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第3章 個人の自立を支援する厚生労働行政

第1節 生涯にわたり国民の生活を守る厚生労働行政

○ 本年1月より中央省庁の再編により「厚生労働省」が発足した。厚生労働省の担う行政は、全ての国民が誕生から就労・退職後までの一生涯にわたり、家庭、職場などあらゆる場所において、国民生活の安定と向上を図ることを任務とするなど、時間的にも空間的にも広範囲なものとなっている。


第2節 自立を支援する社会保障制度の整備

○ 個人自らの責任や努力では対応できない老齢、疾病、傷害、失業などの困難な事態に備えて社会全体で支え合うことにより、個人の自立した生活を下支えする社会のセーフティネットとしての社会保障の役割は重要である。さらに、医療や福祉分野が雇用創出等の機能を果たすとともに、国民の消費活動を下支えすることにより経済の安定に寄与するという機能をも有している。経済成長が社会保障を支え、社会保障が経済成長に寄与するという相互依存の関係にあることからも、社会保障の果たす役割は重要なものと言える。

○ 我が国の社会構造が大きく変化する中で、個人がさまざまなリスクを乗り越えて人生にチャレンジすることができるようにするためには、社会保障がセーフティネットの機能を十分に発揮することが必要である。社会保障制度全体を通じた視点から、そのあるべき姿を検討し、経済・財政との均衡がとれた制度の構築に向けて、不断の見直しが求められている。

図3-2-1 社会保障給付費の推移の図


第3節 心身の自立の支援

1 生涯を通じた健康の確保に向けて

○ 国民の健康を脅やかす要素を取り除いていくことが健康寿命を伸ばしていくために必要であり、生活習慣病対策やうつ病などの心の問題への対策が重要である。厚生労働省としては、国民の生涯を通じて疾病等の発病を予防する1次予防、疾病等を早期に発見し、早期に対応する2次予防を中心とした対策を継続的に行っていくこととしている。

○ 個人の健康づくりを支援していくためには、年齢や職業等にかかわらず、個人の健康状況を保健事業の実施主体が把握し、適切な保健指導等を行っていくことが重要である。このため、各々の保健事業の実施主体において、個人の健診情報についての相互の伝達が行われるとともに、職域・地域間といった異なる実施主体の間においても、相互に健診情報の伝達を行っていくことが重要である。さらに、各個人が自らの健診情報を把握し、活用できるような体制整備が望まれる。

○ 個々の患者に応じた最新の医学知識に基づく最適な医療を提供していくことも必要であり、近年、「根拠に基づく医療(EBM)」の考え方が注目されている。学会による診療ガイドラインの作成も始まっており、厚生労働省としては、これへの支援のほか、最新の医学情報、医学文献などのデータベース化といった体制の整備について検討を進めているところである。

○ 心の問題には複数の要因が多元的に関与しており、その発生を防ぐためには、家庭や地域、学校、職場のあり方を社会全体として見直していく必要がある。一方、心の問題が現に生じた場合には早期に発見し、適切に支援することが重要である。


2 高齢期における要介護状態の予防

○ 高齢期においては、要介護状態を予防し、いったん要介護状態になった場合においても要介護者の生活の質を向上させるための対策が重要である。

○ 要介護状態の原因となる疾患自体を克服するための研究を推進するとともに、寝たきり予防のための超早期リハビリテーションといった効果的なリハビリテーションの開発に向けて、その医学的知見を集積するための研究を推進し、これらの研究から得られた結果を評価し、医療現場に反映していく。

○ 国民が将来要介護状態になったときの不安を払拭するために、今後とも介護保険制度の普及と定着を図り、介護サービスの質を向上させるため、身体拘束ゼロ作戦を推進するなど、より制度を充実していく。


3 障害者の自立支援

○ 障害のある人の自立と社会経済活動への参加の促進を図ること、すなわち、障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともに生き生きと活動できる社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念の実現が大きな課題である。

○ このため、障害のある人をとりまく社会環境において存在するさまざまな障壁を除去するための取組みを推進していくとともに、障害のある人の生活の質の向上のため、障害のある人がコミュニケーションを積極的に図り、文化、スポーツ活動等を通じて自己実現を図ることができるような施策を推進していく。


