資料No.5-2

最低賃金制度のあり方に関する研究会報告書のポイント


見直しの必要性
最低賃金制度に
求められる役割
すべての労働者を不当に低い賃金から保護する安全網としての「一般的最低賃金」が第一義的な役割
公正な賃金の決定の役割を担わせるとしてもあくまで第二義的、副次的
現行制度の問題点
産業別最低賃金
 対象者や水準からみて、役割が地域別最低賃金と重複
労働協約の拡張適用による最低賃金
 実効が上がっておらず、労働協約ケースと役割的に重複
地域別最低賃金
 一般的賃金水準等と比較した最低賃金の比率が、地域的にみて不均衡生活保護の水準との関係の問題
最低賃金を取り巻く環境変化に伴う問題点
産業構造の変化
(サービス経済化、産業のボーダレス化)
就業構造の変化、賃金格差の拡大、賃金制度の変化



派遣・請負労働者の増加、賃金分布の分散の拡大、仕事給の導入、職務に応じた処遇


労働組合の組織率の低下

↓
今後の最低賃金のあり方
体系のあり方
地域別最低賃金は、各地域ごとに設定を義務付け
産業別最低賃金は、廃止を含め抜本的な見直しが必要
 廃止すべきとの意見
 公正競争ケースは廃止し、労働 協約ケースを見直し、大くくりの産業について職種に応じて設定すべ きとの意見(罰則は不要)
労働協約の拡張適用による最低賃金は廃止
安全網としてのあり方
決定基準について
 「類似の労働者の賃金」は一般労働者の賃金水準も重視
 「支払能力」については、生産性の水準や雇用の確保等といった趣旨であることを明確化
水準について
 地域別最低賃金の水準と地域の一般的賃金水準等との関係の地域的不均衡の見直し
 単身者について、少なくとも実質的にみて生活保護の水準を下回らないようにすることが必要
 水準の見直しを行いつつ、一定の年齢区分の者等を対象に減額措置の採用が考えられるとの意見
罰則(2万円)の引上げ
その他
地域別最低賃金は労働市場の実情等を反映した単位での設定の検討が必要との意見
派遣労働者には派遣先の地域別(産業別)最低賃金を適用
表示単位期間は法律上も時間額表示に一本化



最低賃金制度のあり方に関する研究会報告書(概要)


I 総論
 1 最低賃金制度の意義・役割
 最低賃金制度に求められる第一義的な役割は、すべての労働者を不当に低い賃金から保護する安全網(セーフティーネット)としての「一般的最低賃金」としての役割。 最低賃金制度に公正な賃金の決定の役割を担わせるとしても、あくまで第二義的、副次的なもの。

 2 意義・役割に照らした現行の最低賃金制度の問題点
(1) 産業別最低賃金
 実態としては、基幹的な業務に従事しているとはいえないような低賃金層の者までをも対象とするとともに、その水準は地域別最低賃金を14%程度上回っているにとどまり、比較的賃金水準の高い労働者の賃金の不当な切下げによる競争の防止という本来の機能は果たしておらず、その役割も地域別最低賃金と重複。
(2)労働協約の拡張適用による最低賃金
 我が国の労使関係の実情からみて実効が上がっておらず、また、労働協約ケースと役割的には重複。
(3) 地域別最低賃金
 一般的賃金水準と比較した最低賃金の比率や低賃金労働者の賃金水準と比較した最低賃金の比率については、地域的にみて不均衡がみられ、一般的最低賃金として適切に機能しているかという観点から問題。
 最低賃金の水準が生活保護の水準より低い場合には、最低生計費の保障という観点から問題。また、就労に対するインセンティブが働かずモラル・ハザードの観点からも問題。

 3 最低賃金制度を取り巻く環境変化に伴う問題点
(1) 産業構造の変化
 産業のボーダレス化の進展の中で、小くくりの産業について地域別に設定することになっている現在の産業別最低賃金では、公正競争の確保、公正な賃金の決定という面において、その存在意義が低下。
(2) 就業構造の変化、賃金格差の拡大、賃金制度の変化
 派遣、請負といった就業形態が増加する中で、就業形態が異なるというだけで適用される最低賃金が区々となるという事態が生じ、従事する職務に応じた公正な賃金の決定すら困難。地域別最低賃金についても、派遣先の事業場がある地域の最低賃金が適用されないという問題が一層顕在化。こうした観点からも、最低賃金制度についての見直しは不可避。
 時間当たり賃金ごとの雇用者の分布や年収階級別の雇用者の分布をみると、分散が拡大しており、最低賃金制度は、低賃金の労働者層の安全網として、その真価を発揮すべき重要な時期。
 仕事給の導入、職務、職種などの仕事の内容や業績・成果に対応する部分が拡大している中で、最低賃金の決定に際して、こうした要素をどのように考慮し反映させるかということも課題。
(3) 労働組合の組織率の低下
 労働組合の組織率は長期的に低下し、賃金決定において団体交渉によってカバーされない労働者が増加。とりわけ労働組合の組織率が著しく低いパートタイム労働者にとっては、最低賃金制度が賃金に係る安全網として果たすべき役割は、ますます重要。

