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成人の飲酒実態と関連問題の予防について

成人の飲酒実態と関連問題の
予防について



独立行政法人国立病院機構
久里浜アルコール症センター
樋口 進



アルコールは

2000年に世界の:
アルコールは60以上もの病気の原因である。
病気による社会的損失の4%はアルコールが原因である。
これは高血圧(4.4%)、たばこ(4.1%)についで3番目に大きい。
健康寿命を短縮する要因の9.2%はアルコールが原因である。
アルコールにより世界で180万人が死亡した。
これは全死因の3.2%を占める。
発展途上国では、寿命短縮の13-15%は飲酒に伴う事故である。
アルコールは家庭内暴力の最大の原因である。
その他、経済的損失、未成年者への影響、妊婦への影響など計り知れなく大きい。

WHO: EB115/37, Public health problems caused by alcohol, reported by the secretariat, 2004



国民一人当たりの平均アルコール消費量の推移(15歳以上)

国民一人当たりの平均アルコール消費量の推移(15歳以上)のグラフ



成人の飲酒実態調査
2003年




過去に行なわれた調査における男女別飲酒者割合

過去に行なわれた調査における男女別飲酒者割合のグラフ



年齢別飲酒者割合の変化

年齢別飲酒者割合の変化のグラフ

飲酒者とは、調査前1年間に少なくとも1回飲酒してる者
1984年調査:日米共同疫学研究



飲酒時の平均飲酒量

飲酒時の平均飲酒量のグラフ

1単位とは純アルコール換算で10グラムのアルコール量で、ビール中ビン1本が2単位に相当する



日本人の飲酒の性・年齢構造の変化

日本人の飲酒の性・年齢構造の変化の図



飲酒が原因で困った経験をしたことがあるか?

  飲酒が原因で困った経験
  (ア) (イ) (ウ) (エ) (オ) (カ) (キ) (ク) (ケ) (コ) (サ) (シ)
  ない 暴言・暴力 からまれた 飲酒の強要 その他の
問題行動
セクシャル
ハラスメント
問題行動
の後始末
飲酒による
身体問題の
世話
外部からの
注意や連絡
他人に対して
恥をかいた
経済的
問題
その他
の問題
(1)自分の祖父 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
(2)自分の祖母 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
(3)自分の父親 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
(4)自分の母親 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
(5)配偶者 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
(6)自分の兄弟 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
(7)自分の子ども 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
(8)その他(具体的) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12



被害を受けた人の割合(男女別、加害者別)

被害を受けた人の割合(男女別、加害者別)のグラフ



その後の人生に影響(男女別、加害者別)

その後の人生に影響(男女別、加害者別)のグラフ



成人の飲酒実態と関連問題の予防に関する研究
調査結果のハイライト(1)


飲酒頻度・飲酒量ともに女性の伸びの著しいことが示唆された。

飲酒量に関する指標は男女とも年齢が若ければ若いほど高い傾向があった。

暴言・暴力、セクハラなどといった飲酒に関係した問題行動の被害を受けた者の割合は、男女合計で29%となっていた。この割合をもとに、わが国の成人で飲酒問題被害にあった者は3,040万人存在すると推定された。

その経験がその後の生き方や考え方に影響を与えた被害者は1,400万人存在すると推計された。



久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)

最近6ヶ月の間に次のようなことがありましたか。 回答カテゴリー
1   酒が原因で,大切な人(家族や友人)との人間関係にひびがはいったことがある。
ある(3.7)・ない(−1.1)
2   せめて今日だけは酒を飲むまいと思っても,つい飲んでしまうことが多い。
あてはまる(3.2)・あてはまらない(−1.1)
3   周囲の人(家族,友人,上役など)から大酒飲みと避難されたことがある。
ある(2.3)・ない(−0.8)
4   適量でやめようと思っても,つい酔いつぶれるまで飲んでしまう。
あてはまる(2.2)・あてはまらない(−0.7)
5   酒を飲んだ翌朝に,前夜のことをところどころ思い出せないことがしばしばある。
あてはまる(2.1)・あてはまらない(-0.7)
6   休日には,ほとんどいつも朝から酒を飲む。
あてはまる(1.7)・あてはまらない(-0.4)
7   二日酔いで仕事を休んだり,大事な約束を守らなかったりしたことが時々ある。
あてはまる(1.5)・あてはまらない(-0.5)
8   糖尿病,肝臓病,または心臓病と診断されたり,その治療を受けたことがある。
ある(1.2)・ない(-0.2)
9   .酒がきれたときに,汗が出たり,手が震えたり,いらいらや不眠など苦しいことがある。
ある(0.8)・ない(-0.2)
10   商売や仕事上の必要で飲む。
よくある(0.7)・時々ある(0)・めったにない(-0.2)
11   酒を飲まないと寝つけないことが多い。
あてはま(0.7)・あてはまらない(-0.1)
12   ほとんど毎日3合以上の晩酌(ウイスキーなら1/4本以上,ビールなら大瓶3本以上)をしている。
あてはまる(0.6)・あてはまらない(-0.1)
13   酒の上の失敗で警察の厄介になったことがある。
ある(0.5)・ない(0)
14   酔うといつも怒りっぽくなる。
あてはまる(0.1)・あてはまらない(0)

