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都道府県における検診後肝疾患診療体制に関するガイドライン

肝炎

都道府県における
肝炎検査後肝疾患診療体制に関する
ガイドライン

全国C型肝炎診療懇談会報告書
平成19年1月26日




はじめに

肝炎対策については、国又は地方公共団体において、従来より検査体制の充 実、治療法の研究開発、国民に対する普及啓発・相談指導の充実など様々な対 策に取り組んできた。平成14年からは、「C型肝炎等緊急総合対策」が開始 され、特に新たな抗ウイルス薬の開発、医療保険上の承認、老健健診・政府管 掌健康保険等の健診の場での肝炎ウイルス検査の導入など肝炎対策が一層強 化されてきた。
一方で、健診受診率が低いこと、肝炎ウイルス検査で要診療と判断された者 が医療機関を受診しないこと、また、たとえ医療機関を受診しても、必ずしも 適切な医療が提供されていないという問題点が指摘されている。
これらの問題点を解決するため、平成17年度に開催された「C型肝炎等に 関する専門家会議」の報告書「C型肝炎対策等の一層の推進について」を受け、 平成18年度より感染症対策特別促進事業の中に各都道府県における肝炎診 療協議会の設置が盛り込まれた。都道府県等は、医師会、肝炎に関する専門医、 関係市区町村や保健所等の関係者によって構成される肝炎診療協議会を設置 し、同協議会においては、各都道府県等の実情に応じて、
(1)要診療者に対する保健指導
(2)かかりつけ医と専門医療機関の連携
(3)高度専門的ないし集学的な治療を提供可能な医療機関の確保
(4)受診状況や治療状況等の把握
(5)医療機関情報の収集と提供
(6)人材の育成
等について必要な検討を行うとともに、関係者との連絡・調整を図ることが期 待されている。同協議会において上記のテーマを検討するに当たり、参考とな る事項についてガイドラインとして取りまとめたので、各都道府県等が活用さ れることを願っている。
なお、肝疾患の診療体制については、B型肝炎ウイルス由来の肝疾患とC型 肝炎ウイルス由来の肝疾患の間で本質的な相違はないことから、B型肝炎ウイ ルス由来の肝疾患の診療においても当ガイドラインを準用されたい。




目 次

1.要診療者に対する保健指導

2.肝疾患診療体制――かかりつけ医と専門医療機関との連携

3.肝疾患診療に関する医療機関に求められる役割とその要件

4.肝疾患診療に関わる人材の育成

都道府県における肝疾患診療ネットワークイメージ図

おわりに




1.要診療者に対する保健指導

肝炎検診で要診療とされた者が医療機関を受診することは、検診後肝炎診 療の第一歩であり、受診率の低下は、検診後肝炎診療全体の有効性を大きく 低下させるものである。しかし、一般にウイルス性慢性肝炎は、自覚症状に 乏しく、治療・経過観察の必要性について理解が得られにくい場合がある。 受診率の向上・維持のためには、検診で要診療とされた者に対する啓発が不 可欠である。
したがって、検診において要診療とされた者に対して、保健所又は市町村 の医師や保健師が、以下の流れに沿って、肝疾患に関する基本的事項の説明 及び医療機関への受診勧奨を行うこととする。

1)方法

(1) 要診療者が検査結果の意味や精密検査の必要性と意義、今後の対応等 について正しく理解することができるよう、要診療者に対する保健指導 は、プライバシーに配慮しつつ、医師や保健師が家庭訪問または来所相 談等を通じ、直接本人に面接等で対応することが望ましい。
(2) 要診療者の都合により面接ができない場合は、プライバシーに配慮し つつ検査結果を通知し、併せて肝疾患に関する基本的事項や受診の必要 性、希望に応じて医師や保健師が相談対応すること等を記載したパンフ レット等を送付するなどして受診を勧奨する。
(3) 後日、当該要診療者が受診したか否か、またその診療内容について確 認することが望ましい。

2)内容

下記の内容が含まれた媒体(パンフレット等)を用いて、要診療者に対し 肝疾患に関する基本的事項の説明及び受診勧奨を行う。
(1) 肝炎ウイルスの身体への影響(肝炎から肝硬変・肝がんへの進行の可 能性、自覚症状のないことが多いこと等)
(2) 精密検査の必要性や治療の意義(肝機能検査が正常であっても定期的 な経過観察を必要とすること、治療が必要な場合、適切に行うことによ ってウイルス排除も可能であること等)
(3) 地域の医療提供体制(それぞれの地域における肝疾患診療に関する医 療提供体制、専門医療機関とかかりつけ医との連携があること等)
(4) 日常生活の留意点(飲酒、食生活、運動等)
(5) 感染予防対策(通常の日常生活では感染しないことや感染予防の留意 点(B型肝炎とC型肝炎で原因ウイルスやその特性に相違があることを 含む)等)
(6) 定期的な医療機関受診の必要性
(7) 自己管理の重要性(受診結果を記録する等)
(8) その他(肝炎ウイルスに感染していること自体で就業制限を受けない こと、患者団体の情報等)

