資料2

ヒト尿由来製品のvCJD感染リスクに関する関係論文等


○ガイドライン等
1.WHO Guidelines on Transmissible Spongiform Encephalopathies in relation to Biological and Pharmaceutical products. (2003)

 WHOの生物由来製品等に関連するTSEについてのガイドライン。
 ヒトvCJDにおいて、感染性が検出されない組織(体液等)として尿があげられている。
(ヒト臍帯血、初乳、尿によるCJD感染は確認されておらず、可能性は低いと考えられ、また、今まで報告されていないPrPのタイプ、PrPuが孤発性及び家族性CJDの尿で検出されたが、感染リスクについては定かではないとされている。)

2.CHMP Position statement on Creutzfeldt-Jacob Disease and plasma-derived and urine-derived medicinal products, June 23 (2004)

 血液由来及び尿由来製品のvCJD感染リスクに関するEU当局の見解。
 尿中の感染性については、以下のように記載されている。
 Shakedらは、TSEを発現したハムスター・ウシ・ヒトの尿において、プロテアーゼ耐性型PrPアイソフォーム(UPrPsc)が検出されたことを報告した。しかし、この研究においてUPrPscをハムスターの脳内に接種しても、プリオン病の臨床的徴候は起こらなかったことは注目に値する。これらの知見は、まだ確認が必要な段階であり、追試が実施されているところである。
 尿由来医薬品(特にゴナドトロピン)が広く利用されてきた過去25年間に得られた疫学的証拠からは、孤発性CJDに起因するリスクは示されていない。なお、下垂体由来ゴナドトロピンの使用を通じたCJDの医原性伝播が、疫学的証拠により数例特定されていることから、尿由来ゴナドトロピンからの伝播が起こっていたとすれば、これまでに発見されているであろうと考えられる。

3.Sourcing of plasma and urinary derived medicinal products. CSM, March 14 (2003)

 英国医薬品安全性委員会(Committee on Safety of Medicines)の血漿及び尿由来製品の安全性に関する勧告。vCJDが内因的に一例以上発生した国由来尿の使用を禁止している。


○尿中プリオン
1.Tateishi J. Transmission of Creutzfeldt-Jacob disease from human blood and urine into mice. The Lancet. (1985)9:1074

 ヒト血液及び尿によるCJD感染に関する研究。
 70歳の男性患者は言語能力や認知障害などが急速に悪化し、2ヶ月以内に明確な症状が現れ、約3ヶ月で死亡した。脳の重量は1290gで病理学的にCJDの状態であった。ウイルス粒子が電顕で観察されたが、炎症、microglia、神経線維濃縮体やアミロイド班は存在しなかった。当該患者の脳や角膜は生理食塩液の10%ホモジネート、血栓を破砕した全血、未処理のCSFや尿をCF1マウスの脳内に20μl /匹接種した。組織学的な検索では尿を接種した場合、880±55日後に10匹中5匹でCJDの変化が認められ、1匹ではCJDの患者や動物と同じようにアミロイド班が認められた。

2.Baron H.: In Prusiner SB (ed). Prion Biology and Disease. Cold Spring Harbor Lab Press, USA, Chapter 17 (1999): 743-777

 プリオンの生化学及び疾病に関する成書。本書中、感染性に関する項においてTateishiらの実験は、研究室内における人為的なコンタミネーションに起因するものではないかと述べられている。

3.Moudjou M, Frobert Y, Grassj J, La Bonnadiere C. Cellular prion protein status in sheep: tissue-specific biochemical signatures. J. Gen. Virol. (2001)82: 2017-2024

 ヤギを用いたタンパク質レベルの定性的及び定量的なPrPcの組織分布を、酵素免疫学的測定法により調べた研究。PrPcが最も多く存在する組織は脳で、次いで肺、骨格筋、心臓、子宮、胸腺及び舌で、それらのプリオン量は脳の20〜50分の1であった。これらの各組織のプリオン量は、各ヤギにおいて同様であった。他の組織に関しては、個体間でプリオン量は異なっていた。最も低濃度のPrPcを含む組織は、肝臓で、脳の564〜16,000分の1であった。

4.Shaked GM, Shaked Y, Kariv-Inbal Z, Halimi M, Avraham I, Gabizon R. A protease resistant prion protein isoform is present in urine of animals and humans affected with prion diseases. J. Biol. Chem. (2001)276: 31479-31482

