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重要事例情報−分析集



事例407:(指示時のコミュニケーションエラー)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【10月】 発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【0時〜1時】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【65】
患者の心身状態【せん妄状態】
発見者【1】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【当事者複数年当事者複数ヶ月】
当事者の部署配属年数【当事者複数年当事者複数ヶ月】
発生場面【静脈注射】
(薬剤・製剤の種類)【睡眠導入剤】
発生内容【過剰与薬】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 術後の患者さんが不穏になり、ベッドから降りようと興奮状態になっていて、医師が看護師にその場で「ドルミカムを10ccにして持ってきて」と口答で指示を出し、看護師も「ドルミカムを10ccにして」と口答で確認、医師も「ドルミカムを10ccにして」と再度返答があった。本来、医師はドルミカム1A+生食8mlのつもりで指示を出していた。看護師はドルミカム単味を10ccシリンジにつめて持っていき、医師に渡してしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 看護師が最初に指示を聞いたとき、本当にドルミカム単味でよいのかと不安に思い、その場で医師に確認したが同じ返答が帰ってきたため、ドルミカム単味でよいと思ってしまった。
 口答指示によるお互いの認識ミス。

■実施したもしくは考えられる改善策
 不安なことを表に出し、内容の確認を行う。
 iv施行前に、内容を医師に報告してから渡す。
 シリンジに内容を表示する。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 口頭で指示を受けていますが、指示を出す医師も指示を受ける看護師も非常にあいまいなコミュニケーションを実施しており、大変危険です。緊急時には口頭指示を受けることもありますが、この場合は口頭指示でなければいけない場面だったでしょうか。口頭指示では、言い間違い、聞き違い等、指示書での指示出し、指示受けをする場合よりもエラーが発生しやすい状況になります。
 発生要因では、医師・看護師の「思い込み」やコミュニケーションエラーを指摘していますが、薬剤の単位や名称に関して注意すべき点もあります。「cc」、「ml」、「バイアル」、「アンプル」等、同じ薬剤について様々な名称で呼んでいることが考えられます。名称、通常の使用方法、手順はどうなっていたかアセスメントし、発生要因となるものがなかったか、検討することも必要です。また、「口答指示によるお互いの認識ミス」とありますが、医師の指示の出し方が不適切であり、指示を受けた看護師の確認方法も不適切です。口頭指示時は文面で確認できませんので、言葉を省略せず、正確に伝えなかったこと、正確に確認しなかったことが発生要因につながっています。両者が正確に伝えられなかった理由も検討しましょう。
 また、不穏時の指示がどうなっていたかも記入しましょう。


■改善策に関するコメント
口頭指示の基準を決める
 コミュニケーションエラーの典型的な事例ですが、医師の指示を受けるシステムに関する改善策も考える必要があります。
 このケースでは緊急のため口頭で医師の指示を受けています。暗黙の了解を前提としたコミュニケーションにより、その了解が異なっていた場合に理解の食い違いが発生し、エラーにつながります。類似の事例で死亡例も出ていますので、口頭指示の出し方や指示の受け方に問題はなかったか早急に考える必要があります。
 通常の手順を振り返り、手順通りでなかった場合にはどのように対応していたか、そのことによるリスクはなかったか等を振り返り、改善策を立案してみましょう。

注意を要する薬品の使用法の標準化と教育の徹底
 ドルミカムは大量投与すると筋弛緩作用が強くなり、舌根沈下する可能性があります。こういった、使用頻度が多く危険性が高いなど注意を要する薬剤については、その取り扱いや使用方法を標準化することは有効です。
 また、注意を要する薬剤については、その一般的な用法・用量や副作用など十分な教育を行うことで、実際の使用に際して実施者自らが注意を喚起することができ、エラーの予防や発見につなげることができます。

確認行為を見直し、教育する
 「不安なことを表に出し、内容の確認を行う」とありますが、抽象的な表現では改善に繋がらない恐れがあります。どのような事が、何故不安なのか、ということを相手に伝え、なんとなく確認行為をするのではなく、どのような目的で「確認行為」をするかということを明確に伝え、実施することが大切です。