II 各論
 1 最低賃金の体系のあり方
(1) 地域別、産業別、職業別といった設定方式のあり方
 最低賃金制度の第一義的な役割は、「一般的最低賃金」であることから、「国内の各地域ごとに、すべての労働者に適用される最低賃金(地域別最低賃金)を決定しなければならない」ことを法律上明確にすべき。
 一般的最低賃金としては、地域別最低賃金のほかに多元的に産業別や職業別に最低賃金を設定することを前提としないことを明確にすべき。
(2) 産業別(職業別)最低賃金のあり方
 公正競争ケースは廃止し、労働協約ケースについては、最低賃金法上の制度として存続させることを前提に、より有効に機能させるための見直しを行うべきであるとの意見。
 また、労働協約ケースを存続させる場合は、大くくりの産業について設定するものに改め、基幹的労働者の定義についても産業を代表するような職務に就く労働者に限定するようなものに改めるべきであるとの意見。
 これに対して、産業別最低賃金は廃止すべきであるとの意見。
 なお、産業別最低賃金を廃止する場合でも、最低賃金制度としてではなく、産業を代表する職種ごとに公正な賃金を決定するための制度としてより有効に機能するよう国の関与を含め必要となる措置を講じるべきとの意見。
 いずれにしても、現行の産業別最低賃金については、最低賃金制度としては、一般的最低賃金としての地域別最低賃金と比べてその存在意義が薄い上、公正な賃金の決定という本来の役割を果たし得なくなっていることから、その廃止を含め抜本的な見直しを行う必要がある。
(3) 審議会方式と労働協約拡張方式、国の関与のあり方
 最低賃金法第11条の労働協約の拡張適用による最低賃金は、廃止しても差し支えない。
 労働協約を基本とする方式については、最低賃金制度の中で生かすとしても、審議会の意見を聴いて行政機関が決定するシステムを採用してもよく、また、その方が労使交渉、労使自治の補完、促進という趣旨に沿うとの意見。
 労働協約を基本とする方式については、公正な賃金の決定のための制度として機能させるとしても、国が罰則をもってその履行を担保する必要性はない。

 2 安全網としての最低賃金のあり方
(1) 決定基準のあり方
 地域別最低賃金の決定に当たっては、様々な要素を今まで以上に総合的に勘案すべき。
 「類似の労働者の賃金」については、低賃金労働者の賃金水準のみでなく一般労働者の賃金水準も重視することが考えられるとの意見。
 「支払能力」については、個別企業の支払能力でなく生産性の水準や雇用の確保等といった趣旨が含まれることを明確化することが必要との意見。
(2) 水準及びその考慮要素のあり方
 地域別最低賃金の水準については、安全網として適切な機能を果たすにふさわしい水準とすることが必要。
 地域別最低賃金については、安全網本来の役割を考え、適切に機能するように絶対的水準についても議論すべきとの意見。
 これに対して、最低賃金は、団体交渉を補完するものとして、労使を含む審議会の審議を経て決定されるものであるから、引上げという手法の枠内でも一定の改善は可能との意見。
 地域別最低賃金の水準と地域の一般的賃金水準や低賃金労働者の賃金水準との関係が、地域的整合性を保ちつつ経年的にある程度安定的に推移するようにするために、一定の見直しが必要。
 最低賃金の水準は生活保護の水準に直接リンクして決定することは必ずしも適当でない。しかしながら、単身者について、少なくとも実質的にみて生活保護の水準を下回らないようにすることが必要。
 また、生活保護との比較に当たっては、技術的検討が必要との意見。
 なお、生活保護については、より「自立しやすい制度へ」という方向での検討が必要との意見。
(3) 減額措置及び適用除外のあり方
 地域別最低賃金について、一定の年齢区分の者等を対象に減額措置を採用することが考えられるとの意見。なお、現行の地域別最低賃金の水準のままで減額措置を採用することは適当ではないとの意見。
(4) 履行確保のあり方
 地域別最低賃金に係る最低賃金法第5条第1項違反の罰則(2万円)については、引き上げるべき。

 3 その他
(1) 最低賃金の設定単位のあり方
 地域別最低賃金の設定単位については、より労働市場の実情等を反映した単位で設定する方向で検討する必要があるとの意見。
(2) 就業形態の多様化に対応した最低賃金の適用のあり方
 派遣労働者に対する最低賃金の適用については、派遣先の地域別(産業別(職業別))最低賃金を適用。
 最低賃金の表示単位については、法律上も時間額に一本化。

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