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1.はじめに

(1)公的年金の現状

○ 公的年金の役割と仕組み

 公的年金は、社会保障の重要な柱として、老齢などによる稼得能力の喪失に対して所得保障を行い、社会の安定を維持する役割を担っている。
 公的年金は、世代と世代の助け合いの考え方に基づき制度が設計され、給付に要する費用は、加入者や事業主の支払う保険料等によりまかなわれている。厚生年金の場合、発足当初は積立方式(給付に必要な原資をあらかじめ積み立てていく方式)によっていたが、戦後のインフレや負担能力等を勘案して、段階保険料方式(保険料率を段階的に引き上げていく方式)に切り替えられ、さらに、昭和48年の物価スライド制等の導入により、賦課方式(給付に必要な費用をその時々の加入者からの保険料でまかなう方式)の要素が強まっている。しかし、一方では積立金の運用収入を活用して将来の保険料負担を軽減する仕組みをとっており、積立方式と賦課方式のそれぞれの利点を取り入れた財政運営が行われている。国民年金についても同様の財政の仕組みがとられている。

○ 改正の経緯

 公的年金制度については、これまで社会経済状況の変化に対応した見直しが絶えず行われてきた。特に近年は、21世紀の本格的な高齢社会に向けて制度の長期的な安定を図るための改革が進められてきている。

(昭和60年改正)
 昭和60年改正においては、公的年金制度を長期にわたり安定的に運営するため、全国民共通の基礎年金を創設するとともに、被用者年金を基礎年金に上乗せする2階部分の報酬比例年金として再編成するなど抜本的な改革が行われた。また、加入期間の伸びに伴い給付水準が現役世代の賃金水準に比べて過大なものとならないよう、給付水準の見直しが行われた。

(平成6年改正)
 前回の平成6年改正においては、将来の保険料負担を過重なものとしないよう厚生年金の最終保険料率を月収の30%以内にとどめることを前提に、給付と負担の両面にわたり見直しが行われ、人生80年時代にふさわしい年金制度とするための支給開始年齢の見直しや、現役世代との公平を重視した可処分所得スライド方式の導入などが行われた。

○ 公的年金の現状

 公的年金は、今日、加入者7,000万人、受給者延べ3,200万人、年金総額32兆円に達し、国民の老後生活に欠くことのできない社会保障制度として大きな役割を果たしている。基礎年金の給付水準は、平成9年度現在月額65,458円(40年加入)であり、厚生年金(基礎年金を含む)の給付水準は、平成6年改正による制度成熟時の標準的な年金月額で230,983円(夫婦2人、夫40年加入、妻は専業主婦)、現役世代の平均的な月収の68%(手取り月収の80%)となっている。


(2)公的年金をめぐる環境の変化と年金改革の必要性

○ 社会経済状況の変化

 近時、公的年金をめぐる環境の変化は著しく、特に予想を超える急速な少子高齢化の進行により、年金制度の将来の負担は大きく上昇することが見込まれ、経済の低成長とあいまって、将来の負担可能性について疑問が提起されている。

(注)平成9年1月に公表された新人口推計(中位推計)によると、厚生年金の最終保険料率(段階保険料方式により最終的に到達する保険料率)は月収の34.3%に、国民年金の最終保険料は月額24,300円(平成 6年度価格)に上昇するものと試算されている。

 さらに、年金制度の世代間の負担の不公平が強く指摘されるなど、年金制度に対する不安や不信の声も聞かれ、年金制度の在り方が根本から問われるに至っている。

○ 年金改革の必要性

 このような公的年金をめぐる状況に鑑み、平成11年の次期財政再計算においては、公的年金制度の抜本的な見直しについて検討が必要である。すなわち、公的年金制度については、少子高齢化の進行、経済基調の変化、女性の社会進出、雇用や賃金をめぐる慣行の見直しなど公的年金を取りまく幅広い環境の変化や、医療・介護等の社会保障制度改革の動向等を踏まえ、その意義・役割を明確にするとともに、給付と負担の在り方を抜本的に見直し、長期的に安定した、安心と信頼のもてる制度に再構築していくことが求められている。
 なお、改革に当たっては、年金制度は長期的な制度であり、個々人の人生設計に多大な影響を与えることから、時間をかけて計画的に進めるとともに、すでに年金で老後生活を送っている人々の生活の安定に十分配慮する必要がある。


(3)選択肢の提示

○ 年金制度の改革をめぐっては、現行制度の枠組みを維持した上での改革案から現行制度を基本から見直し新しい体系に組み直す案まで様々な考え方がすでに各方面で提言されている。
 また、第3号被保険者やパート労働者の取扱い、少子化対策、学生の取扱いなど個別のテーマについても種々の指摘や提言がある。
○ 年金制度を長期的に安定して運営していくためには給付と負担の均衡を図ることが不可欠である。したがって、年金改革においては給付と負担をどのような水準で均衡させるかが最も重要な課題となる。
 その検討を進める場合、それぞれの改革案の具体的内容とそれが給付や負担に及ぼす影響を具体的数値で示さなければ年金改革をめぐる議論は進展しないであろう。
○ このような認識に立って、次期年金制度改正の議論の素材として給付と負担の在り方に関する枠組みについて、5つの選択肢を提示することとした。
 あわせて給付と負担の均衡を図るための主な手法と、それが保険料へ及ぼす影響について試算結果を示すこととした。
 このほか、女性の年金の在り方などの個別テーマや企業年金や個人年金の在り方などの諸課題についても引き続き検討を深めていく必要がある。
○ なお、ここでは給付と負担の均衡の水準という観点から選択肢の整理を行ったが、将来世代との負担の均衡をみすえて世代間の公平を図っていくという見地から段階保険料方式やその保険料引上げ計画などの負担の方法についてもあわせて検討が必要である。
○ 公的年金は国民一人一人の老後生活に直結する問題であり、年金制度改正に当たっては、国民の間で広く議論が行われ、国民的合意が形成されることが必要である。
 この選択肢が、次期年金制度改正についての議論の素材となり、改正の方向性についての国民的合意形成に資することを期待したい。


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