事例414:(注射処方箋の指示記載間違いによる誤薬)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴)、処方)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【木曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【10〜11時】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【52】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【1】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【9年7ヶ月】
当事者の部署配属年数【7年1ヶ月】
発生場面【中心静脈注射】
(薬剤・製剤の種類)【その他の薬剤】
発生内容【過剰与薬】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 注射処方箋と薬品を確認し、ラシックス1A+生食50mlをIVH側管につないだ後、次の日の指示受けをしたところ、本日の指示はラシックス1/2A+生食500mlであることがわかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 指示を受ける時に、カルテ指示と注射処方箋との内容を良く確認していなかった。
 医師側も注射処方箋を書くときに間違えた。。

■実施したもしくは考えられる改善策
 指示受けをする時に、オーダーと処方箋の確認を徹底する。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 医師からの指示の受け方、注射伝票とカルテ指示の記入方法など、病棟内のルールを明確に記入してください。また、患者の状態、指示変更の理由やタイミングについても記述があると、分析に役立ちます。


■改善策に関するコメント
 医師は、指示を出すとき同じ内容をカルテと処方箋に2度記入し、注射を施行するまでにすべて処方箋での確認を行っていると考えられます。

病院の処方箋のシステムの検討と指示の標準化
 この例の場合、まず第一に、医師が同じ内容を二度記入しなくてすむしくみを構築することを検討する必要があります。
 解決策として、例えば、複写式の注射処方箋を利用し、原本をカルテへ、複写を薬剤部へ送るなど記入された指示を転記することなくそのままカルテと薬剤部や看護師で共有できるしくみをつくることが考えられます。
 また、決まった治療の場合、処方の標準化等を試みるのもミスを防ぐことになります。
 米国では、薬剤についての指示をするコンピューターをもとにしたさまざまなシステムで、薬剤指示プロセスを自動化する技術の導入を義務づけているところもあります。様々な複雑度を含んだ薬の投与量や投与形態、投与頻度の候補をコンピューター指示入力システムと連動させることで、薬剤の指示や書き写し等のプロセスで引き起こされる誤薬を未然に防ぐことも可能であり、こうしたシステム導入の検討が期待されます。
【参考資料】
“Making Health Care Safer :A Critical Analysis of Patient Safety Practice, Evidence Report/Technology Assessment, No. 43”, Agency for Healthcare Research and Quality, U.S. Department of Health and Human Services

確認の徹底
 改善内容通り、指示だし医師がカルテと処方箋の指示確認を徹底することはもちろんのこと、指示を受ける看護師も指示の治療内容と患者の病態を把握しながら、同時に2人の目で確認することが現時点ですぐできる改善策だと考えられます。

疾患に伴う病態整理と薬効に関する知識教育
 実施された注射濃度は実際のものよりも高いものでした。使用する注射薬剤の効果と患者の病態と治療内容の把握により、最終実施者である看護師もフィジカルアセスメントを行っていけるような教育も必要です。




事例426:(臨時注射指示の受け方と看護師間の伝達ミス)

発生部署(入院部門一般) キーワード(情報・記録)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【日曜日】曜日区分【休日】発生時間帯【10〜11時】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【64】
患者の心身状態【意識障害、床上安静】
発見者【3】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【6年6ヶ月】
当事者の部署配属年数【6年6ヶ月】
発生場面【静脈注射】
(薬剤・製剤の種類)【その他の薬剤】
発生内容【投与速度速すぎ】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【看護職間の連携不適切】
発生要因-勤務状態【多忙であった】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 臨時でグリセオール200mlを2時間かけて施行するようにA看護師が指示を受け、それをB看護師に口頭で伝え、B看護師が薬液を準備し、ベッドサイドに持っていくとイントラリポスを側注中であった。そのため、担当のC看護師に「追加指示のグリセオールである。」と伝え、イントラポリス終了後施行する予定とし、B看護師はC看護師に依頼し、その場を離れた。その際、「2時間かけて」との指示はC看護師に伝わらなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 常時使用されている薬液であるため、特別な時間調整がある場合は薬液のボトルに「2時間かけて」等の記入をしていたが、伝達が不十分であった。