4 心身の自立を支える基盤となる制度

○ 国民が心身ともに健康で自立した生活を送るための基盤として、良質な医療・介護サービスを提供していくことが必要であり、これを支えるための医療制度及び介護保険制度を今後とも充実させていく必要がある。


5 ハンセン病対策の反省

○ 我が国においてかつて採られたハンセン病患者の方々に対する施設入所政策が、ハンセン病患者の方々の人権に対する大きな制限、制約となり、極めて厳しい偏見、差別を生じさせる原因となったことを深く反省し、率直にお詫びするとともに、多くの苦しみと無念の中で亡くなった方々に哀悼の念を捧げたい。今後は、先に法律に定められた新たな補償措置をはじめ、患者、元患者の方々の名誉回復や福祉の増進に向け全力を尽くす決意である。


第4節 経済的自立の支援

1 労働者の職業の安定

○ 就労は、個人の生活にとって経済上の基盤となるものである。最近の厳しい雇用失業情勢の下では新規雇用創出が重要であり、今後、社会経済の変化に的確に対応していくためには同様に労働力供給面、労働力需給調整面に関する施策も時代に適合したものとし、需要面、供給面、需給調整面の三方向からの政策のベストミックスが必要となる。

○ 新規雇用をいかに創出していくかは、その時々の経済情勢、産業政策の動向等と密接に関連している。今後とも経済情勢等を的確に反映しつつ、雇用機会の創出のための事業を適切に行っていく必要がある。

○ 今後産業構造の変化が加速していくと、新規成長産業に対する労働力移動も必要となってくるため、労働移動が増加することが見込まれる。非自発的失業に対し、労働移動が円滑に行われるようにするための施策は、雇用や生活の安定を図る上で重要である。その一方、キャリア形成に向けて自発的に離職する者にとっても、労働移動が円滑に行われるような施策は、自己の職業生涯を充実させるためのキャリア形成に安心して取り組んでいけるようにするためにも重要である。

○ 厳しい雇用情勢の中、職業生活の全期間を通じた職業の安定を確保するためには、個々の労働者が自分の職業生活について責任を持って設計し、自分の職業生涯に合わせて自己の能力を高めていくことが必要である。労働者が企業の中でキャリア形成しながら活躍する、あるいは新規成長分野への労働移動にも対応しうる職業能力を得るためには、企業内の職業能力開発に加え、労働者の自発性に基づく職業能力開発の推進が重要となっている。

○ 労働者の中でも、特に女性が経済的に安定し、性別により差別されることなくその能力を十分に発揮して充実した職業生活を送るためには、女性の雇用機会が適切に確保され、男女雇用機会均等が図られることが重要となっている。


2 高齢者の経済的自立

○ 公的年金は、高齢者の所得の大きな源泉の一つとなっており、高齢者の自立を支えるため重要な意義を持つ。公的年金制度は将来の長い老後においてそのときの生活水準に見合った給付を約束できる唯一の合理的な仕組みであり、経済社会との調和を図りながら、少子高齢社会にふさわしい、持続的に安定したものとしていくことが求められている。そのためには、給付と負担のバランスをとることが重要であり、支え手を増やす観点から、年齢や性別等にかかわらず、働く意欲のある者が働くことができるようにしていけるよう、年金制度としても改革を進めていく必要がある。

○ 企業年金は公的年金を補完するものとして、個人の老後の生活費用の一部を形成するものであり、確定給付企業年金法及び確定拠出年金法の制度の趣旨を広く周知していく必要がある。

○ 高齢者の所得の原資として、公的年金に次いで大きな割合を占めているのが稼得所得であり、高齢者が経済的に自立するために、働く意欲のある高齢者が就労できるようにしていく重要性は大きい。高齢者の就労は大きな意義を持つものであり、意欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働ける社会を実現していく必要がある。団塊の世代が高齢期にさしかかるのは目前であり、年齢にかかわりなく働ける社会をいかに実現していくかについては、早急に国民的議論を重ねていく必要があるといえる。年齢にかかわりなく働ける社会を実現する第一歩として、高齢者が何らかの形で、少なくとも65歳まで働き続けることができるようにしていく必要がある。高齢化の進展の中で、高齢者雇用に係る施策の充実を図っていくことにより、年金への「橋渡し」がなされていくことが望まれる。


