被災地での健康を守るために
厚生労働省
平成23年7月25日版
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東日本大震災は、未曾有の大災害であり、多くの尊い命が失われ、様々な健康被害が発生しています。被災地での避難所等における生活が長期に及ぶことにより、様々な健康への影響が懸念され、健康を守るための対策が重要です。
避難生活の際に、病気にかからないよう、また、できるだけ健康に過ごしていただくため、大切なことをまとめました。被災者を支援する方々にも、これらのことを知っていただき、ご配慮いただくようお願いいたします。
1.生活・身の回りのことについて
(1) 暑さへの対策
- 暑い日が続く季節となってきたため、脱水や熱中症で体調を崩さないように注意することが必要です。日中に外出するときには、日傘の使用や帽子の着用、日陰の利用などにより暑さを避け、こまめに水分・塩分補給をしましょう。特に、節電・節約を意識するあまり、クーラー等を使わず熱中症になることがないよう、室温をこまめに計測し、28度を目安として、適度にクーラー等を使用することも重要です。また、暑い日に、めまい、頭痛、吐き気などの症状がみられた際には、すぐに医療機関を受診しましょう。
(2) 水分について
[1] 水分の確保
- 様々なストレスや、トイレが整備されないことが原因で、水分をとる量が減りがちです。また、気温が高いときには脱水状態になりやすいので、こまめに水分をとりましょう。特に高齢者は脱水に気付きにくく、こうした影響を受けやすく、尿路の感染症や心筋梗塞、エコノミークラス症候群などの原因にもなるので、しっかりと水分をとるようにしましょう
[2] 飲料水の衛生
- 給水車による汲み置きの水は、できるだけ当日給水のものを使用しましょう。
- 井戸水をやむを得ず使用する時は、煮沸等殺菌することに気をつけましょう。
(3)食事について
[1] 栄養をとる
- できるだけ、いろいろな食物をバランスよく食べるようにしましょう。
※ より詳しい情報は、(独)国立健康・栄養研究所のホームページで「災害時の健康・栄養について」<http://www.nih.go.jp/eiken/info/info_saigai.html>が提供されています。
[2] 食品の衛生
- 調理の前や食事の前には、手洗いを励行しましょう。
- 食料は、冷暗所での保管を心がける等、適切な温度管理を行いましょう。
- 加熱が必要な食品は中心部までしっかり加熱しましょう。
- 提供された食事は、早めに食べましょう。
- 消費期限の過ぎた食品は保存せず、捨てましょう。
- 使用した調理器具等は、しっかり洗浄しましょう。
- 下痢、腹痛、嘔吐、発熱等の症状がある方や手に傷のある方は、食品を取り扱う作業をしないようにしましょう。
(4)トイレの衛生
- 利用者の数に応じた手洗い場とトイレを設置しましょう。男性用、女性用を分けるなど利用しやすいようにしましょう。
- 使用後は、手指を流水・石けんで洗い、消毒を励行しましょう。
- トイレは、定期的に清掃、消毒を行いましょう。
※ 消毒の方法についてのより詳しい情報は別添1をご覧ください。
(5)生活環境
[1] 室内の環境
- 定期的に清掃を行うことに心がけましょう。
- 避難所内は土足厳禁とし、靴を履き替えられるようにしましょう。
- 病気の方、高齢者に配慮して換気をしましょう。
- 受動喫煙防止のために、体育館、集会場などの避難所では、原則として全面禁煙にしましょう。
- 避難生活が長期に及ぶと、布団にダニが繁殖し広がりやすいので、定期的な清掃のほか、できれば、布団・毛布等の日干しを行うことが望ましいです。 特に高齢者は、自分で布団を干すことが難しいので、周囲の方が手伝ってください。
[2] 屋外の環境
- 気温の上昇にともなって、避難所のゴミ集積場や水たまりのまわりなどでは、蚊やハエなどが発生しやすくなります。お互いに声をかけ合い、定期的に、ゴミ集積場を含めた避難所全体を清掃しましょう。ゴミは定期的に収集して、避難所外の閉鎖された場所において管理しましょう。
※ なお、防虫器具、防虫剤を使用する際には、市町村職員や避難所管理者から注意事項等の説明を受けてから行いましょう。
※ リーフレット「身の回りにハエ・蚊を増やさない!」