■実施したもしくは考えられる改善策
 特別な時間調整がある場合は薬液のボトルに明記し、口頭でも伝える。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 臨時の処方指示が出た際の状況を詳しく記載してください。例えばこの事例は、休日の臨時処方のようですが、その際の取り決めやルール等が存在し、それに乗っ取ったものだったのでしょうか。実際、医師からの臨時処方指示はどのように受けているのでしょうか。処方箋(指示書)等への記載は受けているのでしょうか。口答指示が回ったのは、看護師間だけでしょうか。ルール通りの伝達方法である場合、そのルールに問題があるかもしれません。ルールがある場合、それも記入してください。
 また、休日の午前中の多忙な状況下ですが、具体的な役割分担や作業状況の情報は分析や改善策に役立ちます。薬液ボトルに記載するルールを守れなかった要因は伝達の問題だけなのでしょうか、看護師の業務状況等の詳細情報が分析に役立つと思われます。また、薬剤に対する看護師の認識はどうだったのでしょうか、いつも使用している薬剤として認識していただけなのではないでしょうか、どのような治療目的で指示された臨時処方薬剤なのか認識できていたのでしょうか。看護師の確認意識についての情報分析も必要かもしれません。
 ところで、表現上の問題ですが、インシデントが発生した要因に「・・・・、伝達が不十分であった。」と記載されていますが、伝達不足だったのは、(1)時間調整のある場合薬剤ボトルに記載することなのか、(2)B看護師がC看護師にグリセオールを依頼した際の「200mlを2時間で」という指示のことでしょうか。要因を整理する上では、誤解のない表現をしてください。


■改善策に関するコメント
 改善策として薬液ボトルへの時間調整記載と、口答伝達があげられていますが、日常的なルール化が可能でしょうか。改善策は、1事例に対する対応ではなく、1つの事例を組織やシステムの問題として捉え、根本的かつ効率的であることが必要です。

看護師間の口答での指示伝達に関する問題
 投薬等のミスを防止するために医師からの口答指示は原則として受けないこと。やむを得なく口答指示を受けた際もその後の確認方法の取り決めは必要です。さらに、看護師間での口答での指示伝達は避けるべきです。常に指示書を確認しながら伝達を送る取り決めが必要でしょう。また、管理者は指示の伝達に複数のスタッフが介在しないような業務のスリム化を検討する必要があります。
 この事例では3名の看護師が関与していますが、行為の責任者が不明確のまま実施されています。A看護師は指示受けの際に確認をしている可能性もありますが、B看護師へは指示書を介せず伝達し、おそらくB看護師は自ら指示書を確認せず薬剤を用意しているようです。患者へ直接投与する実施者(C看護師)も、指示書の確認をせず実施しています。「実施前に必ず指示書を確認する」を原則とし、行為の責任を明らかにすべきでしょう。
 やむを得ず口頭指示を受けた場合には、必ず復唱することやその場で紙に記録することも重要です。指示を受ける際の復唱によってエラーが減少することは、米国などにおいても指摘されているところです。

指示を受ける体制の見直し
 この事例では、最終の実施者に指示が伝達されるまでに実施者を含め4名の人が関与しています。情報伝達に関わる人が多くなるほど、エラーの発生する可能性性が高まることを認識し、指示を受ける体制について改善の余地がないかどうか検討してみましょう。

