Ministry of Health, Labour and Welfare

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SARS

重症急性呼吸器症候群(SARS)関連情報

健感発第0318002号
平成15年3月18日


都道府県
政令市
特別区


衛生主管部(局)長 殿
厚生労働省健康局結核感染症課長

ハノイ・香港等における原因不明の「重症急性呼吸器症候群」の
集団発生に伴う対応について(第4報)

 標記については、「ハノイ・香港等における病院内での原因不明の重症呼吸器疾患の集団発生に関するWHOの緊急情報について」(平成15年3月12日健感発第0312002号)等により、貴管内の医療機関等の関係機関への周知をお願いしているところです。
 今般、WHOは本症候群に関する新たな知見を踏まえ、症例の報告基準を改訂するとともに、患者の医療管理についての2つの文書を示したところです。当課では国内専門家の意見をもとに、その仮訳と注釈を作成しました。
 つきましては、これらを参考に本症候群への適切な対応を下記のとおりお願い致します。
 なお本症候群に関する通知等については、厚生労働省ホームページで、随時提供中であることを申し添えます。(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou05/index.html)


患者の報告基準は「原因不明の重症急性呼吸器症候群の報告基準(3訂版)」(別紙1)とすること。
報告基準の疑い例と可能性例については、「重症急性呼吸器症候群(SARS)のWH O管理指針」(別紙2)及び「重症急性呼吸器症候群(SARS)の可能性例に対するW HO院内感染対策ガイダンス」(別紙3)を参考にして対応すること。
可能性例の検体検査の実施については、自治体担当課から結核感染症課へ連絡し、調整した上で対応すること。



(別紙1)

原因不明の重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome;SARS)
の報告基準(3訂版)

平成15年3月18日
厚生労働省健康局結核感染症課

原因不明の重症急性呼吸器症候群の症例定義

○ 疑い例

 2003年2月1日以降に以下の全ての症状を示して受診した患者で

 ・38度以上の急な発熱
 ・咳、息切れ、呼吸困難感などの呼吸器症状
かつ、以下のいずれかを満たす者
 ・発症前10日以内に、原因不明の重症急性呼吸器症候群の発生が報告されている地域(*)へ旅行した者
 ・発症前10日以内に、原因不明の重症急性呼吸器症候群の症例を看護・介護するか、同居しているか、近距離で接触するか、患者の気道分泌物、体液に触れた者
 (*)WHOが3月16日、報告されていると示した地域は、トロント(カナダ)、バンクーバー(カナダ)、広東省(中国)、香港(中国)、シンガポール(シンガポール)、ハノイ(ベトナム)である。

○ 可能性例

 疑い例であって、

 ・胸部レントゲン写真で肺炎、または呼吸窮迫症候群の所見を示す者
または
 ・原因不明の呼吸器疾患で死亡し、剖検により呼吸窮迫症候群の病理学的所見を示した者
(備考)重症急性呼吸器症候群は、発熱、呼吸器症状に加え、頭痛、筋硬直、食欲不振、倦怠感、意識混濁、発疹、下痢等の症状を伴なう。

(注)下線部は2訂版との主な変更箇所



(別紙2)
重症急性呼吸器症候群(SARS)のWHO管理指針(仮訳・注釈)

I.疑い例の管理

  1. SARSを疑わせる症状を呈する患者は、すみやかに指定された診察室・病室へ誘導する。
  2. 患者に外科用マスクを着用させる。
  3. 詳細な病歴、旅行歴、および過去10日間の接触者に発病した者がいないかも含めた接触歴を聴取する。
  4. 胸部レントゲンを撮影し、血球検査(CBC)を行う。
  5. 胸部レントゲン写真に異常所見が無い場合は、
    (1)手洗いの励行等の衛生に努め、人ごみや公共交通機関使用を避け、回復するまで自宅にいるよう指導する。
    (2)呼吸器症状が悪化すれば直ちに医療機関を受診するよう指導して、帰宅させる。(注 受診にあっては、予め医療機関に連絡する。)
    (3)もし間質浸潤の有無を問わず、片側、または両側性の浸潤影を認めた場合は、可能性例として対応する。
II.可能性例の管理
  1. 個室、または個室が不足している場合は、SARSの可能性例と診断された患者同志を同室に入室させ入院とする。
  2. 以下の臨床検体を採取し、既知の異型肺炎の病原体感染を除外する。
    (1)咽頭スワブ検体と寒冷凝集素
    (2)血液培養と血清学検査
    (3)尿
    (4)気管支肺胞洗浄液
    (5)場合により剖検
    寒冷凝集素:ワイル−フェリックス反応、ヴィダ−ルテストなど
  3. 検体は隔日に採取する。検査は指定された研究施設(注 自治体と結核感染症課で指定する施設)で行われる。検体についてはP3設備を有する施設内で検査されること。
  4. CBCは隔日に経過観察し、胸部レントゲン検査は症状により必要に応じて繰り返す。
  5. 臨床症状に応じた治療を行う。
  付記;
  1. 現在までの知見では、広域の抗生物質がSARSの進行の抑制に有効であったと証明されていない。
  2. リバビリンの経静脈投与とステロイド併用により、重篤な病状が安定した可能性がある症例が1例認められた。
III.疑い例、可能性例との接触者の管理
  1. 不安の除去に努める。
  2. 氏名と接触者の詳細を記録する。
  3. 発熱や呼吸器症状が出た場合の対応を以下のように指導する。
    (1)すみやかに医療機関に連絡すること。
    (2)医療機関から指導された日数は、出勤しない。
    (3)医療機関から指導された日数は、人ごみを避ける。
    (4)同居人、知人との接触は最小限に留める。