判定: 各回答カテゴリーの点数の合計が2点以上だと、KASTではアルコール依存症とする



KASTによるアルコール依存症者割合の変化

KASTによるアルコール依存症者割合の変化のグラフ



KASTによるアルコール依存症者の年齢別割合

KASTによるアルコール依存症者の年齢別割合のグラフ



成人の飲酒実態と関連問題の予防に関する研究
調査結果のハイライト(2)


久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)でスクリーニングテスト上アルコール依存症と同定された者は、男性の7.4%、女性の1.5%と推定された。

この割合から、実際の人数を推計すると、スクリーニングテストによる依存症者は450万人となり、1984年の日米共同研究調査に比べて、女性、特に若年女性の数が増加していると推定された。

国際疾病分類第10版の診断基準に基づくアルコール依存症者の有病率は、男性の1.9%、女性の0.1%、全体で0.9%と推定された。この割合をもとにわが国のアルコール依存症者数を推計すると80万人であった。

スクリーニングテスト(KAST)では、アルコール依存症予備軍まで依存症として拾い挙げる傾向がある。
国際疾病分類によるアルコール依存症は、医療機関に登場する依存症者と考えられる。



飲酒と生活習慣病



生活習慣病につながる危険因子

生活習慣病につながる危険因子の図



アルコール消費と生活習慣病のリスク

例:中性脂肪、乳癌のグラフ

例:中性脂肪、乳癌

  例:肝硬変のグラフ

例:肝硬変

例:拡張期血圧のグラフ

例:拡張期血圧
例:虚血性心疾患のグラフ

例:虚血性心疾患



高脂血症

高脂血症の写真

乳び血清である。大量飲酒は多くの場合、高脂血症をともなう。特に、血中の中性脂肪レベルは、飲酒量と相関する傾向がある。向かって左側の白い血清には、中性脂肪が1000mg/dl以上含まれている。



慢性膵炎の原因

慢性膵炎の原因のグラフ

慢性膵炎全国集計調査報告,1987



食道がん

飲酒量が増えれば、食道がんや咽頭がんの上部消化管がんのリスクが高くなる。上部消化管がんのリスクは、赤型体質でも非常に高くなる。や咽頭がん

食道がんの写真



ALDH2活性別にみた飲酒と食道がんリスク

ALDH2遺伝子型のグラフフラッシングのグラフ



アルコール関連問題の広がり

アルコール関連問題の広がりの図



アルコール関連問題の予防



予防の大前提

この世からアルコール(酒)をなくすことはできない

米国における禁酒法の失敗が物語っている

酒とうまく付き合っていくしかない



予防の3原則

1. アルコール消費量の抑制

2. 大量飲酒者数の減少

3. 節度ある適度な飲酒の普及と推進



アルコール消費量の抑制

平均飲酒量が下がれば、大量飲酒者数も減る
Lederman



わが国のアルコール政策:まとめ

政策分野 現状
酒類の供給に関する制限  
 国の専売制度 なし
 生産・販売の免許性 あり
 酒類の小売 制限はない
 未成年者の飲酒 未成年者飲酒禁止法(20歳未満禁止)
飲酒運転に関する法制化 道路交通法(法の施行状態はよい)
酒類の値段 相対コストは低く、さらに下がり続けている。
ビール・コーラ比は、1.53で先進諸国の中では中間に位置している。
酒税 あり(酒の種類による)
酒類の広告規制 業界の自主基準のみ
スポンサー 制限なし
酒ビン・カンの警告表示 あり(業界の自主基準)

