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3.児童虐待防止対策について


(1) 児童虐待防止法及び児童福祉法の改正について
 児童相談所の児童虐待に関する相談件数は、児童虐待防止法が施行される直前の2倍以上に増加しており、その内容も保護者の意に反して施設入所を家庭裁判所に申し立てる場合など、困難なケースが増えているところである。
 また、虐待による死亡という不幸な事件が依然として発生している。特に、児童相談所等の関係機関が関わりながら未然防止ができなかった事例が出てきている。
 このような状況を踏まえ、
 (1) 昨年10月には、児童虐待に係る通告義務の範囲の拡大等を内容 とする改正児童虐待防止法が施行されたところであり、
 (2) また、児童相談に関する体制の充実等を内容とする児童福祉法改正法が12月3日に公布され、同日から順次施行されることとされたところである。

 児童虐待防止法の改正
 児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律(平成16年法律第30号)については、昨年4月に成立し、同月14日に公布され、一部の規定を除き、同年10月1日から施行されているところであるが、その主な内容は以下のとおりである。
(ア)児童虐待の定義の見直し
(1) 保護者以外の同居人による児童虐待と同様の行為を保護者によるネグレクトの一類型として児童虐待に含まれるものとすること。
(2) 児童の目の前でドメスティック・バイオレンスが行われること等、児童への被害が間接的なものについても児童虐待に含まれるものとすること。
(イ)国及び地方公共団体の責務の改正
 児童虐待の予防及び早期発見から児童虐待を受けた児童の自立の支援まで、これらの各段階に国及び地方公共団体の責務があることを明記するものとすること。
(ウ)児童虐待に係る通告義務の拡大
 児童虐待を受けたと思われる児童を通告義務の対象とし、現行法よりもその範囲を拡大するものとすること。
(エ)児童虐待を受けた児童等に対する支援
 児童虐待を受けたために学業が遅れた児童への施策、進学・就職の際の支援を規定するものとすること。

 児童福祉法の改正
 児童福祉法の一部を改正する法律(平成16年法律第153号。以下「児童福祉法改正法」という。)については、昨年11月に成立し、同年12月3日に公布され、同日から順次施行されることとなったところであるが、その主な内容は以下のとおりである
(ア)児童相談に関する体制の充実
 住民に身近な市町村において、虐待の未然防止、早期発見を中心に積極的な取組を求めつつ、児童相談所の役割を要保護性の高い困難な事例への対応や市町村に対する後方支援に重点化すること等
(イ)児童福祉施設、里親等の見直し
 乳児院及び児童養護施設の入所児童に関する年齢要件の見直しによるケアの連続性の確保すること等
(ウ)要保護児童に関する司法関与の見直し
 家庭裁判所の承認を得て行う児童福祉施設への入所措置を有期限化すること等

 各自治体においては、これらの法改正の趣旨も踏まえつつ、発生予防から自立支援に至るまでの総合的な支援を行い、虐待という重大な権利侵害から子どもを守り、子どもが心身ともに健全に成長できるよう、最大限、力を尽くしていただきたい。

(2) 児童家庭相談体制の見直しについて
 基本的な考え方
 従来、児童福祉法においては、あらゆる児童相談について児童相談所が対応することとされてきたが、近年、児童虐待相談件数の急増等により、緊急かつより高度な専門的対応が求められる一方で、育児不安等を背景に、身近な子育て相談ニーズも増大している。
 こうした幅広い相談全てを児童相談所のみが受け止めることは必ずしも効率的ではなく、市町村をはじめ多様な機関によるきめ細やかな対応が求められている。
 このような状況を踏まえ、児童福祉法改正法により、平成17年4月1日から、
(1) 児童相談に応じることを市町村の業務として法律上明確にし、住民に身近な市町村において、虐待の未然防止・早期発見を中心に積極的な取組みを求めつつ、
(2) 都道府県(児童相談所)の役割を、専門的な知識及び技術を必要とする事例への対応や市町村の後方支援に重点化する
等の措置を講じ、児童相談に関わる主体をふやすとともに、その役割を明確化することにより、全体として地域における児童相談体制の充実を図ることとした。
 児童相談に関して「専門的」と判断する具体的な基準については、市町村や都道府県の児童相談体制にもよることから、当面は、自ら対応することが困難であると市町村が判断した事例については、都道府県(児童相談所)が中心となって対応することを基本に、都道府県(児童相談所)と市町村の役割分担・連携の具体的なあり方について十分調整を図り、児童相談への対応に遺漏のないようお願いしたい。