<https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000019xyn-att/2r9852000001hu3s.pdf>
[3] その他
- できるだけプライバシーを確保できる空間や仕切りなどを確保しましょう。
2.病気の予防
(1)感染症の流行を防ぐ
避難所での集団生活では、感染性胃腸炎等の消化器系感染症などが流行しやすくなります。
避難所の生活者や支援者は、こまめに手洗いを励行するよう心がけてください。可能であれば、擦り込み式エタノール剤やウェットティッシュを世帯単位で配布するのが望ましいです。
発熱・せきなどの症状がある方は、避難所内に風邪などの病気を流行させないために、軽い症状であっても、マスクを着用しましょう。長引くときには結核などのおそれもあります。
下痢や嘔吐などの症状がある方は、脱水にならないよう水分補給を心がけましょう。また、周囲に感染を広げないように、手洗いを励行してください。
これらの症状がある方は、速やかに医師の診察を受けてください。可能であれば、入院を含む避難所外での療養を検討しましょう。
また、けがをした場合には、そこから破傷風に感染するおそれがあります。土などで汚れた傷を放置せず、医療機関で手当を受けるようにしてください。
※ ノロウイルスに関する詳しい情報はノロウイルスに関するQ&Aをご覧ください。
※ 破傷風に関する詳しい情報は別添3(PDF:196KB)をご覧ください。
※ 国立感染症研究所では、地震関連情報を<http://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/index.html>で提供しています。
(2)粉じんから身を守る
家屋などが倒壊すると、コンクリートや断熱と耐火被覆に用いられた壁材などが大気中へ舞ったり、土砂などが乾燥して細かい粒になったりします。これら「粉じん」を長期間吸い込んだ場合、肺にそれらが蓄積することで、「じん肺」という病気にかかる可能性があります。「じん肺」は、建造物の解体などに従事する方におこりやすく、初期には自覚症状がないため、気づかない間に進行し、やがて咳、痰、息切れがおこり、さらに進行すると呼吸困難、動悸、さらには肺性心といって、心臓が悪くなり、全身の症状が出現します。
「じん肺」を根治する方法はないため、予防が非常に重要です。粉じんの発生する現場での作業は、専門の業者などに依頼することが薦められますが、個人で作業する場合には、以下の方法をできるだけ取り入れてください。
- 粉じんの発生をおさえましょう
- 水をまいたり、粉状のものはあらかじめ水で濡らしましょう
- 粉じんを除去しましょう
- 廃棄装置、除じん装置があれば使用しましょう。
- 室内で作業をする場合には換気をしましょう
- 粉じんの吸入を防ぎましょう
- 使い捨て式防じんマスクなどを着用しましょう。
- 粉じんが付着しにくい服装を選びましょう。
- 作業後、咳、痰、息切れが続く場合は、医師、保健師に相談しましょう
粉じんが舞い上がるような環境の中では、マスクを用いることが必要です。マスクは、防じんマスクやN95マスクなどのマスクを使用することが望ましいのですが、これらが手に入らない場合や、粉じんにそれほど長くばく露されない状況であれば、花粉防止用マスクなどの活用が考えられます。これからの季節、気温が上がりますが、粉じんの吸入を防いで健康を守るために、作業現場等においては暑くてもマスクで鼻と口を同時に覆い、顔にフィットさせて正しく着用することが重要です。
(3)一酸化炭素中毒の予防
一酸化炭素中毒の恐れがあるので、屋内や車庫などの換気の良くない場所や、窓など空気取り入れ口の近くで、燃料を燃やす装置(発電機、木炭使用のキャンプストーブなど)を使用しないようにしましょう。一酸化炭素は無臭無色であり、低い濃度で死亡する危険があります。燃料を燃やす装置を使用する場合には、換気に心がけましょう。
(4)エコノミークラス症候群にならないために
食事や水分を十分にとらない状態で、車などの狭い座席に長時間座っているなどして足を動かさないと、血行不良が起こり、血液が固まりやすくなります。その結果、血の固まり(血栓)が足から肺などにとび、血管を詰まらせ肺塞栓などを誘発する恐れがあります。この症状をエコノミークラス症候群と呼んでいます。
