厚生労働省

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資料4

労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会
ヒアリング・意見書

財団法人全日本ろうあ連盟

1.はじめに

(1) 言語としての手話

障害者権利条約2条では手話を言語として規定しています。また、21条には手話などによるコミュニケーション手段を用いることを受け入れ、及び容易にすることとしており、さらに、独立項として「手話の使用を承認し及び促進すること」としています。

そのためには、聴覚障害者が手話などによる情報・コミュニケーション保障により社会参加できるように整備していく必要があります。

(2)本研究会への委員委嘱

本研究会が4月2日から開かれていますが、聴覚障害当事者である全日本ろうあ連盟に委員委嘱がありません。この件については5月28日、厚生労働省障害者雇用対策部長宛に要望書を提出し、6月20日に全日本難聴者・中途失聴者団体連合会とともに同課と懇談をしましたが、良い回答を得ることができませんでした。

障害者権利条約4条3項には「条約を実施するための法令や政策の策定・実施等について、障害のある人の団体を通じて障害者と緊密に協議し、積極的に関与させる」、と規定しています。

同研究会に聴覚障害当事者が参画できるよう、改めて当連盟への委員委嘱を要望します。

(3)聴覚障害者と職業生活について

聴覚障害者は比較的雇用しやすい反面、職場定着に問題があるとされています。それは聞こえないために必要な情報が入らない、また職場の上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかないことに起因します。

業務上だけではありません。1日の大半を過ごす職場では人間関係が良好であることも大切です。聴覚障害者はその人間関係を円滑にするコミュニケーションさえ阻害されます。

聴覚障害者が良好な職場環境の中でモチベーションを維持し仕事を続けるためには、雇用や就労の場面において聴覚障害者に対し、手話をはじめとするその人に合ったコミュニケーション保障が必要になります。

2. 障害者権利条約批准に向けて、労働・雇用分野における課題等について

障害者権利条約では公的、民間部門での障害者の雇用を謳っており、これをもとに、今後、障害者がもっと積極的に雇用されるよう対策を講じていく必要があります。

日本では障害者雇用率制度があり、法定雇用率が民間企業で1.8%、公的機関で2.1%となっています。しかし、実際の雇用率は2007(平成19)年度で民間が1.55%で、一部公的機関とともに、法定雇用率を達成されていない状況が続いています。

特に現在の雇用率制度では障害種別、聴覚障害者の雇用数、雇用率が表示されません。聴覚障害者の雇用改善の分析のためにも、障害種別のデータが必要と考えます。

(1) 雇用に係る差別禁止について

(1) 雇用における支援

聴覚障害者は聞こえないゆえに、仕事を探す際のコミュニケーションに支援が必要になります。具体的には職業安定所において求職から就職、職場定着指導で聴覚障害者のコミュニケーションを保障する手話協力員による支援があります。

手話協力員制度の現状は全国297箇所の設置となっており、全国すべての職業安定所に設置されているわけではありません。また勤務時間が1ヶ月に7時間と、非常に限られたものとなっています。

手話協力員制度は聴覚障害者の求職から就職の過程でコミュニケーションによる障壁をなくすための大変重要な制度です。そのため全日本ろうあ連盟では、制度の拡充を厚生労働省へ要望しているところです。

(2) 雇用における具体的な差別事由について

聴覚障害者は「聞こえない」という理由で採用を断られるケースが多々あります。
例として「電話ができない」という理由が挙げられます。またコミュニケーションに関わるものとして、お客様対応、窓口業務での積極的な採用が見られません。その他の業種でも聞こえない、職場内での意思疎通が図りにくいことを理由に採用を躊躇する企業も少なくありません。

聴覚障害者は手話などによるコミュニケーションを保障し、またFAX、メールをはじめとした機器の活用により視覚的な情報保障を工夫することにより、健聴者と同等に働くことができます。

 

(3) 欠格条項と聴覚障害者

2001年に医師法を初めとする法律の絶対的欠格条項の文面が削除されましたが、相対的な欠格条項は依然残されたままです。聴覚障害者が専門職に就くにあたり、法令が壁にならないよう、欠格条項の完全撤廃が必要です。

また、近年専門職を目指し、就業する聴覚障害者も増えていますが、聴覚障害者の資格取得、専門職への就業にあたっても情報・コミュニケーション保障が必須となります。

(2) 職場における合理的配慮の提供について

(1) 就労の場面

前段1−(3)で触れたように、聴覚障害者は職場定着が課題とされてきました。職場でのコミュニケーションがうまくいかず、業務上のミスやまた多大なストレスを抱えやめていく例が多くあります。具体的には上司からの指示がうまく伝わらない、朝礼、会議などの内容がわからない…など、職業生活上で常に情報やコミュニケーションから阻害されると言っても過言ではありません。

そのため、まず情報・コミュニケーション保障として、必要なときに手話通訳が保障されることが合理的配慮となります。

現行制度では障害者介助等助成金制度による手話通訳者委嘱制度がありますが、この制度は企業が申請するものであること、納付金制度が元になっているため、公的機関では使うことができないという問題を解決する必要があります。また、利用回数の制限や手続きが煩雑であるといった課題があります。

職場での手話通訳保障の充実のためには、まず、公的機関・民間の別なく、聴覚障害者が必要なときに専門的な手話通訳者の派遣を求める権利を保障する制度を整備する必要があります。

また、手話通訳の保障だけでなく、社内での手話講習会の開催や手話の普及を推進する活動など、組織的な手話環境づくりにより、社員が積極的に日常会話程度の手話を覚え、聴覚障害者との直接的なコミュニケーションを円滑にしていくための手だてを講じることも必要です。

聴覚障害者は視覚による情報が必要になりますので、前段(2−(1)−(2))でも触れたように、メールをはじめとしたIT機器等、視覚的な情報提供、コミュニケーションも合理的配慮となるでしょう。

 

(2) スキルアップ・昇進

聴覚障害者が長く働き続けるためには、健聴者と同等に能力を発揮できるための配慮が必要になります。情報保障ないために聴覚障害者が研修に参加できないという問題が多く見られますし、当連盟が(独)高齢・障害者雇用支援機構の委託を受けた「重度障害者(聴覚障害者)の職域開発に関する研究」においても、聴覚障害者の管理職を困難とする見解を示す企業が複数見受けられました。

スキルアップのための研修会等で、手話通訳などの情報保障が必要であり、また、聴覚障害者が同等に昇進できるための合理的配慮も検討する必要があります。

(3) 雇用・労働分野における聴覚障害者専門の相談支援体制の整備

就労・職場定着の場面において、聴覚障害者専門の相談支援体制が必要です。

現在、大阪、山梨などの府県レベルで行われている重度聴覚障害者ワークライフ支援事業や、ジョブコーチ制度などを基に、関係機関と連携し、聴覚障害者個々のニーズに応じた相談・救済体制の整備が必要です。

特に、職場定着指導を行うジョブコーチ制度は広く障害者を対象としているため、聴覚障害の特性や背景を理解し、手話でコミュニケーションできるジョブコーチがほとんどいません。職業安定所手話協力員制度と連携した聴覚障害者専門のジョブコーチの制度が急務です。

以 上


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