GC/MSによる農薬等の一斉試験法(畜水産物)
1.分析対象化合物
筋肉、脂肪、肝臓、腎臓及び魚介類の場合は、別表1参照
乳、卵及びはちみつの場合は、別表2参照
2.装置
ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC/MS)
3.試薬、試液
次に示すもの以外は、総則の3に示すものを用いる。
各 | 農薬等標準品 各農薬等の純度が明らかなもの。 |
4.試験溶液調製法
1)抽出
(1)筋肉、脂肪、肝臓、腎臓及び魚介類の場合
筋肉、肝臓、腎臓及び魚介類の場合は、試料20.0gを量り採る。脂肪の場合は、5.00gを量り採る。
これに水20 mLを加え、ホモジナイズした後、アセトン及びn-ヘキサン(1:2)混液100 mLを加え、さらにホモジナイズした後、毎分2,500回転で5分間遠心分離し、有機層を採る。残留物にn-ヘキサン50 mLを加え、ホモジナイズした後、毎分2,500回転で5分間遠心分離する。得られた有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムをろ別する。ろ液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去した後、残留物の重量を測定し、これを抽出脂肪重量とする。残留物の全量または一定量を採り,ゲル浸透クロマトグラフィー用カラム(スチレンジビニルベンゼン共重合体カラム)への負荷量が試料5.0g相当量になるように(試料5.0g中の抽出脂肪量が0.5gを超える場合には、カラムへの負荷量が抽出脂肪0.50g相当量になるように)アセトン及びシクロヘキサン(1:4)混液に溶かす。
(2)乳、卵及びはちみつの場合
乳及び卵の場合は、試料20.0gを量り採る。はちみつの場合は、試料20.0gを量り採り、水20 mLを加えて溶かす。
これにアセトニトリル100 mLを加えて、ホモジナイズした後、毎分2,500回転5分間遠心分離し、有機層を採る。残留物にアセトニトリル50 mLを加え、ホモジナイズした後、毎分2,500回転で5分間遠心分離する。得られた有機層を合わせ、塩化ナトリウム10gを加え、振とうする。静置した後、分離した水層を捨てる。アセトニトリル層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムをろ別した後、ろ液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。乳及び卵の場合は、残留物をゲル浸透クロマトグラフィー用カラム(スチレンジビニルベンゼン共重合体カラム)への負荷量が試料5.0g相当量になるようにアセトン及びシクロヘキサン(1:4)混液に溶かす。はちみつの場合は、残留物をアセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液に溶かし、正確に10 mLとする。
2)精製
(1)筋肉、脂肪、魚介類、乳及び卵の場合
a ゲル浸透クロマトグラフィー
1)で得られた溶液を毎分3,000回転で5分間遠心分離し、その上澄液5mLをゲル浸透クロマトグラフィー用カラム(スチレンジビニルベンゼン共重合体カラム)に注入し、アセトン及びシクロヘキサン(1:4)混液で溶出する。アクリナトリンの保持時間からトリシクラゾールの溶出終了までの溶出液を採り、40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物にアセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液2mLを加えて溶かす。
b エチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲルカラムクロマトグラフィー
エチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲルミニカラム(500 mg)にアセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液10 mLを注入し、流出液は捨てる。このカラムにaで得られた溶液を注入し、さらに、アセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液20 mLを注入して、全溶出液を採り、40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物をアセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液に溶かし、正確に1mL(脂肪の場合は0.5 mL)としたものを試験溶液とする。
(2)肝臓及び腎臓の場合
a ゲル浸透クロマトグラフィー
1)で得られた溶液を毎分3,000回転で5分間遠心分離し、その上澄液5mLをゲル浸透クロマトグラフィー用カラム(スチレンジビニルベンゼン共重合体カラム)に注入し、アセトン及びシクロヘキサン(1:4)混液で溶出する。アクリナトリンの保持時間からアクリナトリンの溶出終了までの画分(画分I)及び画分Iの分取終了からトリシクラゾールの溶出終了までの画分(画分II)を採る。
b エチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲルカラムクロマトグラフィー
エチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲルミニカラム(500 mg)にアセトン及びシクロヘキサン(1:4)混液10 mLを注入し、流出液は捨てる。このカラムに画分Iを注入し、さらに、アセトン及びシクロヘキサン(1:4)混液5mLを注入して、全溶出液を採り、40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物にn-ヘキサン1mLを加えて溶かす。