休日の看護体制にあわせた業務手順の見直し
 休日の看護体制は、人数が少ないため、平日と同レベルの連携がとれない場合があります。休日臨時処方を受ける役割を、リーダーなのか担当者なのかを明確にする必要があります。チーム看護を行っている場合、全ての患者が現在どのような治療を受けているのか把握していないまま、担当以外の患者への処置が多く求められます。その際にも指示の確認の方法を統一しておくことが有効ですから、安全の観点から、休日時の指示書の確認をルール化することが必要です。
 また、普段使用頻度が高い薬剤については、指示書の確認を怠るなど惰性に陥る危険が多くなりがちです。しかし、薬剤の使用目的等(治療目的)から、常に「危機意識」を持ち、医薬品の適正使用を図り、事故防止に努める必要があります。
 薬剤使用時には、常に以下の項目は繰り返し確認していただきたいと思います。
 (1)患者氏名 (2)薬品名 (3)1回与薬量 (4)与薬時間 (5)与薬方法 (6)新規・継続・変更
【参考資料】
医療事故予防マニュアル「投薬・与薬における事故防止マニュアル(処方から服薬まで)」、東京都衛生局病院事業部、2002年

薬液ボトル記載に関して
 薬液ボトルに、患者氏名、病室名、使用日時等を記載することを薬剤準備の看護業務の手順としている病棟もあるようです。しかし、薬液ボトルに記載する際の誤記入の可能性があります。また遮光が必要な場合、ボトル記載文字は確認しにくいものです。
 病棟で薬剤ボトルに記載するのではなく、薬剤処方時に打ち出されるラベルを使用すると、薬剤部のチェックにも使用でき、誤記入によるミス防止に役立ちます。したがって、オーダリングシステムの変更も視野に入れていただきたいと思います。ただし、薬剤へのラベル貼付時のミス(人的ミス)も報告されているので、チェック方法の工夫が必要です。




事例444:(二層一体型の輸液バックの上下層の開通忘れ)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【火曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【22〜23時】
発生場所【ナースステーション】
患者の性別【女性】 患者の年齢【70】
患者の心身状態【痴呆・健忘】
発見者【2】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【  年8ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年8ヶ月】
発生場面【中心静脈注射】
(薬剤・製剤の種類)【その他の薬剤】
発生内容【無投薬】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
IVHメニューの変更があり、主治医が点滴溶解を実施、当事者が更新する。上層と下層が混ぜられておらず、深夜勤務者に指摘され気づく

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
主治医も上層と下層を混注することを知らなかった。看護師も点滴の混注を確認していなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
混注されているか確認をする



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 主治医が準備を行い、看護師が中心静脈注射のパックの更新を実施した事例のようですが、夜間帯に指示変更があったために医師が準備を実施したのか、中心静脈注射のパックの準備は医師が実施することになっていたのか状況が不明です。どのような業務範囲と分担がされていたのか記載すること、また、医師が混注することを知らなかったとありますが、医師の経験年数や教育背景等についての記載もあると要因が明確になり改善策が立てやすくなります。


■改善策に関するコメント
手順のルール化
 作業手順の中でこれらのエラーを防止するには準備した時に開通するか、実施時に開通するかを取り決めると良いと思います。例えば(1)伝票と補液の確認、(2)外装フィルムからの取り出し、(3)内容液の着色や不溶物の有無の確認、(4)中間壁開通後、開通者名と時刻の記入、(5)患者名の貼付、(6)伝票の確認、(7)中間壁開通の確認といった基本操作手順をルール化することは重要です。
 また、既に開通している場合の中間壁開通の確認行為についても徹底することが必要です。その確認方法として、「輸液バッグを点滴架台にぶら下げ、空気層があることと、バッグが側面から見て円錐状に膨んでいることを確認する」方法が挙げられます。あるいは、「下室側の袋を圧迫することで 上室側の液面の動きを確認する」方法です。どちらも、点滴開始直前でも簡単に確認できます。手順の一つとして習慣化しましょう。
 その他に、今回の事例では、準備から実施に至る過程で医師と看護師が介入しています。準備者と実施者が異なることでチェック機構が働き、ヒヤリハットが発見される場合もありますが、業務分担が不明確となりしいては責任の所在も不明瞭となりミスが生じやすい状況となります。よって、準備から実施まで一人のものが責任を持って行うことが重要です。

