FAO/WHO合同食品規格計画
コーデックス委員会
第26回総会
イタリア、ローマ 2003年6月30日〜7月7日



第4回
コーデックス・バイオテクノロジー応用食品
特別部会報告書

横浜 2003年3月11〜14日



注:この文書には回付状CL2002/9-FBTを含む


CL2003/12-FBT
2003年4月

回付先:  コーデックス担当窓口
関連国際機関

回付元:  コーデックス委員会事務局長、FAO(Viale delle Terme di Caracalla、00100ローマ、イタリア)

件名:  第4回コーデックス・バイオテクノロジー応用食品特別部会報告書(ALINORM03/34)の配布について


第26回コーデックス総会における採択事項

規格作成手続き上のステップ8としての微生物ガイドライン案

●  「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案(パラグラフ63、付属資料II)


上記文書に対する各国政府および関係国際機関の意見は歓迎するが、コーデックス規格および関連文書作成手続き上のステップ8(コーデックス手続きマニュアル、第12版、21ページ)に従うべきである。意見は2003年5月20日までにFAOコーデックス委員会事務局長(Viale delle Terme di Caracalla、00100イタリア、ローマ、fax+39 06 57054593, e-mail codex@fao.org)宛に提出すること。


概要と結論

第4回コーデックス・バイオテクノロジー応用食品特別部会は、以下の結論に達した。

コーデックス総会における検討事項

同特別部会は、「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」を手続きステップ8に進めることで合意した(パラグラフ63、付属資料II)。

コーデックス総会に関わるその他の事項

同特別部会は、トレーサビリティに関し自由討論を開催した(パラグラフ64〜80)。
同特別部会は、バイオテクノロジー応用食品の安全性評価に関し、将来的に想定される作業に関し意見を交換した。(パラグラフ81〜86)。


ALINORM 03/34A

第4回コーデックス・バイオテクノロジー応用食品特別部会報告書
横浜、2003年3月11〜14日


はじめに

1. 2003年3月11〜14日、第4回コーデックス・バイオテクノロジー応用食品特別部会(CX/FBT)が日本政府の主催により横浜市で開催された。議長は厚生労働省医薬局食品保健部の吉倉廣教授が務めた。特別部会には、34加盟国、3つの国際政府間組織、19の非政府組織を代表して168名の委員およびオブザーバーが参加した。参加者一覧は本報告書の付属資料Iに掲載されている。

開会

2. はじめに、澤田陽太郎厚生労働事務次官が開会の挨拶に立ち、神奈川県横浜市への参集を歓迎した。澤田事務次官は挨拶の中で、食品の安全性と消費者の健康への関心が非常に高まっており、バイオテクノロジー応用食品の安全性が国民にとって憂慮すべき問題になっていることを強調し、できる限り早急なこの分野での世界的合意を期待すると述べた。

3. FAOを代表してEzzeddine Boutrif氏が参加者に歓迎の意を表し、バイオテクノロジーが農業・漁業・林業の持続可能な開発の強力な手段になっていると述べた。バイオテクノロジーは、食品・農産物の生産およびサービスに関する他の技術と適切に統合すれば、拡大・増加の一途をたどる世界の都市人口のニーズを満たす上で非常に役立つものとなり得るが、バイオテクノロジーの応用、特に遺伝子組換え生物の生産に関しては、期待される効用をヒトや動物の健康ならびに環境に与える可能性のあるリスクと対比して分析する必要があると述べた。Boutrif氏は、遺伝子組換え(GM)製品に関する全ての決定には、強力な科学的裏づけが必要であると強調した。さらに、FAOがWHOと合同で、遺伝子組換え動物(特に魚類)由来食品の安全性評価に関する専門家会議を2003年末にに実施する予定であると発表した。同氏は、特別部会の委員による精力的な作業と日本政府の強力な支援に対して謝意を表明した。また、前回の特別部会でも作業の牽引力となった「合意を得ようとする心構え」が今回も引き継がれることを期待すると述べ、バイオテクノロジー応用食品の生産・流通を支配する国際的な規制上の枠組を補完するにはこの先何をすべきかを思案するよう各国の代表者に促した。

4. WHOの食品安全局課長であるJorgen Schlundt博士が、WHO事務総長に代わって歓迎の挨拶をした。同博士は、WHOが「バイオテック・メガスタディ」というプロジェクトを開始し、モダンバイオテクノロジー応用食品のより広範な評価に関わる領域の検討、費用効果および社会経済に関する検討を試みており、その報告書が近々最終的に承認されると述べた。また、WHOが発行した小冊子「遺伝子組換え食品に関する20の質問」を紹介した。この小冊子には、遺伝子組換え食品に関する情報が分かりやすい言葉で掲載されている。WHOとFAOの両代表者は、議題となっている本草案の完成に向け最大の努力を尽くして作業を進め、文書を切望する声に応えるよう、特別部会に強く要請した。

議題の採択(議題1)1

5.  特別部会は、この会議の仮議題を正式議題として採択した。

他のコーデックス部会より特別部会に付託された事項(議題2)2

6. 特別部会は、第50回コーデックス執行委員会が「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」をステップ5で採択したと述べた。

7. 特別部会は、コーデックス食品表示部会が検討していた「遺伝子組換え・遺伝子工学の技術を用いた食品の表示に関する勧告案」中の「定義」が、さらなる解説・検討のためにステップ6に差し戻され、本文の残りの部分はさらなる検討のためにステップ3に差し戻されたとの報告を受けた。

8. 特別部会はさらに、コーデックス分析・サンプリング手法部会が、特別部会から回付された「バイオテクノロジー応用食品または食品成分の検出または同定に有効な手法のリスト」を検討し、遺伝子組換え物質を含む食品の分析手法を選択する際に評価規準アプローチを適用することで合意したとの報告を受けた。

バイオテクノロジー応用食品の安全性および栄養学的局面についての評価に関する他の国際機関に関わる事項(議題3)3

9. 特別部会は、遺伝子組換え生物の安全性評価を専門とする国際機関の現作業(特にカルタへナ議定書とOECDに関連したもの)が、文書CX/FBT 03/3で紹介されていることを報告した。

10. 49パラレルバイオテクノロジーコンソーシアムのオブザーバーは、パラグラフ8の最初の文章が、カルタへナ議定書で採択された予防的手法について明確に言及していないため、同議定書の状況を必ずしも正確に描写しているとは言えないという見解を示した。

組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案の検討(議題4)4

11. 特別部会は、第50回コーデックス執行委員会がステップ5において「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」を採択したことを再確認した。

12. 特別部会は、前回の会議では十分な討議時間がなかったために、特別部会が先送りすることを決めた未解決の問題が多数残っていることを再確認した。しかし、本文に対しては多数の参加国から支持があったと述べた。

セクション1−適用範囲

13. 特別部会は、適用範囲の拡大に関する提案について徹底的に討議した。特別部会はまず、パラグラフ1の脚注1に「微小藻類」を含めるとする提案を検討した。「微小藻類」が食品として安全に使用されてきた歴史に関しては、各国およびオブザーバーの間で意見が分かれたため、特別部会はこれを含めることには反対の意を表した。また、FAO/WHO専門家会議で使用する定義にも、これを含めないと述べた。

14. 特別部会はパラグラフ2において、農業生産における利用または環境への放出のいずれかを通して生じる組換えDNA微生物およびその製品の「間接的な曝露」(indirect exposure)ならびに組換えDNA微生物およびその製品に由来する食品添加物や加工助剤を適用範囲に含めるとする提案についても討議した。特別部会は意見交換をした結果、適用範囲の変更案を否決した。その理由は、受容体の株に安全使用された歴史がある場合の安全性評価を実施するための「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」の全文がすでに作成されており、これらの項目を含めると安全性評価に別の要素が必要となるからである。また、遺伝子組換え微生物利用食品の安全性評価に関するFAO/WHO専門家会議によって採択された適用範囲は変更すべきでないという指摘があった。それは、現行のガイドラインが同専門家会議の科学的検討に基づいて作成されているからである。しかし特別部会は、これらの問題点が重要であり、将来、コーデックス総会およびその付属機関を含めた適切な国際機関による作業で対処する必要があることを認識した。

15. 特別部会は、パラグラフ3の3番目の文章「微生物は組換えDNA技術を用いた修飾の影響を受けやすく、新株は成長速度が速いために急速に成長する可能性がある。」(Microorganisms are amenable to modification using recombinant-DNA technology and new strains can be rapidly developed due to their rapid growth rates.)は、不必要であるため、これを削除した。

16. 特別部会は明確性を期して、微生物に特有な問題点について述べたパラグラフ4のD項を修正した。

17. 49パラレルバイオテクノロジーコンソーシアムのオブザーバーは、パラグラフ5およびそれに続くいくつかのパラグラフの文章で採択している手法に関する懸念を表明した。同オブザーバーによれば、この手法は主に導入遺伝子に関する情報を基にして安全性評価を実施するものであるとしている。

18. 特別部会は、「バイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案」の「上市後モニタリング」に関するパラグラフ20をパラグラフ6の後に新規に加えて、双方のガイドラインの整合性を図ることで合意した。

19. 特別部会はパラグラフ7(新版ではパラグラフ8)において、「または」(or) という言葉ならびに2番目の文章の角括弧を削除して、「安全性評価は、食品製造に用いる組換えDNA微生物の安全性、および必要に応じて…代謝産物に注目する。」(the safety assessment will focus on the safety of the recombinant-DNA microorganism used in food production, and, where appropriate, on metabolites….)とすることで合意した。

20. 特別部会は、前回の会議では角括弧付きとした同パラグラフの最終部分について徹底的に討論を行った。この文章では、評価指標としての実質的同等性の概念が不適切に使用されており、組換えDNA微生物利用食品の安全性の保障には不十分であるとし、たとえ微生物、新たに発現したタンパク質、二次代謝産物が安全であっても、特に微生物と食品との複雑な相互作用があるために、食品が必ずしも安全であるとは言えないと指摘した国々やオブザーバーもいた。また、この文章が明確ではなく、他のセクションで既述の条項の反復に過ぎないと指摘した国もあった。

21. 他の数ヵ国は、この文章が本文書でさらに進展した安全性評価の中心的な要素を扱っており、その点で主要な勧告との整合性があるため、この文章を残すべきであると提案した。特別部会は、カナダと日本から提案された「明確化」について討議した。WHOの委員は、安全性に関連する全ての局面を考慮するよう指摘し、折衷案としてこの文章の書き直しを提案した。

22. さらなる討議および非公式な作業班に引き続いて、特別部会は折衷案を検討した5。特別部会は、製造時に組換えDNA微生物または微生物を使用した食品において同定された相違点を、それが意図した結果であろうとなかろうと、考慮すべきであることで合意した。特別部会はまた、微生物と食品基質または細菌叢(腸内フローラ)との相互作用ならびに新たに発現したタンパク質および二次代謝産物も、十分に考慮すべきであることで合意した。特別部会は、既存の対応物との比較結果に言及した本文の最後の文章が他のセクション(パラグラフ24(新版ではパラグラフ26))に記載されているため、これを削除することで合意した。

23. 修正した文章は、論理的な文の流れをよくするために、同パラグラフの最後ではなく3番目の文章の後に挿入した。

セクション2−定義

24. 特別部会は、パラグラフ8「定義」(Definition)(新版ではパラグラフ9)において、明確性を期して「既存の対応物」(Conventional Counterpart)という定義を言い換え、特定の技術を羅列する必要がないために脚注4を削除することで合意した。