WHO: Global Status Report: Alcohol Policyに従った



アルコール関連問題を減らすための最良の政策

  最良の10政策 日本の現状
1. 未成年者に対する酒類の販売禁止 はい
2. 酒類小売の専売制 いいえ
3. 酒類販売の時間や曜日の制限 いいえ
4. 酒類小売店の密度に関する制限 いいえ
5. 酒税 はい
6. 呼気テスト等飲酒のチェック はい、飲酒運転等
7. 酒気帯び運転の基準を下げること はい、2003年
8. 酒気帯び運転や飲酒運転に対する厳しい罰則 はい
9. 運転初心者に対する制限の強化 いいえ
10. 問題飲酒者に対するブリーフインターベンション 非常に限定的

Report by the secretariat: Public health problems caused by alcohol (EB115/37), 2004
Babor T et al, Alcohol: No ordinary commodity-research and public policy, 2003



アルコール政策に関するわが国の特徴

酒類の需要・供給に関する規制がほとんどない
需要
広告規制が事実上存在しない
スポンサーの制限もない

供給
距離制限なくなり、酒屋の数は増えている
24時間・365日、いつでも買える
酒類の相対価格は下がっている
アルコール消費量の低下にはつながらない



未成年者飲酒予防に関する様々な取組み

主体 取組みの例
1. 「未成年者の飲酒防止等対策及び酒類販売の公正な取引環境の整備に関する施策大綱」の策定(酒類に係る社会的規制等関係省庁等連絡協議会)
2. 未成年者飲酒禁止法の改正、酒税法の一部改正
3. 未成年者の飲酒防止に関する表示基準の策定
4. 健康日本21
5. アルコールメーカー、小売業者に対する教育と指導
6. 未成年者飲予防月間(4月)の策定
県市町村
1. 地域レベルの関係機関の組織的取組み体制の確立
2. 精神保健福祉センターにおける青少年の心の問題に対する相談事業の充実
3. 飲酒実態等の調査や啓発活動の推進
研究機関、病院など
1. 未成年者の飲酒実態等に関する調査や、未成年者の心身におよぼす飲酒の影響に関する研究の推進
2. 専門家による啓発活動
酒造メーカーおよび小売業者
1. 従来型自動販売機の撤廃、また、新たな導入時は新型自動販売機に限定
2. 対面販売の促進と年齢確認の励行
3. 酒ビンやカンに未成年者飲酒に関する警告表示貼付
4. 広告の自主規制
5. 教育教材の作成と配布
6. 未成年者飲酒予防活動や研究への基金の設立
マスメディア
1. 一般に対する啓発活動



中学1年生および高校3年生の飲酒者割合の変化

中学1年生および高校3年生の飲酒者割合の変化のグラフ



大量(多量)飲酒者数の減少

わが国の成人で、1日平均ビール中ビン3本以上飲んでいる多量飲酒者は、約860万人いる。
問題のほとんどはこの人達が引き起こしている。



アルコール関連問題を減らすための最良の政策

  最良の10政策 日本の現状
1. 未成年者に対する酒類の販売禁止 はい
2. 酒類小売の専売制 いいえ
3. 酒類販売の時間や曜日の制限 いいえ
4. 酒類小売店の密度に関する制限 いいえ
5. 酒税 はい
6. 呼気テスト等飲酒のチェック はい、飲酒運転等
7. 酒気帯び運転の基準を下げること はい、2003年
8. 酒気帯び運転や飲酒運転に対する厳しい罰則 はい
9. 運転初心者に対する制限の強化 いいえ
10. 問題飲酒者に対するブリーフインターベンション 非常に限定的

Report by the secretariat: Public health problems caused by alcohol (EB115/37), 2004
Babor T et al, Alcohol: No ordinary commodity-research and public policy, 2003



ブリーフインターベンション(Brief Intervention)とは

定義
対象者の特定の行動(この場合は飲酒行動)に変化をもたらすことを目的とした短時間のカウンセリング。

対象
多量飲酒者、例えば、飲みすぎで、肝機能障害、高血圧、糖尿病などを引き起こしている人。

方法
様々な方法がある。一例を挙げると、飲酒行動の改善を目的に、6項目の指針に沿って、短時間のカウンセリング(10分程度)を行う。指針は頭文字をとって、「FRAMES、フレイムズ)と略されている。飲酒行動の改善目標は必ずしも断酒の達成・継続だけではない。対象者によって、減酒、短期間の断酒など様々である。