ダブルチェックするツールの活用
 点滴を施行する前に現物をダブルチェックするツールを作ると確実に防止できます。
 例えば、隔壁開通のチェック、開通させた日時と開通者名を容器に明記する隔壁開通チェック・シールの使用も有効です。また、このような隔壁の開通の必要な輸液バックは、あらかじめ薬剤部門より隔壁開通チェック・シール等と共に払い出されることが望ましいと思われます。そうすることにより使用頻度の少ない職場でのミスも未然に防げるのではないでしょうか。
【参考資料】
琉球大学医学部附属病院安全管理対策室ホームページ
http://www.hosp.u-ryukyu.ac.jp/cqm/soudan/tenteki.html

新人教育
 輸液バックの種類の記載がありませんが、おそらく上室・下室に分かれた一体化した輸液バックと思われます。これらの輸液バックは、上室がアミノ酸、下室が糖・電解質で開通しない場合には11%の高カロリーの糖輸液が行われることになります。末梢血管からの糖輸液は11%から12%が限度といわれており、危険な状況になります。上室と下室を開通させる知識だけでなく「開通しないことによる危険性」を教育することも大切です。
 また、当事者は8ヶ月とありますが、施設での採用薬品のうち、上室と下室を混合して使用する点滴をリストアップして各職場に情報提供し新人オリエンテーションで触れておくこともヒヤリハット防止につながります。

メーカーへの商品改良の提案
 開通しないと輸液実施が出来ない仕組み(※2)や、上室と下室の色を変えることにより混合されていないことが一目で分かる等の商品の改良をメーカーに提案していくことも必要でしょう。

【参考資料】
・第5回医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会において松月みどり委員より提出された案(出口にも隔壁があり、開通させないと薬剤がでないようにすれば左右の開通を忘れない)

改善後
・第4回重要事例集計結果 事例804(アミノフリードの上室・下室の混合忘れ)




事例466:(実施記録と薬剤残数の不一致)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【不明月】 発生曜日【不明】曜日区分【不明】発生時間帯【不明】
発生場所【ナースステーション】
患者の性別【女性】 患者の年齢【不明】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【1】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【1年6ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年6ヶ月】
発生場面【与薬準備】
(薬剤・製剤の種類)【その他の薬剤】
発生内容【過少与薬】
発生要因-確認【その他】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
化学療法後、感染兆候が見られ抗生剤の点滴が開始になり、指示では終了するはずの抗生剤が1Vあまっていた。点滴準備、施行時のサインもありそれぞれにダブルチェックもされていた

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
どこで指示量が投与されていなかったか不明

■実施したもしくは考えられる改善策
深夜勤務で輸液準備時、残数を処方箋とチェックしていく



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的内容から、この状況は発見した段階で報告された事例と推測します。従って誤薬を発見した看護師が報告しているため、与薬プロセスのどの段階で起きた間違いなのか事実がわかりません。事実がわからない状況では、誤薬の原因・その背景要因は分析できません。事象を構造的に捉え、分析するためには、以下の記載が必要と考えます。
1.本来施行すべき指示内容と実際施行した内容。
2.与薬プロセスの看護師業務の流れと確認行動の原則。
3.間違いが起きた時点で担当していた看護師の確認行動プロセスを記載する。
 再発防止のための分析を行うためには、目的であれば、必要な情報が記載項目となっている報告書式を用意したり、記述の練習をすることが必要と考えます。


■改善策に関するコメント
 与薬業務における確認業務が、どのように機能しているか事例の状況から分かりませんが、確認作業を増やす改善策は望ましくありません。具体的改善策は実践可能なことが重要です。そのためには事例の主原因・背景要因を分析することが前提として必要です。