セクション3−食品安全性評価の導入

25. 特別部会はパラグラフ10(新版ではパラグラフ11)について、該当する影響を明確に同定するために「影響と安全性」(effect and safety)という表現を「安全性へのいかなる影響」(any effect on the safety)に書き換えることを決定した。

26. 特別部会は、パラグラフ12(新版ではパラグラフ13)について、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン」との整合性を保つために、遺伝子組換え微生物を用いて製造した食品の特徴に関するデータが十分に入手できない場合は、動物試験の必要性に関する文章を挿入することで合意した。同じ文章がパラグラフ13および57(新版ではパラグラフ14および59)にも記述されているが、特別部会は扱っている問題点が異なるとして、この文章をパラグラフ12(新版ではパラグラフ13)に含める必要性があることで合意した。

27. 米国は、パラグラフ13(新版ではパラグラフ14)において、供与体が食品源ではない場合など、動物試験がすべての場合に必要であるとは限らないことを表すよう本文の修正を提案した。一方、消費者保護を十分に保証するため、現行の文章は保持すべきであるとする見解を述べた国々やオブザーバーもいた。特別部会は意見交換後、「修飾された遺伝物質と遺伝子産物の特徴付けおよび供与体に関する入手可能な情報を考慮に入れ」(taking into account available information regarding the donor and the characterization of modified genetic material and the gene product)という補足記述を文章の最後に追加して、現行の文章に示されたとおり、適切な動物試験を使用することで合意した。

28. パラグラフ14(新版ではパラグラフ15)に関しては、FAO代表者の提案に基づき、最初の文章を修正して明確性を高め、安全性評価手法に関するパラグラフ3との整合性を保つこととした。特別部会は、日本の提案を受けて、3番目の文章から始まるパラグラフを新しく設けて本文をより読みやすくすることで合意した。

29. 特別部会は、米国の提案に基づいて、安全性評価の起点としての実質的同等性に関する4番目の文章を明確にすることで合意した。

30. 特別部会は、7番目の文章を削除すべきか否かを検討した。本文の他の部分においては、相違点の同定に関する記述はあるが、その評価 (evaluation) に関する記述はないので残しておくべきであるという指摘があった。意見交換の結果、「評価について」(for evaluation)類似点と相違点を同定するために実質的同等性の概念を使用するということを5番目の文章に記述して、二つの明確に異なる過程があると明示することで合意した。従って、7番目の文章は本文を簡素化させるために削除した。

31. 同パラグラフを書き換えた結果、重複を避けるために6番目と8番目の文章が削除された。特別部会は、ベルギーの提案を受けて、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」のパラグラフ13に記述された同様の勧告に対応した、実質的同等性の使用を明確に表す文章を新たに追加することで合意した。

32. 特別部会は、既存の対応物との比較が組換えDNA微生物だけでなく、微生物を用いて製造した食品にも適用されることで合意した。したがって、同パラグラフの文章ならびに本文書全体における関連箇所が修正された。

非意図的影響

33. 特別部会は、パラグラフ15(新版ではパラグラフ17)の2番目の文章を削除することで合意した。特別部会は「非意図的影響」(unintended effect) と「予期せぬ影響」(unexpected effect)との相違点を討議し、これら2つの用語は異なる意味を持つとして現行のまま使用することで合意した。特別部会は討議の結果、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」との整合性を保つために、最後の文章から角括弧を削除して残すことで合意した。

食品安全性評価の枠組み

34. 特別部会はパラグラフ20(新版ではパラグラフ22)において、F)「安全性評価」の項で検討すべき要因を記述したa)からf)の表題を各項の内容と関連付けて再検討し、a)とf)の要点を下記のとおり記述することで合意した。

a) 発現物質:潜在的な毒性および病原性に関わるその他の形質の評価(パラグラフ52も参照のこと)(expressed substances: assessment of potential toxicity and other traits related to pathogenicity (see also paragraph 52))
f) ヒトの胃腸管における微生物の生存可能性および定着に関する評価 (assessment of viability and residence of microorganisms in the human gastrointestinal tract)

35. ブラジルは、全ての分析データを文書化する必要があるため、パラグラフ22(新版ではパラグラフ24)の最後の文章の削除を提案した。しかし、現行の文章が言及しているのは分析手法の感度だけであり、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」との整合性を保っているとして、この文章を残すことで合意した。

36. 特別部会はパラグラフ23(新版ではパラグラフ25)において、生存可能な微生物の場合、胃腸内フローラとの相互作用および免疫系への影響を適宜考慮すべきであることで合意し、それに応じて文章を修正した。最後の文章では、リスク管理者の講じる措置が「消費者の健康を保護するために」必要であることで合意し、同パラグラフには編集上の修正が施された。

セクション4−一般的検討事項

組換えDNA微生物の記述

37. 特別部会は、組換えDNA微生物の培養コレクションに関するパラグラフ24(新版ではパラグラフ26)の最後の文章について徹底的に討議した。色々な国やオブザーバーから、元の試験物質を確実に利用できるようにするために、全ての組換えDNA微生物は国際的な培養コレクションで保管すべきであるとの提案があった。同様に、要請した関係者による培養物の利用を求める提案もあった。さらに、これは知的所有権に悪影響を与える可能性があるが、規制当局の要請に応じた培養物の利用を見解として示した国もあった。WHOの代表者は、科学界ではこのような微生物を国際的なコレクションで保管していると示唆し、公衆衛生保護のために利用可能とすることの重要性を強調した。

38. 特別部会は非公式な作業班に引き続いて、折衷案に合意した6。これは、分子学的方法を用いて同定された組換えDNA微生物は株培養物として、望ましくは規定の培養コレクションの中で保存すべきであり、要請があれば規制当局が利用できるようにすべきであると勧告し、また当初の安全性評価の見直し促進に留意したものである。

受容体微生物の記述および食品製造におけるその使用

39. 特別部会はパラグラフ25(新版ではパラグラフ27)において、抗生物質および抗生物質耐性要因を考慮する必要性を示すために、導入パラグラフとC) 項を修正することで合意した。さらに日本の提案に基づき、「食品製造において安全に用いられた歴史」(D項)(history of safe use in food production) に「食品中での安全に消費された」(safe consumption in food)旨の言及を追加することで合意した。

40. オーストラリアは、培養パラメータが二次代謝産物の製造に影響を与える可能性があり、安全性評価に直接的に関連するため、培養パラメータを扱った(E)項の新規追加を提案した。特別部会は意見交換の結果、「受容体微生物の培養に用いられる関連する製造パラメータ」(relevant production parameters used to culture the recipient microorganisms) に言及した簡潔な文を追加することで合意した。

41. 特別部会は、パラグラフ26(新版ではパラグラフ28)において、「必要に応じて」(as appropriate)可動性DNA要素の存在を含め、遺伝的安定性に関する情報を考慮すべきである、と明確化することで合意した。

供与体の記述

42. 特別部会はパラグラフ28(新版ではパラグラフ30)において、日和見病原性に関するE)項はすでにC)項で扱っているため、これを削除することで合意した。文書の残りの部分との整合性を保つために、編集上の修正が施された。

ベクターおよび構成体を含む遺伝子組換えの概要

43. パラグラフ29(新版ではパラグラフ31)においては明確性を期して、「全ての」(all)遺伝物質の同定に言及することで合意した。イランはパラグラフ30のB(新版ではパラグラフ32のB)について、微生物の遺伝子組換え中に使用したトランス遺伝子、プラスミド、キャリアDNAの完全な配列を株の構築過程の説明に含めることを提案した。しかし、特別部会は、この問題をパラグラフ33(新版ではパラグラフ35)の遺伝子組換えの特徴付けに関する項で対処すべきであるということで合意した。

44. 特別部会は、脚注6に特定の技術を羅列する必要がないため、また前述の「定義」における脚注4の削除決定との整合性を保つため、これを削除することで合意した。

遺伝子組換えの特徴の明示

45. イランはパラグラフ32(新版ではパラグラフ34)において、意図した機能に必要な配列に限定した挿入が常に可能であるとは限らないと指摘した。特別部会も、「望ましくは」(preferably)挿入するDNAをこれらの配列に限定すべきであるとすることで合意した。

46. 特別部会は、パラグラフ33(新版ではパラグラフ35)で記述しているDNA組換えに関する情報の提示について徹底的に討論し、Aはそのまま残してCを集中的に修正することで合意した。

47. イランは、挿入物質の完全な配列を記述すべきであり、コピー数については「適用可能な場合」(if applicable)ではなく一般的要件として課すべきであるという見解を表明した。オーストラリアは、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」で採択した手法に追随し、柔軟性を持たせるために電子フォーマットによる配列情報に関する要件の削除を提案した。米国は、配列は安全性評価に必要な情報を常に提供しているわけではなく、他のデータも考慮に入れるべきであると指摘した。あらゆる種類の遺伝子組換えに対処するために、「挿入、修正または削除された」(inserted, modified or deleted)物質に関するデータを提供すべきであるという提案が数ヵ国から出た。特別部会は非公式な作業班7とさらなる検討の後、挿入、修正または削除された物質、プラスミド、またはキャリアDNAの配列データならびに周辺の配列に言及した折衷案とすることで合意し、これによってこの過程で発現したいかなる物質も同定できることを認識した。

48. 特別部会は、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」との整合性を保つために、数ヵ国が提案したようにD)において「融合タンパク質の発現」(the expression of fusion protein)に関する言及を削除し、「融合タンパク」(fusion protein)だけを残すことで合意した。特別部会はE)において、潜在的な有害機能をコード化「または発現に影響する」(or to influence the expression)ことが知られている配列、とすることで合意した。

49. パラグラフ34と35(新版ではパラグラフ36と37)および脚注8について、明確性を期すために編集上の修正が施された。貯蔵中に発生する可能性のある変化については、アルゼンチンの提案を受けて、パラグラフ35(新版ではパラグラフ37)のA)で言及した。

安全性評価

50. 特別部会は、パラグラフ36(新版ではパラグラフ38)の最初の3つの文章が安全性評価に関する勧告と直接的な関連性がないため、これらを削除することで合意した。ドイツの提案で個別な (case by case) 安全性評価の必要性に関する文章が新規に挿入された。

51. 特別部会は、物質または密接に関連する物質が安全に食品中で消費されてきた場合に必要となる様々な研究について討議した。「密接に関連する」(closely related)という表現が実質的同等性の概念を表すとしてこの表現に対する懸念を表明し、消費者保護を十分に提供していないとする初期の立場を繰り返す国やオブザーバーもいた。この同定の概念が非常に限定的であり、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」の中に「密接に関連する物質」(closely related substances)という記述があると数ヵ国から指摘があった。特別部会は、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」のパラグラフ37(新版ではパラグラフ39)に使用されている言い回しがこの問題を適正に扱っているとして、この表現を挿入することで合意した。「入手データが綿密な安全性評価の実施に不十分である場合には、適切に計画された動物試験またはインビトロ試験が必要である」旨の文章を同パラグラフの最後に追加することとした。

発現物質:潜在的な毒性や病原性に関連するその他の形質

52. ドイツは、毒素や病原性に関するその他の形質という言及を表題から削除し、最も重要な側面である「発現物質」(expressed substances)という言葉だけを残すことを提案した。同項の本文で毒素や病原性に言及しているため、表題とは矛盾しないと指摘した国もあった。特別部会は討議の結果、オーストラリアの提案を受けて、標題では「毒素」(toxins)ではなく「潜在的な毒性の評価」(assessment of potential toxicity)とすることで合意した。

