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安全性情報院内活用実践事例集

◎ 安全性情報院内活用実践事例集

平成19年度、平成20年度の医薬品安全性情報活用実践事例等の収集事業により収集した事例のうち、施設規模、医療機能の異なる全国の医療機関において、参考となる安全性情報の有効活用事例を抽出し事例集とした。(対象となる医薬品の一般名の順に示した。)

I.アトルバスタチンカルシウム水和物の劇症肝炎 (診療所)

アトルバスタチンカルシウム水和物による劇症肝炎の副作用に関する医薬品添付文書改訂情報を入手後、速やかに薬歴システムを利用して当該薬剤処方患者をリストアップし、肝機能検査の必要性などについて医師と協議して対応した事例である。

その後も、本剤に関しては添付文書の使用上の注意の記載のとおり、投与開始または増量時には12週までの間に1回以上は肝機能検査を確実に行える体制を構築した。

1.使用上の注意の改訂指示(平成18年6月5日)
【措置内容】以下のように使用上の注意を改める。

[重要な基本的注意]の項の肝機能検査に関する記載を「劇症肝炎等の肝炎があらわれることがあるので、悪心・嘔吐、倦怠感等の症状があらわれた場合には本剤を中止し、医師等に連絡するよう患者に指導すること。投与中は投与開始または増量時より12週までの間に1回以上、それ以降は定期的(半年に1回等)に肝機能検査を行うこと。」 と改められた。

[副作用]の「重大な副作用」の項の肝機能障害、黄疸に関する記載を 「劇症肝炎、肝炎、肝機能障害、黄疸:定期的に検査を行うなど観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し適切な処置を行うこと。」 と改めた。

2.安全性情報活用実践事例(診療所における事例)

HMG-CoA還元酵素阻害薬であるアトルバスタチンカルシウム水和物の医薬品添付文書の「重要な基本的注意」及び「重大な副作用」の項に劇症肝炎に関する記載事項が追記された。肝機能障害、黄疸の副作用と定期的な肝機能検査の実施については既に医薬品添付文書で注意喚起されていたが、死亡例を含む劇症肝炎が複数例報告されたため注意喚起するための改定であった。その後、厚生労働省より医薬品・医療機器等安全性情報No.226が発行され、本件について再度注意喚起がなされた。

【事例の経過】
6月 2日 :

医薬品医療機器情報配信サービスにより、薬剤科長が使用上の注意の改訂指示情報を入手

6月 5日 :

薬剤科長がMRに連絡をとり、「使用上注意改訂のお知らせ」を入手

6月10日 :

薬剤科長はセンター長(医師)に安全性情報を伝え、今後の対応について協議して以下の対応を行うことになった。

薬剤科長は薬剤科の薬歴検索システムで当該薬剤処方患者をリストアップした。該当患者は47人確認できた。

その中から当該薬剤の初回処方患者と増量された患者を抽出して、医薬品添付文書に記載されている定期的な検査を行っていない患者がいないかを確認した。

あわせて、薬剤科で患者の肝機能検査値の履歴をカルテ(当時紙媒体)で調査し、至急検査の必要性の有無をセンター長が判断することとした。センター長は至急検査が必要と考えられる患者はいないと判断した。

初回処方患者と増量された患者は次回診察時に肝機能検査を行うことにし、対象患者全員に検査を実施したが異常は認められなかった。

その後もアトルバスタチンカルシウム錠の初回処方と増量処方時には次回診察時(12週以内)に肝機能検査を行うことを医師(常勤医師2名)に確認し、薬剤科でも検査の有無を必ず確認することとした。また、従来どおり患者に本剤をお渡しする際には文書及び口頭で肝障害の初期症状についての情報提供を行った。

7月27日 :

厚生労働省より医薬品・医療機器等安全性情報No.226が発行され本事例について再度注意喚起が行われた。この際、新聞等で報道されたが、既にこの時点では施設内では本件における対応ができており、医師や患者からの問い合わせはなかった。

5月1日 (翌年):それまで生活習慣病の診療は常勤医師が診察・処方していたが、診療体制が変わり、常勤医師のほか、非常勤医師も処方をする体制となった。薬剤科で薬剤師が新規処方や増量の確認をしたときには、既に非常勤医師が不在ということもあり、検査のみ常勤医師に依頼することが度々あった。
平成20年1月:電子カルテシステムを導入。

紙カルテと異なり、検査オーダーの漏れの有無を電子カルテ上で確認することは、作業が極めて煩雑となり確認が困難となった。また、以前は薬剤師から医師に次回診察時の検査オーダーの依頼をしていたが、電子カルテの制約もあり依頼を電子的に処理することが困難になった。

こうした問題点をセンター長と協議し、翌月よりアトルバスタチンカルシウム水和物錠の初回処方及び増量処方時には30日分までの処方制限をかけ、薬剤師が患者に面談した際に採血の有無を確認し、明確でない場合医師に直接確認する方法を取り入れた。

具体的には、薬歴と処方を照合し初回処方後、増量後30日目の処方を調剤した際に、患者・医師に採血の有無を確認し、未実施の場合には薬剤を交付せずに医師に検査実施を要請する方法を取り入れた。

この取り組みに合わせて、同様に定期的な肝機能検査が必要な採用薬であるフェノフィブラートカプセル、ロスバスタチンカルシウム錠、ベンズブロマロン錠についても、定期的な肝機能検査の必要性について情報紙を作成して注意喚起を行い、投与日数の上限を30日とすることとなった。

【情報収集】

(1) 薬剤科長が医薬品医療機器情報配信サービスにより「使用上の注意の改訂指示情報」を入手した。

(2) 薬剤科長はMRに連絡をとり「使用上注意改訂のお知らせ」の提供を依頼し入手した。

【情報評価・分析】

この診療所では、自覚症状としては特段問題を有していない比較的健康な40歳代、50歳代の生活習慣病患者が多く受診していた。このため治療が長期にわたること、健康意識が高いことなどがあり、重篤な副作用のある薬剤は患者自身が敬遠しがちで服薬ノンコンプライアンスも懸念されるため、診療所側で副作用対策も徹底して実施して、服薬の安心と安全を担保してきていた。

死亡例を含む劇症肝炎が報告されていたことから、処方患者の薬歴及び検査履歴の確認を行い、検査漏れがないことを担保する必要があると考えた。

電子カルテ移行後に、検査実施状況の確認が煩雑となって現実的な業務として困難になり、検査の実施状況を必要なタイミングで薬剤師が患者・医師から確認できる体制が必要と考えた。

【対応】

従来からアトルバスタチンカルシウム錠の調剤時には、薬剤師が紙カルテを見てCPKや肝機能検査の有無を確認していた。今回の「使用上注意改訂のお知らせ」を入手したところ、死亡例を含む劇症肝炎が報告されていたことから、センター長と協議のうえ、再度、処方患者の薬歴及び検査履歴の確認を行い、検査漏れがないか確認することとした。

その後の電子カルテ移行後に、検査実施状況の確認が煩雑となって現実的ではないと判断し、処方日数の上限を30日と規制し、必要なタイミングで薬剤科が患者・医師から直接検査の実施状況を確認できる体制とした。

・ 薬剤科で処方患者をリストアップして、肝機能検査の必要性の判断をセンター長に依頼した。

・ 初回処方及び増量された患者は、全員次回診察時に肝機能検査を実施したが異常は見られなかった。

・ 診療体制の変更に伴い、検査オーダ漏れ等が多くなり、センター長と協議し、処方日数に上限を設け、薬剤師が患者に面談し検査の有無を確認する方式とにした。

・ 初回処方及び増量時に定期的な肝機能検査が必要な薬剤について、情報紙を作成して注意喚起を行った。

・ 薬剤科での肝機能検査実施の有無の再確認と患者への服薬指導(初期症状の情報提供)を徹底した。

【本事例のポイント】

診療所等の小規模な施設ではMRの訪問も少ないが、本事例では薬剤師が医薬品医療報配信サービスにより使用上の注意の改訂指示情報を入手したことが対応の基点となっている。これをもとに速やかにMRから「使用上注意改訂のお知らせ」を入手して、センター長と協議のうえ、迅速な対応を行った。

患者面談・医師面談による検査実施状況の確認という電子カルテ導入後に取り入れた方法は、大規模病院では困難だが、診察室、薬剤科、患者待合室が隣接する診療所ならではのメリットを生かした、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションによる安全確認手法といえる。