こうした危険を予防するために、狭い車内などで寝起きを余儀なくされている方は、定期的に体を動かし、十分に水分をとるように心がけましょう。アルコール、コーヒーなどは利尿作用があり、飲んだ以上に水分となって体外に出てしまうので避けましょう。できるだけゆったりとした服を着ましょう。また、禁煙はエコノミー症候群の予防においても大変重要です。
胸の痛みや、片側の足の痛み・赤くなる・むくみがある方は早めに医師に相談してください。
※ エコノミークラス症候群についてのより詳しい情報は別添2(PDF:70KB)をご覧ください。
(5)心身の機能の低下予防
慣れない避難所や仮設住宅の生活では、体を動かす機会が減ることで、特に高齢者の場合には、筋力が低下したり、関節が固くなるなどして、徐々に「動けなく」なることがあります。
また、動かないでいると、だんだん心が沈んできて「3.こころのケア」にあるような症状が出てしまうこともあります。
身の回りのことができる方は、なるべく自分で行ったり、可能な作業に参加したりしてください。
声をかけ合って、積極的に体を動かすようにしましょう。
※ より詳しい情報は、平成23年3月29日付事務連絡「東北地方太平洋沖地震による避難生活に伴う心身の機能の低下の予防について」<https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016tyb-img/2r98520000016w0j.pdf>や、(財)日本障害者リハビリテーション協会 情報センター「災害時の高齢者・障害のある方への支援」<http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/bf/saigaiji_shien.html>をご参照ください。
(6)歯と口の清掃(口腔 ケア)・入れ歯
避難生活では、水の不足等により、歯・口・入れ歯の清掃がおろそかになり、食生活の偏り、水分補給の不足、ストレスなども重なって、むし歯、歯周病、口臭などが生じやすくなります。特に高齢者では、体力低下も重なり、誤嚥性肺炎などの呼吸器感染症を引きおこしやすくなります。
できるだけ歯みがきを行い、歯みがきができない場合でも、少量の水でできるうがい(ぷくぷくうがい)を行いましょう。また、支援物資には菓子パンやお菓子も多いですが、食べる時間を決めるなどして、頻回な飲食を避けるようにしましょう。
入れ歯の紛失・破損、歯の痛みなどで食べることに困っている方は、避難所の担当者や歯科医師等に相談しましょう。
※ より詳しい情報は、(財)8020財団のホームページで、歯とお口の健康小冊子<http://www.8020zaidan.or.jp/magazine/index.html>、口腔ケア<http://www.8020zaidan.or.jp/care/index.html>が提供されています。
3.こころのケア
今回の地震のように大変重いストレスにさらされると、程度の差はあっても誰でも、不安や心配などの反応が表れます。まずは休息や睡眠をできるだけとるようにしましょう。
これらの不安、心配の多くは時間の経過とともに回復することが知られています。
不安や心配を和らげる呼吸法として、「6秒で大きく吐き、6秒で軽く吸う、朝、夕5分ずつ」行う方法もあります。実践してみましょう。
しかし、
2)眠れない
3)動悸(どうき)、息切れで、苦しいと感じる
などのときは無理をせずに、まずは身近な人や、専門の相談員に相談してみましょう。
また普段からお互いに声を掛け合うなど、コミュニケーションを取るなどしてこころのケアをすることが大切です。
※ こころのケアについては、「こころの健康を守るために 」をあわせてご覧ください。 また、より詳しい情報は、(独)国立精神・神経医療研究センターのホームページ<http://www.ncnp.go.jp/mental_info/index.html>で提供されています。
4.慢性疾患の方々へ
慢性疾患の中には、治療の継続が特に欠かせない病気があります。
人工透析を必要とする慢性腎不全、インスリンを必要とする糖尿病等の方は、治療を継続してください。
※ 透析を受けられる医療機関等の情報は、各都道府県や日本透析医会の災害情報ネットワーク<http://www.saigai-touseki.net/>で提供されています。この情報は適宜更新されます。
※ 主治医等との連絡が困難な場合の、インスリン入手のための相談連絡先は、(社)日本糖尿病学会のホームページ<http://www.jds.or.jp/>で提供されています。