53. パラグラフ37(新版ではパラグラフ39)において、別の供給源から合成または製造する物質に関する角括弧内の文章の削除を提案した。これは植物の場合には正当化されるが微生物では正当化されないとの指摘がある一方、別の供給源の使用は十分な物質を得るために必要であるとの指摘もあった。そのため、特別部会は、角括弧をはずして現行の本文を残し、別の供給源の使用に関して「必要であれば」(if necessary)という表現を追加することで合意した。

54. 特別部会はパラグラフ38(新版ではパラグラフ40)について、スウェーデンの提案に基づいて、「全ての定量的な測定値の分析には適切な統計手法を用いる」とすることで合意した。最初の補足パラグラフにおける潜在的な毒性に関する評価では「タンパク質の構造と機能を考慮すべき」とすることで合意した。特別部会は現行の文章と「全く同一の」(identical)タンパク質について言及するという提案との折衷案として、当該タンパク質が、食品中で安全に消費されてきたタンパク質と「非常に類似」(closely similar)した場合以外は経口毒性試験を実施することもある、とすることで合意した。

代謝産物の評価

55. 特別部会はパラグラフ41(新版ではパラグラフ43)について、「残留」(residue)という用語には他の用途があるために混乱を来たす恐れがあるとして、この用語への言及を削除し「変化代謝産物」(altered metabolites)のみを考慮することで合意した。

免疫学的影響の評価

56. 特別部会は「アレルギー誘発性に関する添付資料」に関連し、パラグラフ44(新版ではパラグラフ46)の2番目の選択肢を微生物に限定して、同ガイドラインの添付資料として採択することを決定した。特別部会はCRD 7の添付資料として日本側が作成した草案に合意した。

57. 特別部会は、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」のパラグラフ43が「グルテン過敏性腸疾患」に言及しているため、同ガイドラインとの整合性を保ち明確性を期すために、パラグラフ45(新版ではパラグラフ47)を修正することで合意した。このため特別部会は、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」の「アレルギー誘発性に関する添付資料」のパラグラフ6にある2番目の文章を挿入して、パラグラフ45(新版ではパラグラフ47)の最初の文章とすることとした、また既知のアレルゲンに由来する遺伝子を避けることを明瞭に表すため、この文章には若干の修正を加えた。さらに特別部会は、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」のパラグラフ43を若干の修正を加えた上で組み込み、「グルテン過敏性腸疾患」の事例に対処することとした。

58. パラグラフ46(新版ではパラグラフ48)において、食品中で生存可能な組換えDNA微生物と胃腸管の免疫系との相互作用に関して、イタリアは「この相互作用に関する研究を行うために動物モデルまたはインビトロモデルを確立するという取組みをすべきである。」という文章の追加を提案した。特別部会は、これは研究目的にとっては有益な勧告であるが、現行のガイドラインは安全性評価に関する勧告の提供が目的であるため、現行のガイドラインには含めないということで合意した。

ヒトの消化器官における微生物の生存能力と定着に関する評価

59. 特別部会はパラグラフ47(新版ではパラグラフ49)において、腸内フローラにおける微生物が与え得る影響に関するFAO/WHO専門家会議の文章を脚注12(新版では脚注11)に加えるという修正を施すことで合意した。特別部会はさらに、脚注12(新版では脚注11)の3番目の文章における主語を「定着」(residence)から「持続」(persistence)に変更し、デンマークが提案したように、「持続」(persistence)という言葉を説明する文章としてパラグラフ4のD)の脚注にこの文章を移動させた。

60. 特別部会は、パラグラフ48(新版ではパラグラフ50)を検討した。同パラグラフでは、最終食品中に組換えDNA微生物が生存し続ける場合の安全性評価に関して、複数の選択肢が提案されている。特別部会は、微生物そのものの生存能力ならびに消化器官における食品基質内での微生物の生存能力および腸内フローラに対する影響を「適切な系」(appropriate system)によって提示することは「望ましい場合もある」(may be desirable)とすることで合意した。特別部会は、評価手法が十分に確立されていなかった現況において、この選択肢が柔軟性と実用性がもたらすと述べた。また、このような試験の範囲決定には、意図的な影響および非意図的な影響の本質を考慮すべきであることで合意した。

抗生物質耐性と遺伝子導入

61. 特別部会は、パラグラフ49(新版ではパラグラフ51)の最初の角括弧内の文章を検討した際、株が伝達可能な抗生物質耐性を有する場合について徹底的に討議した。この討議ではWHOの代表者が、抗生物質耐性の予防における地球規模的な手法の重要性を強調し、この分野において明確な勧告をするよう特別部会に促した。特別部会は、このような株を組換えDNA微生物の構築のための受容体候補として避けるべきか否か、または食品製造には禁止すべきか否かを検討した。代替案として、そのような株は最終食品中に残存すべきでないと特記するという提案がなされた。特別部会は討議の結果、食品内にこのような株と遺伝子要素が存在する場合、抗生物質耐性が伝達可能な抗生物質遺伝子によってコード化される食品製造には、このような株を使用しないことで合意した。

62. 特別部会はパラグラフ52(新版ではパラグラフ54)において、明確性を期すために米国が提案したように、2番目の中点の括弧付き文章を置き換えて、「組換えDNA微生物が胃腸官内で生存する場合、遺伝物質が非意図的に伝達される受容体生物に対し選択的優位性をもたらす可能性のある遺伝子は、遺伝子構築において避けるべきである。」(where the recombinant-DNA microorganism will remain viable in the gastrointestinal tract, genes should be avoided in the genetic construct that could provide a selective advantage to recipient organisms to which the genetic material is unintentionally transferred.) とすることで合意した。

組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案の現状

63. 特別部会は、ステップ8での採択を求めて「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」を総会に上程することで合意した。本文は「アレルギー誘発性に関する添付資料」と共に、本報告書の付属資料IIに示した。

トレーサビリティに関する公開討論(議題5)8

64. 特別部会は、前回の会議でトレーサビリティに関する自由討論の開催を決定したことを再確認し、今回の討論が「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案」で既に得られている合意事項を覆したり、特定の勧告またはガイドラインの提示に至るべきではないことを再確認した。特別部会は、コーデックス委員会および地域調整委員会で進行中のトレーサビリティや製品追跡 (product tracing) の議論について、事務局から報告を受けた。

65. 特別部会はフランスから、一般原則に関する次回の委員会でコーデックス事務局が作成したディスカッションペーパーについて検討する予定であるとの報告を受けた。このペーパーはトレーサビリティの定義に関する検討事項を扱ったもので、地域調整委員会における討議結果を考慮して作成された。

66. 数ヵ国によって、トレーサビリティに関する討議は特別部会が着手したものであることが再確認され、全てのコーデックス関連委員会でのこの問題の再検討が支持された。

67. ギリシアは欧州連合の加盟国を代表して、今回の特別部会の議題にこの項目を入れたことを歓迎し、トレーサビリティが食品安全性に関係するリスク管理手段としてだけでなく、様々な表示内容に関する規制・検証を可能にする手段としても重要であるという見解を示した。また、昨年まとめられた「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案」にトレーサビリティを含めたことを評価した。ノルウェーもこれらの見解を支持した。

68. 米国は、特別部会でのトレーサビリティの討議を歓迎し、公衆衛生を目的とする「製品追跡」の使用には賛成したが、バイオテクノロジー応用食品の表示への適用には反対であった。同国はまた、食品医薬品局 (FDA) が「製品追跡」の概念を含めた新しい規制を提案することとなっているが、これは一進一退であり、この規制はFDAが規制する全ての食品に関する記録の確立と保持を求めるものであると報告した。

69. 欧州共同体(EC)のオブザーバーは、現在、ECが遺伝子組換え食品および飼料の認可・表示・トレーサビリティに関する法律を策定中であると報告した。この法律は、既に草案としてSPSおよびTBT委員会に通知されており、公衆衛生と消費者への情報のために遺伝子組換え食品のトレーサビリティを求めるものである。同オブザーバーはさらに、現行のECの法律ですでに全ての食品のトレーサビリティを求めているものの、特定の食品部門に関して特別なトレーサビリティ要件を設けることが出来る旨を規定していると述べた。そしてトレーサビリティに関する討議をコーデックス内で継続すべきであるという見解を示した。

70. 49パラレルバイオテクノロジーコンソーシアムのオブザーバーは、消費者団体が各国政府に対し、例えば健康に有害影響を及ぼす場合の責任を証明する際に、トレーサビリティの概念を受け入れるよう強く求めており、これは遺伝子組換え食品にとって特に重要な側面であるという見解を示した。

71. 消費者食品団体国際協会(International Association of Consumer Food Organization)のオブザーバーは、今回の特別部会でトレーサビリティを討議する機会を得たことを評価し、消費者がトレーサビリティの討議および消費者保護への適用に強い関心を持っていると報告した。

72. カナダは、「モダンテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案」のパラグラフ21が重要であるとし、その適用を支持した。同国はまた、トレーサビリティを適用することで公衆衛生上懸念すべき食品を特定・回収でき、リスク管理に貢献するという見解を示した。

73. グリーンピースインターナショナルのオブザーバーは、遺伝子工学を用いて改良した食品の扱いに関して、カナダの意見が非常に重要であるという見解を示した。同オブザーバーはまた、トレーサビリティの重要な役割は、食品(特に遺伝子工学を用いて改良した食品)の加工・販売に関する情報を消費者に提供し、透明性を保証することであると述べた。

74. ブラジルは発展途上国を代表して、トレーサビリティの重要性は認めるものの費用が導入の大きな妨げとなっており、貿易障壁として利用される可能性もあるという見解を述べた。同国はまた、特別部会がコーデックス内でトレーサビリティに関する討議を開始したことに触れ、この討議は継続すべきであると述べた。

75. メキシコは、全ての食品に対してトレーサビリティを検討すべきであるという見解を示し、トレーサビリティが人間の健康や国際貿易のリスク管理にとって重要な要素であると述べた。同国はトレーサビリティとカルタへナ議定書との関係を強調した。

76. 日本は、国内ではトレーサビリティの定義に関して共通の明確な理解が得られていないという懸念を表明した。同国は、国内でもトレーサビリティの要素が強調されており、特にウシ海綿状脳症(BSE)問題の発生後にこれらの要素が導入されたとも述べた。さらに、コーデックス内でのトレーサビリティの討議は遺伝子組換え食品に限定すべきでないという見解を示した。トレーサビリティ/製品追跡は、安全策としてだけでなく、消費者への情報などTBT手段としても重要な役割を果たしていると述べた。また、日本国政府は食品法を改正し、特に牛肉製品に関し、トレーサビリティ/製品追跡の包括的な制度を導入すると説明した。

77. アルゼンチンは、ブラジルの意見に賛同し、公衆衛生にとって必要な場合、トレーサビリティを全ての食品に適用すべきであるという見解を示した。同国はまた、トレーサビリティに関する輸入国の要件があるために、発展途上国においては遺伝子組換え技術の使用が制限される可能性があると述べた。

78. オーストラリアも、トレーサビリティは食品安全性の全ての問題に適用できると述べ、この問題をコーデックス内でより幅広く討議することを歓迎した。同国は、トレーサビリティよりも「製品追跡」(product tracing)という用語の方が、コーデックスの制度においては容認されているという見解も示した。さらに、製品追跡は安全でない食品を回収する重要な手段であるが、食品が市場に出る前の安全性の確保を優先すべきであると述べた。

