地域協議会の構成員に対する守秘義務が設けられており、個別のケースについて担当者レベルで適時検討する会議(個別ケース検討会議)を積極的に開催することはもとより、構成員の代表者による会議(代表者会議)や実務担当者による会議(実務者会議)を開催することが期待される。
現在、市町村で取組が進みつつある児童虐待防止ネットワークについては、市町村の規模や児童家庭相談体制にもよるが、以上のような三層構造となっていることが多い。
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(3) 児童虐待への対応は、多数の関係機関が関与し、また、児童相談所と市町村の間の役割分担が曖昧になるおそれもあることから、市町村内における全ての虐待ケースに関して地域協議会において絶えず、ケースの主担当機関及び主たる援助者(キーパーソン)をフォローし、ケースの進行管理を進めていくことが必要である。こうした観点から地域協議会の調整機関において、全ケースについて進行管理台帳(別添11参照)を作成し、実務者会議等の場において、定期的に(例えば、3か月に1度)、状況確認、主担当機関の確認、援助方針の見直し等を行うことが適当である。
(4) 市町村の規模や関係機関の多寡等によっては、幅広い関係機関を構成員とし、代表者会議や実務者会議への参加を通じて問題意識の共有や必要に応じ的確な対応を取るための体制の確保を図りつつ、個別ケース検討会議については、対象とするケースの性質に応じて参加機関等を選定することも考えられる。
例えば、教育関係機関については、代表者会議には教育委員会のみが出席し、会議において提供された情報については教育委員会から各小学校、中学校等に周知することとしつつ、個別ケース検討会議には、教育委員会に加え、検討の対象となるケースに直接関係する学校等の関係者を参加させるといった手法も考えられる。
また、地域協議会の対象は、虐待を受けている子どものほか、非行児童や障害児なども含まれることも踏まえ、虐待、非行、障害などの分科会を設けて対応することも考えられる。
(5) 個別ケース検討会議においては、関係機関が対応している事例についての危険度や緊急度の判断、子どもに対する具体的な支援の内容について検討を行うことが適当である。また、 個別ケース検討会議への個別の要保護児童等に関する情報の提供については、あらかじめ子どもや保護者の理解を得ておくことが望ましいが、その子どもの保護のために特に必要がある場合であって、これらの者の理解を得ることが困難であるときはこの限りではない。
(6) 地域協議会は、施設から一時的に帰宅した子どもや、施設を退所した子ども等に対する支援に積極的に取り組むことも期待されているところであり、児童相談所や児童福祉施設等と連携を図り、施設に入所している子どもの養育状況を適宜把握するなど、一時的に帰宅した際や退所後の支援の円滑な実施に向けた取り組みを実施することが期待される。
(7) また、支援が必要であるにもかかわらず、連絡先等が不明となってしまった子どもや保護者等に関する情報を共有し、これらの者を早期に発見し、必要な支援を行うことも期待される。
2. 相談から支援に至るまでの流れ
個別の相談、通報から支援に至るまでの具体的な流れについては、地域の実情に応じて様々な形態により運営されることとなるが、一つのモデルを示すと以下のとおりとなる。(別添12参照)
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3. 役割分担
個別ケースごとの関係機関等の役割分担については、それぞれのケースに関する個別ケース検討会議で決定するべき事項であるが、主なものは以下のとおりである。
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4. 関係機関に対する協力要請
(1) こうした要保護児童等に関する情報の交換や支援の内容に関する協議を行うために必要があると認めるときは、地域協議会は、関係機関等に対し、資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる(児福法第25条の3)。
(2) この協力要請は、地域協議会の構成員以外の関係機関等に対して行うことも可能であるが、この要請に基づき当該関係機関等から地域協議会に対し一方的に情報の提供等が行われる場合はともかく、今後の支援の内容に関する協議など、当該関係機関等と地域協議会の構成員の間で双方向の情報の交換等を行うことが見込まれる場合には、協力要請時に守秘義務が課せられる地域協議会の構成員なることについても要請することが適当である。
(3) なお、医師や地方公務員等については、他の法令により守秘義務が課せられているが、要保護児童の適切な保護を図るために、この規定に基づき情報を提供する場合には、基本的にはこれらの法令による守秘義務に反することとはならないものと考えられる。
