１０月月例労働経済報告
１概況
（１）一般経済の概況
景気は、持ち直してきているが、自律性に乏しく、失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある。
・輸出は、アジア向けを中心に、増加している。生産は、持ち直している。
・企業収益は、大幅な減少が続いているが、そのテンポは緩やかになっている。設備投資は、減少している。
・企業の業況判断は、依然として厳しい状況にあるものの、全体として持ち直しの動きが続いている。ただし、中小企業ではそのテンポは遅い。
・雇用情勢は、悪化傾向が続いており、極めて厳しい状況にある。
・個人消費は、持ち直しの動きが続いている。
先行きについては、当面、雇用情勢が悪化傾向で推移するものの、海外経済の改善などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される。一方、雇用情勢の一層の悪化や海外景気の下振れ懸念、金融資本市場の変動の影響など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。
（２）労働経済の概況
労働経済面をみると、雇用情勢は、悪化傾向が続いており、極めて厳しい状況にある（第１図）。
・完全失業率は、平成21年８月は前月差0.2ポイント低下し5.5％となり、高水準で推移している。
・15〜24歳層の完全失業率は、上昇している。
・新規求人数は、減少傾向で推移している。
・有効求人倍率は、横ばいとなっているものの、依然として過去最低にある。
・雇用者数はこのところ持ち直しの動きがみられる。
・製造業の残業時間は、生産が持ち直していることを反映し、増加している。
・定期給与は持ち直しの動きがみられる。ボーナスを含む特別給与の大幅な減少に伴い、現金給与総額は大幅に減少している。
２一般経済
（１）鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産は、持ち直している。
2009年８月の鉱工業生産（季節調整済前月比、速報、以下同じ）は、1.8％増と6か月連続で上昇した（第２図）。
業種別にみると、2009年８月は鉄鋼業、輸送機械工業、電子部品・デバイス工業等が上昇し、精密機械工業、金属製品工業が低下した。
出荷は前月比1.0％増と上昇した。在庫は前月比0.0％と横ばいとなった。
今後の動向については、製造工業生産予測調査によると、製造工業生産は９月1.1％増の後、10月は2.2％増となっている。
先行きについては、輸出の増加傾向などから、当面、持ち直しが続くことが期待される。
（２）最終需要の動向をみると、
[1]個人消費は、持ち直しの動きが続いている。
二人以上の世帯の実質消費支出（季節調整済前月比、速報、以下同じ）は、 ７月1.3％減の後、８月1.9％ 増となった。うち勤労者世帯では、７月横ばいから、８月0.4％減となった。勤労者世帯の平均消費性向（季節調整値）は７月74.9％の後、８月73.5％となった（第３図）。
消費者態度指数の推移をみると、2009年７〜９月期（季節調整済前期差）は2.6ポイント上昇し、40.2となった。なお、９月（原数値前年同月差）は9.1ポイント上昇し、40.5となった。
８月の小売業販売額（季節調整済前月比、速報、以下同じ）は、1.0％増、大型小売店販売額は2.6％増となった。また、乗用車（軽を含む）の新車登録台数（原数値前年同月比）は、８月3.2％増の後、９月4.2％増となった。
先行きについては、消費者マインドが持ち直している中で、経済対策の効果が引き続き見込まれるものの、雇用・所得環境が厳しいことや新型インフルエンザの流行による影響を注視する必要がある。
[2]設備投資は、減少している。
財務省「法人企業統計季報」によると、全産業の設備投資は、2009年１〜３月期季節調整済前期比7.4％減の後、2009年４〜６月期同4.5％減(うち製造業同13.4％減、非製造業同1.4％増）となっており、全産業、製造業で減少、非製造業で増加している。
今後の動向については、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」（9月調査）をみると、全規模の2009年度の設備投資計画（前年度比）は、全産業で17.3％減、製造業は28.8％減、非製造業は11.0％減となっている（第４表）。また、機械受注（船舶・電力を除く民需）は、季節調整済前月比で2009年７月は9.3％減の後、８月は0.5％増となっている。国土交通省「建築着工統計」による非居住用建築物（民間）の工事予定額をみると、2009年７月は季節調整済前月比10.6％増の後、８月は同20.5％減となっている。