確認作業の原則行動が機能していたか
 与薬は、医師の処方→(薬剤師の調剤・監査)→調整→投与といったプロセスがあります。
病院によって関わる職種が異なるとは思いますが、それぞれ担当した段階で、指示内容の確認をする責任を果たすことで誤薬を防止するシステムになっていると思います。特に看護師は最終施行者なので確認の原則行動の遵守は徹底する必要があります。
 このシステムが機能しなかったために起きた間違いと捉えれば、その原因はシステムの周知徹底の問題か、あるいはシステム自体に実践できない問題があるのかどちらかです。

確認作業の周知徹底
 看護師が確認作業の原則行動が取れなかった理由を確認し、背景要因を特定します。知識不足、タイムプレッシャー、業務調整の問題などの面から考えてみてください。本件では、確認作業が漫然と行われる雰囲気があったことや、実際の点滴実施前にサインする慣行があったことなども考えられるかもしれません。
 分析の結果、看護師個人の課題上の問題であれば日頃の成長発達の支援・管理につなげます。システムの問題であれば、見直しが必要ですが、確認作業を増やす安易な方法は避ける必要があります。確認作業が機能しなくて起きたとすれば増やすことは改善策にはなりません。
 いずれにしても与薬は他職種協働の業務ですので、管理者は個人の問題ではなく、看護管理上のシステムの問題として捉えることが重要です。

結果を把握できるシステムの構築
 このケースの最大の問題は、点滴が本当に実施されたかどうかを確認することができない点にあります。記録には、業務の実施状況や経過を追跡できるようにする意味があることを再認識し、業務の方法を見直すことで実施状況を把握することができるしくみを構築することが必要でしょう。




事例492:(血糖降下薬過剰投与)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【火曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【10〜11時】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【55】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【2】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【  年8ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年8ヶ月】
発生場面【皮下・筋肉注射】
(薬剤・製剤の種類)【抗糖尿病薬】
発生内容【過剰与薬】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【他のことに気を取られていた】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【多忙であった】
発生要因-医療用具【扱いにくかった】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
ヒューマカートによる自己注射指導中の患者。10:30 Nsコールがあった。低血糖症状(軽い手指振戦、気分不良)を訴え、血糖66mg/dl。患者の話によると、朝のインスリンを2回したとのことであった。深夜の看護師に状況確認した。「8:00 NSコールがあり訪室したら、空打ちのときはカチッと音がしたが、実際8単位したとき音がしなかったという。そこでNs自身操作してみて異常がなかったので、問題ないことを伝えてその場を離れた。」しかし患者は気になり、再度8単位注射していた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
 確認が不十分であった。他のことに気を取られていた。医療機器・医材料が扱いにくかった。多忙であった。作業が中断した。

■実施したもしくは考えられる改善策
インスリン自己注射指導中には、看護師はベッドサイドで注射状況を指導し確認する。Dr・Ns・業者による勉強会の実施。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 自己注射を指導している間は、正しい操作の習得、理解度など観察する上で看護師の目の届く範囲での施行がよいと考えますが、自己注射の指導にあたって、要綱なるものまたは、自己管理の指標となるものがあるのか、記入してあるとよいと思います。当事者である看護師はヒューマカートの取り扱いに習熟していたのか、扱いにくかったと記入があるがヒューマカート自体が扱い難いものなのか、たまたまその時が扱い難いと感じたのか記入があるとよいと思います。


■改善策に関するコメント
 自己注射指導中には、看護師はベッドサイドで注射状況を指導し確認する。とありますがベッドサイドに行って指導するという指導の方法を変更するだけでは改善しないと考えます。この事例では、多忙でほかのことに気をとられていたために、不安を持っている患者からの訴えを十分に聞くことができなかった。そのため患者は不安が解消されないまま自己判断で再度注射してしまったことから、機器の確認よりも、インシュリンを必要以上に投与した場合の危険性を説明すると同時に、血糖値を見てから判断することを伝えておけばよかったでしょう。
 ヒューマカートが扱いにくかったという指摘がありますが、医療従事者が扱いにくいものであれば、患者は更に使いにくいと考えられます。また音で実施したか否かの判断をする機器の構造にも問題があると思われます。
 なお、インシュリン注射器に関しては事例493も参考にしてください。




