年金積立金管理運用独立行政法人の運営の在り方に関する検討会
(第8回)の議事要旨
1.日時:平成22年6月7日(月) 18:00〜20:00
2.場所:厚生労働省 専用21会議室
3.出席者
【メンバー】(敬称略)
浅野幸弘、植田和男(座長)、小島茂、小幡績、富田邦夫、富田俊基、村上正人、山崎元、山崎養世、米澤康博
【総務省】
階猛総務大臣政務官
4.議事要旨
(1) 中間とりまとめに向けた議論
○ 資料2「年金積立金管理運用独立行政法人の運営の在り方に関する検討会中間とりまとめ(案)」について事務局から説明し、議論を行った。
◆中間とりまとめ(案)に対する主な意見
- この会の趣旨は、政府の行政評価の枠組みの中で、GPIFの運営の在り方に対して、何らかの改善と国民にとって望ましい方向を出すということだと思うが、今の議論を進めていても、そういう結果にならないのではないか。
- OECDの対日経済審査報告書において、2009年展望(平成21年財政検証)では、運用利回りを4.1%に、賃金の伸びを2.5%にそれぞれ引き上げ、運用収益と賃金の差を1.1%から1.6%に広げたが、現在のポートフォリオがこの展望に見合った収益を生み出せるのかについては疑問が多いと指摘されており、それが高すぎるかどうかは別問題として、4.1%がGPIFの目的であるべきなのは自明である。
- また、同じOECDの報告書の中で、各種の年金法において資産管理を「安全かつ効率的に」としているが、ほとんど指針となっていないと指摘されている。そういうものが世の中にあればよいが、そのようなものはない。
- また、別のOECDの報告では、OECD諸国の中で、日本の公的年金のみがOECDの年金基金のガイドラインに反しており、適合していないと指摘されている
- 国債だけの運用では4.1%を達成できないのであるから、リスクは100%。また、今後2〜3年で日本の貯蓄率がマイナスになっていくため、国債の消化ができずに暴落して、年金の運用も大きな損失を出すリスクがあり、国債だけの運用にリスクがないということはない。
- したがって、運用には全てリスクがあり、リスク分散をすることが基本。何らかのリスクをとってそれを多様化する中で、どうやって4.1%を最適な組み合わせで達成するのかを考えることが必要。
- 財政検証における経済前提の利回り4.1%が、運用環境の前提を踏まえずに決まっていることが問題。
- 年金積立金の運用では余計なリスクは取らない方がいい。国家ファンド的な運用をするとなれば、手数料の配分を通じた金融版の公共事業利権的なものになって、好ましいものにはならない。運用利回りの目標はリスクとセットで決めるべきであり、年金財政から出てくる4.1%を達成しないことがリスクだから、それを達成できるようなポートフォリオを作れというのは本末転倒した議論。
- 国債が暴落しても、年金の負債の価値も同時に下がるということなので、負債と資産の両方についての現実を正しく伝えていけばいいのではないか。国債の暴落だけを一方的に伝えるのは、情報の提供の仕方としてはミスリードになる。
- 年金の場合、負債というのは将来の給付のことであるので、国債が暴落したとしても、それに伴ってインフレ率も上がると将来の給付額も増えることになり、単に名目の金額を割り引いて現在価値が小さくなるということはないのではないか。
- 年金積立金の目的は、給付を賄うことであり、その給付自体が賃金上昇率やインフレ率によって変動するため、それを上回る運用が必要。したがって、「国債利回りを一定程度上回る」という目標を設定したとしても、これは「操作目標」のようなものであり、それを使うに当たっては、国債の利回りと賃金上昇率がどのような関係にあるかを押さえておく必要がある。
- 確かに「操作目標」がなければ、現実的な運用目標にならない。そういう意味で、例えば賃金上昇率や国債利回り、その両者の関係をどう想定するかを考えた上で、国債の利回りなら国債の利回りをどういうリスクでどれだけ上回るかを操作目標として設定できるならいいが、賃金上昇率と国債の利回り、あるいは賃金上昇率に対してトラックする運用というのは、運用の操作目標としてはあり得ないのではないか。
- 短期では相関がなくても、長期の経済的な関係として、インフレ率、賃金上昇率、金利、株価にはかなりの相関が出ることは実証として結論が出ている。想定だけではなく、それらが変動したときにどういう関係にあるかということを押さえておくことが必要。
- 公的年金における「負債」の時価評価というような数字はない。したがって、国債が暴落して積立金が減ったときに、負債も減っているから損をしていないという理屈は通らないのではないか。
- インフレ率が上がって国債の利回りが上がる場合であれば、時価評価をすれば資産のほうは下がる。一方負債のほうは、割引率は確かに上がるが、分子のほうもインフレ率が上がって給付が増える分上がっていくので、負債の割引現在価値は一定になるのではないか。
- 一方で掛け金が上がっていくので、年金財政という意味では、年金のALMということは無効ではない。
- アメリカの年金では、CBO(議会予算局)やOMB(行政管理予算局)といった機関が国債を割引率にして負債を割引現在価値にして見ている。そういうこともあって、全て非市場性国債で保有しているので、金利が上がったとしても価格面での影響は大変小さい。したがって、年金積立金は、理屈でいえば非市場性国債で保有していれば全く問題ない。そもそもの問題は、国債や株式で運用されていることに大きな問題があるということ。日本においても、負債を時価評価するような形に変えれば、当然金利が上がればその分はニュートラルになる。
- 負債は長期的にしか決められないものであり、短期的にマーケットの暴落が起きたときに、負債のほうの評価だけ変えるということはできないのではないか。
- 暴落のことを考えても、賃金上昇率との関係が決定的であり、本来の目標は、4.1%といった固定の数字ではなく、賃金上昇率をどの程度上回るかということ。ただ、それだと運用しにくいということであれば、年金財政の方で賃金上昇率との関係を計算に入れて、GPIFに与えるときは国債+αで表現し直すということはあるのではないか。
- 目標運用利回りについては、年金制度とセットで議論するということで、現在進んでいる新しい年金制度の検討の中で具体的に考えていくことが現実的ではないか。
- 現在価値で全部を計る必要はなく、また今でも今後100年間の財政収支のバランスを見ているので、そういう意味ではALMを行っていないわけではない。ただ、その前提の置き方が適切かどうかという問題があるだけではないか。
- 今までも、賃金上昇率+αという目標であったはずであるが、実務上は名目運用利回りを前提とした証券市場曲線で、名目運用利回りを達成するのに最も低いリスクをとればいいという考え方であって、それが問題だったのではないか。目標と達成する手段がずれており、それを改善すべきというところでは、そんなに異論がないのではないか。
- 仮に賃金上昇率+αと考えるとしても、それはどの程度のリスクを前提をした上でのプラスアルファなのか。