3 障害者の自立支援

○ 働く意欲の能力を有するすべての障害者が、その適性と能力に応じ、障害のない人々とともに自然に働けるような社会の実現を図ることが、障害者の経済的安定や自己実現のために重要となっている。


4 その他社会的な支援を必要としている人々の自立支援

○ 福祉施策と雇用施策が連携し、母子家庭の子育て、就労等のニーズに対応できる総合的なサービスの提供体制を構築するとともに、できる限り自立を促進する仕組みを取り込むことによって、母子家庭等が安心して仕事と子育てを両立できる社会とすることが必要である。

○ 生活保護受給者については、被保護者の状況に応じて就労による自立を促していくことが必要である。

○ ホームレスに対しては、生活保護制度の適切な運用といった福祉等の援護により、日常生活や社会生活を可能とすることが不可欠であるが、働く意欲と能力のある者については、就労による経済的自立を支援していくことが重要となる。


第5節 家族・職場・地域社会等を通じた自立の支援

1 活動の「場」の選択を適切に行う機会の確保

(1) 複数の「場」との緩やかなつながりのために

○ 個人がその希望と意欲に応じてさまざまな「場」と緩やかなつながりを適切に確保できるようにするためには、まずそれぞれの「場」に費やす時間の配分を個人が自由に選択できるようにする必要がある。特に労働者については、総実労働時間を短縮する必要がある。また、個人が「職場」と一層充実してかかわれるようになるためには、自律的で自由度の高い働き方が広まることも重要であり、フレックスタイム制や裁量労働制の適正な運用が望まれている。

○ 家族のみならず社会全体で次代を担う子どもを育てていくという観点から、認可保育所やファミリー・サポート・センター等の保育サービスをはじめ地域における子育て支援の一層の充実が必要となっており、認可保育所について待機児童の解消、延長保育や一時保育などの多様な保育サービスの充実などに取り組むとともに、ファミリー・サポート・センターの充実を図っている。

○ 職業生活と家庭生活との両立を考える際、特に負担が大きい育児や介護を仕事とどう両立するかが問題となっており、育児・介護休業法に基づく制度の充実を図っている。


(2) それぞれの「場」との適切なつながりのために

○ 就業形態は多様化してきているが、こうした動きは、個人の多様な価値観に応じて、職場との「つながり」を自由に選択することを可能とする。このため、パートタイム労働、派遣労働といった非正社員の就業環境を整備するとともに、情報化の進展により近年増加しているテレワークの環境整備を行う必要がある。

○ 若年者が職場を通じて自立を図るためには、個人の適正にあった職場を選択し、将来にわたる職業生活を適切に設計していけるよう、在学中の早い段階から職業意識の形成を促す等の支援を行っていくことが重要となる。さらに、今後とも大卒者に対しても適切な職業相談や職業紹介などを行い、就職支援を積極的に行っていくことが重要である。

○ 個人の多様な生き方を尊重するという観点から、個人の選択に中立的な制度とすることが求められる。今後、社会保障制度の見直しに際しては、社会のセーフティネットとしての役割を果たしうるものであることを前提としつつ、就労等個人のライフスタイルの選択により中立的な制度となるよう、十分に検討することが求められる。


2 活動の「場」を創出するための基盤整備

○ ボランティア活動については、特に参加が難しくなっている勤労世代を中心に、(1)ボランティア活動と勤務時間の調整が図られるような職場環境の整備、(2)勤労者に対するボランティアに関する情報提供の充実等に取り組む必要がある。また、NPOについては、今後NPO活動が広がっていくために、人材や資金面など活動基盤の整備が求められる。

○ 高齢者と若い世代との間に、交流の場を設けていくことの重要性が高まっており、福祉行政と教育行政等の連携確保など世代間交流を促進するための基盤整備に努めていくことが大切である。また、高齢者の有する高度な技能が若年者に伝承されていくよう、高度熟練技能者による実技指導等の場を確保する体制づくり等を進めていくことが重要である。

○ ITの急速な進展を背景に、情報通信の利用が広がる一方で、情報格差も拡大しており、情報活用能力に乏しい高齢者・障害者に対し情報通信の利用機会を拡大するとともに、情報活用能力を高めるための人的支援等必要な援助を行うことが課題となっている。



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