 TSE感染ハムスター・ウシ及びヒトの尿を透析(塩析)し、超遠心及びプロテアーゼK処理後、抗PrP抗体(3F4または6H4)及び抗マウス・ウサギIgG抗体を用いたウェスタンブロット法によりプリオンの検出を試みた研究。また対照としてそれぞれ非感染動物・ヒト尿をサンプルとした。その結果、感染尿においてのみプロテアーゼ抵抗性PrPが検出された。(ハムスターにおけるUPrPの検出には透析による濃縮が必須であった)。また、腎臓組織からはPrPsは検出されなかったので、この尿中のPrPscは腎臓由来ではないと考えられた。
 また、ハムスターにおいてはUPrPscがTSEの臨床症状発現のかなり前、すなわちSubclinicalな時点から認められたことである。これはPrPscの脳への蓄積と平行して尿からの排泄が行われる可能性を示唆していると思われる。
 さらに、この尿に存在するPrPが感染性を持つか否かを検討するため、in vivoでのハムスター感染実験を行った。同程度の濃度のUPrPscと脳ホモジネート由来PrPscがハムスターに接種された。その結果、脳PrPscを接種されたハムスターにおいては接種後80日程度で致命的なTSEの臨床症状が発現したが、UPrPsc接種群では270日後においても臨床症状の発現は認められなかった。一方、これらのUPrPsc投与群においては尿中にUPrPscが接種後60日から検出された。
 また、剖検を行った3匹中1匹のUPrPsc接種ハムスターにおいて、微量ながら脳内にPrPscが120日後に観察された。これらの結果は、UPrPが脳のPrPとコンフォーメーションが異なり、それ故に低い感染性を有し、結果として感染実験においてSubclinicalあるいはキャリア状態程度の感染を引き起こした可能性を示唆していると考えられる。

5.Miyazawa K, Shiga Y, Matsuzaki M, Takeda A, Itoyama Y. The detection of a protease-resistant prion protein isoform in urine of Creutzfeldt-Jacob Diseases: Annals of Neurology. (2002)(Suppl1):S54

 CJD患者の尿中のプロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白(UPrPsc)の検出を文献で報告されている抗体3F4を用いる方法により検討した。9名のCJD患者のうち7名の尿からUPrPscのバンドを検出したが、非患者の尿からは検出されなかった。

6.Reichl H, Balen A, Jansen CAM. Prion transmission in blood and urine: what are the implications for recombinant and urinary-derived gonadotrophins? Human Reproduction. (2002)17: 2501-2508

 血液及び尿中の感染性プリオンが伝染するかどうか、この件がゴナドトロピンを用いる不妊治療にどの様に関連するか、更に生物由来原料から感染性プリオンを除去・不活化する技術に関する最近の知見をまとめた総説。尿からの感染については、ShakedやTateishiらの報告及びそれに対する反論を引用し、尿からの感染は証明されていないとされている。
 尿由来のゴナドトロピンの製造工程中のカオリン吸着、アルカリ条件下での溶出、エタノール分画などがプリオン除去に効果がある。 また、尿由来製品は、大量の尿をプールして製造されることから、感染尿が混入したとしても大幅に希釈され、感染プリオンに暴露される確率は大きく減少すると考えられる。

7.Shiga Y, Miyazawa K, Takeda A, Arai H, Dohura K, Itoyama Y. Laboratory and imaging studies for the diagnosis of prion disease. Clinical Neurology (Japan) (2003)43: 810-812

 CJD診断の臨床検査として、PSD(periodic syndhronous discharge)、髄液中14-3-3蛋白、τ蛋白、T2強調像(T2I)及び拡散強調像(DWI)などのMRIの有用性を検討した。さらに、Shakedらと同様の方法を用いて尿中の検出を行った。CJD患者15名中11名でProteinaseK抵抗性であって、プリオン蛋白抗体3F4及び6H4と反応するバンドを検出した。しかしShakedらが報告したようにプリオン病動物モデルやCJD患者に特異的でなく、対象とした非CJD中枢神経疾患患者25名中3名からもバンドが検出された。Sensitivity 73.3%、specificity 88.9%でCJD患者に高率で認められるものではあったが、特異的なものではなかった。

8.Furukawa H, Doh-ura K, Okuwaki R, Shirabe S, Yamamoto K, Udono H, Ito T, Katamine S, Niwa M. A pitfall in diagnosis of human prion diseases using detection of protease-resistant prion protein in urine. J. Biol. Chem. (2004)279: 23661-23667