II.アマンタジン塩酸塩の禁忌追加(重篤な腎障害のある患者)

塩酸アマンタジンは、パーキンソン症候群、脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下の改善等に適応を有しており、高齢者に処方されることが多い薬剤である。

その用法・用量は、パーキンソン症候群では維持量として1日200mgを2回に分けて、脳梗塞後遺症では1日100〜150mgを2〜3回に分けて使用し、年齢・症状により適宜増減するよう定められている。

塩酸アマンタジンの体内動態を検討した試験では、健康成人にアマンタジン塩酸塩50mg及び100mgを1回経口投与した場合、投与後約24時間で投与量の約60%が、48時間までに約70%が未変化体で尿中に排泄されることが報告されている。また、アマンタジン塩酸塩100mgを経口投与し投与後72時間までの糞中回収は少量(1mg以下)であったことが報告されている。したがって、適宜増減を規定する因子として、腎機能が大きく関与することがわかる。

添付文書の使用上の注意「慎重投与」の項では、今回の改訂前より『腎障害のある患者』は慎重投与とされており、その理由として『本剤は大部分が未変化体として尿中に排泄されるので、蓄積による副作用を避けるため用量の調節に十分注意すること。』と注意が喚起されていた。

本事例の情報源となったDrug Safety Update(DSU:医薬品安全対策情報)では、安全性情報を、「最重要、重要、その他」の三段階に分類しているが、本情報は「重要」なものとして情報提供されていた。

1.DSU:医薬品安全対策情報(平成18年10月)

【措置内容】以下のように、禁忌、使用上の注意を改めること。

[禁忌]の項に、「透析を必要とするような重篤な腎障害のある患者〔本剤は大部分が未変化体として尿中に排泄されるので、蓄積により、意識障害、精神症状、痙攣、ミオクロヌス等の副作用が発現することがある。また、本剤は血液透析によって少量しか除去されない。〕」を追記。

[用法及び用量に関連する使用上の注意]の項に、「本剤は大部分が未変化体として尿中に排泄されるため、腎機能が低下している患者では、血漿中濃度が高くなり、意識障害、精神症状、痙攣、ミオクロヌス等の副作用が発現することがあるので、腎機能の程度に応じて投与間隔を延長するなど、慎重に投与すること。」を追記。

[副作用]の「重大な副作用」の項の意識障害、精神症状、痙攣に関する記載を「意識障害(昏睡を含む)、精神症状(幻覚、妄想、せん妄、錯乱等)、痙攣、ミオクロヌスがみられることがある。このような場合には減量または投与を中止するなど適切な処置を行うこと。特に腎機能が低下している患者においてあらわれやすいので注意すること。」と改める。

2.安全性情報活用実践事例 (小規模な病院における事例)

医薬品医療機器総合機構のホームページより、医薬品安全対策情報(Drug Safety Update、以下DSU)2006.10 No.153を入手。薬剤部長は「安全管理情報」としてDSUを回覧し院内への周知を図ると共に、同情報において「重要」と位置づけられており、当該医療機関で処方頻度が比較的高い、アマンタジン塩酸塩に関する情報に着目し手作業で過去の処方から服用患者をリストアップした。あわせて、アマンタジン塩酸塩製剤を使用中の患者の腎機能を評価するために血清クレアチニン値をもとにクレアチニンクリアランス(以下CCrと略す)を推定した。その結果過量投与と考えられる1人の患者が見いだされたため、当該患者の主治医に減量が必要と考えられる旨を報告し、主治医は投与量の減量を指示した。

【事例の経過】

10月4日 : 薬剤部長は、入手したDSUを直ちに院内回覧すると共に、重要と位置づけられたアマンタジン塩酸塩の使用状況を調査し具体的な対策を検討することを院長に報告した。

10月5日 : 薬剤部でアマンタジン塩酸塩製剤を投与中の患者の抽出を行った。当時、調剤システムが未稼働であったため、全入院患者及び診療中の外来患者の処方せんを手作業でチェックした。その結果3名が該当し、そのうち2名は1日50mgを服用しており、1名が1日150mgを服用していることが判明した。

1日150mgを服用している患者は、入院時の薬剤管理指導記録から、腎機能が低下していたことを再確認した。さらに、この患者は高齢であるため、薬物クリアランスの低下による血漿中濃度の上昇の可能性が疑われた。

そこで、薬剤師はCCrをCockcroft-Gault計算式を用いて求め、腎機能を評価したうえで、添付文書、腎機能別薬剤使用マニュアル(じほう)を参考にして適正な投与量を算出した。

CCr は実測値を用いて評価する方が望ましいが、日常診療では特別な理由がない場合、必ず実施されるとはいいがたいので、推定CCr値を求めることは現実的である。ただし、推定CCr は、高齢者のように筋肉量が減少している患者ではSCr値が腎機能とは別に低い値となるため、腎機能を過大に評価するおそれがある点に注意が必要である。このため薬物投与量設定に利用するには適当でないとの指摘もある。

こうした点を考慮してもなお、ある程度の指標としての価値があると考えて推定値を算出し投与量を考察して、推定値の問題点も含めて主治医に報告した。

この症例は、無動症で反応も乏しく、臨床所見から副作用発現の有無を判断するのは困難であった。

Cockcroft-Gault計算式 73.6 × 無動症(0.6) = 44.16(mL/min)

腎機能の低下が示唆されたので、主治医に減量が必要な旨を報告した。

添付文書では、用法・用量の<参考>として、海外臨床試験の減量の目安を紹介している。これによるとCCrが35〜75の範囲では1日100mg、25〜35では2日間隔で100mgの投与が推奨されていることより、まず100mg/日に減量することを提案した。

主治医は薬剤師と相談のうえで、100mg/日とする指示をした。無動症で反応に乏しく、投与量変更の前・後の患者の症状の変化を見いだすことはできなかった。

※ Cockcroft-Gault計算式

男性CCr = (140 - age ) x BW(Kg) / (72 x 血清Cr(mg/dL) )

女性CCr = 0.85 x 男性CCr

筋肉・運動量に影響されるので、体動なしの場合には、上記で求めたCCrに0.6、ベッド安静時には0.8を掛ける。

【情報収集】

薬剤部長は、医薬品医療機器総合機構のホームページより、医薬品安全対策情報(DSU)2006.10 No.153を入手した。

【情報評価・分析】

・ アマンタジン塩酸塩は、腎機能障害がある患者において慎重投与と位置づけられていたが、改めて安全性情報の改定が行われ、透析を必要とするような重篤な腎障害のある患者は禁忌と改定され、より厳格な管理が求められていることを認識した。

・ 適切に対処しなかった場合、昏睡を含む意識障害、幻覚、妄想、せん妄、錯乱等の精神症状、痙攣、ミオクロヌス等の重篤な副作用を起こしうることを認識した。

・ 無動症の患者が入院しており、反応も乏しく患者の訴えや症状の変化から重篤化を回避することは困難で、より積極的な対策立案が必要と考えた。

【施設内の情報活用】

・ 薬歴管理システムの電子化が行われていないため、薬剤部長はスタッフと共に入院・外来の処方を手作業で調査した。

・ 使用患者は3名居ることが確認され、腎機能を考慮すると1名が過量である可能性が考えられた。

・ 添付文書の腎機能に応じた減量規定の記載を参考にして、過量と考えられた患者の処方量の減量を提案し対応を協議した。

【本事例のポイント】

病床数約200に対して常勤医師6名、薬剤師3名で診療が行われており、薬剤管理指導業務を通じてほぼ全ての入院患者の状況が把握されている施設の事例である。

自施設においてアマンタジン塩酸塩を投与されている患者は、いずれも無動症で反応も乏しく、臨床所見から副作用発現の有無を判断するのは困難で、実効性のある対策を立案しないと重篤化のおそれがあると考えた。また、患者は高齢で腎機能が低下している場合が多く、改定された安全性情報は透析相当の腎障害を禁忌とするものであったが、透析中の患者のみならず過量投与の危険がないか再点検が必要と考えた。

