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中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告

平成16年7月16日

 はじめに
 平成16年度の地域別最低賃金額改定の目安については、累次にわたり会議を開催し、目安額の提示の是非やその根拠等についてそれぞれ真摯な論議が展開されるなど、十分審議を尽くしたところである。

 労働者側見解
 労働者側委員は、現下の経済情勢について景気や企業業績の回復が明確になってきていることを今年の目安審議の共通の土俵とすべきであり、景気回復の流れを勤労者の所得改善・生活改善に結びつける政策対応が肝要であると主張した。
 2004年5月の完全失業率は4.6%とやや低下してはいるものの、雇用環境は依然として厳しい状況が続いており、そのなかで、非典型労働者に対する公正な処遇が担保されないまま雇用形態の多様化が進んでいるため、賃金・所得格差の拡大に結びつき、経済的に自立することができない人が多くなっており、従来にも増してセーフティネットとしての最低賃金の役割が重要になってきていることを指摘した。
 現在の最低賃金時間額の全国加重平均は664円であり、若年単身労働者の必要最低生活費を大きく下回っており、パート・アルバイト賃金や初任賃金と比べても遥かに低い実態にあるが、こうした実勢賃金がいずれも上昇傾向にある今日の状況を踏まえれば、制度の実効性を確保するうえで、最低賃金の確実な引上げが必要、また、春闘における賃金引上げ額は明らかに上昇傾向にあり、これを最低賃金に反映させる必要があると主張した。
 賃金改定状況調査結果の第4表については、労働者構成の変化によって平均賃金が低下している点を指摘した上で、そういう状況も勘案すべきと主張した。また、最低賃金を引き上げることが、直接、全体の賃金コストの上昇に結びつくわけではなく、水準改善のためにも引上げ額の目安を示すべきであると主張した。
 加えて、わが国における最低賃金の影響率は諸外国に比べかなり低い実態にあり、最低賃金に関する基礎調査で推移をみると1990年の4.5%から2003年の1.6%と大きな低下を示しているが、こうした影響率低下の要因は、最低賃金が引き上げられてこなかったことによるものであり、最低賃金を存在感のあるレベルに改善すべきと主張した。
 以上の点を踏まえれば、過去2年間と明らかに異なる対応が求められており、存在感の持てる最低賃金とするため、生計費・各種賃金指標の現行水準や変化の動向を踏まえつつ、明確な水準の改善に寄与する目安提示が必要であると最後まで強く主張した。

 使用者側見解
 使用者側委員は、現下の経済情勢について先行きに明るさが見え始めていると言われているものの、地域、業種等によって大きく差がみられ、大部分の地域や中小・零細企業はより厳しい状況が続いているとし、また、為替や金利の動向、原油など国際商品市況の高騰など先行きに不透明な要素を多く抱えており、一部の良いところだけでなく、悪化しているところにも目を向けるべきであると主張した。
 昨年度の各経済指標をみると、回復基調にはあるが、安定感のある回復・成長とはいえず、依然として予断をゆるさない状況にあるとした。物価については、今年に入って国内企業物価が上昇傾向を示している反面、消費者物価は引き続き下落傾向を示しているが、これは石油、非鉄、鉄鋼などの原材料価格の上昇を、企業が生産性を向上させるなどして内部で処理し、最終財への価格転嫁を回避する努力をしていることの現れであると指摘した。
 業況判断DIについては、中小企業では、製造業では回復傾向にあるものの、非製造業では依然として厳しい状況が続いていることを指摘した。中小企業の賃金交渉については、日本経団連の調査において、7月7日現在でアップ率は1.44%(433社)となっており、昨年の結果とほぼ横ばいで推移しており、初任給についてみると、大手企業では凍結した企業がほとんどであり、平成14年以降、伸び率が0.0%となっていることを指摘した。
 加えて、賃金改定状況調査について、第1表の凍結・引下げ事業所が約6割に達していること、および第4表がマイナスの結果であったことにふれ、厳しい情勢を反映したものであり真摯に受け止めるべきであると主張した。
 以上のことを総合的に判断し、経済状況の厳しい地域に配慮し、さらに、中小・零細企業の存続と雇用維持を第一に考えると、据え置きに留まらず、引下げの目安を出すことも念頭において真摯に議論をする必要があると最後まで強く主張した。

 意見の不一致
 本小委員会としては、これらの意見を踏まえ目安を取りまとめるべく努めたところであるが、労使の意見の隔たりが大きく、遺憾ながら目安を定めるに至らなかった。

 公益委員見解及びこれに対する労使の意見
 公益委員としては、地方最低賃金審議会における円滑な審議に資するため、賃金改定状況調査結果を重要な参考資料として目安額を決定するというこれまでの考え方を基本としつつ、上記の労使の小規模企業の経営実態等の配慮及びそこに働く労働者の労働条件の改善の必要性に関する意見等にも表われた諸般の事情を総合的に勘案し、公益委員による見解を下記1のとおり取りまとめ、本小委員会としては、これを公益委員見解として地方最低賃金審議会に示すよう総会に報告することとした。
 また、同審議会の自主性発揮及び審議の際の留意点に関し、下記2のとおり示し、併せて総会に報告することとした。
 なお、下記1の公益委員見解については、労使双方ともそれぞれ主張と離れた内容となっているとし、不満の意を表明した。




平成16年度地域別最低賃金額改定の目安に関する公益委員見解


(1) 平成16年度地域別最低賃金額については、現行水準の維持を基本として引上げ額の目安は示さないことが適当との結論を下すに至った。

(2) 目安小委員会審議の中で、賃金改定状況調査結果の「第4表 賃金の上昇率」が、パートタイム労働者比率の増加のため押し下げられていることをどのように勘案するかを巡り、労使の意見が分かれた。パートタイム労働者比率の増加等の就業構造の変化を踏まえるならば、平成7年の目安制度のあり方に関する全員協議会で合意された現在の計算方法は限界にきており、見直しが急務となっている。この問題は、昨年10月に設置された目安制度のあり方に関する全員協議会の場で検討されているところであり、同協議会の場で年内に結論を得ることが必要である。

(1) 目安小委員会は本年の目安の審議に当たっては、平成12年12月15日に中央最低賃金審議会において了承された「中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会報告」を踏まえ、特に地方最低賃金審議会における合理的な自主性発揮が確保できるよう整備充実に努めてきた資料を基に審議してきたところである。
 目安小委員会の公益委員としては、地方最低賃金審議会においては最低賃金の審議に際し、上記資料を活用されることを希望する。

(2) 目安小委員会の公益委員としては、中央最低賃金審議会が本年度の地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることを要望する。

(3) 地方最低賃金審議会での審議に当たっては、わが国の景気が回復基調にあることを踏まえ、地域の経済実態を考慮しつつ、自主性を十分に発揮されることを希望する。


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