 児童相談所の体制整備
 児童福祉法改正法により、児童相談所の役割が専門的な知識及び技術を必要とする事例への対応や市町村の後方支援に重点化することになることから、児童相談所においては、引き続き、児童福祉司など必要な人員体制の確保に努めるとともに、これまで以上に専門性の確保・向上等を図り、相談機能を強化する必要がある。
 また、昨年12月24日に策定された「子ども・子育て応援プラン」においては、児童相談所の夜間対応等の体制整備、虐待対応のための協力医療機関の充実及び個別対応できる一時保護所の環境改善が掲げられているところである。各自治体においては、このプランに基づいた児童相談所の体制整備に努めていただきたい。
 具体的には、児童相談所が地域の医療、法律その他の専門機関や有識者の協力を得て、専門性の確保・向上等を図り、相談機能を強化するとともに、児童相談所において夜間休日における連絡や、相談対応の確保を図る24時間・365日体制整備事業等の「児童虐待防止対策支援事業」を実施することとしているので、事業の実施に向けて積極的な検討をお願いしたい。

 児童福祉司の任用資格の見直し
 児童相談所においては、虐待を受ける児童の増加、今般の改正による都道府県(児童相談所)の役割の重点化、保護を要する児童に関する司法関与の強化といった児童相談所を取り巻く状況を踏まえれば、児童相談に関し専門性を有する職員の確保が不可欠である。
 このため、平成17年4月1日から、こうした児童相談に関して中核的な役割を担う児童福祉司の任用資格について、
(1) 現行制度において任用が認められている「大学において社会学、心理学、教育学等を専修する学科等を修めて卒業した者」について、単に社会学等を修めただけでなく、新たに福祉に関する相談等の業務に従事した1年以上の経験(以下「実務経験」という。)を求めることとするとともに、
(2) 多様な背景に由来する虐待という困難な事例に対応するためには、より幅広い視点を持つことが重要であると考えられることから、一定の実務経験及び講習会の受講を前提としつつ、保健師や保育士といった幅広い人材の登用を新たに認めることとした。
 なお、具体的な見直し内容は、関連資料を参照いただきたい。
 各自治体においては、今回の改正の趣旨を踏まえ、児童相談に関し専門性を有する職員を児童福祉司として積極的に任用するようお願い したい。

 児童相談所長の研修義務化
 児童相談所は、子どもを守る最後の砦として一時保護や親子分離といった強力な行政権限が与えられた行政機関であり、こうした権限行使の最終的判断を担う所長の職責は極めて大きい。
 虐待を受けた児童等の増加、今般の改正による児童相談所の役割の重点化、保護を要する児童に関する司法関与の強化など、児童相談所の専門性の強化が求められていることを踏まえれば、児童を取り巻く直近の状況や所長としてのマネージメントの基本を具体的に認識させることが重要であることから、平成17年4月1日から、児童相談所長について一定の研修の受講が義務化された。
 この研修の受講義務は、平成17年4月1日以降に任用される児童相談所長に限らず、平成17年4月1日現在で任用されている全ての児童相談所長に生じるものである。ただし、過去に、子どもの虹情報研修センターが実施した児童相談所長研修を受講した者は、当該受講義務を果たしているものとして扱うこととする。
 なお、子どもの虹情報研修センター(後述)において、平成17年度から児童相談所長に対する研修を実施する予定であるので、適宜活用されたい。

