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第8章 禁煙とたばこ依存症治療のための政策提言

第8章
  禁煙とたばこ依存症治療のための政策提言

 効果的な禁煙やたばこ依存症治療の科学的証拠を見直してみると、行動療法および薬物療法がたばこ依存症治療に大きな効果があることは明白である。費用対効果の高い治療法は、数多くの権威ある機関からも見直されており、その結果、すべての医療スタッフや医師が患者に対して継続的に禁煙介入を行うべきだということが提唱されている。効果が実証されている薬物療法には、様々な剤形のニコチン置換療法(ガム、トローチ、パッチ、点鼻スプレー、口内吸入器)やブプロピオンなどがあり、様々な選択肢がある。一般に、科学的根拠に基づく治療法を用いると、禁煙を長期継続できる確率がほぼ2倍になる。行動療法にも大きな効果があり、薬物療法の成功を大幅に高めることができる。様々な行動療法や薬物療法の効果が証明されているが、これらの療法は、対象となる個人や集団によって、その効能、受容性、費用対効果、費用が大きく異なるため、どれかひとつの方法だけを取り上げ、他を除外するという方法は勧められない。

 社会的環境の中にも、医療制度の中にも、喫煙者に禁煙する意思を起こさせる様々な機会がある。個々の喫煙者を支援し、その喫煙行動を変えさせることは重要な目標だが、喫煙を促進し、継続させている環境要因に取り組まないかぎり、大きな影響力は望めない。よって、個人に対する行動療法や薬物療法は、集団に対する介入と一対にして考えるべきである。

 マスコミのキャンペーン、懸賞つき禁煙キャンペーン、電話相談など、一般集団レベルにおける公衆衛生的アプローチも、社会的規範に変化をもたらし、禁煙を促進するのに重要な役割を果たすことが期待できる。マスコミのキャンペーンは、喫煙の健康に対する影響と禁煙のメリットについての知識を深めるだけでなく、禁煙に対する態度を改め、強化し、行動を起こすきっかけとなり、また喫煙行動に影響を与えることもできる。電話の禁煙相談は、費用が安い上に利用しやすく、効果の高い人気の禁煙支援プログラムで、包括的な禁煙プログラムの一環として重要な役割を果たしている。懸賞つき禁煙キャンペーンは、地域の団体や医療サービスと連携した画期的な宣伝方法を用いて、約20%の禁煙率を達成している。

 禁煙を支える環境についての章で述べたように、効果的な禁煙支援プログラムを実施するには、紙巻きたばこの魅力を減ずるような環境作りと禁煙の奨励が欠かせない。職場を禁煙にする、病院や政府の建物など政策上重要な環境で禁煙方針を定めるなどの方法は、喫煙しない状態を当たり前にするという重要な長期目標を推進するための、費用対効果の高い公衆衛生的アプローチである。公衆衛生的アプローチ(集団を測定基準とする)は、最小限のコストで多くの人に影響を与えることができる。

 同様に、薬局や薬店でも、禁煙しようとしている喫煙者に短時間のアドバイスを与えるトレーニングをスタッフに定期的に行い、喫煙者には資料(パンフレットや配布物)を提供することができる。このような短時間のアドバイスを日常的に与えることは、禁煙しようとする喫煙者にとって効果的なサポートとなる。同じように、地方レベルや全国レベルの専門家組織や団体に所属している医療従事者は、喫煙者に情報を与え、禁煙を促すことができる。

 一般の人々が禁煙を促すような環境作りをしていけば、喫煙者も禁煙しようという気になるものだが、このような取り組みは、たばこ依存症の「治療」と並行して行われなければならない。禁煙介入プログラムを効果的に提供するためには、薬物療法や行動療法によるたばこ依存症治療を医療制度に組み込むことが必要である。専門治療を行う二次、三次レベルの専門医療施設とは別に、プライマリーケアの制度がある場合にはそこでの通常の保健教育の一環として、喫煙者に対する短時間でのアドバイスや情報の提供を積極的に行っていくべきである。

 上記で述べた集団レベル、個人レベルのどちらにおいても、人材と資金は、禁煙やたばこ依存症治療への介入を維持していくうえでなくてはならないものである。公衆衛生の担当者を教育し、キャンペーンや懸賞つき禁煙プログラムなど、集団の禁煙対策を行う必要がある。また喫煙者にサポートやカウンセリングを提供するには、トレーニングを受けたスタッフや制度といった資源も必要となる。禁煙やたばこ依存症治療の方法を提唱・提供できる能力を確保するために医療従事者を教育・トレーニングすることは、成功を確実なものにするために欠かせない。そのためには、禁煙政策を国の重要な公衆衛生課題としなければならないが、それについては政策立案者、医療従事者、研究者の果たす役割がきわめて重要となる。

 また、たばこ依存症治療をすぐに、どこででも受けることができるようにするには、国際社会の果たす役割も重要となってくる。国際社会は情報を提供し、広める場を提供するほか、ガイドライン作成やベストプラクティスの見直しを行い、資金を募り、禁煙やたばこ依存症治療の分野の研究・学術機関との提携を確立する。このようにして「グローバルな」禁煙を支援し、そのための好ましい環境を作っていく。それが、喫煙による疾病を減らすための重要な政策のひとつである。

 国家レベルでの禁煙介入やたばこ依存症治療の機会を増やし、それらの利用範囲を拡大するには、政府の政策的な関与と熱意が何より重要である。政府は、集団または個人に対する効果的な禁煙介入のための人的・制度的な資源を充実させ、援助資金を提供する必要がある。また禁煙を継続させるため、禁煙政策と禁煙プログラムを他の基本医療に組み込まなければならない。しかもそれを、科学的根拠が認められている広範な政策を用いた包括的なたばこ規制戦略という大きな枠組みの中で行う必要がある。

 メイヨ・クリニックとWHOの提言を実行するうえで、各国をどのように支援していけばよいのだろうか。モスクワでの2日間の会議では、これについて各国から発表があったほか、専門家による議論や協議も行われた。そこから得られた経験や教訓をもとに、会議の参加者によって一連の提言が作成され、短中期的に公衆衛生をさらに改善していきたいと考える政府や政府間機関、NGO、医療従事者にとって第一に考えるべき要素として、以下の項目が提言された。

禁煙への取り組みを効果的で持続可能なものにするため、禁煙とたばこ依存症治療政策を包括的なたばこ規制政策の一環に組み入れる。
たばこ製品の入手機会を減らす、たばこの社会的な容認度を減らす、多くの情報を与えるなど、周囲が禁煙を支える環境を作ることで、禁煙の可能性を高める。
すべての喫煙者に、効果的なたばこ依存症治療を提供する。
加盟国は、科学的根拠に基づく、たばこ依存症治療のための国家政策ガイドラインを作成する。
他の医療介入と比較した禁煙介入のメリットと費用対効果について、医療従事者、行政担当者、政策立案者の認識を高める。
プライマリーケア、地域、または全国レベルのすべての医療従事者を、効果的な禁煙介入とたばこ依存症治療ができるよう教育する。
新たな提携関係を結んで、効果が実証されている治療の実施を促し、財政的・技術的な支援に投資することが必要である。


References

National Cancer Institute (2000). Population-Based Smoking Cessation. Proceedings of a Conference on What Works to Influence Cessation in the General Population. Smoking and Tobacco Control Monograph No. 12. Bethesda, MD, United States Department of Health and Human Services, National Cancer Institute, NIH Publication. No 00-4892, November.

World Bank (1999). Curbing the Epidemic: Governments and the Economics of Tobacco Control. Washington, DC, World Bank.

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