厚生労働省

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「食を通じた子どもの健全育成(−いわゆる「食育」の視点から−)の
あり方に関する検討会」報告書について


 近年、子どもの食をめぐっては、発育・発達の重要な時期にありながら、栄養素摂取の偏り、朝食の欠食、小児期における肥満の増加、思春期におけるやせの増加など、問題は多様化、深刻化し、生涯にわたる健康への影響が懸念されている。
 また、親の世代においても食事づくりに関する必要な知識や技術を十分有していないとの報告がみられ、親子のコミュニケーションの場となる食卓において家族そろって食事をする機会も減少している状況にある。
 これらの問題に対応するため、食を通じて、親子や家族との関わり、仲間や地域との関わりを深め、子どもの健やかな心と身体の発達を促すことをねらいとし、家庭や社会の中で、子ども一人ひとりの"食べる力"を豊かに育むための支援づくりを進める必要があることから、学識経験者や子どもの食に関わる実践者等に参集を求め、食を通じた子どもの健全育成のあり方について検討を行うこととし、昨年6月より7回にわたり検討を重ね、2月19日に報告書として「楽しく食べる子どもに〜食からはじまる健やかガイド」が取りまとめられたところである。

 なお、報告書の啓発・普及にあたり、本検討会では、下記の2つのリーフレットについても議論を進め、作成した。
(1)乳幼児の保護者向け−「楽しく食べる子どもに 食から★はじまる★健やかガイド」(PDF 2,395KB)(毎日の生活のなかで、子どもの気づきを大切にし、どのように支援したらよいかをまとめたもの。)
(2)小学校高学年から中学生向け−「成長曲線を描いてみましょう」(PDF 815KB)
(子ども自身が成長曲線を描くことで自分の成長を知り、自分の身体を大切にする力を育むとともに、肥満や思春期やせ症の早期発見に役立てるもの。)



照会先: 雇用均等・児童家庭局母子保健課
河野(7934) 片寄(7936)



〈報告書〉

※報告書の全文についてはこちら

1 子どもの食をめぐる現状と課題

1)子どもの変化

◆小児期における肥満の増加と思春期やせの発現
 6〜14歳における肥満の割合について、1976年から2000年までの年次推移をみると、男女とも、9〜11歳でその増加が大きく、1996−2000年では、男子で15.0%、女子で12.2%となっています。他の年齢においても、肥満の割合は8〜10%みられます(図1)。また、12歳の男子において肥満の程度別に総コレステロール値や血圧の状況の関連をみた調査結果では、肥満群では正常群に比べいずれも高値を示しているという報告1)もあります。

図1 肥満の年次推移(6〜14歳)

肥満の年次推移(6〜14歳)の図

(「日比式による標準体重20%以上」を肥満とした)
  資料:厚生労働省「国民栄養調査」

 一方、「健やか親子21」という21世紀の母子保健分野の主要な取組を示した計画の中には、指標のひとつとして「15歳の女性の思春期やせ症の発生頻度」が盛り込まれています。平成14年度に全国規模の調査が行われましたが、中学1年から高校3年までの思春期やせ症の発症率は2.3%、さらに、成長曲線を一定の基準以上に外れるような急激なやせ方をしている「不健康やせ」の割合が中学3年で5.5%、高校3年で13.4%みられました2)。心の問題と密接に関連した健康課題の1つであり、骨量の減少や不妊といった将来的な健康に深刻な影響をもたらすことも懸念されます。
 また、自分の体型に対して、"やせたい"とする者の割合は女子で高く、小学校5,6年生で約5割、高校生では約9割にのぼり、高校生ではこのうち半数が"かなりやせたい"と回答しており、痩身願望が強い傾向もうかがえます3)


 特に、15-19歳の女子では、平成10年と平成14年を比較すると、体型に対する自己評価について、現実の体重が「普通」「低体重(やせ)」でありながら「太っている」と評価する者が増加しています(図2)。また、「太っている」と評価する理由については、「他人と比べて」が65.8%と高率を占めています。
図2 現実の体型別 体型に対する自己評価
(15-19歳女性)
現実の体型別 体型に対する自己評価の図
資料:厚生労働省「国民栄養調査」