 尿中PK抵抗性プリオンの検出によるヒトプリオン病診断に疑問を呈する研究。本研究は、Shakedらが報告した32kDaのPK抵抗性バンドを検出することができなかった。その代わりに、プリオン病患者の尿から分子量37kDaのタンパク質が検出された。このタンパク質は種々の抗PrP抗体(一次抗体)に反応したが、一次抗体の抗PrP抗体がない状態で、二次抗体だけでもこのバンドを検出した。
 構造解析を行った結果、このタンパク質はEnterobacteriaの外膜蛋白質であり、PK抵抗性で、SDS-PAGEで37kDaに移動することがわかった。
 このタンパク質がPrPscと間違って判断される可能性があり、臨床サンプルを試験する際には、細菌による汚染に注意する必要がある。

9.袖山信幸、水澤英洋、プリオン病:最近の進歩:日本内科学会雑誌(2004)93: 169-176

 臨床的側面からのプリオン病の検査、治療疫学の最新の治験に関する総説。日本のCJDサーベイランス調査における脳波、脳MRI、14-3-3蛋白の感度は71%から75%で類似していたが、neuron specific enolase は58%と低値であった。
 Shakedらにより、尿中プロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白と報告されていたものは、最近の細胞外膜蛋白の可能性が高いことが判明した。

10.古川ひさ子他、プリオン病及び遅発性ウイルス感染に関する調査研究「尿中プリオン蛋白検出によるプリオン病診断の問題点」:プリオン厚生労働科学研究補助金、難治性疾患克服研究事業プリオン及び遅発性ウイルス感染に関する調査研究班(平成15年度研究報告書)(2004)58-66

 尿中プロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白検出の診断的有用性、信頼性についてウエスタン・ブロット法、質量分析法およびアミノ酸際列解析法を用いて詳細に検討した研究。(Furukawa et al. J. Biol. Chem. 279, 23661 (2001)(文献6)と同じ内容)

11.Serban A, Legname G, Hansen K, Kovaleva N, Prusiner SB. Immunoglobulins in urine of hamsters with scrapie. J. Biol. Chem. (2004)279: 48817-48820

 抗プリオン蛋白抗体3F4及び抗マウスIgG抗体(二次抗体)を用いたウエスタンブロット法により、Shakedらによりプリオン病感染ハムスター及びヒト尿中にプロテアーゼ抵抗性PrPが存在することが報告された。しかし、本研究ではShakedらが報告した尿由来プロテアーゼ抵抗性PrPのバンドが3F4なしの抗マウスIgG抗体のみによっても検出されうることを明らかにした。マススペクトルを用いた分析により、このバンド中にIgGの軽鎖(いわゆるBens Jones蛋白)を同定したが、PrPペプチドは検出されなかった。
 また、このようなバンドはプリオン病非感染ハムスターの尿及び感染/非感染ヒトの脳ホモジネートからは検出されなかった。更に、感染ハムスター尿由来のバンドは、2種の抗rec PrPヒトーマウスキメラ抗体フラグメントと、抗ヒトIgG抗体を二次抗体としたウェスタンブロットでは検出されなかった。
 これらの結果は、Shakedらの実験条件によってによって報告されたバンドが二次抗体である抗マウスIgG抗体の、IgG軽鎖(及び或いは重鎖)との交叉反応性によるものであり、UPrPに起因するものではないことを示唆している。

12.Ward HJT, Balen A, Will RG. Creutzfeldt-Jacob disease and urinary gonadotrophine Human Reproduction. (2004)19: 1236-1237

 英国における調査において総計143名のvCJD患者のうち63名が女性であり、そのうち1名が1998年から1999年にかけて不妊治療歴を有しており、ヒュメゴン・プレグニールを含む尿由来薬剤の投与を受けていたことを報告している。しかし、この患者においてはこの不妊治療からvCJD 臨床症状発現までの潜伏期間は20ヶ月と大変短く、より強い感染性を有していると考えられる下垂体由来ヒト成長ホルモンの投与により感染したCJD の潜伏期間の4.5年と比較しても大変短いものであった。最大20ヶ月間の不妊治療による感染性は、もしあったとしても大変低いものと考えられ、感染性物質の投与量と発症までの潜伏期間には逆相関の関係があることを考え合わせると、この患者において不妊治療がvCJD発症の原因であった可能性は極めて低いと著者は考察している。

13.Narang HK, Dagdanova A, Xie Z, Yang Q, Chen SG. Sensitive detection of prion protein in human urine. Experimental Biology and Medicine. (2005)230: 343-349

