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第5章 禁煙とたばこ依存症治療の今後の進展

第5章
  禁煙とたばこ依存症治療の今後の進展

今後の進展の必要性

 行動療法、薬物療法のいずれについても、効果的なたばこ依存症治療を提供するという点では、かなりの進展が見られている。これまでは長年、行動療法が唯一の選択肢であった。行動療法だけでも効果があるが、行動療法と薬物療法を組み合わせることによって最善の結果が得られる。一般的な禁煙支援においても、また特に禁煙治療薬が手に入らないが禁煙したいという人をサポートするためにも、様々な介入法を利用できるようにしておくことがきわめて重要である(Lando, 2002)。

 すべての国で、禁煙のための社会的支援が与えられなくてはならない。これは、たとえ資源がごく限られている国についてもいえることである(Lando, 2002)。あまりトレーニングを受けていない人によって進行されたグループセッションの禁煙クリニックでも、禁煙を成功に導くことが可能であるこが実証されている。このような禁煙クリニックでは、心理カウンセリング専攻の医学生のカウンセリングよりも好結果を出している。米国の臨床ガイドライン(United States Department of Health and Human Services, 2000)には、治療の一環として社会的支援(治療としての社会的支援)を与えながら、同時に治療以外でも社会的支援を得られるように手助けする(治療以外の社会的支援)と、特に禁煙効果が高いことが示されている。一般の人々の中から、禁煙のための社会的支援を行う人や、より本格的な介入を行うためのトレーニングを受ける人を出すことは、どの国でもできることである。

 禁煙に成功した喫煙者が比較的少なく、医療従事者の喫煙率が高いというような国では、禁煙に向けた支援を提供するのがかなり難しいようである(Lando, 2002)。禁煙に成功した人は禁煙を勧める手本となり、禁煙の努力をしている人への社会的支援を与えることができる。禁煙成功者が多いということは、禁煙が推進される環境を反映するものと言えよう。

 ロウらのグループは(1998)は41の研究を比較し、一般開業医、循環器内科医、呼吸器専門医、歯科医師、看護師、薬剤師、心理学者、ソーシャルワーカーなど様々な医療従事者の、禁煙やたばこ依存症治療への介入状況を比べている。その結果、医療従事者の職種の違いによって大きな優劣はないことが分かった。このように、たばこ関連の問題は、医師や看護師など幅広い医療従事者の教育に組み込まれることが望ましい(Lando, 2002)。

 医療従事者のうち、専門教育修了後もトレーニングを受けている者は、トレーニングを受けていない者に比べて喫煙者への介入度がはるかに高いと推測されるものの、今のところ、これらの介入が患者の喫煙行動に変化をもたらすことは実証されていない(Lancaster et al., 2002)。患者の禁煙結果を測定することでトレーニングの効果を評価しようとする試みは、複雑なだけでなく費用もかかるため、実施例が非常に少ない。制度面でもこのようなトレーニングを支援し、医療従事者がトレーニングを受けられるようにするとともに、新たに習得した技術を引き続き現場で生かしていけるよう支援する必要がある。適切な資金援助をし、医療従事者がトレーニングやフォローアップに出席している間の臨時要員を確保することなども、サポートの一環である(Raw et al., 1998)。

 技術的な進歩だけでなく、協力を推進することもまた必要である(Lando, 2002)。喫煙率を減らしたいと考えている開業医、研究者、および禁煙活動に携わっている人の三者が協力し合うことが重要である。各個人の文化に合った治療が必要であるが、これは国によって大きく異なり、また国内でも異なる場合がある。全国プログラムは、懸賞つき禁煙キャンペーン、禁煙デー、禁煙電話相談(携帯電話による支援プログラムも含む)などの国際プログラムと連動したものでなければならない。理想的には、短時間のアドバイスだけでなく、たとえ低所得国であっても、リスクが高く医学的に障害のある喫煙者には薬剤を投与するなど、より集中的な介入の選択肢を与えるようにすべきだろう。

 このようなことを十分に実行するためには、より多くの資源が必要になるわけだが、今ある資源だけでもかなりのことが可能である(Lando, 2002)。資金援助者と密接なつながりを持つことは、研究団体や政策立案者と協力を深め、連絡を密にするのと同じく有用である。可能であれば、消費税の増税やたばこによる収入を禁煙支援プログラムの資金にすることで、薬物療法などの介入の選択肢を大幅に増やすことができる。

医療従事者のトレーニング

 医療従事者のトレーニングは、禁煙とたばこ依存症治療の方法として費用対効果が高く、その効果は科学的に証明されている。なぜなら医療従事者は、医療を提供する者として喫煙者と対面するだけでなく、社会の中で医療情報の発信者としての役割を担っているからである(Marin-Tuya, 2002)。しかし医療従事者や専門家の中で、予防手段として禁煙治療を行おうとする者は少ない。医療従事者が禁煙介入を積極的に行わないいくつかの原因として、効果的な介入について誤った情報しかない、すべての医療施設でトレーニングが十分に行われていない、日常診療における喫煙への介入に対するサポートがない、資源や政府からの資金的な支援が得られないことなどがその例として挙げられる。