薬剤師はアマンタジン塩酸塩投与中の患者のCCrを推定し、さらに適正な投与量を推定したうえで主治医に報告した。その結果、減量が行われた。

患者が無動症で反応も乏しいため、減量の効果を明らかにするのは困難であった。

アマンタジン塩酸塩の添付文書に「本剤は大部分が未変化体として尿中に排泄されるため、腎機能が低下している患者では、血漿中濃度が高くなり、意識障害、精神症状、痙攣、ミオクロヌス等の副作用が発現することがあるので、腎機能の程度に応じて投与間隔を延長するなど、慎重に投与すること」と記載されたこと。また「用法及び用量に関連する使用上の注意」に外国人における試験に基づく目安ではあるが、CCrが35〜75(mL/min)の場合、1回100mgを24時間間隔で投与することが目安となることが示されている。薬剤部長は、上記の安全性情報の改正点と自施設の現状を院長に報告した。

院長は、当該施設の入院患者のほとんどが高齢者であることからCCrが75(mL/min)以下の可能性が高いことを考慮し、高齢者への1日最大用量を原則として100mgとすることを決定し自ら診療部の医師全員に伝えた。これ以降、他診療施設で既にアマンタジン塩酸塩処方されている高齢者の患者で1日投与量が100mgを超える場合には、転入時に主治医が原則として1日100mgに減量することを考慮するよう定めて実施してきている。ただし、減量を指示する際に主治医が転院元の医師と協議して、治療経過と副作用の発現状況を考慮して減量の可否を判断することもあわせて定めている。

※ 医療機関における安全性情報の迅速な入手について(解説)

添付文書の重要な改定に関しては、厚生労働省が製薬企業に改定を指示している。製薬企業はこれに基づき添付文書を改訂する。医療機関でより迅速に改定情報を入手するには一般に下記の順で情報が参照できる。

(1) 医薬品医療機器情報提供ホームページ 医薬品医療機器情報配信サービス

あらかじめ登録したメールアドレスに、緊急安全性情報、医薬品・医療機器等安全性情報、使用上の注意の改訂指示、医薬品安全対策情報(DSU)、自主点検通知/回収情報(クラスI)がタイムリーに通知される。

(2) 医薬品医療機器情報提供ホームページ 使用上の注意の改定情報

厚生労働省が製薬企業に指示した、医薬品を使ううえでの新たな注意事項。製薬企業はこれに基づき添付文書を改訂する。

(3) 製薬企業MR、医薬品卸MS、ダイレクトメールによる添付文書改定のお知らせ配布

(4) 医薬品・医療機器等安全性情報

厚生労働省において収集された副作用情報をもとに、医薬品等をより安全に使用することに役立つ情報を、医療関係者に対して情報提供している。約1ヶ月毎に発行される。 または

(5) 医薬品安全対策情報(Drug Safety Update:DSU)

医薬品を使ううえでの新たな注意事項について、製薬業界が取りまとめた情報。厚生労働省の改定を指示に加えて、製薬企業の自主改定の内容も掲載されている。

III.グリベンクラミドとボセンタンの相互作用回避

持参薬が含まれるため処方システムでは回避できない状況下での病棟薬剤師の対応

糖尿病治療薬として長い臨床使用経験を有し、汎用されているハイリスク薬である経口血糖降下薬グリベンクラミドは、平成17年4月に薬価収載された肺動脈性肺高血圧症治療薬であるボセンタン水和物と併用した場合に、胆汁酸塩の排泄を阻害することで肝機能障害の発現のリスクを高めることが報告され併用禁忌となっている。

なお、ボセンタン水和物は添付文書の警告欄上に肝機能障害を発現することが明記されているハイリスクな薬剤である。

1.【使用上の注意の改訂】(平成18年7月)

ボセンタン水和物

【禁忌】【併用禁忌】グリベンクラミド

臨床症状・措置方法:本剤との併用により、肝酵素値上昇の発現率が2倍に増加した。

機序・危険因子:本剤との併用により、胆汁酸塩の排泄を競合的に阻害し、肝細胞内に胆汁酸塩の蓄積をもたらす。一部の胆汁酸塩の肝毒性作用により、二次的にトランスアミナーゼの上昇をもたらす可能性がある。

グリベンクラミド

【禁忌】【併用禁忌】ボセンタン水和物

臨床症状・措置方法:本剤との併用により、肝酵素値上昇の発現率が増加したとの報告がある。

機序・危険因子:本剤及びボセンタンは胆汁酸塩の排泄を阻害し、肝細胞内に胆汁酸塩の蓄積をもたらす。

2.活用事例(地域中核病院における事例)

ボセンタン水和物は、肺動脈性肺高血圧症に適応を有する薬剤で、WHO機能分類クラスIII及びIVに限定して使用が認められている薬剤で、内服治療では代替薬は存在しない。一方、グリベンクラミドは、効力の強いSU剤として臨床で汎用されており、類薬は存在するものの全ての患者にとって治療上全く同じと位置づけられる代替薬は無く使用患者にとっての治療上の重要性は高い。

この組み合わせのように、代替薬が無く治療上の重要性が高い薬剤の併用禁忌に関しては、各医療機関で主治医間の協議に基づき併用回避が行われている。

電子カルテ、あるいは処方オーダリングシステムを導入している施設では、処方オーダリング時に組み合わせエラーとして禁忌メッセージを表示、諸方位に組み合わせ回避を促す取り組みが行われている。

一方、DPCの普及とともに入院患者の持参薬を継続服薬することとしている医療機関が増加しており、処方オーダリングシステム上に処方歴が存在しない持参薬と、院内処方の薬剤とのシステム的なチェックが出来ない自体が発声して問題となっている。

本事例では、病棟薬剤師への周知により、シイステム的にはチェックし得ない患者持参薬と院内処方薬の相互作用による肝障害のリスクを回避できた事例である。

【事例の経過】

平成18年7月 : MRが「トラクリアとグリベンクラミド製剤の併用禁忌に関するお知らせ」の情報を持参した。

ボセンタン水和物に対する併用禁忌薬剤に該当する経口血糖降下薬グリベンクラミドを処方オーダリングシステム上で併用不可の措置とした。

毎朝行っている薬剤部全員ミーティングにおいて、両薬剤が併用禁忌であり持参薬のチェックが必要なことを周知徹底した。

この際、ボセンタン水和物の処方されている診療科と医師数を調査し、心臓血管センター11名、血液内科3名、小児科2名であることが確認されたため、当該診療科の病棟薬剤師には特に留意して薬剤管理指導業務を行うよう伝えた。

平成18年8月 : 心臓血管センター担当の病棟薬剤師が、ボセンタン水和物が初めて処方された80歳代女性の入院患者の処方内容について持参薬の薬歴確認をしていたところ、他医療機関よりグリベンクラミド錠1.25mg(朝食後1錠服用)が処方され継続服用していることを確認。

直ちに処方医に連絡し協議した結果、当面グリベンクラミド錠の服薬を中止して経過を観察することとなった。

【情報収集】

医薬品情報室長は、担当MRから「トラクリアとグリベンクラミド製剤の併用禁忌に関するお知らせ」を入手した。

【情報評価・分析】

・ 医薬品情報室長は、ボセンタン水和物と経口血糖降下薬グリベンクラミドは併用禁忌であることを、MRが持参した使用上の注意改定のお知らせで確認した。

・ 当該医療機関では、手順に則り併用禁忌の医薬品については、処方オーダリングシステムに反映させ医師へ警告を発する事となっている。

・ 併用禁忌とされる薬剤が汎用される経口血糖降下薬グリベンクラミドであることから、薬剤部では持参薬に対する安全確保策が必要と判断した。

・ ボセンタン水和物を処方する診療科を調査し、該当する診療科(循環器科、血液内科、小児科)にて薬剤管理指導業務を行っている薬剤師は、持参薬チェックに関して特に留意するよう注意を喚起した。

【施設内の情報活用】

・ MRが持参した使用上の注意改定のお知らせに対応して、処方オーダリングシステムに反映させ、オーダ不可とした。

・ 処方オーダリングシステムを経ない持参薬に対する安全確保策が必要と判断し、当該薬剤を処方する診療科を調査し、該当診療科を担当する薬剤師に対して持参薬管理に関して特に注意を促した。

【本事例のポイント】

・ 処方オーダリングシステムでは対応できない持参薬との併用禁忌について病棟薬剤師 が対処した点が特長的な事例である。

・ 医療におけるIT化が進み、幾つかの問題については、コンピュータによるチェック機能が働くようになっている。それでもなお医療制度の変革に合わせて、「人の目」で確認しなければならないことは少なくない。ITの利便性に頼るだけでなく医薬品情報を適切に活用する医療現場の対応が要求されることを物語る事例である。