◆幼児期にもみられる朝食の欠食

 朝食の状況については、1〜6歳においても"週に1〜2回しか食べない"子どもが2%前後みられます(表1)。"週に1〜2回ぬく""週に3〜4回ぬく"をあわせると10%前後になり、朝食の欠食の問題も低年齢化しています。

表1 幼児の朝食の喫食状況
  1歳 2歳 3歳 4歳 5−6歳
毎日食べる 89.3 85.0 83.6 87.8 89.6
週に1〜2回ぬく 6.3 10.5 10.3 7.2 6.9
週に3〜4回ぬく 0.4 1.0 1.5 0.6 0.7
週に1〜2回しか食べない 1.6 2.0 2.0 2.2 1.6
その他 2.3 1.3 2.1 1.9 1.0
無記入・不明 0.1 0.2 0.6 0.2 0.2
資料:(社)日本小児保健協会「平成12年幼児健康度調査」

 小学生及び中学生において、平成7年と12年を比較してみると、"必ず食べる"生徒の割合が若干減少し、"ほとんど食べない"生徒の割合が増加しています。中学生では"ほとんど食べない"生徒が男女ともに5%みられます4)

◆増える通塾率

 小、中学生の通塾率の推移をみると、いずれの学年においても増加しています。また学年が上がるにつれ通塾率は高くなり、小学6年生で4割、中学3年生では7割近くを占めています5)。学校以外での子どもの活動が増え、夕食も含め、食事リズムや生活リズムを規則的にすることがますます難しくなってきています。

2)親、親子のかかわり、家庭の変化
◆家族揃って夕食をとる頻度の減少

 家族揃って夕食をとる頻度について、昭和61年から平成13年までの年次推移をみると、"毎日食べる"、"週4日以上食べる"が減少しており、家族揃って夕食を食べる機会は減少しています(図3)。また、子どもがひとりだけで食べる、いわゆる孤食も増えています7)。社会環境やライフスタイルの変化にともない、家族揃って食べる機会が少なくなっているからこそ、家族揃って食べる貴重な機会をどう活かすか、その質のあり方がいっそう重要になってきます。

図3 家族揃って夕食をとる頻度

家族揃って夕食をとる頻度の図

資料:厚生労働省「児童環境調査」

◆育児の負担感の増大

 ゆっくり子どもと過ごせる時間がある母親の割合について、平成2年と平成 12年を比較してみると、その割合は減少しています(図4)。また、"子育てに困難を感じる"、あるいは"子どもを虐待しているのではないかと思う"と回答する者も2〜3割みられます7)。一方、子どもの食事で困っていると回答する者も増え、その内容としては遊び食いやむら食い、偏食などがみられます8)

図4 ゆっくり子どもと過ごせる時間がある母親の割合

ゆっくり子どもと過ごせる時間がある母親の割合の図

資料:(社)日本小児保健協会「幼児健康度調査」

◆食に関する知識や技術の不足

 子どもの親世代である大人について、適切な食品選択や食事の準備のために必要な知識、技術について尋ねたところ、"まったくない"、"あまりない"と回答する者が、20歳代及び30歳代の男性で7割、女性で約5割みられます(図5)。生活技術としての食を営む力を誰がどう伝えていくのかは、これからの大きな課題です。

図5 適切な食品選択や食事の準備のために必要な知識

適切な食品選択や食事の準備のために必要な知識の図

資料:厚生労働省「平成11年国民栄養調査」


3)食をとりまく環境
◆市販の離乳食や調理済み食品等の利用状況の増加

 市販の離乳食の利用状況について、平成2年と平成12年を比較してみると、"よく利用した"という回答が16.7%から30.0%に増加し、あまり使わなかったという回答が37.6%から24.7%に減少しています(図6)。

図6 市販の離乳食の利用状況  (回答:1歳児の保護者)

