LC/MSによる農薬等の一斉試験法II(農産物)

1.分析対象化合物
 別表参照

2.装置
 液体クロマトグラフ・質量分析計(LC/MS)又は液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)

3.試薬、試液
 次に示すもの以外は、総則の3に示すものを用いる。
 各農薬等標準品 各農薬等の純度が明らかなもの。

4.試験溶液調製法
1)抽出
(1)穀類、豆類及び種実類の場合
 試料10.0gに水20 mLを加え、15分間放置する。
 これにアセトニトリル50 mLを加え、ホモジナイズした後、吸引ろ過する。ろ紙上の残留物にアセトニトリル20 mLを加え、ホモジナイズした後、吸引ろ過する。得られたろ液を合わせ、アセトニトリルを加えて正確に100 mLとする。
 抽出液20 mLを採り、塩化ナトリウム10g及び0.01 mol/L塩酸20 mLを加え、15分間振とうする。静置した後、分離した水層を捨てる。
 オクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1,000 mg)にアセトニトリル10 mLを注入し、流出液は捨てる。このカラムに上記のアセトニトリル層を注入し、さらに、アセトニトリル2mLを注入して、全溶出液を採り、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムをろ別した後、ろ液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物にアセトン、トリエチルアミン及び-ヘキサン(20:0.5:80)混液2mLを加えて溶かす。

(2)果実、野菜、ハーブ、茶及びホップの場合
 果実、野菜及びハーブの場合は、試料20.0gを量り採る。茶及びホップの場合は、試料5.00gに水20 mLを加え、15分間放置する。
 これにアセトニトリル50 mLを加え、ホモジナイズした後、吸引ろ過する。ろ紙上の残留物にアセトニトリル20 mLを加え、ホモジナイズした後、吸引ろ過する。得られたろ液を合わせ、アセトニトリルを加えて正確に100 mLとする。
 抽出液20 mLを採り、塩化ナトリウム10g及び0.01 mol/L塩酸20 mLを加え、振とうする。静置した後、分離した水層を捨てる。アセトニトリル層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムをろ別した後、ろ液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物にアセトン、トリエチルアミン及び-ヘキサン(20:0.5:80)混液2mLを加えて溶かす。

2)精製
 シリカゲルミニカラム(500 mg)に、メタノール、アセトン各5mLを順次注入し、各流出液は捨てる。さらに-ヘキサン10 mLを注入し、流出液は捨てる。このカラムに1)で得られた溶液を注入した後、アセトン、トリエチルアミン及び-ヘキサン(20:0.5:80)混液10 mLを注入し、流出液は捨てる。次いで、アセトン及びメタノール(1:1)混液2mLで1)で得られた溶液が入っていた容器を洗い、洗液をシリカゲルミニカラムに注入し、さらにアセトン及びメタノール(1:1)混液18 mLを注入し、溶出液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物をメタノールに溶かして、正確に4mLとしたものを試験溶液とする。

5.検量線の作成
 各農薬等の標準品について、それぞれのアセトニトリル溶液を調製し、それらを混合した後、適切な濃度範囲の各農薬等を含むメタノール溶液を数点調製する。それぞれ5μLをLC/MS又はLC/MS/MSに注入し、ピーク高法又はピーク面積法で検量線を作成する。

6.定量
 試験溶液5μLをLC/MS又はLC/MS/MSに注入し、5の検量線で各農薬等の含量を求める。

7.確認試験
 LC/MS又はLC/MS/MSにより確認する。

8.測定条件
 カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル(粒径3〜3.5μm) 内径2〜2.1 mm、長さ150 mm
 カラム温度:40℃
 移動相:A液及びB液について下の表の濃度勾配で送液する。
 移動相流量:0.20 mL/分
A液:5mmol/L酢酸アンモニウム水溶液
B液:5mmol/L酢酸アンモニウムメタノール溶液
時間(分) A液(%) B液(%)
85 15
60 40
3.5 60 40
50 50
45 55
17.5 95
30 95
30 85 15
 イオン化モード:ESI
 主なイオン(m/z):別表参照
 保持時間の目安:別表参照

9.定量限界
 別表参照
 ただし、別表は測定限界(ng)の例を示したものである。

10.留意事項
1)試験法の概要
 各農薬等を試料からアセトニトリルで抽出し、酸性条件下で塩析する。水を除いた後、果実、野菜等についてはそのまま、穀類、豆類及び種実類についてはオクタデシルシリル化シリカゲルミニカラムで精製後、いずれもシリカゲルミニカラムで精製し、LC/MS又はLC/MS/MSで測定及び確認する方法である。

2)注意点
(1)別表は本法を適用できる化合物を五十音順に示したものであるが、規制対象となる品目には本法を適用できない代謝物等の化合物が含まれる場合があるので留意すること。また、保持時間の異なる異性体は、化合物名欄に個別に示した。
(2)本試験法は別表に示した全ての化合物の同時分析を保証したものではない。化合物同士の相互作用による分解等及び測定への干渉等のおそれがあるため、分析対象とする化合物の組み合わせにおいてあらかじめこれらの点を検証する必要がある。
(3)アセトニトリル抽出液に添加する塩化ナトリウム(10g)が多すぎる場合は、減らしてもよいが、十分に飽和する量を加える。また、極性が高い農薬を対象とするため、十分に振とうして塩化ナトリウムを溶解させる。
(4)濃縮し、溶媒を完全に除去する操作は、窒素気流を用いて穏やかに行う。
(5)アセトン、トリエチルアミン及び−ヘキサン(20:0.5:80)混液に溶けにくい農薬があるため、シリカゲルミニカラムによる精製においては洗浄操作の後、溶出溶媒であるアセトン及びメタノール(1:1)混液2mLでカラムに洗い込む。
(6)LC/MS又はLC/MS/MSの感度によっては、試験溶液をさらにメタノールで希釈する。
(7)特にメタノール溶液中では不安定な農薬等があるため、測定は試験溶液の調製後速やかに行う。検量線用溶液は用時調製する。常温のオートサンプラーラック中に試験溶液を長時間置かない。
(8)正確な測定値を得るためには、マトリックス添加標準溶液又は標準添加法を用いることが必要な場合がある。
(9)定量限界は、使用する機器、試験溶液の濃縮倍率及び試験溶液注入量により異なるので、必要に応じて最適条件を検討する。

11.参考文献
 なし

12.類型
 C

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