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5.出生前後の就業変化に関する考察
 ここまで、出生前後の母の就業状況や出生をとりまく環境について、就業変化パターンに着目した分析を行ってきたが、各パターンの主な特徴をまとめるとともに、就業や育児をめぐる環境について考察する。


 まず、出生1年半後に就業している3パターンについてみると、
  「I就業継続型」:  母の年齢、学歴、収入が高めで、常勤者の割合が出生前後を通じて多く、常勤者の育児休業取得率も高い。また、平日日中の保育を保育士等に任せている割合が最も多い。
  「II一時離職型」:  母の年齢が若干低めで、出生1年前のパート等の割合が多い上、出生前後で常勤からパート等へ変わる割合が多い。
  「VI就業開始型」:  母の平均年齢が低く、パート等の割合が多い。
という特徴がある。
 このうち、「II一時離職型」と「VI就業開始型」については、父の収入が低め、経済的負担感(子育てで出費がかさむ)が大きめ、母子世帯の割合が他に比べて多い、といった共通した特徴がみられ、就業を再開・開始する動機とつながっている可能性が大きい。両者とも、就業をしていく中で祖父母が別居から同居になる割合が他に比べて多く、祖父母の支援体制が強化されていることが伺われる。

 また、3パターンに共通する特徴としては、
 (1) 13大都市より郡部において、核家族世帯より三世代世帯等において構成割合が多い。(図3-4)
 (2) 祖父母との同居割合や行き来が多い。(図3-9
 (3) 1年半後における平日日中の育児の主な担い手は保育士等である。(図3-8
 (4) 父が育児・家事に参加している度合いが比較的大きい。(表3-9表3-10
 (5) 負担感では「仕事が十分にできない」、「子どもが病気がちである」が他のパターンに比べて多い。(表3-14
といったことがあげられる。13大都市より郡部における割合が多い要因としては、保育所の待機児童が都市部に比べ少ないことから保育所に入りやすいことに加え、祖母等に育児を頼めるケースが多く、結果として働ける状況にあることが考えられる。

 このように、出生後に就業するかどうかは、母本人の就業継続意識や経済上の要請といった各個人の事情におうところも大きいが、実際に育児と仕事を両立させ就業できている背景として、(主として平日日中の)保育の協力者の確保、父の育児・家事への積極的参加や祖父母の支援といった周囲の協力支援体制等が欠かせないことがわかる。また、就業を中断せず継続していく上で、産前・産後休暇や育児休業をとりやすい職場環境の整備も重要な要素である。少子化がすすむ中、就業継続意識の強い女性が「子どもか仕事か」といった選択をせまられるのではなく、「子どもも仕事も」という意識で安心して出産できるよう、保育所の充実や、父の育児・家事への参加意識の向上等の環境整備をさらにすすめていく必要があるものと考える。


 次に、1年半後に就業していない3パターンについてみると、
  「III出産前離職型」  出生1年前の常勤とパート等が各々半数程度で、結婚期間が短めである。第1子では約4割と最も多くを占めるが、第2子では少なくなっている。
  「IV出産後離職型」  出生1年前の常勤割合や常勤者の育児休業取得率が「I就業継続型」並に高いが、全体に占める割合は少なく少数派である。
  「V無職継続型」  第2子以上で約5割と多数を占める。母の年齢や父の収入が高めで、結婚期間が長く、身体的な負担感(子育てによる身体の疲れが大きい)が全パターンの中で最も多い。
という特徴がある。
 これら3パターンに共通して、核家族世帯の割合が多く、保育者は母が中心で、「目が離せないので気が休まらない」という負担感が若干多いという傾向がみられる。

 今後、少子化対策をすすめていく上で、就業せずに育児に専念している母への支援という視点も重要になってくると考えられるが、少しでも育児の負担感を軽減するために、保育所での一時保育を拡充する等により、母が育児から解放される時間を持てるような環境を作っていくことも有効な施策の一つであろう。



 最後になるが、今回の分析で、出生1年前から1年半後にかけての母の就業状況の変化が定量的に把握できたとともに、そうした変化をもたらす背景について、かなり明らかになったものと考える。
 出生1年半後以降については、子育てが一段落した後の再就職が時間の経過とともに増えてくる等、出生前後の劇的な変化から比較的緩やかな変化へと移行していくことが想定されるが、こうした中長期的スパンでの動向については、現段階で収集できるデータの制約上、本報告では分析していない。引き続き実施される21世紀出生児縦断調査の結果等を待って、さらに分析をすすめる必要があると考える。


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