先行きについては、企業収益が大幅に減少し、世界景気の下振れ懸念など先行き不透明感が高いなかで、企業の設備投資計画においても大幅な減少が見込まれており、引き続き減少することが懸念される。
[3]住宅建設は、緩やかに減少している。
新設住宅着工戸数をみると、2009年７月は季節調整済前月比0.5％減、８月は同9.3％減の5.6万戸（年率67.6万戸）と５か月連続で減少した（第５図）。
新設住宅着工床面積は、2009年７月は季節調整済前月比0.7％増の後、８月は同6.8％減となった。
先行きについては、経済対策の効果が期待されるものの、雇用・所得環境が厳しいことなどから、当面、弱い動きが続くと見込まれる。
[4]公共投資は、堅調に推移している。
公共機関からの建設工事受注額は、前年同月比で、2009年７月は3.9％減の後、８月は0.2％増となった。また、公共工事請負金額（「公共工事前払金保証統計」）をみると、2009年７月は前年同月比2.5％増の後、８月は8.7％増となっている。
先行きについては、予算や事業の見直しに伴う影響等を見極める必要がある。
[5]輸出は、アジア向けを中心に、増加している 。
通関輸出（数量ベース、季節調整済前期比）は、月別で2009年７月は0.5％増の後 、 ８月は6.1％増となっており、四半期別では、2009年１〜 ３月期26.6％減の後、2009年４〜６月期10.8％増となった（第６図）。
地域別には、アジア向けの輸出は、大幅に増加している。アメリカ向け、ＥＵ向けの輸出は、ともに持ち直しの動きがみられる。先行きについては、世界的な在庫調整の進展やアジアを中心として景気持ち直しの動きが広がっていることなどから、当面、増加傾向が続くとみられる。
輸入は、持ち直している。
通関輸入（数量ベース、季節調整済前期比）は、月別で2009年 ７月は6.8％ 増の後、 ８月は0.4％減となっており、四半期別では、2009年１〜３月期13.4％減の後、2009年４〜６月期1.5％減となった（第６図）。
地域別には、アジアからの輸入は、増加している。アメリカ、ＥＵからの輸入は、ともに下げ止まりつつある。
（３）国内企業物価は、横ばいとなっている。消費者物価は、緩やかに下落している。
９月の国内企業物価（速報）は、前月比0.1％上昇（前年同月比7.9％下落）となり、輸出物価は同2.2％下落（同1 3.6％下落）、輸入物価は同1.8％下落（同31.2％下落）となった。
８月の消費者物価は、総合が前年同月比2.2％下落（前月比0.3 ％上昇）となり、生鮮食品を除く総合は同2 .4%下落（同横ばい）となった（第７図）。
先行きについては、消費者物価（コアコア）は、当面、緩やかな下落傾向で推移すると見込まれる。
（４）企業収益は、大幅な減少が続いているが、そのテンポは緩やかになっている。また、企業の業況判断は、依然として厳しい状態にあるものの、全体として持ち直しの動きが続いている。ただし、中小企業ではそのテンポは遅い。倒産件数は、おおむね横ばいとなっている。
財務省「法人企業統計季報」によると、全産業の経常利益は、四半期別前年同期比で、2009年１〜３月期69.0％減の後、2009年４〜６月期53.0％減（製造業89.2％、非製造業26.4％減）、季節調整値で2009年１〜３月期26.2％減の後、2009年４〜６月期13.8％増（製造業については、前期の季節調整値が負数のため算出できない。非製造業7.9％増）となった。
また、日本銀行「全国企業短観経済観測調査」（9月調査）によれば、企業の全規模の2009年度の経常利益計画（前年度比）は、2009年度通期では全産業19.3％の減益、 製造業39.1％の減益、非製造業9.8％の減益となっている。なお、2009年度上期では、全産業63.5％の減益、製造業93.6％の減益、非製造業36.9％の減益の後、下期では全産業2.1倍の増益、製造業は利益、非製造業28.4％の増益が見込まれている（第８表）。