 慢性疾患、女性の健康、児童や青少年の健康などに関する医療プログラムのトレーニングに、その一環として禁煙治療を組み込むというのも、医療従事者の果たす役割を拡大させる良い方法である。WHOたばこのない世界構想(TFI)では、他のWHOの部局の仕事にも、たばこ依存症治療などの効果的なたばこ規制対策を組み込むよう勧めている。たとえば、心疾患プログラム(CVD)には禁煙カウンセリングのための手順が含まれている(WHO, 2002a)。またTFIは、たばこ依存症の治療を青少年・成人病統合管理(IMAI)戦略(WHO, 2002b)に組み込むよう提言している。どのようなたばこ規制プログラムにおいても、原則として、その禁煙計画やプロジェクトには医療従事者や禁煙活動に携わっている人向けのトレーニングの要素を取り入れ、行動療法や薬物療法の情報を盛り込み、禁煙を支援する環境作りをするよう呼びかけるべきである。薬局や薬店などで喫煙者と接する機会のあるスタッフをトレーニングすることも、公衆に情報を提供する貴重な戦略になりうる。英国で、「行動変容ステージモデル」に基づいて薬局スタッフの技術のトレーニング効果を調べたところ、9ヶ月の禁煙持続率が4.6%も増加するという効果が見られた(Sinclair et al., 1999)。また国際レベル、地域レベル、国家レベル、ローカルレベルでのトレーニング・プロセスには、特に医師会をはじめ、薬剤師、看護師、助産師、歯科医師などの医療従事者団体が参加して、ワークショップで講演したり、禁煙に関する記事を会報や雑誌に投稿したりしていくことも大切である。こうすることによって、基本的な介入を行うとともに、特定の医療従事者団体に合った基本的な禁煙教材を提供することができる。


禁煙トレーニング
タイの禁煙支援プログラム提供者

全国たばこ規制委員会は、次の3つの戦略を柱にしている。
(1) 若者や青少年が喫煙を始めないよう予防する。
(2) 常習喫煙者の禁煙を手助けする。
(3) 非喫煙者を環境たばこ煙(ETS)から守る。
包括的たばこ規制政策の中では多くの禁煙戦略が用いられているが、トレーニングの要素は特に重視されている。
 ・ 1988年から毎年1回、都市部および農村部で、医療従事者を「反喫煙推進家」とするためのトレーニングプログラムが行われている。
 ・ 農村部では医療ボランティアに対し、喫煙者に禁煙する気を起こさせる方法、健康的な生活習慣を推進する方法、たばこのない生活習慣を維持する方法についてのトレーニングを行い、禁煙推進家を生み出している。
 ・ 禁煙クリニックの設置に関心のある医療従事者が禁煙に関する情報を交換し、最新情報を提供するためのフォーラムとして、全国禁煙会議が開かれている。
 ・ 禁煙希望者向けの2泊3日の「ブレイブハート(禁煙)キャンプ」の主催を希望する者のために、ハンドブックが作成されている。
出典:Bhumiswasdi V。タイにおける禁煙の取り組み。2002年6月14〜15日に開催された、ロシア連邦保健省主催の禁煙のための世界政策に関するWHOモスクワ会議での発表。


現在の障害を取り除く中長期的な戦略として、世界各国で医師や看護師を含めた医療従事者のカリキュラムに禁煙カウンセリングを組み込むことが必要となるだろう(Marin-Tuya, 2002)。その第一歩として、世界医師会、世界家庭医協会(World Organization of Family Practitioners)、国際看護師協会などの国際機関との協力のもと、たばこ規制カリキュラムと禁煙治療の基本トレーニング講座の概要モデルを策定するというのも一案である。


References

Bhumiswasdi V. (2002). Smoking cessation experience in Thailand. Presentation at the WHO meeting on Global Policy for Smoking Cessation hosted by the Ministry of Health of the Russian Federation, Moscow, 14-15 June 2002.

Lancaster T, Silagy C, Fowler G (2002). Training health professionals in smoking cessation (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, 1. Oxford: Update Software.

Lando HA (2002). Future research needs and capacity building. Presentation at the WHO meeting on Global Policy for Smoking Cessation hosted by the Ministry of Health of the Russian Federation, Moscow, 14-15 June 2002.

Marin Tuya D (2002). Training of health care professionals. Presentation at the WHO meeting on Global Policy for Smoking Cessation hosted by the Ministry of Health of the Russian Federation, Moscow, 14-15 June 2002.

Raw M, McNeill A,West R (1998). Smoking Cessation Guidelines for Health Professionals. A guide to effective smoking cessation interventions for the health care system. Thorax, 53 (Suppl 5, Part 1): S1-S19.

Sinclair HK, Bond CM, Scott Lennox A (1999). The long-term learning effect of training in stage of change for smoking cessation: a three-year follow-up of community pharmacy staff’s knowledge and attitudes. International Journal of Pharmacy Practice;7:7-11.

United States Department of Health and Human Services (2000) Clinical Practice Guideline: Treating tobacco use and dependence. Rockville MD. Agency for Healthcare Research Quality.

World Health Organization (2002a).WHO CVD-Risk Management Package for low- and medium-resource settings. Geneva, Switzerland.

World Health Organization (2002b). Report of International Working Group Meeting on Integrated Management of Adolescent/Adult Illness (IMAI), Geneva, Switzerland, 24-25 September 2002.

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