79. 中国は、トレーサビリティは全ての食品にとって重要であるが、残念なことに費用がかかると述べた。同国はまた、トレーサビリティについてさらに討議を重ね、発展途上国への適用に関して討議する必要があるという見解を示した。

80. 議長は各国ならびにオブザーバーの建設的な意見に謝意を表し、討議の要点をまとめた。すなわち、トレーサビリティに関する検討が今回の特別部会から開始され、コーデックスの枠組内でさらなる討議を継続するという合意が得られたこと、食物連鎖において食品の安全性を確保するにはトレーサビリティまたは製品追跡が重要であること、トレーサビリティは透明性ならびに情報の改善に対する消費者からの要請に対処できること、そして、特に公正な貿易を保障するためにトレーサビリティの実施が与える発展途上国への影響についてさらに検討すること、である。

その他の事業(議題6)

81. WHOの代表は、Codexの親機関(FAOおよびWHO)が特別部会の成果を評価している旨を表明し、非常に複雑な分野においてでさえコーデックスの作業を効率的に進めている良い手本となっていると述べた。特別部会が4年という短期間に3つの重要で質の高い文書を首尾よく作成したことは、敬服に値すると述べた。また、遺伝子組換え食品に関する作業 (特に、遺伝子組換え動物、農業に使用されるかまたは安全使用の歴史がない遺伝子組換え微生物、また安全性評価試験の手法などの分野において) は、コーデックス内で継続することの重要性を強調した。さらにFAOとWHOが魚類も含めた遺伝子組換え動物由来食品の安全性評価に関する専門家会議の開催を検討していることを報告した。WHOの代表者ならびにECのオブザーバーは、遺伝子組換え食品に関する倫理観や社会経済的な検討など、遺伝子組換え食品に関連する幅広い問題に関する討議の重要性を強調した。さらに特別部会への提案として、遺伝子組換え食品に関するコーデックス内での作業続行の問題を次回のコーデックス委員会に委ねる措置を講じるよう求めた。

82. 特別部会は、各国ならびにオブザーバーから以下の事項が提案されたと述べた。

クローン動物
低レベルの非認可の遺伝子組換え食品の混入
モダンバイオテクノロジーに関連するその他の正当な要因
発展途上国特有のニーズ
製薬用および工業用化学製品に開発された遺伝子組換え作物
GMO以外の新規食品

83. モダンバイオテクノロジー利用食品に関するWHOの今後の作業に対する貢献を評価し、この分野におけるFAOおよびWHOの今後の作業を支援する国やオブザーバーもいた。彼らはまた、特別部会の作業も評価し、モダンバイオテクノロジー利用食品に関する作業のコーデックス内での継続を提案した。米国およびECのオブザーバーは、日本政府によるバイオテクノロジー利用食品に関する特別部会の主催継続を望んだ。ブラジルは、モダンバイオテクノロジー利用食品についてコーデックス内で討議できるようにすることは重要で、発展途上国にとっても同じであるという見解を示した。

84. 米国とオーストラリアは、WHOの代表による提案はコーデックス委員会で討議すべきであり、遺伝子組換え食品に関する今後の作業は食品安全性の問題に焦点を絞るべきであるという見解を示した。さらにオーストラリアは、今後の作業は中期計画に沿って実施する必要があると述べた。

85. カナダは、WHOの代表による提案は遺伝子組換え食品に関する作業への重要な考慮点を示しているという見解を示した。しかし同国は、提案項目の中にコーデックスの権限外の作業があると指摘し、FAOとWHOまたは他の国際機関にこれらの事項について必要に応じて検討するよう促した。

86. 南アフリカは、コーデックスならびにFAO/WHOの取組みによって遺伝子組換え食品の評価に関する国際的な基準点を持つことは、発展途上国にとって非常に重要であるという見解を示した。


作業状況一覧

項目 ステップ 実施主体 ALINORM 03/34Aに
おける参考箇所
組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案 8 各国政府
第26回CAC
パラグラフ63


1 CX/FBT 03/1
2 CX/FBT 03/2
3 CX/FBT 03/3
4 ALINORM 03/34付属資料V、CL 2002/40-FBT、CX/FBT 03/4(ブラジル・カナダ・キューバ・フランス・オランダ・ニュージーランド・南アフリカ・スペイン・スウェーデン・CIの意見)、CX/FBT 03/4 追加1(デンマーク・日本・英国・米国の意見)、CX/FBT 03/4 追加2(イランイスラム共和国の意見)、CRD 1および2(フランスの本文の修正案)、CRD 3および4(スペインの本文の修正案)、CRD 5(アルゼンチンの意見)、CRD 6(イタリアの意見)、CRD 7(日本の意見)、CRD 8(スペインの意見)、CRD 10(フィリピンの意見)、CRD 11(オーストラリアの意見)、CRD 12(大韓民国の意見)、CRD 13(メキシコの意見)、CRD 14(パラグラフ7に関する作業班)、CRD 16(パラグラフ24に関する作業班)、CRD 17(パラグラフ33に関する作業班)
5 CRD 14(パラグラフ7に関する作業班)
6 CRD 16(パラグラフ24に関する作業班)
7 CRD 17(パラグラフ33に関する作業班)
8 CX/FBT 03/2、CRD 9(米国の意見)、CRD 13(メキシコの意見)、CRD 15(欧州連合の意見)


付属資料II

組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の
実施に関するガイドライン案

(規格作成手続きステップ8)


セクション1-適用範囲

1. 本ガイドラインは「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」を支持し、組換えDNA微生物の作用を利用して製造した食品の安全性および栄養的局面を扱う1。こうした食品の製造に用いる組換えDNA微生物は、一般的に食品製造において安全かつ意図的に使用されてきた歴史を有する株に由来するモダンバイオテクノロジー技術を用いて得られる。しかし、受容体株に安全に使用されてきた歴史がない場合は、その安全性が確立されるべきである2。こうした食品・食品成分には生存能力のある組換えDNA微生物を含む場合または生存能力のない組換えDNA微生物を含くむ場合がある。また、組換えDNA微生物を利用し発酵により製造されるが、組換えDNA微生物は既に除去されている可能性もある。

2. 以下の問題は、他の組織でまたは他の手段によって検討する必要があることを考慮し、本文書では扱わない。

農業に利用される微生物(植物保護を目的とした利用、バイオ肥料、動物飼料への利用またはその飼料が投与された動物に由来する食品等)の安全性
食品製造に用いられる組換えDNA微生物の環境への放出に関わるリスク
食品製造に用いる酵素を含み添加物や加工補助剤として用いられる微生物によって製造された物質の安全性3
食品への微生物利用に起因するであろう特定の趣旨の保健効果または健康に効果的作用
組換えDNA微生物を扱う食品製造作業者の安全性に関わる問題

3. 食品製造に用いられている多様な微生物は、科学的な評価が実施される以前から長年に亘って安全に利用されてきた。例えば、生存微生物の摂食を含み、それらを用いて製造される食品に関連する潜在的リスクの全てを完全に明らかにする方法で科学的に評価されて来た微生物はほとんどない。さらに、リスク分析に関するコーデックス原則、特にリスク評価に関する原則は主に、食品添加物や残留農薬等の化学物質、または同定可能な危害やリスクを有する特定の化学・微生物汚染物質等の識別のために用いることを目的としている。則ち、それらは、本来、微生物発酵によって変化した食品や食品加工に微生物を意図的に利用することを目的としていない。実施されている安全性評価は、規定された試験の結果を評価することよりも、これらの微生物の病原性に関連する特性が無いこと、またはこうした微生物の摂取に起因する有害作用の報告が無いことに重点を置いている。さらに、多くの食品には、従来の安全性試験手法を用いた場合有害と見なされるであろう物質が含まれている。従って、丸ごとの食品の安全性を検討する場合は、より的を絞った方法が必要となる。

4. この手法の策定において検討する情報には以下のものが含まれる。

A) 食品製造における生存微生物の利用
B) こうした生物において生じた可能性の高い遺伝子組換えの種類の検討
C) 安全性評価の実施に利用できる方法の種類
D) 遺伝的安定性、遺伝子伝達の可能性、胃腸管のコロニー形性とその持続性4、組換えDNA微生物における胃腸内フローラ(細菌叢)や哺乳類宿主との相互作用、組換えDNA微生物の免疫系への影響など食品製造で用いる微生物に固有の問題

5. この手法は、組換えDNA微生物を用いて製造した食品の安全性について、組換えDNA微生物を用いて製造した食品のみならず微生物そのものについても、安全使用の歴史を有する既存の対応物との関連で評価するという原則に基づいている。この手法は意図的な影響と非意図的影響の両方を考慮に入れたものである。その目的は特定食品や微生物に関わる危害のすべてを明らかにするというよりはむしろ、既存の対応物との比較において新規のまたは改変した危害を明らかにすることである。

6. この安全性評価手法は、「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」のセクション3で述べられたリスク評価の枠組みにはいる。新たなまたは改変された危害や、栄養学的なまたはその他の食品安全性の問題を安全性評価によって明らかにする場合には、それに関わるリスクをまず評価してヒトの健康との関連を調べる。安全性評価、また必要に応じ追加リスク評価を行った後、食品または製造過程で用いた微生物などの食品成分は市販を検討する前に「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」に沿って、リスク管理に関する検討を行う。

7. 消費者の健康影響に関する上市後モニタリング等のリスク管理措置はリスク評価過程の助けとなりうる。これについては、「バイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案」のパラグラフ20に述べられている。

8. 本ガイドラインでは、既存の対応物との比較に基づき、組換えDNA微生物を用いて製造した食品の安全性を評価するために推奨された手法を示している。安全性評価は、食品製造に用いる組換えDNA微生物の安全性、さらに、必要に応じて、食品に組換えDNA微生物を作用させることによって生成された代謝産物に注目することとなる。このガイドラインでは、こうした評価の際に一般的に適用されるデータと情報を明示している。組換えDNA微生物または組み換えDNA微生物を利用して製造された食品を個別の既存の対応物と比較する時は、それらが意図した影響の結果であるかどうかに関わらず、確認される如何なる相違性についても考慮すべきである。組み換えDNA微生物と食品基質や腸内フローラとの相互作用並びに新たに発現したタンパク質や二次代謝産物の安全性について十分な検討がなされる必要がある。このガイドラインは組換えDNA微生物を用いて製造した食品またはその成分を対象としたものであるが、ここに示した手法は一般的に、その他の技術で改変された微生物を用いて製造された食品にも適用できる。

セクション2-定義

9. このガイドラインでは以下の定義を用いる。
「組換えDNA微生物」とは、細菌、イーストまたは糸状菌であって、その遺伝物質を組換えデオキシリボ核酸(DNA)や核酸の細胞・細胞小器官への直接注入などのインビトロ核酸技術により変化させたものを指す。

「既存の対応物」5とは、以下のいずれかを指す。

食品の製造または加工において、安全に使用されてきた既知の歴史を有し、組換えDNA株に関わる微生物または株である。
微生物は食品中で生存能力を有する場合がある、または加工中に除去されあるいは生存不能になる場合がある。
食品製造における一般的使用に基づき安全性が実証されている従来の食品製造微生物を用いて製造した食品