IV.酸化マグネシウム経口剤の長期投与事例に生じる高マグネシウム血症

酸化マグネシウムは、胃内における制酸作用と、腸内における緩下作用を有している。我が国の日常診療では、昭和25年から使用されており、緩下剤、胃腸薬として汎用されており、製薬企業の推計では年間約4,500万人が使用している。

酸化マグネシウムは、『腸内では、難吸収性の重炭酸塩または炭酸塩となり、浸透圧維持のため腸壁から水分を奪い腸管内容物を軟化することにより緩下作用をあらわす。本剤は、非吸収性であり、アルカローシスを生じない。(A社添付文書、【薬効薬理】より引用) 』と考えられていた。

改定前の添付文書では、使用上の注意、慎重投与の項に、『腎障害のある患者〔高マグネシウム血症を起こすおそれがある。〕』の記載があるものの、臨床の医師、薬剤師には、重大な副作用の記載がなく比較的安全な薬剤との認識があった。

平成20年9月19日に厚生労働省より使用上の注意の改定指示があり高マグネシウム血症への注意が喚起され、同年11月27日に発行された医薬品・医療機器等安全性情報No.252では、約3年間に15例の高マグネシウム血症の報告があり、死亡例が2例あること等が紹介され再度注意喚起がなされた。

1.使用上の注意の改訂指示(平成20年9月19日)

【措置内容】以下のように使用上の注意を改めること。

[重要な基本的注意]の項を新設し、下記を追記する。

本剤の投与により、高マグネシウム血症があらわれることがあるので、長期投与する場合には定期的に血清マグネシウム濃度を測定するなど特に注意すること。

[副作用]の項に新たに「重大な副作用」として下記を追記する。

高マグネシウム血症:本剤の投与により、高マグネシウム血症があらわれ、呼吸抑制、意識障害、不整脈、心停止に至ることがある。悪心・嘔吐、口渇、血圧低下、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠等の症状の発現に注意するとともに、血清マグネシウム濃度の測定を行うなど十分な観察を行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

2.安全性情報活用実践事例

1)診療所における事例

薬剤科長が医薬品医療機器情報配信サービスにより、使用上の注意の改訂指示情報を入手した。連携診療所と協力して情報収集するとともに処方実態把握のために薬歴システムを利用して酸化マグネシウムが処方されている患者をリストアップしたうえで、長期処方に該当する患者がいないか調査した。本安全性情報の内容及び当施設内での処方状況を医師に報告し対策を協議した。さらに、酸化マグネシウムの処方を調剤した際には、長期連用すると稀に高マグネシウム血症の副作用があらわれること、早期発見と重篤化防止のために初期症状に関して文書と口頭で患者に情報を提供した。

【事例の経過】
9月19日 :

 医薬品医療機器情報配信サービスにより、当該施設の薬剤科長が使用上の注意の改訂情報を入手した。

9月29日 :

 連携診療所の薬剤情報担当薬剤師が、製薬企業の医薬品情報担当者(MR)から「使用上注意改訂のお知らせ」を入手した。当該施設及び他の連携診療所(計8施設)に採用状況の確認メールを送信した。当該施設の薬剤科長は酸化マグネシウムを採用していることを返信した。

10月8日 :

 連携診療所の薬剤情報担当薬剤師から当該施設の薬剤科長に、患者に提供する薬剤情報紙の改訂について相談があった。(当該施設では、医薬品情報業務を連携診療所と連携・分担して実施している。)

 薬剤科長は高マグネシウム血症の症例の詳細について製薬会社に問い合わせた。その結果、本改定の根拠となった情報として腎機能低下患者や高齢者に限らず高マグネシウム血症の発症があり、死亡例も報告されていることが確認された。

 当該施設の薬剤科長は、全医師に対して、調査した改定の背景情報を含めて情報提供を行った。

 同時に、連携診療所の薬剤情報担当薬剤師に調査結果を伝達し、処方医師・患者の調査に基づく対応が必要と考えられることを伝え、あわせて患者向け薬剤情報紙の改訂を依頼した。

 当該施設の薬剤科長は、酸化マグネシウム処方患者を薬剤科内の薬歴システムで検索して抽出し、2ヶ月以上継続して処方されている長期処方患者はいないことを確認し医師に追加報告した。

10月10日 :

  連携診療所の薬品情報担当薬剤師が薬剤情報紙の改訂作業を完了し、連携施設の薬剤科に配信した。これ以降、酸化マグネシウム処方患者には高マグネシウム血症の初期症状について文書及び口頭で情報提供することとした。

 施設内の看護師にも、本情報を提供し患者から初期症状に該当する訴えがあった場合には、医師・薬剤師に連絡してもらえるよう打ち合わせた。

11月27日 :

  厚生労働省より医薬品・医療機器等安全性情報No.252が発行され本事例について詳細情報が提供されるとともに再度注意喚起が行われた。この時点で新聞等でも本件の内容が一般国民に報道された。

 当該施設および連携診療所では、この時までに施設内および患者向け情報について、本件への対応が完了しており医師や患者からの改めての問い合わせはなかった。

【情報収集】

(1) 薬剤科長が医薬品医療機器情報配信サービスにより「使用上の注意の改訂情報」を入手した。

(2) 関連診療所の薬剤情報担当薬剤師が製薬企業の医薬品情報担当者(MR)より「使用上注意改訂のお知らせ」を入手した。

(3) 薬剤科長は高マグネシウム血症の症例の発現頻度、重篤度、症例経過等の詳細に関して、製薬会社に問い合わせを行い情報を入手した。

(4) 薬剤科長が医薬品・医療機器等安全性情報No.252を入手した。

【情報評価・分析】

・ 酸化マグネシウム製剤は当該診療所において汎用される薬であり、影響を受ける患者数が多いと推察した。

・ 従来、リスク因子(腎機能障害)がある患者において、慎重な対処が必要と位置づけられていたが、該当しない場合でも長期連用症例では発現しており、新たなリスク因子(長期連用)が加わったことを認識した。

・ 適切に対処しなかった場合、意識障害、呼吸抑制、不整脈等の生命に危険を及ぼしうる重篤な副作用であると認識した。

・ 外来通院患者が服用することから、患者ヘの初期症状の指導が、重篤化回避に寄与しうると考えた。

・ 薬歴システムで検索し抽出した処方状況から、2ヶ月以上の継続処方はなく、長期処方に該当する患者が当該施設にはないこと確認した。

【施設内の情報活用】

・ 薬剤科内の薬歴システムで酸化マグネシウム処方患者を検索して抽出した結果、2ヶ月以上継続して処方されている長期処方患者はいなかった。

・ 常勤医師に添付文書改訂内容及び当該施設での処方状況を情報提供し、対応を協議した。

・ 患者に提供する薬剤情報紙の改訂(高マグネシウム血症の初期症状)を行った。

【本事例のポイント】

・ 診療所等の小規模な施設では、製薬企業の医薬品情報担当者(MR)の訪問は少ない現状がある。これに代わる、タイムリーで確実な情報源として、医薬品等・医療機器情報提供ホームページで提供される情報、特に医薬品医療機器情報提供サービス(プッシュメール)が活用されていた。

・ 汎用されている医薬品の重大な副作用であり、健康被害の拡大が懸念されるか否かを判断するために、薬剤科は改定根拠となった情報を積極的に調査している。調査結果として得られた、リスク因子、重篤度、発現時期を考慮して医師との面談協議による情報提供を行っている。

・ 汎用されている医薬品の重大な副作用であり、当該施設において潜在的に危険な状況にある患者が存在するか否か、薬歴を調査し特定している。

・ 施設所属の薬剤師数が限られている点を補完するため、関連施設(8施設)の薬剤師と連携して医薬品情報管理業務に取り組んでいる。

2)小規模な病院における事例(その1)

薬剤部長が酸化マグネシウム製剤による高マグネシウム血症の副作用に関する医薬品添付文書改訂情報を入手。院内広報を発行し院内周知を図ると共に、薬剤部内の調剤システムを利用して酸化マグネシウム製剤服用患者をリストアップした。この使用状況データをもとに薬剤部長と病院長が実効性のある対応策を相談した。この施設の全ての患者は高齢で、高マグネシウム血症の発現リスクが高いと判断された。報告を受けた院長は、酸化マグネシウム製剤を服用中の患者全ての血清Mg値を測定することとし、診療部へ検査実施の指示を自ら行った。検査の結果、基準値を超えていた患者が見受けられたため、必要と思われる患者に対して主治医により酸化マグネシウム製剤の投与中止あるいは減量の措置が行われた。病院としてこの結果を重視し、酸化マグネシウム製剤を長期間服用している患者の血清Mg値測定を半年ごとに測定することとした。