 市町村の相談体制について
 アで述べたように、平成17年4月1日から、市町村においても児童家庭相談業務を行うこととなったところであるが、この業務に的確に対応できるよう、必要な職員を確保するとともに、児童家庭相談を担当する職員及び組織としての責任者を明確にしておくことが重要である。
 特に、衆議院において、児童福祉法改正法案が全会一致で修正され、「市町村は、この法律による事務を適切に行うために必要な体制の整備に努めるとともに、当該事務に従事する職員の人材の確保及び資質の向上のために必要な措置を講じなければならない」との規定が追加されたところであり、この経緯を踏まえ、特に適切な対応が求められる。具体的には、例えば児童福祉司たる資格を有する職員を配置する等の対応が考えられる。
 厚生労働省においては、市町村における児童家庭相談援助の指針を作成しているところであるが、各都道府県においても、管内の市町村が児童家庭相談業務を適切に遂行できるよう、市町村職員に対して研修を行うなど、必要な助言・指導をお願いしたい。

(3) 里親制度のさらなる充実について
 監護等に関する里親の権限の明確化
 虐待を受けた児童等、情緒面・行動面で問題を抱えている児童が急増している中、家庭的な環境の下でケアを行う里親の役割はますます重要となっている。
 こうした中で、里親制度が普及しない一因として、監護等に関する里親の権限が不明確であり、安心して養育に携われないことが指摘されていることを踏まえ、里親についても、児童福祉施設の長と同様に、監護・教育・懲戒に関し、児童の福祉のため必要な措置を採ることができることを明確化したところである。ただし、懲戒に関する措置は、あくまでも児童の健全な育成のために認められるものであり、体罰や言葉による暴力、性的な嫌がらせなど、児童に大きな苦痛や屈辱感を与える等の行為が懲戒に関する措置として許されないことは明らかであることから、里親の養育に関する最低基準を改正し、新たに懲戒に関する権限の濫用禁止を明記したところである。
 なお、こうした見直しに合わせ、児童福祉法の総則の中に里親の定義規定を設け、社会的養護における里親の重要性を明確化するとともに、里親について、児童福祉施設の長と同様、受託中の児童に関する就学義務も明確化したところである。

 保護受託者制度の廃止と里親による職業指導の実施
 近年、虐待を受けた児童など自立までに手厚い支援を要する児童が増加する中で、生活習慣の確立のための「養育」と自活のための「職業指導」を併せて行うことが必要な児童も増えている。
 他方、保護受託者制度は、児童の生活費は児童に支払う賃金で賄えることを前提とした制度であるが、上記のように手厚い支援を要する児童が増加する中で、十分に活用されてはいない状況にあった。
 こうした状況を踏まえ、児童の現状に合わなくなった保護受託者制度は廃止する一方、一定の要件を満たす里親が養育と併せて職業指導を行えることとし、年長児童に対する自立支援を推進することとした。
 なお、里親が行う職業指導は、児童の自立を支援することを目的として行わなければならず、児童の労働力の搾取を目的として行ってはならないことから、里親が職業指導を行う場合には、「里親が行う職業指導について(家庭福祉課長通知)」等により、児童相談所による里親への指導の徹底をお願いしたい。

 子ども・子育て応援プランにおける里親の推進
 現在、乳児院、児童養護施設、里親に措置(委託)されている保護を必要とする児童のうち、里親へ委託される児童の割合(里親委託率)は、平成10年度の6.3%から、平成15年度には8.1%まで上昇しており、近年、里親委託児童は反転増加しているが、虐待を受けた児童等への家庭的なケアの確保という点で、まだまだ十分とはいえない状況である。
 このため、昨年末にとりまとめた「子ども・子育て応援プラン」においても、里親委託率を21年度までにさらに15%まで引き上げることを目標に、里親開拓・里親支援対策への取組みを強化することを位置付けたところである。都道府県・指定都市におかれては、このような趣旨に則り、(1)施設における家庭生活体験事業などを活用した新規里親の開拓を行い、(2)レスパイトケア、里親養育援助事業などの活用による里親サポート体制の充実、など様々な施策、事業を総合的に活用・実施することにより、里親委託の一層の促進に努めていただきたい(資料5参照)。