 信頼性の高いPrPc迅速検出法(イオン吸着、固相抽出後、ウエスタンブロッティング)の開発に関する研究。1 mlの尿を用いて、低レベル(μg/L)で検出可能で、健康成人の尿中にPrPcが存在することを確認した。
 Shakedの用いた抗体3F4は細菌蛋白質や尿中IgG断片にも反応することから、Shakedは誤って、尿中にプロテアーゼ抵抗性プリオンが検出されたと報告したと考えられる。3F4のエピトープはN末端に存在し、脳PrPcは3F4により認識されるが、尿PrPcは認識されない。著者らが用いたanti-C抗体は、PrPのC末端にエピトープがあり、尿PrPcを認識する。尿PrPcは脳PrPcと構造特性が異なると考えられる。

14.Kariv-Inbal Z, Halimi M, Dayan Y, Engelstein R, Gabizon R. Characterization of light chain immunoglobulin in urine form animals and humans infected with prion diseases. Journal of Neuroimmunology. (2005)162: 12-18

 以前のShakedらの報告において著者らのグループはプリオン病感染ヒト及び動物尿中にプロテアーゼ抵抗性のPrPアイソフォーム(UPrPsc)が検出されることを報告したが、この報告の後にFurukawaらやSerbanらが同様のウエスタンブロット法で認められたプロテアーゼ抵抗性のバンドがそれぞれ、最近の外膜蛋白及びIgG軽鎖であること、そして、二次抗体である抗マウスIgG抗体のみによっても同様のバンドが検出できることを報告した。
 今回著者らは感染ハムスター及びヒト尿の二次抗体及び細菌の外膜蛋白に対する反応性を検討した。感染ヒト及びハムスター尿中には種々のプロテアーゼ抵抗性蛋白が存在し、マススペクトルによる構造解析の結果その一つがSerbanらが示唆したIgG軽鎖であることが判明した。
 また、このプロテアーゼ抵抗性IgG軽鎖の存在はプリオン尿に特異的のようであった。これはCJD患者尿がプロテアーゼ抵抗性IgG軽鎖の存在により識別できる可能性を示している。


○プリオン除去工程
1.Foster PR, Welch AG, McLean C, Griffin BD, Hardy JC, Bartley A, MacDonald S, Bailey AC. Studies on the removal of abnormal prion protein by processes used in the manufacture of human plasma products. Vox Sacng. (2000)78:86-95

 血漿分画に用いる工程がプリオン除去に有効か検討した報告。アルブミン工程において、画分IVの冷エタノール沈殿で3以上、ディプスフィルトレーションで4.9以上のクリアランスがあった。免疫グロブリン工程において、画分I+IIIの冷エタノール沈殿で3.7以上、ディプスフィルトレーションで2.8以上のクリアランスがあった。フィブリノーゲン工程のイオン交換カラムクロマトでは3.5以上のクリアランスがあった。アルブミン、免疫グロブリン、第VIII及びIX因子、フィブリノーゲン及びトロンビンの製造に用いられる血漿分画工程には感染性プリオンを除去するステップが含まれている。

2.Cai K, Miller JLC, Stenland CJ, Gilligan KJ, Hartell RC, Terry JC, Evans-Storms RB, Rubenstein R, Petteway SR, Lee DC. Solvent-dependent precipitation of prion protein. Biochem. Biophys. Acra. (2002)1597: 28-35

 PrPsc沈殿化に関する種々の溶媒条件の影響を検討した研究。緩衝液中では、低速度遠心後、PrPscは上清中に存在した。PrPscは、pH5では、塩含量に関係なくほとんど完全に沈殿した。pH8では、PrPscはエタノールを添加することにより沈殿したが、塩に依存した。これらの結果をもとに、溶媒pH、塩及びエタノール濃度を関数にPrPscの沈殿傾向を表す経験的数学モデルを構築した。感染性PrPscの沈殿化を決定する主要な因子は、pH、塩及びエタノール濃度であることが示された。

3.Vey M, Baron H, Weimer T, Groner A. Purity of spiking agent affects partitioning of prions in plasma protein purification. Biologicals. (2002)30: 187-196

 血漿タンパク精製に用いられる工程に、生物物理学的性質が異なるプリオンをスパイクし、その分配挙動を比較した研究。膜結合型プリオンは製造工程の条件に関係なく同じ挙動を示したが、精製した膜非結合型プリオンは、製造工程の条件によりその分配挙動が大きく変化した。製造工程のプリオンクリアランスを評価する際には、理論的なプリオン汚染を模倣するために、生物物理学的性質が異なるプリオンをスパイクする必要があると考える。

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