【事例の経過】
9月24日 :

 薬剤部長が医薬品医療機器情報配信サービスにより、使用上の注意の改訂指示情報を入手

10月13日 :

 薬剤部長がMRから「使用上注意改訂のお知らせ」を入手

10月16日 :

 薬剤部は「病院DIニュース」を発行し院内周知を図ると共に、調剤システムを利用して酸化マグネシウム製剤を服用中の患者をリストアップした。

 この時点で診療中の全入院患者(約200名)及び外来患者(約300名)中、酸化マグネシウム製剤を使用していた患者は102名(入院76名、外来26名)であった。

 薬剤部長は、当該施設に身体機能が低下し排便管理に酸化マグネシウム製剤を長期にわたり使用している患者が多いこと、高齢と身体機能低下で体調変化の訴えが少ないこと等を考慮し、早い段階での酸化マグネシウム製剤を長期服用している患者の血清Mg値測定の必要性を病院長に提案した。病院長は、酸化マグネシウム製剤を長期服用している全ての患者は高齢で高マグネシウム血症の発現リスクが高いと判断し、当該薬剤服用患者全員の血清Mg値を測定(外部委託検査)することとし、診療部へ検査実施の指示を自ら行った。

 その結果、対象患者102名中67名(入院62名、患者5名)の検査が実施された。残りの患者は投与量が330mg/日程度と低用量であったため、次回の定期検査時に測定することを各主治医が指示した。

10月18日 :

 検査結果が各主治医に届けられた。

 検査の結果、67名中54名(入院50名、外来4名)が基準値(2.4mg/dL)を超えた値を示していた。

 主治医は投与中止(入院7名、外来0名)あるいは減量(入院9名、外来0名)の処方変更指示を出し、薬剤部は直ちに対応した。なお、中止例についてはセンノサイド製剤が代替薬として処方された。

 薬剤師は、面談可能な患者に対して、不安を与えることが懸念されたため、高マグネシウム血症による副作用の自覚症状の有無を尋ねるとともに、処方が変更になった事を伝えるにとどめた。

11月27日 :

 薬剤部は 厚生労働省より発行された医薬品・医療機器等安全性情報No.252を安全管理情報として院内広報すると共に、再度注意喚起を行った。

12月17日 :

 主治医が徐脈を発現した患者に気づくが、一旦軽快した。

12月24日 :

 主治医が同患者の徐脈再発現に気づき調査したところ、9月以降酸化マグネシウム2,000mg/日を投与していたにもかかわらず血清Mg値の測定が実施されていなかった。血清Mg値を測定したところ5.6mg/dLと基準値を上回っていたため直ちに投与を中止し、オルシプレナリン硫酸塩錠1日3錠を投与開始した。平成21年1月5日に血清Mg値を再測定したところ2.5mg/dLに下がり、1月15日現在はオルシプレナリン硫酸塩錠の継続投与がなくとも心電図は正常となった。

【情報収集】

(1) 薬剤部長が医薬品医療機器情報配信サービスにより「使用上の注意の改訂指示情報」を入手した。この時点では、多忙なこともあり、院内伝達にとどめる情報に位置づけられた。

(2) 製薬企業の医薬品情報担当者(MR)より「使用上注意改訂のお知らせ」を入手した。

【情報評価・分析】

薬剤部長は、当該施設は高齢で寝たきりの患者が多いため、酸化マグネシウム製剤は多くの患者で継続的に使用されていること、高齢と身体機能低下で体調変化の訴えが少ない可能性があること、腎機能の低下している患者が多いことから、高マグネシウム血症発症のリスクは高いと考えた。

調剤システムを使用して調査した処方患者一覧により、酸化マグネシウム製剤を服用している患者は入院・外来を合わせて102名いることがわかった。

添付文書改定の情報と酸化マグネシウム製剤薬服用患者リストを病院長に報告し、当該服用患者の血清Mg値測定が必要と考えられることを提案した。

病院長は、全ての患者は高齢で高マグネシウム血症の発現リスクが高いと判断した。

【施設内の情報活用】

・ 薬剤部は院内広報誌を作成し医療職員に情報提供した。

・ 薬剤部内の調剤システムで酸化マグネシウム処方患者を検索して抽出した。

・ 薬剤部長は病院長に当該薬服用患者の血清Mg値測定を提案した。

・ 病院長は、当該薬剤服用患者全員の血清Mg値測定を決定し、診療部へ検査実施の指示を行った。

・ 主治医は血清Mg値の検査結果を基に対応が必要と思われる患者に対して投与中止あるいは減量を行った。

・ 医療者向け「医薬品情報提供書」の重大な副作用に高マグネシウム血症と、必要な定期検査に血清Mg値測定を追記した。

【本事例のポイント】

薬剤部長は、本医療機関で酸化マグネシウム製剤を使用中の患者は、高齢で身体機能が低下した患者が多いということから、排便管理に緩下剤を長期にわたり使用する患者が多いこと、高齢と身体機能低下で体調変化の訴えが少ない可能性があること、腎機能が低下しており高マグネシウム血症のリスク因子に該当する患者が多いことから、院長に血清Mg値の測定を提案している。

院長は、102名(入院76名、外来26名)の服用患者リストと、安全性情報、薬剤部長の提案をもとに検査実施を即決している。検査の結果、対応が必要と考えられた患者に対して処方変更が行われた。

しかしながら、検査を実施できていない患者から徐脈の症状が認められたため、血清Mg値を測定したところ5.6mg/dLと高値であったため、直ちに投与を中止した事例があった。なお、当該患者に対して投与中止12日後、血清Mg値を測定したところ2.5mg/dLに低下していた。

今回、緊急に全例検査を指示したにも係らず高マグネシウム血症の事例が発生したため、院長と薬剤部長は検査漏れの防止策を検討し、酸化マグネシウム製剤を長期服用している患者の定期検査(半年ごとに実施)に血清Mg値測定を組み入れることを決めた。あわせて、薬剤師も本件関する検査オーダ漏れ発見した場合には、検査実施の指示を代行できることになった。

3)小規模な病院における事例(その2)

薬剤部長は、製薬企業から医薬品添付文書改訂の連絡を受けて医局会で死亡が2例報告されている旨の情報提供を行った。その医局会で死亡例の詳細調査の要請があったため、薬剤部長は翌週の医局会にて、MR(医薬情報担当者)提供の症例一覧表及び服薬指導の留意事項の情報を報告した。

薬剤部は長期服用患者を調査し一覧を作成すること、医師は血清マグネシウム(Mg)値を測定し高マグネシウム血症及び副作用発現の有無の確認を行うことを決定した。

薬剤部にて患者の症状及び薬物治療を含むMg製剤使用状況一覧を作成し、薬事委員会の決議事項として、長期服用患者など危険性が高いと考えられる患者に対する高マグネシウム血症の副作用確認基準を作成して院内への注意喚起が徹底された。

【事例の経過】
10月20日 :

 薬剤部長がMRから「使用上注意改訂のお知らせ」を入手

10月22日 :

 製薬企業からの添付文書改訂情報「酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」を医局会(毎週水曜日;構成員は全医師、薬剤部長、連携 薬局の薬局長)にて報告。医師より、酸化マグネシウムによる死亡例の詳細調査の依頼あり。

10月29日 :

 薬剤部長は、MRより「酸化マグネシウム製剤における高マグネシウム血症症例一覧」(製薬企業作成)を入手し、医局会で報告。

 薬事委員会にて、薬剤部で処方歴などからCSV形式で抽出したデータより使用者一覧表を作成して審議した。酸化マグネシウム製剤の使用者は、入院53名及び外来通院327名であった。この結果をもとに検討し、酸化マグネシウムを長期服用している患者の血清マグネシウム値を測定する方針を決定した。

11月29日 :

 酸化マグネシウム330mg錠を1日3錠服用中の80歳代の患者が、気分不良、食欲不振にて来院した。薬事委員会決定後の初来院の患者であったため、Mg値が測定された。食欲なしの他に異常所見は認められていないが血中マグネシウム値を測定したところ2.7 mg/dL(正常値:1.7〜2.6)であった。

 医師と薬剤師が協議して酸化マグネシウム製剤の投与を中止し、補液投与の処置にて経過観察したところ酸化マグネシウムの服薬中止18日後のMg値測定結果は1.9mg/dLと正常値に低下しており、食欲不振は改善を示した。