 専門里親への委託の推進
 専門里親へ委託した児童の委託期間は原則として2年以内となっていることから、従来、この「2年以内」の文言に縛られ、容易に委託の継続は出来ないと解釈されていたところであるが、専門里親制度の積極的活用が図られるよう、「里親が行う養育に関する最低基準」の見直しを行ったところである。この見直しは、当初の委託の段階から「2年以内」という期間にとらわれずに、里親の力量や児童の状況などに応じて弾力的な運用を図るという趣旨であることを踏まえ、この取扱いにより里親への委託を積極的に推進していただきたい。
 また、専門里親の登録更新時には、養育技術の向上等を目的として「継続研修」を実施することとしており、この研修については、各都道府県・指定都市において実施することが望ましいと考えているところであるが、専門里親研修として、独自の実施が困難な都道府県・指定都市が多いことから、社会福祉法人恩賜財団母子愛育会に、当分の間、専門里親継続研修の実施を依頼したところである。

 専門里親制度の充実
 児童の発達においては、乳幼児期の愛着関係の形成が極めて重要であり、できる限り家庭的な環境の中で養育されることが必要であることから、平成14年から特に家庭での親密な援助関係を必要とする虐待を受けた児童等に対し、施設では提供できない家庭的な援助を提供する専門里親制度を創設したところであるが、この専門里親について、平成17年度からは、近年の少年非行の深刻化等に鑑み、専門的な援助技術をもって、より家庭的な環境で援助をすることにより、自立支援に繋げるため、非行行為は見られるが、児童自立支援施設への入所までには至らない養護に欠ける児童など、より家庭的な温かい環境の中で養育する必要がある場合には、このような処遇困難な児童についても、専門里親が対応できるよう対象の拡大を行う。

(4) 児童福祉施設等におけるケアの充実について
 乳児院及び児童養護施設の入所児童に関する年齢要件の見直し
 今回の児童福祉法改正では、乳児院及び児童養護施設の入所児童に関する年齢要件について、ケアの連続性に配慮することができるように見直したところである。
 具体的には、「乳児院は原則として乳児を、児童養護施設は原則として乳児以外の児童を対象とする」との両施設の基本的な性格は維持しつつ、保護者の家庭環境が整備され、ほどなく家庭に引き取られることが明らかな場合や、近々に里親委託や養子縁組の成立が見込まれる場合などには、乳児院は幼児(1歳以上小学校就学前の児童)を、小学校就学後も家庭等に引き取られる見込みが極めて低い場合などには、児童養護施設は乳児を、それぞれ入所させることができることとされたので留意されたい。

 退所児童に対するアフターケアの充実
 児童が社会的に自立できるよう支援していくに当たっては、入所中のみならず退所後においても継続的に支援することが重要である。特に、近年は、虐待を受けた児童等、手厚い支援を必要とする者が増加しており、こうした者に退所と同時に自立を求めるのは容易ではない。
 このため、今般の児童福祉法改正により、乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設及び児童自立支援施設について、施設の業務として、退所した者について相談その他の援助を行うこと(アフターケア)が明確化されたところである。
 また、施設退所児童等の自立に資するため、生活福祉資金貸付制度を活用して、退所後の児童がアパートを借りる際の当面の賃借料や就学に必要な資金等の貸付を行っているところであるが、この生活福祉資金(福祉資金の支度費に限る。)の貸付の連帯保証人に児童養護施設の施設長がなっている場合で、借受金の償還が滞り、当該施設長に未償還金返済を求められた場合について、当該児童への訪問や面接等による自立支援を行うための資金として都道府県社会福祉協議会から督促された額の半額を提供する事業を全国児童養護施設協議会において、モデル的に平成16年度及び平成17年度に実施しているところである。
 なお、児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)についても、上記の児童福祉施設と同様に事業の内容として、措置を解除された者について相談その他の援助を行うこと(アフターケア)が明確化され、併せて、年長の児童を対象としている自立援助ホームについては、事業の内容として「就業の支援」も明確化されたところである。
 この自立援助ホームについては、少年非行対策の観点からも重要な意義を有しており、青少年育成施策大綱においても、自立支援を担う施設と位置付けられている。また、昨年末に策定した「子ども・子育て応援プラン」においても、平成21年度までに、都道府県・指定都市に1か所程度実施できるよう、60か所の目標を掲げたところである。こうしたことも踏まえ、特に未設置の都道府県においては、積極的に設置を検討されたい。