市販の離乳食の利用状況の図

資料:(社)日本小児保健協会「幼児健康度調査」

 小学生及び中学生のいる家庭での調理済みの食品、インスタント食品の使用状況について、平成7年と平成12年を比較してみると、小学生のいる家庭の場合、"週に1〜3日程度"という回答が34.7%から42.5%、中学生のいる家庭でも、"週に1〜3日程度"という回答が33.6%から43.1%に増加しています9)
 このように、食品加工技術の進展や流通の多様化などによって食をとりまく環境は変化し、乳幼児期から家庭内での食事の仕方にも変化がみられます。

◆栄養や食事に関する情報源として高率を占める"テレビ・ラジオ"
 栄養や食事に関する知識や情報の入手先については、"テレビ・ラジオ"が最も高く、次いで"雑誌・本""家族"となっています。特に"テレビ・ラジオ"については、平成6年の59.7%から平成12年では66.8%に増加しています(図7)。

図7 栄養や食事に関する知識や情報の入手先

栄養や食事に関する知識や情報の入手先の図

注)平成6年の選択肢:「雑誌・本」→「雑誌」,「友人・知人」→「友人」。

資料:厚生労働省「国民栄養調査」

 また、小学生がお菓子を買う時の情報の入手先については、"テレビコマーシャル"が最も高く、次いで"友だち"になっています10)
 子どもの頃からマスメディアをはじめとする情報源から数多くの食に関する情報を得ていることになり、自分にあった適切な情報を選択する力が求められます。

 〈参考文献〉
 1) 村田光範:教育講演10「小児期・思春期の肥満症」,肥満研究,vol.18(supplement)P.59(2002)
 2) 渡辺久子(主任研究者):平成14年度厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究)「思春期やせ症の実態把握及び対策に関する研究」
 3) (財)日本学校保健会:「平成12年度児童生徒の健康状態サーベランス事業報告書」
 4) 日本体育・学校保健センター「児童生徒の食生活等実態調査」(平成7年、12年)
 5) 文部科学省:「児童・生徒の学校外学習活動に関する実態調査」(昭和51年、60年)、「学習塾等に関する実態調査」(平成5年)
 6) 厚生労働省:「平成5年国民栄養調査」
 7) (社)日本小児保健協会:「平成12年度幼児健康度調査」
 8) 厚生労働省:「平成7年度乳幼児栄養調査」
 9) 日本体育・学校保健センター:「児童生徒の食生活等実態調査」(平成7年、12年)
 10) 学習研究社:「学研版〈小学生白書〉2001-2002年小学生まるごとデータ」(2002)



2 食を通じた子どもの健全育成のねらい及び目標

1)食を通じた子どもの健全育成のねらい
 現在をいきいきと生き、かつ生涯にわたって健康で質の高い生活を送る基本としての食を営む力を育てるとともに、それを支援する環境づくりを進めること。

 食べることは生きるための基本であり、子どもの健やかな心と身体の発達に欠かせないものです。
 子どもの健やかな心と身体を育むためには、「なにを」「どれだけ」食べるかということとともに、「いつ」「どこで」「誰と」「どのように」食べるかということが、重要になります。人との関わりも含め、これらのほどよいバランスが、心地よい食卓を作り出し、心の安定をもたらし、健康な食習慣の基礎になっていきます。またそうした安定した状態の中で、食べるという自分の欲求に基づき行動しその結果から学ぶ自発的体験を繰り返し行うことで、子どもの主体性が育くまれることにもなります。
 乳幼児期から、発育・発達段階に応じた豊かな食の体験を積み重ねていくことによって、生涯にわたって健康でいきいきとした生活を送る基本としての食を営む力が育まれていきます。
 また、食べることは、すべての子どもが、家庭、保育所、幼稚園、学校、地域等さまざまな環境との関わりの中で、毎日行う営みです。すべての子どもが、豊かな食の体験を積み重ねていくことができるように、個々の場での取組を充実させていくとともに、関連する機関が連携して、子どもの成長に応じた取組を推進していく必要があります。