企業の業況判断D.I.（「良い」−「悪い」）について日本銀行「全国企業短期経済観測調査」（９月調査）をみると、規模計で、全産業 ▲38ポイント（７ポイント改善）、製造業 ▲43ポイント（12ポイント改善）、非製造業▲33ポイント（６ポイント改善）となっており、全産業、製造業、非製造業で改善となっている（負の数には▲を付した。）（第９表）。
倒産件数（東京商工リサーチ調べ）は、2009年９月1,155件で、前年同月比17.9％減となった。
（５）2009年4〜6月期の実質国内総生産（ＧＤＰ）成長率は、季節調整済前期比0.6％増（年率2.3％増）となった。内外需別にみると、国内需要の寄与度は1.1％減、財貨・サービスの純輸出の寄与度は1.6％増となった。また、名目ＧＤＰの成長率は季節調整済前期比0.5％減となった（第10図）。
３雇用・失業
（１）[1]８月の就業者数（季節調整値）は、７ヶ月ぶりに前月差で増加した。
就業者数（季節調整値）は、７月に前月差２万人減となった後、８月は同29万人増と増加し、6,260万人（原数値は6,296万人、前年同月差109万人減 ）となった。男女別には、男性が3,617万人（前月差７万人増）、女性が2,642万人（同22万人増）となった（第11表）。
８月の雇用者数（季節調整値）は、２ヶ月連続で前月差で増加した。
雇用者数（季節調整値）は、７月に前月差24万人増となった後、８月は同22万人増と増加し、5,459万人（原数値は5,465万人、前年同月差74万人減）となった（第13図）。男女別には、男性が3,136万人（前月差４万人増）、女性が2,323万人（同19万人増）となった。雇用形態別（原数値）にみると、常雇が4,723万人（前年同月差39万人減）、臨時雇・日雇が742万人（同35万人減）となった。
８月の常用雇用指数（事業所規模５人以上、季節調整済値、速報）は、前月と同水準となった。また、一般とパートの別にみると、一般労働者は前月と同水準、パートタイム労働者は同0.4％減となった。
[2]８月の完全失業率（季節調整値）は、７ヶ月ぶりに前月差で低下した。
完全失業率（季節調整値）は、７月に前月差0.3ポイント上昇の 5.7％となった後、８月は前月差0.2ポイント低下の 5.5％（原数値は5.4％、前年同月差1.3ポイント上昇）となった。男女別には、男性が5.8％（前月差0.3ポイント低下）、女性が5.0％（同0.2ポイント低下）となった。
８月の完全失業者数（季節調整値）は、７ヶ月ぶりに前月差で減少した。
完全失業者数（季節調整値）は、７月に前月差20万人 増となった後、８月は同14万人減の362万人（原数値は361万人、前年同月差89万人増）となった。男女別には、男性が224万人（前月差10万人減）、女性が138万人（同４万人減）となった。
なお、求職理由別（原数値）にみると、 ８月は非自発的理由による離職失業者は164万人（前年同月差74万人増）、自発的理由による離職失業者は111万人（同４万人増）、学卒未就職者は12万人（同１万人減）、その他の理由による失業者は71万人（同11万人増）となった（第11表）。
[3]８月の労働力人口（季節調整値）は、２ヶ月連続で前月差で増加した。
労働力人口（季節調整値）は、 ７月に前月差15万人増となった後、８月は同21万人 増の6,621万人（原数値は6,657万人、前年同月差20万人減）となった。
８月の非労働力人口（季節調整値）は、２ヶ月連続で前月差で減少した。
非労働力人口（季節調整値）は、７月に前月差10万人減となった後、８月は同22万人減の4,429万人（原数値は4,390万人、前年同月差24万人増）となった。男女別には、男性が1,501万人（前月差1万人増）、女性が2,928万人（同23万人減）となった。
労働力人口比率（原数値）は、 ８月は60.2％（前年同月差0.2ポイント低下）となった。男女別には、男性が72.1％（同1.0ポイント低下）、女性が49.1％（同0.5ポイント上昇）となった（第11表）。
就業率（15歳以上人口に占める就業者の割合、原数値）は、８月は57.0％（前年同月差1.0ポイント 低下）となった。
（２）月間有効求人数（季節調整値）は、前月比0.2％増と15ヶ月ぶりに増加した。
月間有効求職者数（季節調整値）は、前月比1.3％増と16ヶ月連続で増加した。
８月の有効求人倍率(季節調整値)は、0.42倍と前月 と同水準であった。
新規求人数（季節調整値）は、前月比1.1％減であった。
新規求職者数（季節調整値）は、前月比0.6％増と ２ヶ月ぶりに増加した。
