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今後におけるアルコール関連問題予防対策について

今後におけるアルコール関連問題予防対策について


 



 

平成5年10月1日

公衆衛生審議会精神保健部会
アルコール関連問題専門委員会


 1.本提言の性格

 
  近年、我が国においては、大量飲酒、アルコール関連疾患、未成年者の飲酒等の問題の深刻化が指摘され、これらのアルコール関連問題が、国民の健康の保持・向上を図る上で重大な課題となってきている。今後とも、あらゆる関係者の努力と協力によりこの課題に取り組んでいくことが必要となってきている。
  本専門委員会は、昭和60年の公衆衛生審議会による「アルコール関連問題対策に関する意見」を基礎として、保健・医療の専門的立場から、その後における研究成果等を踏まえつつ、対策推進の基本的考え方、当面実施・検討すべき事項等につい審議を進めてきたが、この度、その成果を中間的に取りまとめ、国民各位への問題提起を行うべく、提言として公にするものでる。言うまでもなく、アルコール関連問題は保健・医療上の問題であると同時に、わが国の飲酒文化、商習慣等とも密接に関係する問題であり、これらの見地からもあわせ多角的な検討も必要とされる。本提言を契機として、今後、様々な立場の国民の間で幅広い議論を行っていく必要があると考えられる。
 

2.提言の基となる科学的知見と背景状況

 
  我が国において、酒は百薬の長と言われ、適度な飲酒は疲労感を和らげ、食欲を増進させるなどの効果を持つことから、古来より人々の日常生活に密着し、生活文化の中で重要な部分を占めるにいたっている。また、複雑化した現代社会においても、適正な飲酒習慣は増大するストレスを緩和し、人間関係を円滑にする役割を果たす一面を持っており、我が国の文化の構成要素として欠くことできのできないものとなっている。

  しかし、一方でアルコール飲料は国民の健康の保持・向上という観点からの考慮を必要とする、他の一般物品にはない次のような特性を有している。 

(1) 致酔性:飲酒は、意識状態の変容を引き起こす。このために交通事故をはじめ種々の事件・事故の原因の一つとなるほか短時間内の大量飲酒による急性アルコール中毒は、死亡の原因となることもある。
(2) 慢性影響による臓器障害:過度の飲酒は、肝障害等多くの疾患の原因となるほか、糖尿病等の慢性疾患の治療を困難にする。
(3)依存性:長期にわたる大量飲酒は、アルコールへの依存を形成し、本人の精神的・身体的健康を損なうとともに、社会への適応力を低下させ、家族等周囲の人々にも深刻な影響を与える。
(4)未成年者への影響:アルコールの心身に与える影響は、特に、精神的・身体的な発育途上にある未成年者においては大きいとされており、このため、未成年者飲酒禁止法によって未成年者の飲酒が禁止されている。
 我が国の国民一人当たり純アルコ一ル消費量は、女性の社会進出による飲酒機会の増加等の背景のもと、昭和60年の5.7リットルから昭和63年の6.7リットルへと増加した以後ほぼ横ばいの状態にある。一方、いくつかの先進諸国においてはアルコ一ル消費量が漸減ないしは頭打ちの状態にある。
 我が国におけるアルコール関連問題の状況については、近年、多くの研究成果が発表されており、この問題の重大性を指摘するものがある。

(1)我が国におけるアルコール関連問題の生物学的背景として、日本人の約半数がアルコール代謝能力に一部を欠くという人種的特徴のあることがわかっている。 (注1)
(2)1日平均純アルコール摂取量150ミリリットル以上の大量飲酒者は、我が国において推計200万人を超える。(注2)
(3)一般病院における全入院患者のうち、適正を欠いた飲酒によって病状が悪化したと考えられるものが推計で14.7%に及ぶとの調査結果が報告されている。  (注3)
(4)アルコール症スクリーニングテストによる問題飲酒者が、職場における40歳以上の男性の14%に及ぶという調査結果が報告されている。(注4)   
(5)高校生の15%が週に1回以上飲酒するとの研究結果があり、未成年者の飲酒と、酒類の自動販売機設置や宣伝・広告を関連づける研究結果が報告されている。(注5)