12月 3日 :

 薬剤部長は、マグネシウム値が正常値を超えていた患者で消化器症状を呈した事例が発生したこと、並びにMRより入手の「酸化マグネシウム製剤の服薬指導にあたって」を医局会で説明し、再度注意を喚起した。

12月 5日 :

 薬剤部では、酸化マグネシウム製剤使用患者を医薬品処方データベースより抽出して血清マグネシウム測定患者一覧を作成した。検査部による測定の協力を得て、血清マグネシウム値の高い順に、自覚症状の有無、制吐剤処方などの情報を付加して分析した。

12月15日 :

 薬事委員会にて、重度の高マグネシウム血症を含め、副作用症状の発現は認められていないことを報告した。また、酸化マグネシウム長期服用患者に対して定期的な血清マグネシウム濃度測定と、腎障害、高齢者、認知症などハイリスク例について、再度、全医師に注意を喚起した。

12月20日 :

 病院と連携して診療を行っている6診療所の医療関係者の合同で開催している薬事委員会(6ヶ月に1回開催)にて、血清マグネシウム測定患者リストについて検討が行われた。消化管運動改善剤等が副作用対策として処方されている可能性があり長期併用例について酸化マグネシウムによる副作用との関連がないか追加調査することとなった。

【情報収集】

(1) 薬剤部長は、MRから「使用上注意改訂のお知らせ」を入手した。

(2) 薬剤部長は、医局会の要請によりMRから「酸化マグネシウム製剤における高マグネシウム血症症例一覧」(製薬企業作成)を入手した。

(3) 薬剤部長は、MRから医薬品・医療機器安全性情報No.252、「酸化マグネシウム製剤の服薬指導にあたって」を入手した。

【情報評価・分析】

・ 薬剤部長は医局会において、高マグネシウム血症があらわれた場合の初期症状として,悪心・嘔吐があげられることより、医療関係者は食欲の有無についても留意すること、口渇,血圧低下,徐脈,皮膚潮紅,筋力低下,傾眠等の症状の発現に注意することを患者に説明し、異常が認められた場合は投与中止することを申し合わせた。

・ 薬剤部長は、薬事委員会資料として、血清マグネシウム測定患者のハイリスク例一覧に、合わせて処方情報、血中Mg値及び自覚症状などの一覧表を提供した。

【施設内の情報活用】

・ 当初、医局会では、病院として患者への特別な対応の必要性はないと評価していた。

・ 医局会の要請に基づき、死亡例の詳細情報を入手し、自施設にはリスク患者が存在することを提示して検討した結果、酸化マグネシウム製剤を長期服用している患者の血清マグネシウム値を測定する方針を決定した。

・ 気分不良、食欲不振にて来院した患者が酸化マグネシウム製剤を長期服用していたため、医局会の決定に基づき血清マグネシウム値を測定したところ基準値を超えていたことが判明した。

・ 血清マグネシウム値が高値な場合の症状に対して、消化管運動改善薬等が処方されていることがないか調査することを決定した。

【本事例のポイント】

この医療機関では、処方オーダリング導入以前(約20年前)より、副作用疑いの症例発生時は、「副作用・アレルギー情報」に薬品名、症状、重篤度(厚労省グレード分類)、対処等を医師が記載し、薬剤部にて確認後に薬剤師が診療録に挟み込み安全対策を実施してきていた。処方オーダリング導入に伴い、個々の主治医が入力する副作用警告機能に統合されたが、入力内容、入力された情報の網羅性ともに不十分であると医局会で判断され、プログラム改良が行われ副作用の被擬薬名、症状、重篤度、対処を薬剤部で入力し、次回から該当薬品の処方オーダーが不可となる運用が行われ、患者の医薬品使用安全性確保に役立てられていた。

こうした日常診療における副作用管理体制を基盤として、今回の安全性情報への対応が進められていた。

対策を協議した医局会では、医師から自施設において重大な健康被害の事例はないと説明されていた。「酸化マグネシウム製剤の服薬指導にあたって」(製薬企業作成)に記載されている高マグネシウム血症の初期症状が悪心・嘔吐であったことより、薬剤師が長期服用患者で消化管運動改善薬等が処方されている患者についてMg値に注意することなどの留意事項に関する情報を医師及び看護師に提供するなどして、さらなる医薬品安全使用に注意喚起を行った。

V.メシル酸ペルゴリド、カベルゴリンの禁忌ならびに重要な基本的注意の追加(心臓弁尖肥厚、心臓弁可動制限及びこれらに伴う狭窄等の心臓弁膜の病変が確認された患者)

メシル酸ベルゴリド、カベルゴリンは、パーキンソン病治療に適応を有しており、高齢者に処方されることが多い薬剤である。その用法用量は1日量0.25mgから始め、2週目には1日量を0.5mgとし、以後経過を観察しながら、1週間毎に1日量として0.5mgずつ増量し、維持量を定める薬剤である。

改定前の添付文書では重要な基本的注意事項に心臓弁膜症、線維症に関しては「非麦角製剤と比較して、本剤を含む麦角製剤投与中の心臓弁膜症、線維症の報告が多い」と記載があるものの、具体的な予防策の記載はなく、発現時の対処法のみの記載に留まっていた。

欧米ではNew England Journal of Medicine(NEJM)誌の平成19 年1 月4 日号に2 つの論文が発表され,メシル酸ペルゴリド、カベルゴリンを投与された患者では臨床的に重大な心臓弁逆流のリスクおよび発生頻度の増加が報告された。一方,非麦角系ドパミン作動薬を投与された患者ではこれらが認められなかった。この結果を受けて,製薬企業の米国本社は、米国食品医薬品局(FDA)との協議の結果として、平成19年3月29日に米国における自主回収と販売中止を決定し発表した。

本邦では平成19年4月19日にカペルゴリン製剤の医薬品添付文書の「禁忌」、「効能又は効果に関連する使用上の注意」、「重要な基本的注意」、「副作用(重大な副作用)」の項に心臓弁膜症,線維症の副作用に関する情報と心エコー検査の実施に関する記載事項が追記された。平成19年6月には厚生労働省より医薬品・医療機器等安全性情報No237が発行され、本件について再度注意喚起がなされた。

1.使用上の注意の改訂指示(平成19年4月19日)

【措置内容】以下のように使用上の注意を改めること。

[禁忌]の項に 下記を追記する。

「心エコー検査により、心臓弁尖肥厚、心臓弁可動制限及びこれらに伴う狭窄等の心臓弁膜の病変が確認された患者及びその既往のある患者〔症状を悪化させるおそれがある。〕」。[効能又は効果に関連する使用上の注意]の項を新設し、下記を追記する。

「非麦角製剤の治療効果が不十分又は忍容性に問題があると考えられる患者のみに投与すること。」

[重要な基本的注意]の項の心臓弁膜症、線維症に関する記載を下記に改める。

「非麦角製剤と比較して、本剤を含む麦角製剤投与中の心臓弁膜症、線維症の報告が多いので、パーキンソン病に対する薬物療法について十分な知識・経験を持つ医師のもとで本剤の投与を開始するとともに、投与継続中はリスクとベネフィットを考慮すること。」

本剤投与開始時の検査等に関する記載を下記に改める。

「本剤の長期投与において心臓弁膜症があらわれることがあるので、投与前・投与中に以下の検査を行い、十分な観察を行うこと。なお、投与中止により改善がみられたとの報告例もある。1)本剤投与開始に際しては、聴診等の身体所見の観察、心エコー検査により潜在する心臓弁膜症の有無を確認すること。2)本剤投与中は、投与開始後3〜6ヵ月以内に、それ以降は少なくとも6〜12ヵ月毎に心エコー検査を行うこと。心エコー検査等により心臓弁尖肥厚、心臓弁可動制限及びこれらに伴う狭窄等の心臓弁膜の病変が認められた場合は、本剤の投与を中止すること。また、十分な観察(聴診等の身体所見、胸部X線、CT等)を定期的に行うこと。」

2.安全性情報活用実践事例

1)小規模な病院における事例(その1)

療養型の病床を中心とした小規模での安全性情報活用事例である。医師、薬剤師が一堂に会して協議する「医薬品安全管理委員会」において、情報が吟味され迅速な院内対策が立案され、院内の複数の部署の協力のもと、使用患者への副作用の発現の有無が確認されている。