セクション3-食品安全性評価の導入

10. 微生物を意図的に成長させることにより製造された食品のほとんどは古来株に由来し、科学的な安全性評価方法が登場するずっと以前から安全と考えられている。微生物は、従来の技術を用いるかモダンバイオテクノロジーを用いるかに関わらず、成長速度が早いなど短期間で遺伝子組換えを可能にする性質を有する。従来の遺伝子技術による食品製造で用いられる微生物は、一般的に、上市前に広範な化学的、毒性学的、疫学的または医学的な評価が体系的に実施されることはなかった。しかし微生物学者、菌学者および食品技術者は食品製造において有効な表現型の特徴について細菌、イーストおよび糸状菌の新しい菌株を評価してきた。

11. 組換えDNA微生物の安全性評価では、食品における関連微生物の使用、組換えDNA微生物または組換えDNA微生物を構築するために用いられる受容体株内に病原体のの特徴であることが分かっている特性を有しない旨、受容体・関連生物に起因する既知の副作用に関して記録すべきである。さらに、組換えDNA微生物が直接食品に影響を及ぼしまたは残留する場合は、食品の安全性への如何なる影響も調べる必要がある。

12. 毒性学的な指標の評価において動物モデルを用いることは、農薬など多くの化合物のリスク評価において主要な要素である。しかしほとんどの場合、被試験物質の特徴は十分に明らかにされており、純度が既知で、特別な栄養的価値がなくそれに対するヒトの曝露は一般的に低い。従って、ヒトに重点を置いた潜在的な健康上の有害影響を明らかにするために、こうした化合物をヒトの予想曝露量より数段階多い一定範囲内の用量で動物に投与することは比較的簡単である。この方法ではほとんどの場合、有害影響が認められない曝露量を概算し、適切な安全性係数の適用によって安全な摂取量を設定することは可能である。

13. 丸ごとの食品に関するリスク試験については、それが化合物の複雑な混合物であり、しばしば組成や栄養価において多様であるため、動物試験を容易には適用できない。量が多く満腹になるため、動物に与えることのできる量は通常はヒトの食事に含まれると考えられる量の数倍でしかない。さらに、食品に関する動物試験の実施に当たり、物質そのものには直接関係しない有害影響の誘発を避けるため、使用される食餌の栄養価とバランスを考慮することが重要である。従って、潜在的な有害影響を判定し、食品の個々の特性との関係を確実に示すことは非常に困難であろう。特性判定の結果、十分な安全性評価を行うにはデータが不十分であることが示唆された場合は、適切に計画された動物実験を実施するよう要求することもできる。動物試験の必要性を判断する際に考慮すべきもう1つの事項は、有意義な情報を生み出す可能性が低い場合に、動物をこうした試験に使用することが妥当であるかどうかということである。

14. 一般的に毒性学的評価で用いる動物試験は、食品製造に用いられる微生物の摂取に関わる潜在的なリスクの判定試験には容易には適用できない。微生物は生命体であり、多くの生化学物質で構成される複雑な構造を持つため、純粋な化合物と比較することはできない。いくつかの加工食品においては、微生物が加工や摂取の後も生き延び、競争し、またいくつかの場合は、腸内環境でかなりの期間生存することが可能である。その供与体または遺伝子・遺伝子産物が食品において安全に使用された歴史がない場合は、修飾された遺伝物質と遺伝子産物の特徴付けおよび供与体に関する入手可能な情報を考慮し、組換えDNA微生物の安全性を評価するために、適切な動物試験を使用すべきである。さらに、食品の栄養価や食品中に新たに発現した物質の生体利用率を評価するためには、適切に計画された動物試験であれば使用することができる。

15. 微生物を用いて製造した丸ごとの食品について従来の毒性学的試験やリスク評価法を適用することは難しいため、組換えDNA微生物を用いて製造した食品の安全性評価にはより的を絞った手法が要求される。これには、実質的同等性の概念を用い、意図した影響、修飾の本質、微生物におけるまたは食品に及ぼすその作用において生じる可能性のある検出可能な非意図的変化を考慮に入れた、安全性評価のための学際的手法を開発することによって対処してきた6

16. 安全性評価は組換えDNA微生物を対象として行われるが、安全性評価過程の主要段階である実質的同等性の概念を適用する際は食品基質との相互作用に関する補足的情報も考慮すべきである。しかし、実質的同等性の概念は安全性評価そのものではない。むしろ、既存の対応物に応じた組換えDNA微生物と既存の対応物に応じた組換えDNAを利用して製造した食品の両方の安全性評価を構築するために使用される出発点である。この概念は、食品加工において使用される組換えDNA微生物や組換えDNA微生物を使用して製造された食品と、パラグラフ9に定義された個々の既存の対応物における評価上の類似点および相違点を明らかにするために用いられる。これは潜在的な安全性や栄養学的な問題の確認において助けとなる、また組換えDNA微生物を使用して製造された食品の安全性評価において、現在のところ最善の方法であるとみなされている。この方法で実施した安全性評価は、新しい製品の絶対的安全性を意味するものではなく、むしろ組換えDNA微生物と組換えDNA微生物を使用して製造された食品の両方の安全性を既存の対応物との比較において考慮できるように、同定された相違点の安全性を評価することに重点を置いている。

非意図的影響

17. 受容体生物におけるDNA伝達や維持のために用いるものを含めて同定されたDNA配列の追加・置換・除去・再配列によって微生物に特定の標的形質(意図的影響)を導入する際、余分な形質が得られたり、既存の形質が失われたり修飾される場合がある。非意図的影響が発生する可能性は、インビトロの核酸技術の使用に限られるものではない。むしろ、従来の遺伝子技術や手法を用いた菌株の開発において、または微生物が意図的・非意図的な選択的圧力に曝露されることによって起きる可能性のある本質的で一般的な現象である。非意図的影響は、他の微生物との競争、微生物の生態学的適応性、摂取後の微生物のヒトに対する影響または微生物を用いて製造した食品の安全性の観点で、有害である場合、有益である場合、またはどちらでもない場合がある。組換えDNA微生物における非意図的影響は、DNA配列の意図的組換えによって生じる場合もあり、組換えまたは組換えDNA微生物におけるその他の自然事象によって起きる場合もある。安全性評価には、組換えDNA微生物由来食品がヒトの健康に対して予期せぬ有害影響をもたらす可能性を軽減するためのデータ・情報を含むべきである。

18. 非意図的影響は、ある微生物にとって新たなDNA配列を微生物ゲノムに挿入することによって、生じる可能性がある。これらは自然界に存在する転移性の遺伝的要素の活性後に認められる影響と比較することができる。DNAの挿入によって、受容体のゲノムの遺伝子発現に変化が起きる可能性がある。非相同供給源のDNAを遺伝子に挿入することにより、融合タンパク質と呼ばれるキメラタンパク質が合成される場合もある。さらに遺伝的不安定性およびその影響も検討すべきである。

19. 非意図的影響から新たなまたは改変された形態の代謝産物が形成されることもある。例えば、高濃度での酵素の発現や当該生物にとって新規の酵素の発現が二次的な生化学的影響を及ぼし、または代謝経路の調整に変調を来したり、若しくは代謝産物の量が変化したりする。

20. 遺伝子組換えによる非意図的影響は、2種類に分類できる。「予測可能」な影響と「予期せぬ」影響である。多くの非意図的な影響は加えられた形質、その代謝的影響、また挿入部位が分かれば、大部分が予測可能である。微生物ゲノムや生理学に関する知識が増大していること、また遺伝子操作の他の形態と比較して組換えDNA技術によって導入された遺伝物質の機能の特異性が高まっていることにより、特定の修飾による非意図的な影響の予測が容易になる可能性がある。分子生物学および生化学技術を利用して、非意図的影響を招く恐れのある転写や翻訳の段階において起きる変化を解析することもできる。

21. 組換えDNA微生物を用いて製造した食品の安全性評価には、こうした非意図的影響を同定し検出する方法や、その生物学的関連や食品の安全性に対する潜在的影響を評価する手法が含まれる。個別の試験で、起こりうる非意図的影響を全て検出しまたはヒトの健康に対するそれらの関連を確実に同定することはできないため、非意図的影響の評価には多様なデータと情報が必要である。総合的な検討の結果、こうしたデータや情報により当該食品がヒトの健康に対して有害な影響を及ぼす可能性がないことが保証されるべきである。非意図的影響の評価においては、市販を意図した食品・飲料向けの菌株の改善のために一般的に選択される微生物の生化学的・生理学的特徴が考慮される。こうした判定は、非意図的形質を発現する微生物についての最初のスクリーニングとなる。このスクリーニングを通過した組換えDNA微生物はセクション4に示す安全性評価が課せられる。

食品安全性評価の枠組み

22. 組換えDNA微生物利用食品の安全性評価は、当該微生物の使用における安全性の判断に基づき、以下を含む関連要因を扱う段階的過程に従う。

A) 組換えDNA微生物の記述
B) 受容体微生物と食品製造におけるその利用の記述
C) 供与体の記述
D) ベクターと構成体を含む遺伝子組換えの記述
E) 遺伝子組換えの特徴付け
F) 安全性評価
a. 発現物質: 潜在的毒性および病原性に関わるその他の形質の評価
b. 主要成分の組成分析
c. 代謝産物の評価
d. 食品加工の影響
e. 免疫学的影響の評価
f. ヒトの胃腸管における微生物の生存可能性および定着に関する評価
g. 抗生物質耐性と遺伝子伝達
h. 栄養的修飾

23. 特定の場合には、微生物および微生物を利用して製造または加工した食品の特徴によっては、検討中の微生物および製品に固有の問題を扱うために、データ・情報をさらに整備することが必要となる場合がある。

24. 安全性評価のためのデータの整備を目的とする試験は、科学的に信頼できる概念と原則に従うと共に、必要に応じGLPに従って計画・実施すべきである。一次データは、要請があれば規制当局が利用できるようにすべきである。データは科学的に信頼できる方法を用いて入手し、適切な統計学的技術を用いて解析すべきである。分析方法では全て感度を示すべきである。

25. 安全性評価の最終目標は、利用できる最善の科学的知識に照らして、その食品が意図した使用目的に従って調製または消費された場合に有害とならないこと、生存可能な生物が食品中に残存する際に当該生物そのものが有害とならないことを保証することである。安全性評価では、免疫障害を持つ個人、乳児、および高齢者を含めた母集団全体の保健問題を扱うべきである。こうした評価において期待される指標は、栄養成分含量や栄養価の変化が食事に及ぼす影響を考慮に入れた上で、新規食品および微生物が既存の対応物と同程度に安全であるかどうかの結論を得ることである。微生物が摂取時点で生存の可能性がある場合は、胃腸管における組換えDNA微生物の定着や、必要に応じ、微生物とほ乳類(特に人)の胃腸内フローラとの相互作用や組換えDNA微生物の免疫系への影響を考慮に入れて、微生物の安全性を既存の対応物と比較すべきである。基本的に、安全性評価過程の最終目標は、リスク管理者が人の健康保護を目的として何らかの措置が必要かどうかを判断することができ、またそれが必要な場合には十分な情報の入手が可能で、この点に関し適切な決定を下すことができる方法で、検討中の製品を明確にすることである。

セクション4-一般的検討事項

組換えDNA微生物の記述

26. 安全性評価の対象となる細菌、イーストまたは真菌の菌株と食品について記述すべきである。この記述は、生物または安全性評価の対象となる当該生物を使用して製造された食品の本質を理解する際に役立つものであることが望ましい。食品製造に使用されるかまたは食品中に含まれる組換えDNA微生物は、分子学的方法を用いて適切に同定を行い保管培養基として、できれば確立された培養コレクションで保管すべきである。これは、当初の安全性評価を見直す際に役立つであろう。こうした保管培養基は、要請があれば規制当局が利用できるようにすべきである。