3)留意点

(1) プライバシーに配慮して対応する。
(2) 要診療者の疑問、不安について、丁寧に対応する。
(3) 疑問や不安について、引き続き相談対応することを伝えておく。
なお、要診療者の認識を高めるためには、肝疾患の治療や感染経路等に 関して、肝臓病教室や肝臓病相談会等を通じて一般住民に対し日頃から啓 発を行っておくことが重要である。

4)受診勧奨後の要診療者の状況把握について

保健所や市町村においては、要診療者に対する支援のため、
(1) 受診勧奨後の要診療者の受診状況や診療内容について、把握しておく  ことが望ましい。この際、本人の同意を得る必要がある。
(2) また、同意を得られた者のうち、未受診者又は受診中断者に対しては、 再度、面接や文書等により、相談・受診勧奨を行うことが望ましい。
なお、上記により把握された要診療者に関するデータ(受診状況や診療内 容)については、本人に対する支援に活用するほか、個人非特定とする等個 人情報保護に十分配慮した上で、都道府県等に設置する肝炎診療協議会※に おいて評価を行い、その後の肝炎対策に活用することが望ましい。

※ 都道府県等に設置する肝炎診療協議会
医師会、肝炎に関する専門医、関係市区町村や保健所等の関係者によって構 成され、各都道府県等の実情に応じた肝疾患の診療体制等に関する事項につい て必要な検討を行う場。




2.肝疾患診療体制―――かかりつけ医と専門医療機関との連携

1)肝疾患における診療体制

肝炎検査で発見される肝炎患者は自覚症状に乏しく、多くはトランスアミ ナーゼ値等血液検査における肝機能の指標値も基準範囲内である。この場合、 一見すると健常者のように思われがちであるが、組織学的には肝炎が存在す ることもあり、場合によっては肝硬変や肝がんの合併がみられることもある。
また、治療についても近年の進歩は目覚ましく、高いウイルス排除率が期 待される時代となった。ウイルスが排除された場合、肝がん合併率が明らか に低下することから、治療方法の選択も重要となっている。
このように、検査で発見された肝炎患者を適切な医療に結びつけることが 極めて重要であるが、正確な病態の把握や治療方針の決定には、肝疾患に関 する専門的な医療機関の関与が不可欠となる。
一方、患者が安定した病態を示す場合や治療方針に大きな変化がない場合 はかかりつけ医による診療を中心に行うことが望ましい。
以上のように、肝疾患の診療においては、行政及び医師会等の関係団体の 積極的な関与のもと、かかりつけ医と専門医療機関等との連携が必須であり、 都道府県においては、地域の実情にあわせ、次項に掲げる役割及び要件を参 考にしつつ、それぞれの役割に応じた診療体制構築を図る必要がある。

2)要診療者に対する受診勧奨に際する留意点

要診療者に対する受診勧奨に際しては、各都道府県の実情に配慮する必要 があるが、保健所及び市町村は、
  • 要診療者に対して、正確な病態の把握、適切な治療方針の決定がなされ るよう、可能な限り一度は肝疾患に関する専門医療機関を受診するよう 指導する。
  • 要診療者が最初にかかりつけ医を受診した場合も、専門医療機関の関与 の下治療方針が決定されるよう啓発活動を行う。
  • 専門医療機関において正確な診断および治療方針の決定を行い、状態が 落ち着いた場合は、その段階でかかりつけ医へ紹介するよう啓発活動を 行う。
  • 状態が安定し、定期的にかかりつけ医を受診している場合であっても、 肝がんの早期診断等のため、専門医療機関にも定期的に受診するよう啓 発する。
等の点に留意する。

3)肝疾患診療に関する医療機関の情報の収集と提供

都道府県及び市町村は、肝疾患診療に関する医療機関の情報を積極的に収 集するとともに、インターネット、広報誌、ポスター等の媒体を活用するな どして専門医療機関等の名称や肝疾患診療関連情報を積極的に公表するな ど、地域における肝疾患に関する診療ネットワークについて、住民に周知す ることが重要である。




3.肝疾患診療に関する医療機関に求められる役割及びその要件

前項でみたように、肝疾患の診療においては、かかりつけ医と肝疾患に関す る専門医療機関との連携が極めて重要であるが、以下にかかりつけ医及び専門 医療機関、さらに肝疾患に関して高度先進的な医療に対応する医療機関に求め られる役割及びその要件を示す。

1)かかりつけ医

かかりつけ医は、患者に最も身近な存在であり、内服処方・注射・定期 的な検査等日常的な処置を行い、患者に病状の変化等がある場合には、適 宜肝疾患に関する専門医療機関を紹介することが求められる。また、状態 が安定している場合においても、かかりつけ医は、少なくとも1年に1度 は専門医療機関に診察を依頼することによって病態及び治療方針を確認す ることが重要である。