電子カルテ等が導入されていない施設のため、電子的な処方医・使用患者のリストアップは出来ないが、薬剤科の薬歴管理簿から患者と処方医に関する情報を抽出し、これをもとに施設内で発生しうるリスクの規模を考慮して、院長決定で全使用患者に対して問診に続いて検査を実施し患者の安全を確認した事例。

【事例の経過】
4月19日 :

 厚生労働省が製造販売業者に使用上の注意の改訂を指示。

4月20日 :

 医薬品情報室担当薬剤師が、MRから「添付文書改訂のお知らせ」を受理。

 担当薬剤師は、薬剤科長に報告するとともに、薬歴管理簿から必要な情報を抽出して、当該薬剤の処方医と処方患者を特定した。

 医薬品情報室担当薬剤師は、処方医へ速報として「添付文書改訂のお知らせ」を持参し情報提供を行った。

4月24日 :

 院長をはじめとする全医師、薬剤師、看護師が参加する「医薬品安全管理委員会」で本安全性情報を審議した。院長は、処方医に対し、当該薬剤服用患者の心臓弁膜病変の有無を確認するよう指示。合わせて検査室へも協力を要請した。

5月1日  :

 「医薬品安全管理委員会」で該当患者全員に問診等でわかる副作用所見は認められない旨の報告があった。

5月9日 :

 服薬中の入院中の患者については、全て心エコー検査を実施。異常がないことが確認された。

5月15日  :

 医薬品情報室担当薬剤師は、MRから当該薬剤が海外で市場撤退した旨の情報を入手した。薬剤科長と院長、診療科医師で協議し、次回の「医薬品安全管理委員会」で検討することを決定した。

5月22日 :

 「医薬品安全管理委員会」で審議し、市場撤退のお知らせに記載のある危険因子である長期間の服用が必要な薬剤であること、当該事象が高齢者では重篤となりうることを考慮して、全医師了解のもと採用中止を決定した。

 医薬品情報室担当薬剤師は、採用薬の中から代替薬となる医薬品を調査し、非麦角アルカロイド製剤を推奨した。同時に、本剤の安易な中止や切り替えに伴い発症するおそれのある悪性症候群の危険性について、各主治医に注意喚起し理解を得た。

 外来患者についてもエコー検査を実施し、当該副作用が発現してないことが報告され対応の完了が確認された。

【情報収集】

(1) 医薬品情報室担当薬剤師が、MRから麦角系ドパミン作動薬メシル酸ベルゴリドの「使用上の注意改訂」のお知らせ文書を入手。

(2) 医薬品情報室担当薬剤師は、MRから当該薬剤が海外で市場撤退した旨の情報を入手。

【情報評価・分析】

・ 医薬品情報室担当薬剤師は、改訂内容が「禁忌」を含む重要な安全性情報であり、適切な対応が必要であると判断し、薬剤科長に報告した。

・ 薬剤科長は、使用上の注意の改訂内容によると「本剤長期投与において心臓弁膜症があらわれることがある」「本剤投与中は、投与開始後3〜6ヵ月以内に、それ以降は少なくとも6〜12ヵ月毎に心エコー検査を行うこと。」の記載があり、速やかな対応を要する重篤度を有しているが週単位の対策立案で支障ないと判断し、毎週開催している「医薬品安全管理委員会」に諮り、適切な院内措置を講じることとした。

・ 医薬品情報室担当薬剤師は、院内の使用状況を調査し、処方医数3人、処方患者数3人であることを把握し個別対応可能と判断した。

・ 長期間の服用が必要な薬剤であること、服用患者は高齢者であり疾患リスクを有していることから安全性に配慮して、実効性がある対応が必要であると評価した。

・ 当該医療機関には、循環器の専門医が勤務していない事を考慮して、安全性情報が示すリスクを回避しうる代替薬があることから、採用削除を決定した。

(注) 国内、海外の用法・用量に差異があり、海外での市場撤退という措置が我が国の医療機関における採用削除との判断にいたることを推奨する事例ではない。当該医療機関における診療内容に配慮して安全性情報の活用を検討した場合、こうした対応も選択肢となりうる事を紹介したものである。

【施設内の情報活用】

・ 全医師、薬剤師、看護師が参加する「医薬品安全管理委員会」で事例を周知すると共に、対策を協議し実効性のある対策としている。

・ 全医師に患者への問診による確認、続いて臨床検査部協力のもと心エコー検査の実施体制を確保していた。

・ 当該薬剤を処方していた全患者の心エコー検査を実施し、心臓弁膜病変のないことを確認した。

・ 当該薬剤の採用を中止するとともに、切り替え時には、投薬中止に伴う悪性症候群の発症の危険性に配慮し、慎重に対応するよう注意喚起した。

【本事例のポイント】

・ 本事例では、医薬品情報室担当薬剤師と薬剤科長が、安全性情報の重要度を的確に評価し、「医薬品安全管理委員会」へ報告したことを起点として、同委員会でリスク評価と対応が審議され、病院としてリスク認識とリスク回避のための対策が実践された。

・ 院内の医薬品安全管理に関する委員会を毎週定例で開催し、院内総意のもと対策を立案・実行し、結果を検証して患者の安全確保に努めている点が注目される。

・ 対策が院内に周知徹底できる背景には、この委員会が全医師、各部門代表(薬剤師、看護師、事務職員等)から構成されており、病院長のリーダーシップが発揮され、全職員のコンセンサスが得られる体制が確立されていることが挙げられる。

・ 本事例の施設では電子カルテの導入はないものの、薬剤部門システムを応用して処方歴を検索したり、部門システムでは対応が困難な薬剤については手書きの薬歴簿などを日々記録し、処方医、処方患者、検査値異常を確認できる体制が構築されている。

・ 医療情報の電子化が十分でない施設においても、既存の情報源をうまく活用する工夫や、薬剤師の日々の業務である薬歴管理簿から必要な情報を抽出して、安全性情報に活用されている点が類似の施設環境にある医療機関において示唆に富む事例と言える。

2)規模の大きい急性期病院における事例(その2)

New England Journal of Medicine(NEJM)誌の平成19 年1 月4 日号に2 つの論文が発表され,メシル酸ペルゴリド、カベルゴリンを投与された患者では臨床的に重大な心臓弁逆流のリスクおよび発生頻度の増加が報告された。一方,非麦角系ドパミン作動薬を投与された患者ではこれらが認められなかった。

米国食品医薬品局(FDA)は、米国における製造販売業者と協力して米国市場において麦角系ドパミン作動薬メシル酸ベルゴリドおよびBを自発的に販売中止することを発表した。

本事例の医療機関は、急性期医療を担う基幹病院であり、生活習慣病並びに病状が安定している患者の処方日数は、30日〜90日が大半を閉めていた。このため、入手した情報を直ちに臨床の対策として適応しないと、緊急来院を要請しない限り処置の完了が30日後以降に長引くという問題点を有していた。

医薬情報室担当薬剤師、薬剤部長は、添付文書の使用上の注意の改定は指示されていない段階ではあったが、FDAの措置並びにNEJM誌に掲載された論文の示唆するリスクは、わが国の医療環境下でも実在するものと考えた。薬事委員長、神経内科部長と協議し、添付文書改訂の前ではあつたが、製薬企業から提供された海外規制情報をもとに、院内で迅速に安全対策の実施に着手した事例である。

