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第5章 事業再構築と人員削減


 近年、希望退職の募集や解雇といった直接的な人員削減を行う企業の割合は増えてきているが、人員削減は主に景気状況の影響を受けて行われており、企業の雇用戦略が大きく変化していることが理由であるとは必ずしもいえない。
 希望退職や早期退職優遇制度の実施にあたっては、7割の企業が年齢について適用基準や制限を設けており、その6割以上が45〜54歳以上を下限年齢としている。また、実施時の措置内容では、ほぼすべての企業で退職金の割増を行っている。
 人員削減による企業への影響をみると、従業員の士気の低下や従業員の労働時間の増加、優秀な人材の流出というマイナスの影響をあげる企業が多いが、その一方で、従業員の生産性の向上も多くなっている。また、人員削減による影響と直接的な人員削減の実施の有無には相関がある可能性がある。


(雇用調整の動向)

 過去2年間のうちに希望退職の募集・解雇という直接的な人員削減を実施した企業の割合は、1994年から2000年の6年間で高まっている(第25表)。


(正規雇用から非正規雇用へのシフト)

 個別の企業における一般労働者とパート労働者の雇用の増減についてみると、一般労働者の雇用を減少させる傾向が強く、一般労働者の方がパート労働者よりも雇用の調整弁となっているようにみえる。


(企業の雇用戦略は変化しているのか)

 企業が人員削減を行うにあたっては、各企業の提供する財・サービスの市場における需給状況に強く影響を受け、企業経営方法の変化からは大きな影響は受けていない。
 人員削減を実施した(実施する)理由をみると、7割以上の企業が、現在または将来の重大な経営上の困難に対応することを理由としている(第26図)。また、重大な経営上の困難に対応するための人員削減(「不可避型リストラ」)では、直接的な人員削減が多い一方で、それ以外の人員削減(「収益調整型リストラ」、「戦略型リストラ」)では、直接的な人員削減の割合がかなり低い。
 以上から、直接的な人員削減を行う企業が増えているのは、主として不況の長期化やそれに伴う雇用過剰感の高まりによるものである可能性が高く、現段階では、企業の雇用戦略が大きく変わっていることが大きな要因になっているとは必ずしもいえない。


(希望退職等の内容)

 希望退職や早期退職優遇制度(以下「希望退職等」という。)の実施にあたっては、7割の企業が年齢について適用基準や制限を設けており、年齢の基準や制限の内訳をみると、45〜54歳以上を下限年齢としている企業の割合が6割近くにのぼっている(第27図)。また、希望退職等に伴う措置内容では、ほとんどの企業で退職金の割増を行っている。
 希望退職への応募状況では、ほぼ予定どおり、予定以上とする企業が4分の3にのぼっており、希望退職等を実施した企業ではおおむね期待した効果を得られていることがわかる。


(人員削減の影響)

 人員削減に伴う(または予想される)影響をみると、従業員の士気の低下、従業員の労働時間の増加、優秀な人材の流出など全体としてマイナスの影響をあげる企業が多い。その一方で、従業員の生産性の向上も35%にのぼり、生産性に限ればプラスの影響が強い(第28図)。
 従業員の士気と従業員の生産性の関係についてみると、従業員の士気の低下を招くような人員削減は、従業員の生産性に対してマイナスの影響を与える傾向があり、逆に従業員の士気の向上を伴う人員削減は、従業員の生産性に対してもプラスの影響を与えている。なお、従業員の士気の低下と従業員の生産性の向上の両方の影響があるという企業もあり、従業員の士気の低下が必ずしも生産性にマイナスの影響を与えるとは限らない。
 人員削減を行う理由別に人員削減の影響をみてみると、総じて人員削減によるマイナスの影響は不可避型リストラで強く、プラスの影響は収益調整型リストラや戦略型リストラで多い。これには、直接的な人員削減が、不可避型リストラで多く、収益調整型リストラや戦略型リストラで少ないことが強く影響していると考えられる。つまり、人員削減による影響と直接的な人員削減の実施の有無には相関がある可能性を示唆していると考えられる。



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