2)食を通じた子どもの健全育成の目標

食を通じた子どもの健全育成の目標の図

 子どもは発育・発達の過程にあり、日々成長し、その生活や行動も変化していきます。一方、「食」は、味わって食べたり、食事を作ったり準備をしたり、その中で人と関わったり、食に関する情報を得て利用したりと、さまざまな行動の組み合わせによって営まれるものであり、食べ物や料理は、生産・流通・調理のさまざまな過程を経て、食卓にのぼるのであり、地域や季節によっても異なるといったように、実に多様な広がりをもっています。
 したがって、「食を通じた子どもの健全育成」は、子どもが、広がりをもった「食」に関わりながら成長し、「楽しく食べる子ども」になっていくことを目指します。
 楽しく食べることは、生活の質(QOL)の向上につながるものであり、身体的、精神的、社会的健康につながるものです。また、子どもにおいて、食事の楽しさは、食欲や健康状態、食事内容、一緒に食べる人、食事の手伝いといったことと関連しており、食生活全体の良好な状態を示す指標の1つと考えられます1)

 「楽しく食べる子ども」に成長していくために、具体的に下記の5つの子どもの姿を目標とします。
食事のリズムがもてる子どもになるには、空腹感や食欲を感じ、それを適切に満たす心地よさを経験することが重要です。生活全体との関わりが大きいので、家庭、保育所、幼稚園、学校、塾など、子どもが食事時間を過ごしたり、その可能性のある機関が連携して環境を整える必要あります。
食事を味わって食べる子どもになるには、離乳期からいろいろな食品に親しみ、見て、触って、自分で食べようとする意欲を大切に、味覚など五感を使っておいしさの発見を繰り返す経験が重要です。
一緒に食べたい人がいる子どもになるには、家族や仲間などとの和やかな食事を経験することにより、安心感や信頼感を深めていくことが重要です。安心感や信頼感をもつことで、人や社会との関わりを広げていくことができます。
食事づくりや準備に関わる子どもになるには、子どもの周りに食事づくりに関わる魅力的な活動を増やし、ときには家族や仲間のために作ったり準備したりすることで満足感や達成感を得る経験も必要です。
食生活や健康に主体的に関わる子どもになるには、幼児期から食事づくりや食事場面だけでなく、遊びや絵本などを通して食べ物や身体のことを話題にする経験を増やし、思春期には自分の身体や健康を大切にする態度を身につけ、食に関する活動への参加など情報のアンテナを社会に広げるようにします。
 これらの目標とする子どもの姿は、それぞれに独立したものではなく、関連しあうものであり、それらが統合されて一人の子どもとして成長していくことを目標とします。

  〈参考文献〉
  1) 足立己幸(主任研究者):平成14年度児童環境づくり等総合研究事業報告書「地域で支える児童参加型食育プログラムの開発に関する報告書」p.7-17


3 食を通じた子どもの健全育成からみた発育・発達過程に関わる特徴

 食を通じた子どもの健全育成の観点からは、食行動の発達だけではなく、身体的・精神的・社会的発達を含め、子どもを統合的にとらえていくことが必要となります。また、授乳期から思春期にかけて、それらがどう変化していくのか、子どもの成長を見通して、その特徴を踏まえた食に関する取組を進めていくことが求められます。
 目標とする「楽しく食べる子ども」とは、下図のように、「心と身体の健康」を保ち、「人との関わり」を通して社会的健康を培いながら、「食の文化と環境」との関わりのなかで、いきいきとした生活を送るために必要な「食のスキル」を身につけていく子どもの姿です。

食を通じた子どもの健全育成からみた発育・発達過程に関わる特徴の図

 したがって、発育・発達過程における特徴については、さまざまな側面から多くの要素があげられますが、ここでは、「食を営む力」を育てるために、特に配慮すべき側面として、「心と身体の健康」「人との関わり」「食のスキル」「食の文化と環境」に注目しました。それぞれの側面における発育・発達過程に関わる主な特徴についてまとめたのが、表2です。乳児期(授乳期・離乳期)から思春期にかけて、その特徴がわかるように示していますが、その一つひとつの内容や位置関係は確定的なものではなく、あくまでも目安の1つとなるものです。特に、学童期と思春期については、身長成長速度が最大になる時期が早くなっていること、その個人差も大きいことなどから、その区分を明確にすることは困難です。このため表2では学童期を括弧で示しています。