事例493:(ペン型インシュリン注射器による注入量不足)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【 月】 発生曜日【  】曜日区分【  】発生時間帯【  】
発生場所【     】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【     】
発見者【     】
当事者の職種【     】
当事者の職種経験年数【  年  ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年  ヶ月】
発生場面【          】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【          】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【      】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
全介助でインスリン施注したがペンフィル30R14単位のところ12単位しか打たなかった。翌日の夜勤NSが眠前に同インスリンを施注しようとした時、インスリン残なく2単位目盛りが表示されたことから気付く。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
施注時ノボペンの単位数がゼロになるのを目視で確認せず、5秒カウントし、手応えとおおよその時間で指示量を打てたと思い込んだ。施注前商品名だけ確認し残量や性状観察できていなかった。施注後全て打てたかの確認ができていなかった。消灯間際で他の業務(時間薬)があり焦った。

■実施したもしくは考えられる改善策
施注時は目盛りがゼロになるのを目視で確認してカウントをはじめる。ゼロになったことを声だし指差し確認する。施注前に商品名だけでなく残量も確認。不足がないか確認する。施注後も同様に確認



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 全介助でインシュリンを注射した際の投与量に関するエラーの事例ですが、患者の理解力など記述すると分かりやすかったと思います。


■改善策に関するコメント
 インシュリン誤薬は低血糖、高血糖と必ずといっていいほど患者に影響を及ぼします。そのため患者の病状に合わせながら確実・正確な投与が出来るようシステムを整える必要があります。手応えとかおおよその時間で投与するのは大変危険なことです。そのため以下の事を検討してみてください。

インシュリン注射器ノボペンについて
 この器材の使用にあたって器材の利点・欠点を覚えておくことが必要です。
 利点としては薬液が無駄なく使用出来る、使用単位が簡単に変更出来る、針を交換するだけで使用できる等考えられますが、欠点としては、薬液のおよその残量確認が出来ていても残量以上の単位が設定出来ること、単位のダイアル表示が小さく手のグリップの所にあり持ち方によってはダイアル表示が見にくいこと、注入ボタンが薬液不足でも途中で止まらず、確実に投与されたかどうかは、ダイアル表示を見るしかないこと等があります。
 利点、欠点を熟慮して使用することが大切である事をスタッフの指導に取り入れる必要があります。
インシュリン注射方法について
 発生要因に5秒カウントし手応えとおおよその時間でとありますが、使用説明書には、確認はダイアル表示で行い、完全にインシュリンを注入するために注入ボタンを押したまま6秒以上針を刺したままにするとあります。報告者は注入時の5秒カウント、使用説明書は注入後の6秒カウントととなっており、報告者の教育背景に誤ったマニュアルが存在しないか確認が必要と考えます。スタッフ全員がどのようなマニュアルでインシュリン注射をしているのか確認し検討してみる必要があります。
 改善策は一人での確認作業になっていますが、インスリン施行時に患者さんのところへ持っていくトレーに確認事項の要点が一目で見て分かるものを作って置いておくのも改善策の一つです。このように、バックアップ出来るシステムについても検討してみましょう。

注射器の改良について
 現在、医療現場ではインスリン用の注射器として、薬剤の種類、機器の取扱い方法とも多様なものが出回っています。この背景には、メーカーによる安全性への配慮の不足が指摘できるとともに、次々と新製品を開発・販売することで、現場の利用者が混乱している状況があります。
 時間から注入量を推測させるのではなく注入量自体を明確に認識できるものとすること、そのためにも単位数の表示を大きく見やすいものとすること、視覚だけでなく聴覚などでも確認できるマルチモーダルな機構とすることなど、使う側の立場に立つことで工夫や改善の余地はまだまだあると考えられます。目や耳が不自由な方が利用することがあるということも考慮する必要があるでしょう。
機器メーカーによる安全向上のための改善の取り組みに期待したいところです。