受容体微生物および食品製造におけるその使用の記述

27. 受容体微生物または組換え対象となる微生物について包括的に記述すべきである。受容体微生物は、食品製造における安全な使用または食品中での安全な消費の歴史を有するべきである。毒素、抗生物質、またはその他、食品に存在すべきではない物質を生成する、遺伝的に不安定となるか抗生物質耐性に至る恐れのある、または病原性に関わる機能を伝達する遺伝子(病原性島 (pathogenicity island)または病原性因子 (virulence factor)として知られる)を含む可能性がある遺伝的要因を有する、といった生物については、受容体としての使用を検討すべきではない。必要なデータと情報には以下のものを含むが、それに限定されない。

A) 本体確認:学名、一般名、微生物を示すその他の名称、株の名称、株やその起源に関する情報、当該生物やその前身物質の入手が可能な公認培養保管庫の取得番号やその他の情報、必要に応じて分類に役立つ情報
B) 利用・培養歴、菌株の開発に関する既知の情報(突然変異の分離または菌株の構築に用いた先祖株など)、特にヒトの健康に有害な影響を及ぼす可能性のある形質の同定に関する情報
C) 既知の毒素、抗生物質、抗生物質耐性要因または病原性に関する他の要因もしくは免疫学的影響を含み、安全性に関わる受容体微生物の遺伝子型と表現型に関する情報、および微生物の遺伝的安定性に関する情報
D) 食品製造において安全に用いられたかまたは食品中で安全に消費された歴史。
E) 受容体微生物の培養に用いられる関連する製造要因についての情報

28. 関連する表現型・遺伝子型の情報は、特に関連種が食品に用いられたり、ヒトや他の動物における病的影響に関わる場合は、受容体微生物についてのみならず、関連種および受容体株の機能に影響を及ぼす染色体外の遺伝的要素についても提供すべきである。必要に応じ、挿入配列・トランスポゾン・プラスミド・プロファージなど可動性DNA要素の存在を含め、受容体微生物の遺伝的安定性に関する情報を考慮すべきである。

29. 使用歴には、受容体微生物が一般的にどのように増殖・輸送・保管されるのか、菌株の本体や微生物・食品の製造仕様を確認するための方法など一般的に採用されている品質保証法、またこうした生物が加工後も食品中に生存できるかどうか、加工の結果除去されたり生存が不可能になるかどうか、などに関する情報が含まれる。

供与体の記述

30. 供与体および適用可能なら中間生物、必要に応じ関連生物に関する情報を提示すべきである。供与体または中間生物、その他密接に関連する種が自然に病原性または毒素生成の特徴を示すか否か、ヒトの健康に影響するその他の形質を有するか否かを決定することは、特に重要である。供与体または中間生物の記述には以下を含むべきである。

A) 本体確認:学名、一般名、生物を示すその他の名称、株の名称、株やその起源に関する情報、当該生物やその前身物質の入手が可能な公認培養保管庫の取得番号やその他の情報、必要に応じて分類に役立つ情報
B) 食品の安全性に関わる生物または関連生物に関する情報
C) 既知の毒素、抗生物質、抗生物質耐性要因・病原性に関わる他の要因、または免疫学的影響を含み、安全性に関わる微生物の遺伝子型と表現型に関する情報
D) 可能なら食品供給および意図した食品用途以外の曝露経路(汚染物質としての存在の可能性など)における、過去および現在の使用に関する情報

ベクターおよび構成体を含む遺伝子組換えの記述

31. 遺伝子組換えに関する十分な情報を提供して、受容体微生物に伝達されまたはその中で組換えられた可能性のある遺伝物質の同定を可能にすると共に、微生物ゲノムに添加され、挿入され、その中で組換えられまたはそこから除去されたDNAの特徴付けを裏付けるデータの解析のために必要な情報を提供すべきである。

32. 株の構築過程の記述には以下を含むべきである。

A) 遺伝子組換えに用いる特定の方法に関する情報
B) 供給源(植物、微生物、ウイルス、合成など)、組換えDNA微生物における同定と期待される機能、プラスミドについてのコピー数など微生物組換えに用いるDNAに関する情報
C) 最終受容生物への導入前にDNAを製造・加工するために用いる生物(他の細菌や真菌など)を含む中間受容体生物

33. 以下を含めて、添加され、挿入され、削除され、または組換えられたDNAに関する情報を提供すべきである。

A) マーカー遺伝子、ベクター遺伝子、DNAの機能に影響を及ぼす調整およびその他の要素を含み遺伝的構成成分のすべてに関する特徴付け
B) サイズと同定
C) 最終ベクター・構成体における配列の位置と方向
D) 機能

遺伝子組換えの特徴の明示

34. 組換えDNA微生物を利用して製造した食品の組成や安全性に対する遺伝子組換えの影響に関し、明確な理解に資するため、遺伝子組換えについての包括的な分子的・生化学的特徴付けを実施すべきである。安全性評価を円滑化するため、挿入するDNAは望ましくは意図した機能の発現に必要な配列に限定すべきである。

35. 組換えDNA微生物におけるDNA組換えに関する情報を提示すべきである。これには以下を含むべきである。

A) プラスミドや目標とする遺伝子配列の伝達に用いられるその他のキャリヤーDNAなど、添加・挿入・削除されたかまたはその他の修飾が行われた遺伝物質の特徴付けと記述。これには、使用されたプラスミドまたはその他遺伝的要素の流動化の可能性に関する解析、添加・挿入・削除されまたはその他組換えが行なわれた遺伝物質(染色体または染色体外の部位)の位置、多重コピープラスミドに位置する場合はそのプラスミドのコピー数を含むべきである。
B) 挿入部位の数。
C) 各挿入部位における組換え遺伝物質の構成および周囲配列、これには、挿入・組換え・削除された物質、プラスミド、または目標とする遺伝子配列を伝達するために使用されるキャリヤーDNAのコピー数および配列データを含む。これは、挿入・組換え・削除された物質の結果として発現した如何なる物質の同定をも可能にするであろう。
D) 融合タンパク質を生じるものを含め、挿入されたDNA内のオープンリーディングフレームまたは染色体・プラスミド内の連続DNAに対する組換えによって生成されたオープンリーディングフレームの同定。
E) 潜在的な有害機能をコード化しまたは有害機能の発現に影響することが知られている配列に関する特記。

36. 組換えDNA微生物中の発現物質に関する情報を提示すべきである。これには以下を含むべきである。

A) 遺伝子産物(タンパク質や非翻訳RNAなど)または食品に存在する可能性のある新規物質を同定するため転写または発現産物の分析などを含むその他の情報。
B) 遺伝子産物の機能
C) 新形質の表現型に関する記述
D) 発現遺伝子産物の微生物における発現の量と部位(細胞内、グラム陰性細菌の場合ペリプラスム間隙、真核微生物内では細胞小器官(organellar)、菌体外へ分泌)および、可能な場合は生物中の代謝産物の濃度
E) 発現配列や遺伝子の機能が特定の内因性mRNAやタンパク質の濃度を変化させる可能性がある場合、挿入遺伝子産物の量
F) 遺伝子組換えの意図する機能に適用可能な場合は、遺伝子産物がない旨、または遺伝子産物に関わる代謝産物の変化

37. さらに、以下を目的として情報を提供すべきである。

A) 細胞への導入後に組換え遺伝物質の配列が保持されているかどうか7や顕著な配列の転換が起きているかどうかを示す、また食品製造における使用に必要とされる程度まで組換え株が伝播しているかどうかを示す。これには、現行の技術に従った貯蔵の期間中に起こりうることを含む。
B) 発現タンパク質のアミノ酸配列を意図的に修飾することによって、翻訳後の修飾に変化が生じたり、構造・機能に不可欠な部位に影響を与えるかどうかを示す。
C) 修飾の意図する効果が達成されたかどうか、また発現した形質のすべてが食品製造における使用に必要とされる程度の伝播において安定でありかつ遺伝の法則に則った方法で発現され受け継がれているかどうかを示す。表現型の特徴が直接計測できない場合は、挿入または組換えDNAの遺伝または対応するRNAの発現を調べることが必要となる場合もある8
D) 新たに発現した形質が予想された通りに適切な細胞内の位置を標的として発現しているかどうか、または対応する遺伝子の発現を促進する関連調節配列に一致する方法・濃度で分泌されているかどうかを示す。
E) 受容体微生物における1つまたはそれ以上の遺伝子が修飾または遺伝的交換過程の影響を受けていることを示す根拠があるかどうかを示す。
F) 新規の融合タンパク質の本体と発現パターンを確認する。

安全性評価

38. 組換え微生物の安全性評価は、導入された変化の本質や程度に応じ、個別に実施すべきである。当該物質または密接に関連する物質は、その機能と曝露を考慮して安全に食品中で消費さている場合は、従来の毒性学試験を必要としない場合がある。その他の場合は、新規物質に関し通常のしかるべき毒性学やその他の試験の使用が必要な場合がある。同様に組換えDNA微生物の食品基質に対する影響を考慮すべきである。食品の特徴付けの結果、利用可能なデータでは総合的な安全性評価の実施には不十分であることが分かった場合は、組換えDNA微生物および/またはそれを使用して製造された食品を用い、適切に計画された動物試験やインビトロ試験が必要であると考えられる場合がある。

発現物質:潜在的毒性および病原性に関わるその他の形質に関する評価

39. 物質が、食品にとってまたは食品加工において新規である場合は、従来の毒性学試験やその他当該新規物質に適用可能な試験の実施が必要となる。このことは、当該新規物質を組換えDNA微生物から、もし当該物質が分泌される場合は食品から、分離することが必要となる場合もあり、また物質を別の供給源から合成しもしくは製造することが必要となる場合がある。いずれの場合も、物質が構造的・機能的・生化学的に組換えDNA微生物中で生成されたものと同等であることを証明すべきである。消費者のこの物質に対する想定される曝露、当該物質の潜在的摂取や食事に及ぼす影響に関し情報を提示すべきである。

40. 発現物質の安全性評価では、食品における機能と濃度を考慮すべきである。食品に残留する生存微生物数を測定し、既存の対応物と比較すべきである。全ての定量値は、適切な統計学的な手法を用いて解析すべきである。現在の食事由来の曝露および母集団中の小グループに対する影響の可能性も考慮すべきである。

タンパク質の場合、潜在的な毒性に関する評価では、当該タンパク質の構造および機能を考慮すべきである、また当該タンパク質と既知のタンパク質毒素や抗栄養素(プロテアーゼ阻害因子、シデロフォアなど)におけるアミノ酸配列類似性ならびに熱・加工安定性やしかるべき代表的な消化器系モデルにおける分解に対する安定性に注目すべきである。当該タンパク質は食品中に存在するが、これまで食品において安全に消費されてきたタンパク質と極めて類似しているものではなく、またこれまで食品において安全に消費されたことがない場合、既に明らかとなっている微生物の生物学的機能を考慮して、適切な経口毒性試験9を実施する場合もある。
これまで食品において安全に消費されたことがない非タンパク物質の潜在的な毒性は、当該物質の本体、濃度、生物学的機能および食事由来の曝露に基づき個別に評価すべきである。実施する試験の種類には、代謝、毒性動態、慢性毒性/発癌性、生殖機能に対する影響および催奇形性に関する評価が含まれる。