効果
わが国ではやっと始まったばかりであるが、多くの国でその有効性が実証されている。



ブリーフインターベンションの6要素(FRAMES)

要素 説明
Feedback アルコール関連問題の正確な現実を、本人にフィードバックする。
Responsibility アルコール関連問題の改善に関する責任が本人にあることを強調する。
Advice 明確な助言をあたえる。
Menu 複数の飲酒行動改善方法を紹介する。
Empathy 介入者が対象者に対して共感的態度をとる。
Self-efficacy 飲酒行動の改善に関して、自己達成が可能であることを理解させ、支援する。



アルコール教育

アルコール教育は
 → 知識の向上に繋がる
 → 飲酒行動の修正は困難

多面的アプローチが重要



Project Northlandの結果の一部

調査前月に飲酒した者の割合

調査開始時に飲酒をしていなかった者(6年生の秋、N=1,281)を追跡した。5年半後(11年生春)の追跡人数は955名であった。

調査前月に飲酒した者の割合のグラフ

Williams CL et al.AHRW,1998



アルコール関連問題の予防:まとめ

1. アルコール政策に関する議論を

2. 教育・啓発は、多面的かつ継続的に

3. 大量飲酒者には、ブリーフインターベンションを

4. アルコール依存症は専門病院へ



自分の健康を守り、他の人を傷つけない
ための飲酒ルール


とにかく、まず予防が一番大切



あなたの健康を守る12の飲酒ルール(1)

1. 飲酒は1日平均2単位以下
1単位とは純アルコールで10グラム。ビールだと中ビン1本、日本酒だと1合弱、ウイスキーだとダブル1杯、ワインだとワイングラス2杯弱の量です。

2. 女性・高齢者は少なめに
中年男性に比べて、女性や高齢者は血中アルコール濃度が高くなりやすく、その分体を傷めたり依存を速めます。たとえば、1日350mlの缶ビール1本以下にしてはどうでしょうか。

3. 赤型体質も少なめに
日本人の約半数は、少量の飲酒後に顔が赤くなったり、心臓がドキドキしたりします。これは生まれつきの体質によるもので、赤型体質とも呼ばれています。この体質はアルコールの分解が遅く、がんや様々な臓器障害を起こしやすいといわれています。

4. たまに飲んでも大酒しない
たとえ飲む回数が少なくとも、一時に大量に飲むと、体を傷めたり、事故の危険を増したり、依存を進行させたりします。



あなたの健康を守る12の飲酒ルール(2)

5. 食事と一緒にゆっくりと
空腹時に飲んだり、イッキに飲んだりすると、アルコールの血中濃度が急速に上がり、悪酔いしたり、場合によっては急性アルコール中毒を引き起こします。また、あなたの体を守るためにも、濃い酒は薄めて飲むようにしましょう。

6. 寝酒は極力控えよう
寝酒(眠りを助けるための飲酒)は、睡眠を浅くします。健康な深い睡眠を得るためには、アルコールの力を借りないほうがよいでしょう。

7. 週に2日は休肝日
週に2日は肝臓をアルコールから開放してやりましょう。そうすることで、依存も予防できます。

8. 薬の治療中はノーアルコール
アルコールは薬の効果を強めたり弱めたりします。また、安定剤と一緒にのむと、互いの依存を速めることが知られています。



あなたの健康を守る12の飲酒ルール(3)

9. 入浴・運動・仕事前はノーアルコール
飲酒後に入浴や運動するのは、不整脈や血圧の変動を起こして危険です。また、アルコールは運動機能や判断力を低下させます。

10. 妊娠・授乳中はノーアルコール
妊娠中の飲酒はおなかの胎児に悪影響があります。また、アルコールは授乳中の母乳に入り、乳児の発達を障害します。

11. 依存症者は生涯断酒
依存症は飲酒のコントロールができないことがその特徴で、断酒を続けることが唯一の回復方法です。

12. 定期的に健診を
定期的に肝機能検査などを受けて、飲みすぎていないかチェックしましょう。また、赤型体質の習慣飲酒者は、食道や大腸のがん検診を受けましょう。

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