c シリカゲルカラムクロマトグラフィー
シリカゲルミニカラム(690 mg)にn-ヘキサン10 mLを注入し、流出液は捨てる。このカラムにbで得られた溶液を注入し、さらに、n-ヘキサン10 mLを注入し、流出液は捨てる。次いで、カラムにエーテル及びn-ヘキサン(1:19)混液15 mL を注入し、溶出液をaで得られた画分IIに合わせ、40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物をアセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液に溶かし、正確に1mLとしたものを試験溶液とする。
(3)はちみつの場合
エチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲルミニカラム(500 mg)にアセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液10 mLを注入し、流出液は捨てる。このカラムに1)で得られたアセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液溶液2.5 mLを注入し、さらに、アセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液20 mLを注入して、全溶出液を採り、40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物をアセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液に溶解し、正確に1mLとしたものを試験溶液とする。
5.検量線の作成
各農薬等の標準品について、それぞれのアセトン溶液を調製し、それらを混合した後、適切な濃度範囲の各農薬等を含むアセトン及びn-ヘキサン(1:1)混液溶液を数点調製する。それぞれ2μLをGC/MSに注入し、ピーク高法又はピーク面積法で検量線を作成する。
6.定量
試験溶液2μLをGC/MSに注入し、5の検量線で各農薬の含量を求める。
7.確認試験
GC/MSにより確認する。
8.測定条件
GC/MS
カ | ラム:5%フェニル-メチルシリコン 内径0.25 mm、長さ30m、膜厚0.25μm |
カ | ラム温度:50℃(1分)−25℃/分−125℃(0分)−10℃/分−300℃(10分) |
注 | 入口温度:250℃ |
キ | ャリヤーガス:ヘリウム |
イ | オン化モード(電圧):EI(70 eV) |
主 | なイオン(m/z):別表1及び別表2参照 |
保 | 持時間の目安:別表1及び別表2参照(「(4)別表1.xls」及び「(4)別表2.xls」にリンク。) |
9.定量限界
別表1及び別表2参照
ただし、別表1及び別表2は測定限界(ng)の例を示したものである。
10.留意事項
1)試験法の概要
各農薬等を試料からアセトン及びn-ヘキサン(1:2)混液で抽出(乳、卵及びはちみつの場合はアセトニトリルで抽出)し、ゲル浸透クロマトグラフィー及びエチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(肝臓及び腎臓の場合はシリカゲルカラムクロマトグラフィーを追加し、はちみつの場合はゲル浸透クロマトグラフィーを省略する)、GC/MSで測定及び確認する方法である。
2)注意点
(1) | 別表1及び別表2は本法を適用できる化合物を五十音順に示したものであるが、規制対象となる品目には本法を適用できない代謝物等の化合物が含まれる場合があるので留意すること。また、保持時間の異なる異性体は、化合物名欄に個別に示した。また、分析中に生成する分解物を測定している場合は、「分解物」と表記した。 | ||||||||||||||
(2) | 本試験法は別表1及び別表2に示した全ての化合物の同時分析を保証したものではない。化合物同士の相互作用による分解等及び測定への干渉等のおそれがあるため、分析対象とする化合物の組み合わせにおいてあらかじめこれらの点を検証する必要がある。 | ||||||||||||||
(3) | 装置には、ガスクロマトグラフ・タンデム型質量分析計(GC/MS/MS)の使用も可能である。 | ||||||||||||||
(4) | アセトニトリル抽出液に添加する塩化ナトリウム(10g)が多すぎる場合は、減らしてもよいが、十分に飽和する量を加える。 | ||||||||||||||
(5) | 濃縮し、溶媒を完全に除去する操作は、窒素気流を用いて穏やかに行う。 | ||||||||||||||
(6) | ゲル浸透クロマトグラフィー条件の例を以下に示す。
|
アクリナトリンの保持時間からトリシクラゾールの溶出が終了するまで。
(例)58〜165 mL(合計107 mL)

図1 筋肉、脂肪、魚介類、乳及び卵の場合の分取範囲
b 肝臓及び腎臓の場合の分取範囲(図2参照)
画分I | : | アクリナトリンの保持時間からアクリナトリンの溶出が終了するまで。 |
画分II | : | 画分Iの分取終了からトリシクラゾールの溶出が終了するまで。 |

図2 肝臓及び腎臓の場合の分取範囲
(7) | ミニカラムは使用条件で各農薬等の溶出調査を事前に行い、溶出位置を確認してから使用する。 |
(8) | 脂肪含有量が高い試料では、試験溶液の濃縮倍率が低くなる。その際、目標の測定感度が得られない場合には、抽出脂肪を用いてゲル浸透クロマトグラフィー以降の操作を複数回行い、検液を合わせて試験溶液とする。 |
(9) | 正確な測定値を得るためには、マトリックス添加標準溶液又は標準添加法を用いることが必要な場合がある。 |
(10 | )定量限界は、使用する機器、試験溶液の濃縮倍率及び試験溶液注入量により異なるので、必要に応じて最適条件を検討する。 |
11.参考文献
なし
12.類型
C