1) 心と身体の健康
 子どもの発育・発達過程において、心と身体の健康な状態を確保することは基本です。
 乳児期には、身体発育や視覚、聴覚などの感覚機能の発達が著しく、脳・神経系の急速な発達がみられます。これらの発達は、周りの大人とのあたたかく豊かな相互応答的な関係の中で順調に促され、その中で安心感・基本的信頼感を育んでいきます。
 生命を維持し、生活の安定を図るためには、一人ひとりの子どもの生活のリズムを重視して、食欲などの生理的欲求を満たすことが重要になります。また、離乳完了期頃には、午後の睡眠が1回程度となり、睡眠、食事、遊びなど活動にメリハリが出てきます。この時期に、十分に遊び、1日3回の食事と間食(2回程度)を規則的にする環境を整えることで、おなかがすくリズムを経験することができ、それを繰り返していくことで生活リズムが形成されていきます。
 乳児期から幼児期にかけては、さまざまな食べ物を味わうことによって味覚や、咀嚼機能が発達します。また、歩き始め、言葉を話すようになり、周囲の事物に対する好奇心が強くなっていきます。
 思春期には、身長成長速度が最大となり、生殖機能の発達もみられ、精神的な不安や動揺が起こりやすい時期です。特に、身長成長速度が最大となる年齢について、ここ40年の推移をみてみると、男女ともに若年齢化の傾向にあり、成長促進現象発来年齢(思春期の開始年齢)は男子で9.89歳、女子で8.23歳となっています1)。学童期の後半は思春期に該当することになります。
 特に、心の健康のためには、安心感や基本的信頼感のもとに、できることを増やし、達成感や満足感を味わいながら、自分への自信を高めていくことが重要となります。

2)人との関わり
 子どもの発達は、子どもと環境との相互作用を通して進み、環境の中でも最も重要なのが、「人との関わり」です。
 人との関わりによって、安心感や信頼感が育まれ、それによって関係性が拡大し、深化していきます。親子、兄弟姉妹といった家族関係から、信頼できる大人を仲立ちとして少しずつ仲間関係が広がっていきます。学童期以降は、仲間意識がだんだん強くなり、親しい友人が重要な存在になっていきます。さらに人との関わりは、社会との関わりへと発展していきます。

3)食のスキル
 「食のスキル」は、食を営むのに必要な能力のことです。それは食べ方や食事づくりの技術だけではなく、食情報への対処のしかた、自分にあった適切な食べ物の選択、一緒に食べる人への気遣いなど、食事全体を構想し、実践できる力のことです。
 授乳期には哺乳によって必要な栄養量を確保し、離乳期には、離乳食を通して舌や歯茎で食べるなど咀嚼機能の発達を促しながら、固形食へと移行していきます。また、手づかみで食べることによって、手指と口の動きの協調運動を獲得して、スプーンやフォーク、箸など食具を使って食べることへと進んでいきます。周りの大人の食べ方も見て、模倣していきます。
 授乳期には、空腹感を"泣く"ことで表出し、おなかいっぱい飲んで空腹感を満たします。これが食欲を育む原点となります。離乳期や幼児期においても、用意された食事の中から、自分で食べる量を確認し調節していくことで、空腹感を満たす量やその心地よさを体感していきます。
 学童期以降は、さまざまな学習を通して、栄養バランスや食材から調理、食卓までのプロセスなど食に関する幅広い知識を習得し、理解を深めていきます。自分の周りに数多く存在する食べ物や食に関する情報から、自分にふさわしいものを自分で選んで生活していくことが必要になってきます。