  また、高齢者の飲酒問題の中には重篤な身体疾患や痴呆を合併し、介護を行う家族に多大な負担を課す例があることから、人口の高齢化に伴って大きな問題となることが危倶されている。

   一方、適正な飲酒習慣は動脈硬化を防止する等、飲酒の身体に及ぼす効用を報告する知見もある。(注6)

 
  平成3年4月、世界保健機関(WHO)は、我が国においてアルコール関連問題国際専門家会議を開催し、アルコールが健康上・社会上の多くの問題の原因となっているとの認識に立って、アルコール飲料の入手に関する規制の検討、健康教育の推進等を含む、アルコール関連問題対策に関する勧告を行った。

 諸外国の中には、酒類の販売に加え、料飲店等における提供をも免許制としたり、酒類の宣伝・広告を規制するところもある。

 小売酒販業者の中には、平成4年以降、酒類自動販売機を撤廃する方向で検討していこうとする動きが見られ、消費者団体等の中にもこれを支持するものが見られる。
 

3.基本的な考え方
 

 アルコール飲料は、食品としての性格に加え、上記2のとおり、国民の健康に大きな影響を与える蓋然性を有することから、アルコール飲料の販売・料飲店等における提供等にあたっては、国民の健康の保持・向上を図る観点が十分に配慮されなければならないと考える。

 我が国におけるアルコ一ル関連問題の重要性についての調査研究に基づく指摘や、国民の一部に健康の保持・向上という観点からアルコール飲料の販売・提供等の在り方を見直そうとする動きが見られている今日、本専門委員会としては、今後のアルコール関連問題対策において次のような考え方を重視していくことが必要であると考える。

(1)アルコール関連問題対策のうち、特に、予防対策に一層の力点を置くことが必要であり、その推進のためには、健康教育等による個人の自覚・努力はもとより、社会環境を整備する必要があり、国民全体の参加、特にアルコ-ル飲料の製造、販売料飲店等における提供に関わるものの参加が重要である。

(2)今後は、1)健康教育・健康相談の充実、2)未成年者飲酒禁止法の趣旨の徹底、3)アルコール飲料の販売・提供面からの効果的対策の3者を、相互の連携を図りながら、アルコール関連問題予防対策として、関係省庁の協力に基づき総合的に検討、実施していくことが重要である。
 

4.当面検討、実施すべき事項
 

(1) 知識の普及及び健康教育について

 過度の飲酒による健康影響や未成年者の飲酒等のアルコール関連問題の予防対策として、ささまざまな場を活用して、知識の普及及び健康教育を推進していく必要がある。

 現在、精神保健センタ-及び保健所において、アルコール関連問題に関する相談事業が実施されているが、飲酒問題を持つ者本人やその家族に対する相談が中心であり、地域住民全般への知識の普及については、いまだ不十分な現状にある。

  以下に述べる手段等を通じて、可能なかぎり多くの国民に対して過度の飲酒の弊害や、適正飲酒に関する知識の普及を活発に行うことが必要である。

(1)行政が、適正飲酒について、広報活動等を通して、普及・啓発を行うこと。
(2)肝機能の異常等、アルコールと関連した異常を早期発見できる検査を、健康診断の一環として実施している事業所が多いが、有所見者に対する事後指導として、適正飲酒教育を充実すること。特に、退職後に飲酒が問題化する例があることから、退職を控えた勤労者に対し、飲酒についての生活指導を実施すること。
(3)未成年者の飲酒が増加しているとの指摘を考慮し、健康教育の一層の充実を図ること。また未成年者の飲酒増加の背景には、親等の未成年者飲酒についての認識の低さがあることが推測されるため、親等に対する知識の普及を図ること。
(4)飲酒問題を持つ者は、初期には身体疾患の治療のため、アルコールの専門治療体制を備えていない内科等の医療機関を受診することが一般的であり、これらの者に対し早期から効果的な治療を行うためには、一般の医師のアルコール関連問題についての理解を高める必要がある。このため、医学教育の中でも所要の配慮を行い、医師全体のこの問題に対する意識の向上を図ること。
 (2)酒類の宣伝・広告について