高血圧、喘息、てんかん、統合失調症等の慢性疾患の方も、治療を中断すると、病気が悪化する恐れがあるので、治療を継続してください。
5.妊婦さん、産後まもないお母さんと乳幼児の健康のために
妊婦さん、産後まもないお母さんと乳幼児は、清潔、保温、栄養をはじめとする健康面への留意が必要です。
そのうえ、災害により受けたストレスや特殊な生活環境は、母子に様々な影響をもたらす可能性があります。特に産前産後のお母さんには心の変化、子どもではこれまでと異なる反応や行動があらわれることがあります。一時的な子どもの赤ちゃんがえりや落ち着きがないなどの反応は、このような状況では通常の反応です。大人が落ち着いた時間をもち、話しかけたり、スキンシップをとるなどして子どもを安心させてあげましょう。
また、心身の健康状態をチェックし、次のような症状や不安な事があれば、医師・助産師・保健師等に相談してください。場合によっては精神的(メンタル)ケアが必要なこともあります。
◎注意した方がよい症状
妊婦さん
- お腹の張り・腹痛、膣からの出血、胎動(お腹の赤ちゃんの動き)の減少、浮腫(むくみ)、頭痛、目がチカチカするなどの変化を感じた場合
- 胎児の健康状態、妊婦健診や出産場所の確保に関する不安などがある場合
産後間もないお母さん
- 発熱、悪露(出血)の急な増加、傷(帝王切開、会陰切開)の痛み、乳房の腫れ・痛み、母乳分泌量の減少などがある場合
- 気が滅入る、いらいらする、疲れやすい、不安や悲しさに襲われる、不眠、食欲がないなどの症状がある場合
乳児
- 発熱、下痢、食欲低下、ほ乳力の低下などがある場合
- 夜泣き、寝付きが悪い、音に敏感になる、表情が乏しくなるなどいつもの様子と異なるなどのことが続く場合
幼児
- 赤ちゃん返り、食欲低下、落ち着きのなさ、無気力、爪かみ、夜尿、自傷行為、泣くなどのいつもの様子と異なることが続く場合
授乳時は、短時間であってもプライベートな空間を確保し、話しかけやスキンシップを図ることが大切です。母乳が一時的に出なくなることがあっても、不足分を粉ミルクで補いつつ、おっぱいを吸わせ続けることで再び出てくることが期待できますので授乳を続けましょう。粉ミルクを使用する際の水は衛生的なものを用意し、哺乳瓶の煮沸消毒や薬液消毒ができない時は、使い捨ての紙コップを使って、少しずつ、時間をかけて飲ませましょう。いずれの手段もない場合は、使用した容器を衛生的な水でよく洗って使いましょう。調乳でペットボトルの水を使用する場合は、硬水(ミネラル分が多く含まれる水)は避けるようにしましょう。
こころや体に関しての不安なこと、妊婦健診や乳幼児健診などの母子保健サービスの利用については、保健師等に相談しましょう。
※ より詳しい情報は、妊産婦・乳幼児を守る災害対策マニュアル(東京都福祉保健局少子社会対策部家庭支援課)<http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kodomo/shussan/nyuyoji/saitai_guideline/index.html>や、命を守る知識と技術の情報館(兵庫県立大学)<http://www.coe-cnas.jp/index.html>で提供されています。
更新履歴
3月15日版(PDF:299KB) 初版
3月18日版(PDF:335KB) 「2(5)心身の機能低下予防」、「2(6)歯と口の清掃(口腔(こうくう)ケア)・入れ歯」を追加しました。
3月25日版(PDF:347KB) リンク先の追加などを行いました。
4月1日版(PDF:350KB) 別添1の消毒薬の使い方の修正などを行いました。
4月11日版(PDF:684KB) 破傷風についての情報を別添3に追加することなど、情報を更新しました。
4月15日版(PDF:705KB) 「2(1)感染症の流行を防ぐ」、「5妊婦さん、産後まもないお母さんと乳幼児の健康のために」を更新しました。
4月20日版(PDF:748KB) 「2(3)粉じんから身を守る」を更新しました。
5月26日版(PDF:763KB) 熱中症の予防など、情報を更新しました。
7月25日版(PDF:782KB) 「1(1)暑さへの対策」、「1(5)[2]屋外の環境」、「2(5)心身の機能低下予防」を更新しました。
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