4)食の文化と環境
 食べ物は、自然の中で生育した生物を収穫し、より食べやすく、おいしく、扱いやすく、保存しやすいように加工して流通され、調理され、食事として整えられ、食べられています。「自然・地域」、「生物」、「食べ物」、「人間」、これらの広く深い関わりが、「食の文化と環境」です。
 咀嚼機能や手指の運動機能が発達し大人の介助がなくても一人で食べられるようになると、食事にあった食べ方や食具の使い方を身につけながら、人と気持ちよく食事をするためのマナーを獲得していきます。
 また、食べ物が自然の中で生育してきたものであることを知り、食べ物がどこで作られ、どのように加工され、店頭に並び、食卓にのぼるのかということにも関心をもち、理解していきます。そうして、生産物や食文化への関心も、自分が生活している身近な地域から、他の地域や外国へと広がっていきます。
 生活や行動の範囲が拡大し、そこで出会う食べ物や食に関する情報も広がっていくとともに、関心のある食べ物や情報を自ら収集し、利用したり、それを誰かに伝えたりと、その関わりも積極化していきます。

〈参考文献〉
1)資料:村田光範,伊藤けい子「学齢期小児の適正体格について」Auxology(成長学),9:90-91 (2003)


4 発育・発達過程に応じて育てたい"食べる力"

 子どもは、発育・発達過程にあり、授乳期から毎日「食」に関わっています。「食を営む力」を育むために、表2の発育・発達過程に関わる主な特徴に応じて、具体的にどのような"食べる力"を育んでいけばよいのか、表3にまとめました。
 「食事のリズムがもてる」「食事を味わって食べる」「一緒に食べたい人がいる」「食事づくりや準備に関わる」「食生活や健康に主体的に関わる」子どもの姿を目標として、具体的な内容がわかるように示していますが、ここで示した一つひとつの内容や位置関係は確定的なものではなく、あくまでも1つの目安となるものです。また、一つひとつの"食べる力"は、他の"食べる力"と関連しながら育まれていくものです。関連性を示すためにいくつかの線で結ばれていますが、現実にはもっと多くの線が複雑に引かれるはずであり、さまざまな"食べる力"が重なり合って「食を営む力」を形成していきます。

1) 授乳期・離乳期

 授乳期・離乳期には、安心と安らぎの中で母乳(ミルク)を飲み、離乳食を食べる経験を通して、食欲や食べる意欲という一生を通じての食べることの基礎を作ります。
 授乳期には、母乳(ミルク)を、目と目を合わせ優しい声かけと温もりを通してゆったりと飲むことで、心の安定がもたらされ、食欲が育まれていきます。
 離乳期には、離乳食を通して、少しずつ食べ物に親しみながら、咀嚼と嚥下を体験していきます。おいしく食べた満足感に共感することで、食べる意欲が育まれていきます。離乳期も後期になると、自分でつかんで食べたいという意欲が芽生え、手づかみで食べ始めます。「手づかみ食べ」は、食べ物を目で確かめて、物をつかんで、口まで運び、口に入れるという行動の発達です。それを繰り返すうちに、スプーンや食器にも関心をもちはじめます。いろいろな食べ物を見る、触る、味わう体験を通して、自分で進んで食べようとする力を育んでいきます。
授乳期・離乳期−安心と安らぎの中で食べる意欲の基礎づくり−
安心と安らぎの中で母乳(ミルク)を飲む心地よさを味わう
いろいろな食べ物を見て、触って、味わって、自分で進んで食べようとする

2) 幼児

 幼児期には、睡眠、食事、遊びといった活動にメリハリが出てくるので、一生を通じての食事リズムの基礎を作る重要な時期になります。また、活動範囲が少しずつ広がり、好奇心も強くなってくるので、食への興味や関心がもてるように、食べる意欲を大切にして、食の体験を広げていきます。
 「おなかがすいた」感覚をもつには、十分に遊び、食事を規則的にとることのできる生活環境が必要です。この時期にこの感覚を繰り返し体験することで、生活リズムが作られていきます。
 また、この時期には食べ慣れないものや嫌いなものも出てきます。簡単な調理を手伝ったり、栽培や収穫に関わったりするなど、さまざまな食べ物に子ども自身が意欲的に関わる体験を通して、子どもの食べたいもの、好きなものは増えていきます。また、食べる量は、その日の活動量によっても異なるので、十分に遊ぶなど充実した生活を送り、用意された食事の中から、子ども自身が食べる量を加減して食べてみることで、ちょうどよい量がわかるようになります。
 家族や仲間と一緒に食べる楽しさを味わうことは、身近な人との基本的信頼感を確認していくことになります。安心感や信頼感は、子どもが体験を広げていく基盤になるものです。
 栽培、収穫、調理を通して身近な食材に触れることは、食べ物が自然の恵みからできた生物であることを実感することになり、行事食や郷土食を取り入れることは、食文化に触れることになり、食べ物への関心は広がっていきます。料理づくりには、味、色、香り、音など、子どもの好奇心を刺激する発見や驚きがあります。
 さらに、買い物や食事場面で食材や食べ方について話題にしたり、遊んだり、本を見たりする場面でも、食べ物や身体のことを話題にしたりする体験を通して、子ども自身が情報の発信者になることもでき、食べ物への関心は深まっていきます。
幼児期−食べる意欲を大切に、食の体験を広げよう−
おなかがすくリズムがもてる
食べたいもの、好きなものが増える
家族や仲間と一緒に食べる楽しさを味わう
栽培、収穫、調理を通して、食べ物に触れはじめる
食べ物や身体のことを話題にする