 近年、ビ一ルを中心として、大規模メ一力一間の競争の激化を反映し、テレビコマ-シャル等の酒類の宣伝・広告が目立っている。アルコール飲料の特性や未成年者の飲酒問題に配慮しつつ、今後、以下の点に留意した、検討を引き続き行っていく必要がある。

(1)テレビコマ-シャルの放映時間
(2)主として未成年者に人気のあるタレントを起用する等、未成年者の関心を強く引き付ける内容、大量飲酒を推奨する内容
(3)未成年者の飲酒に関する警告表示等
 なお、直近では、平成5年4月、業界は国税庁の指導により、「未成年者飲酒禁止の注意表示等の自主基準」を改正したところである。また、現在いくつかの酒類関連業者が、適正飲酒や未成年者飲酒防止についての広告、キャンペ一ン等を自主的に実施しており、今後においても推奨されるべきものである。    
 

(3)アルコ一ル飲料の販売形態、特に酒類自動販売機について
 
  酒類の自動販売機については、昭和60年の公衆衛生審議会意見書において、未成年者の飲酒に伴う身体発育面、精神面等の弊害を防止し、将来のアルコール依存症者を減少させるために、その効果的な規制を働きかけるべきことを述べている。また、昭和61年の中央酒類審議会においても未成年者飲酒防止の観点から適切な管理をすべきとの指摘がなされ、国税庁においても、平成2年に 「未成年者飲酒防止に関する表示基準」 が示され、稼働時間の制限、未成年者飲酒防止の表示の義務化等の対策が実施されてきたところであるが、なお、昭和60年以降も自動販売機の台数自体は増加し、20万台に達している。

  アルコール飲料の持つ健康に影響を与えるという特性や、近年の未成年者の飲酒の増加傾向等を考慮すると、アルコール飲料の販売については、その特性を十分に理解した者が対面販売により責任を持って行うことが望ましい。酒類の自動販売機については、消費者の利便、販売業者の省力化に資するという面もあるが、健康教育等による未成年者飲酒防止対策の効果を阻害することも考えられるため、一定 の移行期間を設けて撤廃する方向で検討すべきである。
 ただ、その実施については関係各方面との調整が必要と考えられる。
 

(4)研修体制について
 

  アルコール医療に携わる専門スタッフの養成のため、現在、国立療養所久里浜病院において、医師、保健婦、看護婦、ケースワーカーに対する研修が行われているが、これをさらに拡充することが必要である。

 また、精神保健センタ-等の機能を活用して、学校の保健担当教諭、職場の健康管理担当者及び酒類販売・料飲店等における提供に従事する者に対しても、アルコ-ル飲料の特性及びアルコ一ル関連問題についての知識を普及するための研修を行えるよう体制を整える必要がある。
 

(5)今後の課題について
 

  国民の健康に大きな影響を与える蓋然性を有するアルコール飲料の特性を考慮すれば、アルコール関連問題を予防し国民の健康を保つという視点からアルコール飲料の販売・提供の在り方を考えていく必要がある。
 今後、関係省庁においても、アルコール関連問題に適切に対処するため、諸外国の例等も参考にしつつ、消費者の利益等を踏まえ、また酒類関連業界の理解を得ながら、アルコール飲料の販売提供の在り方について検討を進めていくべきである。                    



(注1)Low km ALDHの有無と飲酒行動。アルコ一ル研究と薬物依存,22;P236(1987)
(注2)アルコ一ル消費量と飲酒者数の推移。我が国の精神保健、P233(1992)
(注3)潜在するアルコール関連問題者数の推定について。我が国のアルコール関連問題の現状、P43(1993)
(注4)職場におけるアルコール依存者の頻度。職場の精神保健に関する研究報告書、P47(1992)
(注5)高校生における飲酒問題。我が国のアルコール関連問題の現状、P55(1993)
(注6)Does Moderate Alcohol Consumption Prolong LifeEI1ison、R、Amencan Councilon Science and Health'1993、p、23

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