８月の新規求人倍率（季節調整値）は、0.76倍と前月より0.01ポイント低下した（第12表）。
正社員の有効求人倍率は、0.25倍（前年同月差0.28ポイント低下）となった。
新規求人（季節調整値）を一般（除パート）とパートの別でみると、８月は一般は前月比 0.4％減と３ヶ月ぶりに減少し、パートについては同2.2％減と３ヶ月ぶりに減少した。新規求職者数（季節調整値）は、一般は前月比0.4％減と２ヶ月連続で減少し、パートについては同4.0％増と２ヶ月ぶりに増加した。
（３）産業別にみると、８月の就業者数（原数値）は、医療，福祉は前年同月差40万人増、宿泊業，飲食サービス業は同17万人増、学術研究,専門・技術サービス業は同４万人増、情報通信業は同２万人増、生活関連サービス業，娯楽業は同１万人増と増加したのに対し、製造業は同112万人減、卸売業，小売業は同15万人減、その他サービス業は同12万人減、建設業は同10万人減、運輸業,郵便業は同６万人減、教育,学習支援業は同１万人減と減少した。
また、 ８月の新規求人（原数値）は、製造業は前年同月比41.3％減、情報通信業は同39.7％減、宿泊業,飲食サービス業は同29.7％減、卸売業,小売業は同28.9％減、その他サービス業は同27.2％減、学術研究,専門・技術サービス業は同25.9％減、生活関連サービス業，娯楽業は同22.9％減、建設業は同22.1％減、運輸業,郵便業は同18.5％減、教育,学習支援業は同10.2％減、医療,福祉は同8.9％減とすべての主要産業で減少した。
（４）雇用に先行して動くと考えられる指標についてみると、所定外労働時間（事業所規模５人以上、季節調整済指数、確報）は、製造業では ７月に前月比 9.0％増となった後、８月は同7.0％増、調査産業計では ７月に前月比2.1％増となった後、８月は同1.3％増となった。
日本銀行「全国企業短期経済観測調査」（９月調査）によると、雇用人員判断D.I.（「過剰」-「不足」）は、全産業では20％ポイント（６月調査より３％ポイント低下）となり、４四半期連続で過剰超過となった（第14図）。
厚生労働省「労働経済動向調査」によると、2009年４〜 ６月期に雇用調整を実施した事業所割合は49％となり2009年１〜３月期から２％ポイント上昇した（第15図）。また、2009年７〜９月期に実施予定の事業所割合は43％、2009年10〜12月期に実施予定の事業所割合は37％となっている。
４賃金・労働時間
（１）８月の現金給与総額（事業所規模５人以上、産業計、確報、以下同じ）は274,324円で、前年同月比2.7％減となった。就業形態別にみると、一般労働者は前年同月比2.1％減、パートタイム労働者は同1.4％減となった。
内訳をみると、所定内給与は前年同月比1.2％減（一般労働者同0.6％減、パートタイム労働者同1.1％減）となったほか、所定外給与は同13.2％減、特別給与は同13.8％減となった（第16図）。
また、きまって支給する給与は前年同月比2.0％減（一般労働者同1.5％減、パートタイム労働者同1.3％減）となった。
（２）８月の総実労働時間（事業所規模５人以上、産業計、確報、以下同じ）は141.6時間で、前年同月比1.5％減となった。就業形態別にみると、一般労働者は前年同月比1.0％減、パートタイム労働者は同2.1％減となった。
内訳をみると、所定内労働時間は132.7時間で前年同月比0.5％減（一般労働者同0.1％増、パートタイム労働者同1.8％減）、所定外労働時間は8.9時間で同14.2％減（一般労働者同14.4％減、パートタイム労働者同13.2％減）となった。なお、月間出勤日数は18.6日で前年同月差0.1日減となった。
８月の製造業の所定外労働時間は10.7時間で、前年同月比27.9％減となった。規模別にみると、500人以上規模で前年同月比31.7％減、100〜499人規模で同26.6％減、30〜99人規模で同28.2％減、５〜29人規模で同31.1％減となった（第17図）。
エクセルでダウンロードできます。(参考表 (Excel：177KB))
エクセルでダウンロードできます。（図表 (Excel：6,154KB)）
問合わせ先政策統括官付 労働政策担当参事官室 分析第二係 電話 03(5253)1111 内線7732 |
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