【事例の経過】

4月6日

8:30

: 当該企業MRが薬剤部医薬情報室に「米国における麦角系ドパミン作動薬メシル酸ベルゴリドの市場撤退報道に関して」のお知らせを持参した。

8:35

: 医薬情報室担当薬剤師は、薬剤部長に報告するとともに電子カルテの処方履歴で処方医、処方患者の特定を開始した。

8:45

: 医薬情報室担当薬剤師は、上記作業と平行して本件について薬剤部内で評価と対策を協議し下記の対応案を決定した。

(1) NewEngJMedの情報調査

(2) 主として処方する診療科と対応協議の準備

(3) 当日外来診療をしている処方医師のリストアップと使用患者の来院状況調査

(4) 病棟薬剤師へ連絡し、入院中の患者への使用状況調査と対応依頼

(5) 院内お知らせ第一報(案)の作成

9:00

: 神経内科部長と医薬情報室の責任薬剤師が本件に関する必要な対策を協議し、以下の事項について了解を得た。

(1) 薬剤師が、使用患者を当日診察する外来担当医師と面談し、お知らせを配布し対応を要請する。

(2) 全医師、全部署へ配布するお知らせ第一報の内容

(3) 該当患者の電子カルテへ注意喚起文を表示する作業計画

薬剤部長は、薬事委員長へ経緯と院内協議の進捗を報告し対策を決定し、全容を院長に報告。

9:15

薬剤部医薬情報室の担当薬剤師を中心に、手分けして外来診察室を訪問し処方医へ情報提供。

9:30

薬剤部は、院内お知らせ第一報の配布を事務部に依頼し、全医師に対して情報周知と注意喚起を図った。

10:00

病棟薬剤師が使用状況リストに基づき入院患者の担当医へ情報提供し対策を協議した。

4月 7日

全医師、全部署へ、お知らせ第一報の配布終了を確認。

4月19日

厚生労働省が当該製剤添付文書の使用上の注意の改訂を指示。

4月23日

薬事委員会で、本件に対するこれまでの院内対応について報告。

【情報収集】

(1) MRから「米国における麦角系ドパミン作動薬メシル酸ベルゴリドの市場撤退報道に関して」に関するお知らせ文書を入手。

(2) NEJM誌の文献を入手。

【情報評価・分析】

・ 医薬情報室担当薬剤師は、MRから入手したお知らせ文書に記載されている二つの海外文献を迅速に入手、記載内容を評価し、6ヵ月以上の長期投与患者あるいは1日3,000μg以上の投与患者において心臓弁膜症の発現のリスクが高まることを確認した。

・ 国内では厚生労働省からの添付文書改訂等の通知はまだなく、また、製薬企業でも国内での販売中止は検討されていないことを確認した。

・ 当該施設は、急性期医療を担う基幹病院で処方日数は長期処方が大半を閉めているため、入手した情報を基に直ちに対策を実践しないと、処置の完了が30日後以降に長引くことを考え直ちに行動を開始した。

・ メシル酸ベルゴリドの処方医師数は8名、使用患者数は26名、カベルゴリンの処方医師数は41名、使用患者数は220名と、多数の患者が治療に使用していた。患者が高齢者で、広域の患者を受け入れている基幹病院である事を考慮すると、安全対策として実施する検査等のために来院を依頼することは難しいと判断した。このため病院としての対策実践は一刻も早く実行に移す必要があると考えた。

・ また、この情報が当該製薬企業のホームページに掲載されており、当該薬剤を服用している患者が情報を入手することが考えられた。患者から病院に問い合わせがあった際に、副作用への懸念から安易に本剤を中止する指導が行われた場合、重大な副作用である悪性症候群を引き起こすおそれがあることから、問い合わせへの標準的な対応を院内医師への迅速に周知する必要があると考え使用状況を調査した。

・ 以上のことから、神経内科部長と医薬情報室の責任薬剤師が直ちに協議して、必要な対策を立案し、患者が不安となり本剤を急にやめないよう指導する旨の対処法を含む院内お知らせを作成し、処方医師へは直接面談し全医師にはお知らせとして配布した。

【施設内の情報活用】

神経内科部長と医薬情報室の責任者が協議して、朝の診察が始まる前までに、当日使用患者を診察する医師へ薬剤師が直接面談して情報を提供した。

【本事例のポイント】

・ 当該施設では、国内における添付文書改訂時の院内周知等の対応はもちろんのこと、使用上の注意などの改訂指示が発出される前の時点であっても、海外規制当局が発信した警告・回収情報を評価・分析し、当該施設における対策の必要性を立案できる体制があった。

・ 医薬品情報室の担当薬剤師が回避すべき危険性が存在すると判断した場合、あるいは医師に周知したほうが適正使用につながると判断した場合には、薬剤部長と協議し院内意思決定を行うとともに、実務レベルでは主たる診療科と協議して、より早期の情報活用策が取られていた。

・ 本事例に関しては、次回の薬事委員会開催までは時間があったことから、薬事委員会委員長と薬剤部長との協議により第一報を配布することを決定していた。

・ 当該施設では、平素より治験審査委員会、薬事委員会等の審議において薬剤師が適切な情報評価や提言を行っており、診療各科の責任医師との医薬品情報業務における信頼関係が構築されていることも、こうした海外規制当局の措置情報に基づく早期対応が可能な院内環境として考えられた。

・ 英語文献をオンラインジャーナルとして迅速に入手できる環境整備と、それを迅速かつ正確に通読・評価できる能力を有する薬剤師がいたことも今回の迅速な措置に寄与したと考えられる。

・ 医薬情報室の提言で、薬剤部長・薬事委員長了承のもと、緊急案件として院内対応が進められ、薬事委員会等での審議を事後報告とするなど、緊急時の迅速な院内対応が組織的に進められた事例と考える。

※ 本事例の、医薬品情報担当薬剤師のように、多忙な専門医を支援して入手した安全性情報に基づき院内で安全対策を立案実践するには、一定の経験や情報処理に対する研鑽が必要と考えられる。

多くの医療施設において業務を通じた研修・研鑽が行われているものの、こうした研修には限りがあり、日本医薬品情報学会、日本医療薬学会等における医薬情報専門薬剤師の教育・育成が必要と考えられた。

VI.メロペネム三水和物による劇症肝炎

メロペネム三水和物はカルバペネム系抗生物質であり、幅広い適応症、適応菌種を有している。添付文書の基本的注意の項には抗生物質に共通するショック、アナフィラキシー以外にも「投与後3〜5日目までは発疹等の副作用の発現に注意」や「AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇があらわれることがあるので、1週間以上の使用に際しては、必ず肝機能検査を実施すること。」と注意が喚起されていた。

平成19年8月に厚生労働省おり発信された使用上の注意改訂情報により平成16年4月1日〜平成19年5月9日の副作用報告(因果関係が否定できないもの)の件数・劇症肝炎:3例(うち死亡1例)等が紹介され注意喚起がなされた。

1.【使用上の注意の改訂指示】(平成19年8月30日)

【措置内容】以下のように使用上の注意を改めること。

〔使用上の注意(下線部追加改訂部分)〕

[副作用(重大な副作用)]

劇症肝炎,肝機能障害,黄疸:劇症肝炎等の重篤な肝炎,肝機能障害,黄疸があらわれることがあるので,定期的に検査を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。

2.活用事例(規模の大きい大学病院における事例)

メロペネム三水和物による劇症肝炎の副作用に関する医薬品・医療機器等安全性情報を入手後、当該医薬品を使用している医師へターゲットを絞り情報提供するとともに、病棟薬剤師が入院患者の副作用チェックをした事例。

【事例の経過】
8月30日

: 医薬品・医療機器等安全性情報より当該情報を入手。

: 医薬情報室担当薬剤師は、医薬品情報管理室手順に従い、医師等への情報提供を開始。

9月 1日

: 医薬情報室担当薬剤師が、電子カルテの処方オーダシステムに当該情報を登録。

医薬情報室担当薬剤師は、病棟薬剤師に対して、担当患者がメロペネム三水和物を使用していた場合、検査値の確認等を行い副作用の発現の有無を確認するよう要請した。

9月 3日

: 医薬情報室担当薬剤師が、院内情報紙を作成、発行。

【情報収集】

医薬品情報室担当薬剤師が、医薬品医療機器情報提供ホームページより医薬品・医療機器等安全性情報を入手する。

【情報評価・分析】

医薬品情報室担当薬剤師は、当該医薬品は広く院内で繁用されており、使用患者が多いこと、また、血液検査より当該副作用の把握が可能であることから、医師への情報提供が必要と判断した。

【施設内の情報活用】

電子カルテの処方オーダシステムを活用し、処方時に当該情報が提供されるようシステムに登録した。

医薬品情報室業務手順に従い、院内情報紙(DI-News)を作成・配布した。

薬剤部員には個別にDI-Newsを配布し情報の周知とともに、担当入院患者の副作用チェックを要請した。

【本事例のポイント】

・ 当該施設では画一的な紙媒体による情報提供に留まらず、電子カルテシステムを用いた医師への情報提供ならびに処方患者を特定した情報提供の流れが確立されていた。

・ 薬剤部が電子カルテ上に医薬品安全性情報を反映させる役割を担い院内への情報周知が図られている点が注目される。

・ さらに、医薬品情報室が発出した情報について、病棟薬剤師が担当患者の副作用チェックを実施するなど、副薬剤部長(元医薬品情報室担当)と医薬品情報室担当者を中心に医薬品に関する安全を確保する体制が構築されている。

照会先:

医薬食品局安全対策課
03-5253-1111

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