(4) また、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)においては、本人の同意を得ない限り、[1]あらかじめ特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないとともに、[2]第三者に個人データを提供してはならないこととされている。(個人情報保護法第16条及び第23条)
(5) しかしながら、「法令に基づく場合」は、これらの規定は適用されないこととされており、児福法第25条の3に基づく協力要請に応じる場合は、この「法令に基づく場合」に該当するものであり、個人情報保護法に違反することにもならないものと考えられる。
第4節 要保護児童対策調整機関
1. 趣旨
多くの関係機関等から構成される地域協議会が効果的に機能するためには、その運営の中核となって関係機関の役割分担や連携に関する調整を行う機関を明確にするといった責任体制の明確化が重要であることを踏まえ、地域協議会にはこうした業務を担う要保護児童対策調整機関(以下単に「調整機関」という。)を置くこととした。
2. 調整機関の指定
地域協議会を設置した地方公共団体の長は、地域協議会を構成する関係機関等のうちから、一に限り調整機関を指定する(児福法第25条の2第4項)。
要保護児童対策調整機関には、児童福祉担当部局あるいは母子保健担当部局といった児童福祉に関係の深い部局が指定されることが想定されるが、具体的にどの関係機関等を調整機関として指定するかは各地方公共団体の児童家庭相談体制の実情等による。
3. 業務
(1) 調整機関は、地域協議会に関する事務を総括するとともに、要保護児童等に対する支援が適切に実施されるよう、要保護児童等に対する支援の実施状況を的確に把握し、必要に応じて、児童相談所その他の関係機関等との連絡調整を行う(児福法第25条の2第5項)。
(2) 調整機関の業務として具体的に想定されるものは、以下のとおりである。
[1]地域協議会に関する事務の総括
・ 協議事項や参加機関の決定等の地域協議会開催に向けた準備
・ 地域協議会の議事運営
・ 地域協議会の議事録の作成、資料の保管等
・ 個別ケースの記録の管理
[2]支援の実施状況の進行管理
・ 関係機関等による支援の実施状況の把握
・ 市町村内における全ての虐待ケースについて進行管理台帳(別添11参照)を作成し、実務者会議等の場において、定期的に(例えば、3か月に1度)、状況確認、主担当機関の確認、援助方針の見直し等を行う。
[3]関係機関等との連絡調整
・ 個々のケースに関する関係機関等との連絡調整(個別ケース検討会議におけるケースの再検討を含む。)
第5節 守秘義務
1. 趣旨
地域協議会における要保護児童等に関する情報の共有は、要保護児童の適切な保護を図るためのものであり、地域協議会の構成員及び構成員であった者は、正当な理由がなく、地域協議会の職務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない(児福法第25条の5)。
2. 守秘義務の適用範囲
(1) この守秘義務の適用範囲は、地域協議会を構成する関係機関等の種別に応じて以下のとおりである。
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(2) 市町村や都道府県といった地方公共団体自体が地域協議会の構成員となった場合には、児童福祉担当部局に限らず、要保護児童の適切な保護に業務上直接的な関連を有しない部局の職員にまで守秘義務が及ぶこととなる。
このため、児童福祉担当部局や教育委員会といった地方公共団体の機関については、こうした機関単位で構成員となることが適当である。
(3) また、法人格を有さない任意団体については、その会長のみが構成員になる場合は、当該団体の役職員は構成員とならないため、守秘義務がかからない。このため、このような場合は、当該任意団体の役職員すべてを、それぞれ個人として、構成員にすることが適当である。
3. 罰則
守秘義務に反し、秘密を漏らした場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が課せられる(児福法第61条の3)。
第6節 その他
(1) 現在、市町村において取組みが進みつつある虐待防止ネットワーク(参考事例:別添13参照)については、地域協議会に移行することが適当である。
(2) 地域協議会を構成する関係機関等の意識の共有を図る観点から、地域協議会において相談援助活動に関するマニュアル等を作成するなどの取り組みも有効であると考えられる。
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