 施設の小規模化の推進
 近年、児童養護施設をはじめとする児童福祉施設においては、虐待を受けた子どもの入所が増加しているが、虐待を受けた子どもに他者との関係性を回復させることや愛着障害を起こしている子どものケアを行っていくためには、これまでの集団による養育では限界があり、できる限り家庭的な環境の中で、職員との個別的な関係を重視したきめ細かなケアを提供していくことが求められている。
 こうした中、平成16年度から、児童養護施設におけるケア形態の小規模化を図るため、小規模グループケアを実施したところであるが、平成16年度の実績を見る限りその活用が不十分であると言わざるを得ない。今後、敷地内のみならず本体施設の近隣での展開等も含め、更に積極的に小規模グループケアの推進に努められたい。
 また、平成17年度からは、乳児院、情緒障害児短期治療施設及び児童自立支援施設にも小規模グループケアの対象を拡大する予定である。これについては、子ども子育て応援プランの中では、平成21年度までの今後5年間でこれらの児童養護施設等について1施設あたり1か所程度で小規模ケアを実施するよう目標を設定したので、各都道 府県におかれてもケアの小規模化の推進に努めていただきたい。

 自立支援計画の策定
 児童養護施設等においては、虐待を受けるなど複雑な背景を持った子どもが措置されることが多くなっており、適切なアセスメントとそれに基づいた自立支援計画の策定が重要である。また、子どもの状態に合わせて、適宜計画の見直しを行い、常に子どもにとって、最善の利益を考えていかなければならない。このように、計画的な自立支援を行うため、乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設及び児童自立支援施設の各施設長は、個々の入所児童等に対する支援の計画を策定しなければならないことを児童福祉最低基準に規定する予定であるのでご留意いただきたい。

(5) 要保護児童対策地域協議会について
 虐待を受けている児童を始めとする要保護児童の早期発見や適切な保護を図るためには、関係機関が当該児童等に関する情報や考え方を共有し、適切な連携の下で対応していくことが重要である。
 このため、児童福祉法改正法により、要保護児童等に関し、関係者間で情報の交換と支援の協議を行う機関として「要保護児童対策地域協議会」を法的に位置づけるとともに、その運営の中核となる調整機関を置くことや、地域協議会の構成員に守秘義務を課すこととされたところである。
 平成16年6月現在、全国3,123市町村の39.8%にあたる1,243か所で児童虐待防止を目的とする市町村域でのネットワークが整備されているが、要保護児童対策地域協議会が法定化された趣旨や、参議院厚生労働委員会において、児童福祉法改正法案に対し「全市町村における要保護児童対策地域協議会の速やかな設置を目指す」との附帯決議がなされたことを踏まえ、市町村における地域協議会の設置促進と活動内容の充実に向けた取り組みを進めていくことが必要である。なお、昨年末に策定した「子ども・子育て応援プラン」においても、虐待防止ネットワークを平成21年度までに全市町村に設置することを目標としているところである。
 特に、現在設置されている児童虐待防止ネットワークの活動上の困難点として、「効果的な運営方法が分からない」(35.2%)、「スーパーバイザーがいない」(33.8%)との点をあげるところが多いことから、市町村が設置主体となる要保護児童対策地域協議会については、児童相談所がその構成員として参画し、市町村の後方支援を行うことが期待されていると考えているので、御協力方よろしくお願いしたい。

(6) 要保護児童に関する司法関与の強化について
 児童福祉法改正法においては、児童虐待等の対応が困難な相談が増加する中で、児童相談所の体制強化だけでは全ての事例に適切に対応しきれない現状を踏まえ、
 (1)家庭裁判所の承認を得て行う児童福祉施設への入所措置の有期限化
 (2)児童相談所が保護者に対して行う指導措置に家庭裁判所が関与する仕組みの導入
 (3)児童相談所長の親権喪失請求権の18歳以上の未成年者への拡充
を行い、要保護児童に関する司法関与の強化を図ることとした。
 なお、司法関与の全体像については、関連資料を参照いただきたい。