2)肝疾患に関する専門医療機関

肝疾患に関する専門医療機関については、
(1) 専門的な知識を持つ医師による診断(活動度及び病期を含む)と治 療方針の決定
(2) インターフェロンなどの抗ウイルス療法
(3) 肝がんの高危険群の同定と早期診断
のいずれも行うことができる必要がある。なお、上記(1)から(3)の要件を満 たし、かつ肝がんに対する治療にも対応できる医療機関も、専門医療機関 の対象となるものである。また、専門医療機関においては、学会等の診療 ガイドラインに準ずる標準的治療を行っていること、肝疾患についてセカ ンドオピニオンを提示する機能を持つか施設間連携によって対応できる体 制を有すること、かかりつけ医等地域の医療機関への診療支援等の体制を 有すること、可能な限り要診療者の追跡調査に協力することが望ましい。
2次医療圏に1カ所以上存在することが望ましいが、肝疾患に関する専 門知識を有する医師(日本肝臓学会や日本消化器病学会の専門医等)の常 勤施設及び各医療機関発行の診療状況や診療症例数等の情報から総合的に 判断するとともに、人口分布、有病率、交通の利便性等地域の実情に配慮 し、都道府県等に設置する肝炎診療協議会において選定を行う。
なお、都市部では、こうした医療機関の間で、就業地など隣接都府県で の医療機関受診となることも考慮した診療ネットワークを構築することが 望ましい。

3)肝疾患診療連携拠点病院(仮称)

肝疾患診療連携拠点病院(仮称)については、
(1) 肝疾患診療に係る一般的な医療情報の提供
(2) 都道府県内の肝疾患に関する専門医療機関等に関する情報の収集や 紹介
(3) 医療従事者や地域住民を対象とした研修会や講演会の開催や肝疾患 に関する相談支援に関する業務
(4) 肝疾患に関する専門医療機関と協議の場の設定
を行うこととする。
これらの医療機関については、肝疾患に関する専門医療機関の条件を満たし、かつ肝がんに対する集学的治療を行うことのできる医療機関のうち、都道府県の中で肝疾患の診療ネットワークの中心的な役割を現在果たしている、または将来果たすことが期待される医療機関を、肝炎診療協議会において各都道府県につき原則一カ所選定することとする。




4.肝疾患診療に関わる人材の育成

要診療者が、確実に医療機関を受診するためには、保健所又は市町村の医 師や保健師が、肝疾患に関する基本的事項の説明や医療機関への受診勧奨を 行う際に専門的知識を十分に有している必要がある。また、肝疾患に関する 治療は近年大きく変化しており、検査・受診勧奨を行う医師や保健師は、新 しい知識、情報を得ておくことが、要診療者の意識の昂揚につながる。
したがって、都道府県又は市町村は、要診療者への受診勧奨やその後の治 療中の者・治療中断者への支援が有効に実施できるよう、従事する医師や保 健師を対象とする研修会参加の機会を確保するとともに、対策の情報交換及 び検討会を実施することが望ましい。
また、都道府県は、医療従事者の更なる知識・技能の向上を図るために、 肝炎診療協議会の意見を聞いた上で、医師会や学会等関係機関と連携して、 医療従事者に対する各種研修会・講演会の開催、職員の研修会への参加促進 等を行うことが望まれる。研修会については、原因ウイルスの相違や患者の 病態に応じた診療における留意点等実践的な内容を含むこととし、地域にお ける肝疾患診療に関する医療提供体制についても周知徹底させる必要があ る。
さらに、肝疾患診療連携拠点病院(仮称)等は、地域の医療機関の肝疾患 診療のレベルアップを図るため、医療従事者や地域住民を対象とした研修会 や講演会を開催することが望ましい。








おわりに

以上、各都道府県における肝疾患の医療水準の向上を目指して、
1.要診療者に対する保健指導
2.肝疾患診療体制
3.肝疾患診療に関する医療機関に求められる役割とその要件
4.肝疾患診療に関わる人材の育成
についてガイドラインとしてとりまとめた。ウイルス性肝炎は感染者数も 多く、発症前後を通じ長期間の経過をたどる疾病であって国民の関心も高い が、一方で近年の医学の進歩により、早期に発見して早期に治療すれば治癒 する可能性が高い病気になりつつある。国、都道府県を通じ検診機会の拡大 に一層努力するとともに、当ガイドライン自体についても、今後の医学医術 の進展にあわせて適宜見直しを行っていく必要がある。なお、肝炎対策の均 てん化をより一層推進する観点から、我が国の感染症医療の中核となってい る国の医療機関において肝炎対策の中核的役割を付与することについて検 討すべきであると考える。



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