3) 学童期〜思春期

 学童期、思春期には、さまざまな学習を通して、栄養バランスや食料の生産・流通から食卓までのプロセスなど、食に関する幅広い知識を習得していきます。健康や福祉、環境問題や国際理解など、多くの課題との関連のなかで、食の広がりについて学んでいきます。
 学童期には、体験学習や食に関わる活動を通して、食べてみたい、作ってみたい、もっと知りたい、そして誰かに伝えたいといったように、食への興味や関心が深まり、自分が理解したことを積極的に試してみようとする力が育っていきます。また、食を通じた家族や仲間との関わりとともに、地域や暮らしのつながりのなかで、食の楽しさを実感することにより、食を楽しむ心が育ち、食の世界が広がっていきます。
 さらに、思春期には、習得した知識を応用して自分の健康や食生活に関する課題を見つけ、実践し、自ら評価することにより、自分らしい食生活の実現を図っていきます。社会の一員として人のために役立つ活動や一緒に食べる人への気遣いなど、周りの人と関わり、食の文化や環境に積極的に関わることが楽しいと感じるようになります。
 また、この時期には、肥満ややせといった将来の健康に影響を及ぼすような健康課題もみられるので、自分の食生活を振り返り、評価し、改善できる力や、自分の身体の成長や体調の変化を知り自分の身体を大切にできる力を育みます。
学童期−食の体験を深め、食の世界を広げよう−
1日3回の食事や間食のリズムがもてる
食事のバランスや適量がわかる
家族や仲間と一緒に食事づくりや準備を楽しむ
自然と食べ物との関わり、地域と食べ物との関わりに関心をもつ
自分の食生活を振り返り、評価し、改善できる

思春期−自分らしい食生活を実現し、健やかな食文化の担い手になろう−
食べたい食事のイメージを描き、それを実現できる
一緒に食べる人を気遣い、楽しく食べることができる
食料の生産・流通から食卓までのプロセスがわかる
自分の身体の成長や体調の変化を知り、自分の身体を大切にできる
食に関わる活動を計画したり、積極的に参加したりすることができる


5 "食べる力"を育むための環境づくり

 子どもが成長していく過程で、子どもの食に関わる人々や関係機関・団体は数多く存在します。子どもの"食べる力"を育んでいくためには、その発達を支援していく環境づくりが必要です(図8)。

 すでに、保育所、学校、保健機関など地域で、子どもの食についてはさまざまな取組がなされています。食は広がりのある分野ですから、さまざまな取組が、重なり合い、補い合うことによって、その広い食の世界を子どもが体験し、食への興味・関心を高めることができます。
 しかしながら、特定の人々、特定の機関だけが取り組んでも、すべての子どもに豊かな食の体験の場を提供することはできません。継続的に、より広がりのある活動として進めていくためには、地域の中で連携を図って進めていくことが求められます。