 家庭裁判所の承認を得て行う児童福祉施設への入所措置の有期限化
 児童福祉法改正法により、家庭裁判所の承認を得て行う児童福祉施設への入所措置の期間については、期間については原則2年間を限度とし、必要に応じ家庭裁判所の承認を得て更新する仕組みとすることとされたが、このことは、
(1) 2年経過すると児童が保護者の元に必ず戻ってくることを意味するものではなく、
(2) 2年ごとに、保護者に対する指導措置の効果や児童の心身の回復の状態等を十分に見極めた上で、引き続き、強制入所措置が必要であるか否かを検討すべき
ものである点に留意願いたい。
 このため、児童相談所においては、この2年間に親子の再統合その他の児童が良好な家庭的環境で生活することができるようにすることに向けて、保護者に対する指導や、施設や里親に措置(委託)された児童の訪問面接等に努めていただきたいと考えている。
 また、衆議院において、児童福祉法改正法案が全会一致で修正され、入所期間の更新は、保護者に対する指導措置の効果等に照らして判断する旨の規定が追加され、更新に際しては、指導措置の効果や児童の心身の状態等を考慮することが明確化されたところであり、その経緯を踏まえ、適切に対応していただきたい。

 児童相談所が保護者に対して行う指導措置に家庭裁判所が関与する仕組みの導入
 児童相談所が行う指導に、保護者が従わないことも少なくないが、児童虐待を行った保護者については、児童虐待防止法に基づき、保護者指導を受けるよう都道府県知事による勧告を行うことができることとされているので、この勧告制度の積極的な活用を検討願いたい。
 また、児童福祉法改正法により、児童福祉施設への入所等の措置に関する承認の審判を行う際、家庭裁判所が、必要に応じ、都道府県(児童相談所長)に対し保護者指導措置を採るべき旨を勧告する制度を導入したところである。
 この勧告を行うか否かは、家庭裁判所の判断によるが、都道府県(児童相談所長)としてこうした勧告が効果的であると判断する場合には、家庭裁判所への審判の申立時にその旨の意見を述べることが適当であると考えている。 これらの制度を活用しつつ、保護者指導の動機付けや実効性を高めていただきたい。

(7) 育児支援家庭訪問事業について
 新生児期及び乳児期への支援の重点化を図るための具体的な取り組みの一つとして、平成16年度に「育児支援家庭訪問事業」を創設し、養育支援が必要となりやすい状況にありながらも近隣から孤立し、社会的な支援が得られにくい状況にある家庭を積極的に把握し、(1)子育てOBやヘルパー等が訪問して育児・家事等の援助を行ったり、(2)保健師、助産師、保育士等の専門職が訪問して具体的な育児に関する技術支援を行うなど、養育者への支援や養育環境の改善に向けた取り組みを強化しているところである。
 初年度においては本事業の実施が当初予定より進んでいない状況であるが、今回の児童福祉法の改正により、市町村が児童虐待を含む児童相談に関して一定の役割を担うこととされており、本事業は、市町村における児童虐待防止に関しての体制の確保を図るためには有効な手段となり得るものと考えていることから、管内の市町村に積極的に取り組むよう、必要な助言・指導をお願いしたい。
 なお、昨年末に策定した「子ども・子育て応援プラン」において、全市町村での実施を目指すこととしたところであり、厚生労働省としても、本年度中に、改めて先行自治体の事例を紹介するなどにより、本事業の意義や今後の取り組み促進への理解を求めることとしている。
 また、本事業は、平成17年度より、「次世代育成支援対策交付金(ソフト交付金)」に移行されることとなったのでご留意いただきたい。

(8) 「子ども・子育て応援プラン」における要保護児童対策の推進について
 児童虐待防止対策を始めとする要保護児童対策については、昨年6月に策定された「少子化社会対策大綱」において、「児童虐待という親子間の最も深刻な事象に対応できる社会を創り上げていくことが、すべての子どもと子育てを大切にする社会づくりにつながる」との認識に立ち、その充実を図ることとされたところである。
 この少子化社会対策大綱を踏まえて策定した「子ども・子育て支援プラン」においても、同様の認識に立ち、
(1) 児童虐待により子どもが命を落とすことがない社会(児童虐待死の撲滅)
(2) 全国どこでも養育困難家庭の育児への不安や負担感が軽減される支援を受けられる社会
(3) 虐待受けた子どもが良好な家庭的環境の中で育まれる社会
を目指し、次のような目標を立て、より積極的に施策を推進していくこととしている。
 各自治体においても、要保護児童対策の推進がすべての子どもと子育てを大切にする社会づくりにつながるとの認識に立ち、要保護児童対策をより積極的に推進していただきたい。