41. 新たに発現したり改変された特性は、ヒトの健康に有害である可能性のある供与体生物の特性に無関係であることを示すべきである。供与体生物に存在する既知の毒素や抗栄養素を合成するコードを指定する遺伝子が、通常はこうした毒性や抗栄養素の特徴を発現しない組換えDNA微生物に伝達されることがないことを担保するために、情報を提供すべきである。

遺伝子組換えによって生じる恐れのある如何なる物質、毒性代謝産物または抗生物質についても蓄積の可能性を考慮して、発現物質の毒性評価のためにインビボまたはインビトロの補足的試験が個別に必要になる場合もある。

主要要素の組成分析

42. 組換えDNA微生物によって製造された食品の主要要素10の濃度分析は、同じ条件下で製造された既存の対応物のための同等の分析と比較すべきである。観察された相違点の統計学的有意性は、生物学的有意性を判断するためにそのパラメータに関する自然の変動の範囲で評価すべきである。理想的には、この評価に用いられる比較対象は、ほぼ同一遺伝系親種を用いて製造された食品であるべきである。この比較の目的は、必要に応じて曝露評価と併せ、食品の安全性に影響を与える可能性のある物質がヒトの健康に有害な影響を与える恐れがある方法では変化していないことを明らかにすることである。

代謝産物の評価

43. いくつかの組換えDNA微生物については、結果的に、その生物を用いて製造した食品において多様な代謝産物が新たに生じ、またはその量を変化させる恐れがある方法で組換えが起こる可能性がある。代謝産物の量の変化が食品において明らかになった場合、こうした代謝産物の安全性を確立するための従来の方法を用いてヒトの健康に対する潜在的な影響を考慮すべきである(食品中の化学物質のヒトに対する安全性の評価手法など)。

44. 組換えDNA微生物によって新たな代謝産物が生成されまたは代謝産物量が変化することによって、混合培地に共存する微生物数を変化させ潜在的に有害生物の成長や有害物質の蓄積に関するリスクが高まることが考えられる。ナチュラルチーズ、みそ、しょうゆの製造など、複数微生物の共存する混合培地を食品加工に使用する場合は、ある微生物の遺伝子組換えが他の微生物に及ぼす潜在的影響を評価すべきである。

食品加工の影響

45. 組換えDNA微生物を使用して製造された食品については、家庭での調理を含め、食品加工がこれらの食品に及ぼす潜在的な影響も考慮すべきである。例えば、内因性毒素の熱安定性や重要な栄養素の加工後の生体利用率に変化が起きる恐れがある。従って、食品製造に用いられる加工条件を示す情報が必要である。例えば、ヨーグルトの場合、当該生物の成長と培養条件に関する情報が必要である。

免疫学的影響の評価

46. 挿入遺伝子に由来するタンパク質が食品中に存在する場合、アレルギーを誘発する可能性を評価すべきである。個人が既にそのタンパク質に感受性がある可能性について、また食品供給に新しいタンパク質が加えられた場合、それがアレルギー反応を誘発するかどうかについて検討すべきである。検討すべき問題の詳細はこのガイドラインの添付資料に示した。

47. 既知のアレルギー源から得られた遺伝子はアレルゲンをコード化するものと見なし、他に科学的根拠が示されない限り使用を避けるべきである。感受性のある個人にグルテン過敏性腸疾患を引き起こすことが既知の生物から得られた遺伝子の伝達は、伝達された遺伝子がアレルゲンやグルテン過敏性腸疾患に関与するタンパク質に対し暗号指定しないことが実証されない限り避けるべきである。

48. 食品中で生存し続ける組換えDNA微生物は、胃腸管の免疫系と相互作用を持つ場合がある。こうした相互作用に関する詳細な試験は、組換えDNA微生物と既存の対応物における相違点の種類によって異なる。

ヒトの消化器管における微生物の生存能力と定着に関する評価

49. 組換えDNA微生物を利用して製造する食品の中には、こうした微生物の摂取や定着11がヒトの腸管に影響を与えるものもある。こうした微生物をさらに調べる必要があるか否かは、食品中の既存の対応物の存在および遺伝子組換えの意図的・非意図的影響の本質に基づいて判断する。最終食品の加工によって生存微生物が除去される場合(製パン時の加熱処理など)、または微生物に対して毒性のある最終製品が蓄積(アルコールや酸など)することによって生存能力が排除される場合、消化器系における微生物の生存能力および定着については調べる必要はない。

50. 製造に用いる組換えDNA微生物が最終食品中で生存し続ける場合は(一部の乳製品中の生物など)、微生物単独のまた消化管における個々の食品基質内での生存能力(または定着時間)および腸内フローラに対する影響に関し、適切な実験系の中で提示すべきである。遺伝子組換えの意図的・非意図的影響の本質および既存の対応物との相違の程度により、こうした試験の範囲を決定することになる。

抗生物質耐性と遺伝子伝達

51. 一般的に、食品加工を目的として開発された微生物の従来株は、これまで抗生物質耐性について評価されたことがない。食品製造に用いられる多くの微生物には、特定抗生物質に対する耐性が内在する。こうした特性を有する場合、組換えDNA微生物の構築における受容体としてこうした株を検討の対象から除外する必要はない。しかし、抗生物質耐性が伝達性の遺伝的要素によってコード化されている株は、このような株や遺伝的要素が最終食品中に存在する場合は、使用すべきではない。こうした耐性遺伝子を含むプラスミド、トランスポゾン、インテグロンの存在が暗示される場合、特別に対処すべきである。

52. 安全性が実証されており、食品中に存在する生存微生物の抗生物質耐性マーカー遺伝子に頼らない代替技術は、組換えDNA微生物の選択を目的として使用すべきである。一般的に、抗生物質耐性マーカー遺伝子が最終構成体から除外されていれば、中間株の構築のために抗生物質耐性マーカーを使用することで、食品製造において最終株の使用を排除しうる有意な危害をもたらすことはない。

53. 定着する腸内フローラと摂取された組換えDNA微生物の間で、プラスミドおよび遺伝子の伝達が起こる可能性がある。組換えDNA微生物および組換えDNA微生物によって製造された食品から消化管微生物またはヒト細胞への遺伝子の伝達の可能性およびその影響も検討すべきである。伝達されたDNAは選択的圧力がなければ残留する可能性は低い。しかし、こうした事象の可能性を完全に無視することはできない。

54. 遺伝子伝達の可能性を最小化するために、以下の段階を検討すべきである。

挿入遺伝物質が染色体に組込まれることがプラスミドに局在するより望ましい場合がある。
組換え微生物が胃腸管で生存し続ける場合は、非意図的に遺伝物質が伝達される受容体生物に対し選択的優位性をもたらす可能性がある遺伝子は、遺伝子構築においては避けるべきである。
他のゲノムへの融和を媒介する配列は、導入遺伝物質の構築においては避けるべきである。

栄養学的な修飾

55. 主要栄養素に起こりうる組成の変化に関する評価は、組換えDNA微生物を利用して製造した食品の全てについて実施すべきであるが、これは既に「主要成分の組成分析」で扱っている。こうした修飾が行なわれた場合は、当該食品に関し、変化の影響ならびにこうした食品が食品供給に導入されることによって、栄養摂取に変化をきたす可能性があるかどうかを評価するために、さらに試験を実施すべきである。

56. 食品およびその派生物の使用と消費についての既知のパターンに関する情報を用い、組換えDNA微生物を用いて製造した食品の想定摂取量を概算すべきである。こうした食品の予測摂取量を用いて、通常の消費量と最大消費量の両方について改変された栄養特性の栄養学的意味を評価すべきである。消費の可能性が最も高いものの概算値を基盤とすることにより、望ましくない栄養学的影響の可能性を判定することができる。乳児・小児・妊産婦・授乳婦・高齢者・慢性疾患や免疫系疾患を有する人など特定母集団における特定の生理学的特性および代謝条件に注目すべきである。母集団中の特定小集団の栄養学的影響や食事に対する必要性の解析に基づき、栄養学的評価がさらに必要となる場合もある。修飾された栄養素は、どの程度まで生体利用性があり、時間・加工・保存に対し安定性を維持するかを確認することも重要である。

57. 微生物を利用して製造した食品の栄養レベルを変えるためにモダンバイオテクノロジーを使用すると、栄養特性に大きな変化が生じる可能性がある。微生物を意図的に修飾することにより、製品の全体的栄養特性が変化し、食品を消費する個人の栄養状態に影響を与えることもあり得る。全体的栄養特性に影響を及ぼす可能性がある変化によって生じる影響を調べるべきである。

58. 修飾によって既存の対応物とは組成が大きく異なる食品が生じる場合、食品の栄養学的影響を評価するための適切な比較対象として、通常の食品または食品成分(栄養学的組成が組換えDNA微生物を利用して製造した食品に近い食品)を追加して用いることは適切であろう。

59. 食品によっては追加試験が必要な場合もある。例えば、栄養素の生物学的利用性の変化が予測されたり、組成が通常食品とは異なる場合は、組換えDNA微生物を利用して製造した食品について動物給餌試験が当然必要となるであろう。また健康増進を目的とする食品については、特定の栄養学的・毒性学的試験またはその他適切な試験など、こうしたガイドラインの適用範囲を超えた評価が必要な場合がある。食品の特徴付けの結果、利用可能なデータでは総合的な安全性評価の実施には不十分であることが示唆された場合は、丸ごとの食品を対象とする、適切に計画された動物試験が必要となる場合がある。

安全性評価の見直し

60. 安全性評価の目標は、栄養量や栄養価の変化が食事に及ぼす影響を考慮に入れた上で、組換えDNA微生物を利用して製造した食品が既存の対応物と同程度に安全であるかどうかの結論を得ることである。しかし安全性評価は、当初の安全性評価の結論を左右しうるような新たな科学的情報が得られた場合は、見直すべきである。


1 こうした場合に含まれる微生物には細菌・イースト・線維状真菌などがある(こうした利用の例としてはヨーグルト・チーズ・発酵ソーセージ・納豆・キムチ・パン・ビール・ワインの製造などが挙げられるがそれに限定されない)。
2 食品に安全に使用されてきた歴史のない場合、食品の製造に用いられる微生物の安全性を立証する基準については、本文書では扱わない。
3 FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)において食品加工に用いる「酵素製剤のための一般規格と検討事項」に関するガイドラインを改訂中である。このガイドラインは、遺伝子組換え微生物由来酵素製剤の評価に用いられてきた。
4 持続性は、微生物が2つの腸内移動時間より長く胃腸管に生存することを意味する(国際生命科学研究所、The safety assessment of viable genetically modified microorganisms used as food, 1999, ブラッセル;バイオテクノロジー応用食品に関するFAO/WHO合同専門家会議-遺伝子組換え微生物由来食品の安全性評価、2001年9月24〜28日、スイス・ジュネーブ)。
5 モダンバイオテクノロジー応用微生物は当分の間は既存の対応物として使用しないことで合意が得られている。
6 実質的同等性の概念については、バイオテクノロジー応用食品に関するFAO/WHO専門家会議−遺伝子組換え植物の安全性(2000年5月29日〜6月2日、スイス、ジュネーブ)と、バイオテクノロジー応用食品に関するFAO/WHO合同専門家会議−遺伝子組換え微生物由来食品の安全性評価(2000年9月24〜28日、スイス、ジュネーブ)のセクション4.3を参照。
7 微生物ゲノムは真核より流動性が高い。つまり、微生物の成長が早く環境の変化に順応しやすければそれだけ変化に弱い。染色体再配列は一般的である。微生物の一般的遺伝子可塑性が微生物における組換えDNAに影響することもあるので、組換えDNA微生物の安定性評価において考慮しなければならない。
8 組換え株は、遺伝的安定性を実証することができる方法で保持すべきである。
9 経口毒性試験に関するガイドラインは、国際学会で策定されており、例えば、化学物質の試験に関するOECDガイドラインがある。
10 主要栄養素または主要抗栄養素は、食事全体に大きな影響を与える可能性のある特定食品の成分である。これらは主要栄養素(脂肪・タンパク質・炭水化物)、抗栄養素としての酵素阻害因子、非主要栄養素(無機質、ビタミン)である。主要毒素は毒性と量が健康に重大な影響を与える可能性のある化合物など、微生物によって製造されることが分かっている毒性学的に重要な化合物である。食品加工に伝統的に用いられている微生物は通常は、製造条件下でこうした化合物を生成することは知られていない。
11 摂取した微生物による永久的コロニー形成はまれである。経口摂取微生物の中には投与終了から数週間後に糞や直腸粘膜で回収されるものもある。遺伝子組換え微生物が胃腸管内に生息しているか否かに関わらず、それが腸内フローラまたはほ乳類宿主に影響与える可能性が残る。