 連携を進めていく上では、関係機関において、それぞれどういう特徴をもった取組が進められているかを知り、お互いの活動を尊重し合い、さらに活動を深めていくことが重要です。
 また、子どもにおいては、発育・発達の過程にありますから、「食べる」という体験を繰り返しながら、食に関する「情報」を得ていくことが必要となります。図8には、「食を通じた子どもの健全育成のための環境づくりの推進」ということで、食物へのアクセス、情報へのアクセスの大きく2つの流れを示しています。家庭、保育所、学校などは、日々の「食事(給食)」を通して、「食物」と「情報」の両者の提供が進められる貴重な場ということになります。また、子どもの食べる力を育む上で最も関わりの大きい「家庭」については、子育てサークルや地域子育て支援センターなどさまざまな場において「情報」の交換が進み、保育所や保健センターなどからも役立つ「情報」が得られるなど、地域が家庭を支援していく仕組みづくりも必要となってきます。
 一人ひとりの子どもが、広がりのある食の世界と関わり、そして人との関わりを通して、食べる力を育み、健やかな心と身体を育んでいくことができるように、社会全体で取り組んでいくことが求められています。



表2 発育・発達過程に関わる主な特徴

発育・発達過程に関わる主な特徴の図



表3 発育・発達過程に応じて育てたい"食べる力"について

発育・発達過程に応じて育てたい-食べる力-についの図



食を通じた子どもの健全育成のための環境づくりの推進の図

図8 食を通じた子どもの健全育成のための環境づくりの推進



〈参考資料1〉"食べる力"を育むための具体的支援方策(例)
"食べる力"を育むための具体的支援方策(例)について
●保育所からの発信
●地域子育て支援センターからの発信
●児童館・放課後児童クラブからの発信
●学校からの発信
●児童養護施設からの発信
●地域からの発信
●研究機関からの発信
レッスンA 食べる意欲を大切に、食の体験を広げよう
レッスンB 食の体験を深め、食の世界を広げよう
レッスンC 自分ぴったりの食事−なにを、どれだけ食べたらいいの?−
レッスンD おやつのパワーってどれくらい?
レッスンE どんな食事にしようかな?−食べる人の気持ちやからだにあった食事づくり−
レッスンF 一人ひとりの子どもの変化を評価しよう
レッスンG 成長曲線を描いてみよう
レッスンH 健康的な食環境づくりをしてみよう
〈参考資料2〉行政関係資料
次世代育成支援対策推進法の概要
行動計画策定指針における「食育」の推進
健やか親子21の推進について(概要)
健康日本21 栄養・食生活分野について(概要)
食生活指針
改定「離乳の基本」
「保育所保育指針」にみる"食べる意欲を大切に、食の体験を広げる"ことにつながる主なねらい、配慮事項等
食に関する指導(文部科学省)
(参考1) 「食を通じた子どもの健全育成(−いわゆる「食育」の視点から−)のあり方に関する検討会」の開催経緯
第1回 6月19日(木) 食を通じた子どもの健全育成のねらい及び目標について
第2回 7月29日(火) 発育・発達過程における特徴について
第3回 9月 4日(木) 発育・発達に応じた“食べる力”について
第4回10月28日(火) “食べる力”を育むための具体的支援方策について
第5回11月20日(木) “食べる力”を育むための具体的支援方策について
第6回 1月 8日(木) 検討会報告書(案)について
第7回 2月19日(木) 検討会報告書とりまとめ


(参考2)

食を通じた子どもの健全育成(−いわゆる「食育」の視点から−)の
  あり方に関する検討会名簿


(敬称略、五十音順)
氏名 所属
  足立 己幸 女子栄養大学栄養学部教授
  上原 正子 愛知県教育委員会健康学習課主任主査
  岡田 加奈子 千葉大学教育学部助教授
  加藤 則子 国立保健医療科学院生涯保健部母子保健室長
  佐藤 幸也 岩手大学教育学部助教授
  星 みつる 脚本家
  御園 愛子 社会福祉法人豊福祉会みつわ台保育園長
村田 光範 和洋女子大学大学院総合生活研究科教授
  吉池 信男 独立行政法人国立健康・栄養研究所健康・栄養調査研究部長
  吉田 隆子 NPO法人こどもの森理事長
  渡辺 久子 慶應義塾大学医学部講師
    (○座長)


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