(平成16年度) (平成21年度)
虐待防止ネットワークの設置 1,243市町村 全市町村
(今後5年間の目標)
乳児健診未受診児など生後4か月までに全乳児の状況の把握 全市町村で実施
育児支援家庭訪問事業の推進
児童相談所の夜間対応等の体制整備 全都道府県・指定都市で実施
虐待対応のための協力医療機関の充実 全都道府県・指定都市で実施
個別対応できる一時保護所の環境改善 全都道府県・指定都市で実施
(平成16年度) (平成21年度)
児童家庭支援センターの整備 51か所 100か所
(都道府県に2か所、指定都市に1か所程度設置)
情緒障害児短期治療施設の整備
施設の小規模化の推進  299か所 845か所
(児童養護施設等において1施設あたり
1か所程度で小規模ケアを実施)
(今後5年間の目標)
里親の拡充児童養護施設、乳児院、里親に措置された児童のうち里親への委託率 8.1%(15年度) 15%
専門里親登録者総数
146人(15年度) 500人
(平成16年度) (平成21年度)
自立援助ホームの整備 26か所 60か所
(都道府県・指定都市に1か所程度で実施)
虐待対策に関する最新の知見の集積及び調査・研究
学校等における児童虐待防止に向けた取組に関する調査研究

(9) 子どもの虹情報研修センターについて
 子どもの虹情報研修センター(日本虐待・思春期問題情報研修センター)は、児童虐待及び非行・暴力などの思春期問題に対応するため、第一線の専門的援助者の養成と高度専門情報の集約・発信拠点となるナショナルセンターとして、平成14年度に設立されたものである。
 同センターは、これまで児童相談所、情緒障害児短期治療施設、児童養護施設、乳児院、市町村等の職員に対する虐待対応に関する研修を数多く実施してきたところである。
 今後さらに、蓄積してきた情報や技術を活かして、時代のニーズに合った効果的な研修プログラムの開発や実施を行うとともに、センター内の図書室やホームページあるいは専門相談窓口等を通して、様々な児童虐待問題に関連する情報を全国に提供していくこととしている。
 今回の児童福祉法の改正により、児童相談所長の研修の義務化や市町村における児童家庭相談業務が実施されることとされているが、これを踏まえた研修も実施する等、研修内容の充実を図る予定である。
 各地方自治体におかれては、関係職員の当該各種研修への参加のための特段の配慮及び社会福祉法人等への受講の勧奨を引き続きお願いしたい。
(連絡先:〒245-0062 横浜市戸塚区汲沢町983番地 045-871-8011)

(10) 児童虐待による死亡事例の検証について
 虐待により子どもが死亡するに至った事例については、従来から事例の検証と改善策の報告をお願いしているところであり、厚生労働省としてもこうした報告に基づき、昨年2月末に「児童虐待死亡事例の検証と今後の虐待防止対策について」をとりまとめたところである。
 その後、先の通常国会で成立した改正児童虐待防止法により、国及び地方公共団体の責務として児童虐待の防止等のために必要な事項についての検証を行うことが明確にされたこと等を踏まえ、昨年10月に社会保障審議会児童部会の下に「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」を設置し、全国の事例を専門的かつ多面的な角度から検証すべく審議を重ねているところである。
 同専門委員会においては、今後、おおむね年2回程度を目途に報告をとりまとめることを目標に、要保護児童に関わる各方面の関係者に対し、活動の支援となるような有意義な情報提供をしていきたいと考えている。
 これらの検証作業に当たっては、関係自治体の十分な検証結果が不可欠であることから、引き続き、児童虐待死亡事例の検証について充実に努めるとともに、同専門委員会の運営について特段のご協力をお願いしたい。


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