添付資料

アレルギー誘発性に関する評価


セクション1-はじめに

1. 組換えDNA微生物によって生成された新たに発現したタンパク質1であって、最終食品に存在する可能性があるものはいずれも、アレルギー誘発性について評価すべきである。その際、新たに発現したタンパク質は特定の個人が既にそれに対して感受性を有する可能性があものであるかどうか、また食品供給において新規のタンパク質がある人々に対してアレルギー反応を引き起こす可能性があるかどうかを考慮すべきである。

2. 現在、新たに発現したタンパク質のヒトにおけるアレルギー反応の予測において信頼できる確実な試験はないため、下記に示すような総合的でかつ段階的な個別の手法を用いて、新たに発現したタンパク質のアレルギー誘発性を評価する様勧告されている。単一の判断基準では十分な予測ができないため、この手法では数種類の情報・データに由来する根拠を考慮している。

3. 評価指標は、当該タンパク質が食品アレルゲンである可能性があるかどうかの結論を得ることである。


セクション2-評価方法

4. 新たに発現したタンパク質のアレルギー誘発性評価における第1段階は、導入タンパク質の供給源、当該タンパク質と既知のアレルゲンのアミノ酸配列における有意な類似性、および構造的特性を調査することである。これには酵素分解に対する感受性、熱安定性、酸・酵素処理などが含まれるが、これに限定されない。

5. 単一の試験では経口曝露に対するヒトIgE反応の可能性を予測できないため、新たに発現したタンパク質の特徴を明らかにするための第1段階は、新たに発現したタンパク質と既に確立されているアレルゲンにおけるアミノ酸配列および特定の物理化学的性質について、根拠を重視して比較することである。このためには、組換えDNA微生物を用いて生成された新たに発現したタンパク質を分離し、または別の供給源からそのタンパク質を合成・製造する必要がある。どちらの場合においても、その物質が組換えDNA微生物で生成されるものと構造的・機能的・生化学的に同等であることを示すべきである。宿主が異なること(真核系に対し原核系)により起こりうる翻訳後修飾がタンパク質のアレルギー誘発性に影響を与える可能性があるため、発現宿主の選択には特に注意を払うべきである。

6. タンパク質の供給源に関してはアレルギー反応を誘発することが知られているかどうかを明らかにすることが重要である。既知のアレルギー誘発性物質に由来する遺伝子は、科学的根拠に基づきそうでない旨が実証されない限り、アレルゲンをコード化するものと仮定すべきである。


セクション3-最初の評価

セクション3.1-タンパク質の供給源

7. 組換えDNA微生物利用食品の安全性を裏付けるデータの一部として、供与体に関するアレルギー誘発性に関する報告は全て情報として示すべきである。これにより、遺伝子のアレルギー誘発性供給源は、IgE媒介性経口または呼吸性・接触性アレルギーの合理的根拠が入手できる供与体として定義されるであろう。導入タンパク質の供給源についての情報が得られれば、アレルギー誘発性評価において考慮すべき手段や関連データが明らかになる。これには、スクリーニングを目的とする血清の利用可能性、アレルギー反応の種類・程度・頻度の記載、構造的特徴およびアミノ酸配列、また(可能なら)その供給源に由来する既知のアレルギー誘発性タンパク質の物理化学的・免疫学的特性が含まれる。

セクション3.2-アミノ酸配列相同

8. 配列相同比較の目的は、新たに発現したタンパク質の構造がどの程度既知のアレルゲンと類似しているかを評価することである。この情報は、当該タンパク質がアレルギー誘発性を有するかどうかを示唆することになろう。新たに発現した全てのタンパク質の構造を全ての既知のアレルゲンと比較することによる配列相同の調査を実施する必要がある。FASTAまたはBLASTPなど様々なアルゴリズム(段階的手法)を用いて検査を行い、包括的な構造的類似性を予測すべきである。直線エピトープを示す可能性のある配列を明らかにするために、連続する同一のアミノ酸鎖の段階的な手法による検査などを実施する場合もある。連続するアミノ酸の検査の規模は、偽陰性または偽陽性結果が生じる可能性を最低限に抑えるために科学的正当性に基づくべきである2。生物学的に意味のある結果を得るため、検証済みの調査・評価手法を用いるべきである。

9. 80コ以上のアミノ酸鎖で35%以上の同一性(2001年FAO/WHO)が認められるか、またはその他の科学的に正当な基準がある場合は、新たに発現したタンパク質と既知のアレルゲンの間のIgE交差反応の可能性を考慮すべきである。個別の科学的評価を可能にするため、新たに発現したタンパク質と既知のアレルゲンの間の配列相同比較から得られた情報はすべて報告すべきである。

10. 配列相同研究にはある種の限界がある。特に、比較においては一般に利用できるデータベースと科学文献に掲げる既知のアレルゲンの配列に限定される。IgE抗体と特異的に結合可能な非連続エピトープの検出においてもその比較能力に限界がある。

11. 配列相同検査でマイナスの結果が出ると、新たに発現したタンパク質は既知のアレルゲンではなく、既知のアレルゲンに対する交差反応性が低いことがわかる。有意な配列相同がないことを示す結果が得られた場合は、新たに発現したタンパク質のアレルギー誘発性評価においてこの方法でまとめたその他のデータと合わせて考慮すべきである。必要に応じ、更なる研究を実施すべきである(セクション4および5参照)。配列相同検査でプラスの結果がでた場合、新たに発現したタンパク質はアレルギー誘発性である可能性が高いことを示す。この製品をさらに検討する必要がある場合は、同定されたアレルギー誘発性供給源に対して感作された個人の血清を用いて評価すべきである。

セクション3.3-ペプシン耐性

12. いくつかの食品アレルゲンにおいて、ペプシン消化に対する耐性が認められており、ペプシン消化に対する耐性とアレルギー誘発性には相関関係がある3。従って、適切な条件下でペプシンが存在する場合にタンパク質の分解に対する耐性が認められた場合は、さらに分析を行い新たに発現したタンパク質がアレルギー誘発性である可能性を調べる必要がある。整合性があり十分に検証されたペプシン分解プロトコールが確立されれば、この方法の有効性が高まる可能性がある。しかし、ペプシン耐性がない場合も新たに発現したタンパク質が関連アレルゲンである可能性を排除することにはならないことを考慮すべきである。

13. ペプシン耐性プロトコールは強く推奨されるが、他の酵素感受性プロトコールがあることも認識されている。正当性が示されれば、別のプロトコールを用いてもよい4


セクション4-特定血清スクリーニング

14. アレルギー誘発性であることが明らかな供給源に由来するかまたは既知のアレルゲンと配列相同性を有するタンパク質については、血清が利用できる場合は免疫学的検査における試験を実施すべきである。当該タンパク質の供給源に対するアレルギーが臨床的に検証された個人の血清を用いて、インビトロアッセイにおいてタンパク質のIgEクラス抗体との特異的結合を調べることができる。この試験において重要な問題は、十分な数の個人から血清が得られるかどうかである5。さらに、有効な試験結果を出すために、血清の質とアッセイ手順を標準化する必要がある。供給源のアレルギー誘発性が不明であり、既知のアレルゲンに対する配列相同性を示さないタンパク質については、パラグラフ17に示したような試験が利用できる場合は、標的血清スクリーニングを考慮することができる。

15. 既知のアレルギー誘発性供給源に由来する新たに発現したタンパク質の場合、インビトロの免疫学的検査における陰性結果だけでは十分ではないと考えられ、皮膚テストやエクスビボプロトコールなど補足的試験を促すべきである6。こうした試験における陽性結果はアレルゲンの可能性を示す。


セクション5-その他の検討事項

16. 新たに発現したタンパク質に対する絶対曝露および関連する食品加工の影響は、ヒトの健康に対するリスクの可能性に関する総合的な結論に影響を与えることとなる。その際、適用される加工の種類やそれが最終食品中のタンパク質の存在に及ぼす影響を判断する上で、対象食品の本質を考慮すべきである。

17. 科学的知識と技術の進歩に伴い、評価方法の一環としての新たに発現したタンパク質のアレルギー誘発性評価においてその他の方法や手段も考慮しても差し支えない。こうした方法は科学的に信頼できるものであるべきである。これには、標的血清スクリーニング(広範に関連する食品分類に対するアレルギー反応が臨床的に確認されている個人の血清におけるIgE結合の評価)、国際血清バンクの開発、動物モデルの使用、T細胞エピトープやアレルゲンに関わる構造的モチーフについての新たに発現したタンパク質に関する研究などが含まれる。


1 この評価方法は、新たに発現したタンパク質にグルテン感受性またはその他の腸疾患の誘発能があるかどうかを評価するために適用することはできない。腸疾患の問題は既に、「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」のパラグラフ47「免疫学的影響の評価」で扱っている。またこの方法は、低アレルギー誘発性を目的とし遺伝子産物が抑制されている場合は食品の評価に適用することはできない。
2 2001年FAO/WHO会議は検査で使用する同一アミノ酸鎖を8から6に減らすことを示唆したと認識されている。段階的比較で用いるペプチド配列が少なければ少ないほど偽陽性となる可能性が高い。逆に、用いるペプチド配列が多ければ多いほど偽陰性の可能性が高くなり、比較の有効性が下がる。
3 相関関係の確立において米薬局方(1995年)に概説する方法を用いた(Astwood他、1996年)。
4 FAO/WHO合同専門家会議報告書(2001年)。
5 バイオテクノロジー応用食品のアレルギー誘発性に関するFAO/WHO合同会議(2001年1月22~25日、イタリア・ローマ)の報告書によれば、主要アレルゲンの場合、新たなタンパク質がアレルゲンではないことを99%確実にするためには最低8つの関連血清が必要である。同様に、非主要アレルゲンについて同じ確実性を期すためには最低24の関連血清が必要である。これだけの量の血清は試験のためには利用できないことが認識されている。
6 エクスビボの概要に関するFAO/WHO合同専門家会議(2001)を参照。


照会先
厚生労働省医薬局食品保健部企画課
TEL 03-5253-1111(内線2492)

トップへ