事例520:(インスリンの指示変更に関わる投与量間違い)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴)、情報・記録)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【10月】 発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【12〜13時】
発生場所【ナースステーション】
患者の性別【男性】 患者の年齢【不明】
患者の心身状態【意識障害】
発見者【2】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【5年7ヶ月】
当事者の部署配属年数【5年7ヶ月】
発生場面【皮下・筋肉注射】
(薬剤・製剤の種類)【抗糖尿病薬】
発生内容【単位間違い】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
術後インスリンを基本量+スライディングで皮下注していた。もともと基本量は4単位だったため、4単位+スライディングスケールのインスリン量を施注したが、申し送りの際に指示の変更を指摘され気付く。基本4単位から6単位に増量になっていた。2単位が不足したことになる。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
カルテの指示見落とし。

■実施したもしくは考えられる改善策
細かく指示が変わる際は、必ず前勤務者に確認する。指示の指差し確認の徹底



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 指示受け、指示変更の際のルールはどのようになっていたのでしょうか。指示受け、指示変更時のルールがなかったのか、決まっていても守らなかったのかによって改善策がかわってきます。また、疾患名、術式の記載や、いつから指示変更となったのかについても記載してあると、状況が明確になり改善策が立てやすくなります。


■改善策に関するコメント
インシュリン指示の標準化
 この事例は、インシュリンの「基本量」にスライディングスケールを使用したインシュリンの皮下注射がおこなわれていると記述されています。さて、この「基本量」とは何を意味する言葉でしょうか。おそらく、術後経過に伴う血糖変動のために中間型インスリン1日1〜2回皮下投与をベースとし、さらに6〜8時間毎の血糖値測定によるスライディングスケールを用いて速効型インスリンを追加投与していく方法であったと思われます。この場合、ベースとなるインスリン量は慎重に決定され、術後経過に伴う血糖値の不安定はスライディングスケールによる追加投与量の変更にてコントロールされます。しかしながら、この事例では「基本量」とするベースのインスリン量が変更となりヒヤリ・ハットが生じていますが、発生要因が「カルテの指示の見落とし」にとどまっています。この場合、まず「基本量」となるベースのインスリン量を変更していることに着目して分析していくことが重要だと思います。
 「基本量」は病院内で標準化された値だったのでしょうか。もし標準化されていない場合は、各医師により指示が異なるのではなく病院内で標準化した指示を取り決めることが安全管理のために重要です。インスリン指示に関しては、血糖値を測定しその値によって量を判断したり、医師によって指示の表記法が異なっていたりと「指示の複雑さ」や「記憶負担」「判断の不備」が指摘されているところです。こうした背景要因をふまえて、根本的な解決を図るためにもインスリンの指示を標準化し、院内で共有することが望まれます。
 また、標準化された値であれば、この事例のように「基本量」の変更があった場合は、基準が必要となってくると思われます。よって、指示を受ける際には変更指示の基準と患者の状態の把握が重要となります。この事例では、疾患名や術式が不明ですが、特にインスリン療法を受ける患者の治療は下痢や食事等患者の生活状況が密接に関わっており、看護師間や医師との情報交換が非常に重要となってくるでしょう。
【参考文献】
「患者安全推進ジャーナル〈研究編〉」、大道久、日本医療機能評価機構、平成14年

指示変更の際のルール
 指示出し・指示受け時、指示変更時の際のルールはどのように決められていたのでしょうか。指示出し・指示受け時、指示変更時の際のルールを決めることにより各々の責任の所在が明確化しヒヤリ・ハットを防止できると思われます。
 また、ルールがあった場合、何故ルールが守れなかったのでしょうか。マニュアルやルールがあってもあまり守られてないというような組織風土はないでしょうか。改善策に「指示の指差し確認の徹底」とありますが、指示出し、指示受け、指示変更時、準備から患者のベッドサイドでの最終実施時には指示簿や注射伝票等の書面での照合を必ずすることを習慣化するような組織風土作りが必要でしょう。


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