(別紙3)
重症急性呼吸器症候群(SARS)の可能性例に対する
WHO院内感染対策ガイダンス
(仮訳・注釈)

 WHOはSARS症例に対して、空気、飛沫、接触感染への予防措置を全て含めた、バリアナーシング手技(注:病原体封じ込め看護)を強く勧めている。

 医療機関にインフルエンザ様の症状を呈する患者が受診した場合、待合室で他の患者への伝播を最小限に止めるため、担当看護師は速やかにその患者を、指定された別室に誘導する。SARSが否定されるまで、患者には外科用マスクを着用させる。

 SARS可能性例は次の優先順位に従って病室に入院させる。

  1. ドアが閉鎖された陰圧の病室
  2. 手洗い、風呂を備えた個室
  3. 独立した給気と排気システムを持つ大部屋など
 独立した空調がない場合は空調を止め、換気を良くするために外に面した窓を開ける事も推奨される。可能であれば、SARSの疑いで検査を受けている患者と、診断が確定した患者は同室にしない。

 可能な限りSARSの患者には使い捨て医療器具を用いる。再使用する時は、製造業者の仕様書に沿って消毒する。器具の表面は細菌、真菌、ウイルスに有効な広域の消毒剤で消毒する。

 患者の移動は可能な限り避ける。移動させる必要が生じた場合、飛沫の拡散を避けるため、外科用マスクを着用させる。患者が我慢できるなら、結核など伝染性の高い呼吸器疾患の予防に頻用されるN95マスク使用が望ましい。SARS可能性例または疑い例患者の病室に入る全ての面会者、スタッフ、学生、ボランティアにもN95マスクを着用させる。N95マスクに比較すると外科用マスクの有効性は低い。

 手洗いが感染予防のためには最も重要であり、手袋を使えば手洗いは不要と考えてはならない。どのような患者であっても接触した後、病原体に暴露される可能性のある医療行為を行った後、および手袋をはずした後も手洗いする。手洗いできない場合には、アルコールを含む手指消毒剤を用いる。看護師は全ての患者の看護を行う際には手袋を着用する事が推奨される。手袋は、患者毎に、または患者の気道分泌物に汚染される可能性がある酸素マスク、酸素チューブ、経鼻酸素チューブ、ティッシュペーパーなどの物品に触れた後は必ず交換する。

 患者の気道分泌物の飛沫や飛散が発生する可能性のある処置や看護の際には、耐水性ガウン、頭部カバーを使用する。

 血液、その他の体液が飛び散る可能性がある場合、さらには、ゴーグル、顔面カバーも必要になる。

 血液、その他の体液が飛び散る可能性がある場合、空気感染が生ずる可能性がある場合、スタッフは常にマスクを着用する。

 SARSの疑い例、可能性例の患者に付き添う場合、N95マスクのように0.3μmの粒子を防護できるフィルターを使用する。

 いかなる医療廃棄物の取扱いにおいても、標準予防策を適応する。

 全ての医療廃棄物の取扱いの際には、紛れ込んだ注射針などによる外傷に注意する。

 医療廃棄物の入ったゴミ袋、ゴミ箱を取り扱う場合も、手袋と防護服を着用し、素手では取り扱わない。

 なお医療廃棄物はバイオハザードが印された漏出しない強靱な袋、ゴミ箱に入れ、安全に廃棄する。

(参考文献:小林寛伊、吉倉廣、荒川宜親 編「エビデンスに基づいた感染制御」、メヂカルフレンド社)

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