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独立行政法人国立健康・栄養研究所の
平成14年度の業務実績の評価結果



平成15年8月19日
独立行政法人評価委員会



1.平成14年度業務実績について
(1)評価の視点

 独立行政法人国立健康・栄養研究所は、厚生労働省の附属機関であった国立健康・栄養研究所が、平成13年4月から位置づけを変え、新たに独立行政法人として発足したものである。
 今年度の当研究所の業務実績の評価は、平成13年4月に厚生労働大臣が定めた中期目標(平成13年度〜17年度)の第2年度目の達成度についての評価である。  当研究所に対しては、国の附属機関から独立行政法人となった経緯をふまえ、弾力的・効果的な業務運営を通じて、業務の効率性の向上、質の向上及び透明性の向上により国民の求める成果を得ることが強く求められている。
 当委員会では、平成13年度実績の評価の過程で生じた評価作業等に係る今後の課題や政策評価・独立行政法人評価委員会から当委員会に対し提出された第1次・第2次意見(平成14年11・12月付け)等を踏まえ、従来の評価方針に次のような新たな視点を加え、評価を実施した。

 (1)  法人の社会に対する中長期的な役割に配慮して評価すること。
 (2)  法人の長のリーダーシップの発揮、独立行政法人の利点を生かしたマネジメントに留意すること。
 (3)  業務実績の目標数値がある場合にはその達成度合、定性的な目標の場合には具体的な業務実績を把握して評価すること。
 (4)  業務実績と中期計画との間に乖離が生じた場合にはその発生理由等を把握し、妥当性等について評価すること。
 (5)  予算計画等について業務ごとで計画と実績の差異がある場合にはその発生理由等を把握し、妥当性等について評価すること。
 (6)  経年比較が可能な事項については適宜その結果を参考にして評価すること。
 (7)  財務内容の評価にあたっては、法人の監事の監査報告書を参考にするとともに、必要に応じて意見を聴くこととすること。
 (8)  特に高い実績を上げた業務又は著しく実績が悪化した業務があった場合などについては、そのような業務の評価結果が人事や処遇等に適切に反映されているかなどについても考慮すること。
 (9)  中期目標期間の終了に向け、個々の業務(特に実績が悪化傾向にある業務や新規に立ち上げた業務)について、それぞれ中期的観点から法人業務全体の中でどのように扱われるべきか考慮しながら評価すること。

(2)平成14年度業務実績全般の評価
 平成14年度は、前年度以上に、独立行政法人化の利点を活用し、組織をフラット化するとともに、栄養所要量の改定や社会問題化する健康食品対策等に向けて新たな業務を機動的に立ち上げ、国際的な見地から最新の技術を導入するなど、業務全般にわたり新しい取組が積極的になされた。当研究所の設置目的を達成するために業務の中心となる調査研究業務の実績に関しては、継続中のものについて今後の成果に留意が必要であるが、個別項目に関する評価結果にも見られるように全般的にニーズを的確にとらえた効果的なものであったと評価できる。
 また、栄養改善法に基づき実施することとされている国民栄養調査の集計業務についても、調査項目が増大する中、中期目標期間中の目標であった集計の早期化に向け停滞することなく着実に前進しており、国民栄養調査結果の公表の早期化に資するものであった。
 職員のインセンティブ向上についても、所内LANを通じた個人別業績登録システムを活用した理事長面接による評価とその結果の研究費への反映、所内公募制の奨励研究制度の活用などの工夫が見られる。
 なお、財務については、中期目標に定める経費節減目標を見込んだ運営費交付金の範囲内で弾力的な予算配分を行い適宜新規事業を立ち上げるなど積極経営を行っていることは評価できるが、中長期的な観点からの財務面での見通しの検討も必要である。
 これらを踏まえると、平成14年度の業務実績については、全体としては当研究所の目的である「公衆衛生の向上及び増進」に資するものであり、適正に業務を実施したと評価できる。
 なお、中期目標に沿った具体的な評価結果の概要については、2のとおりである。個別項目に関する評価結果については、別紙として添付した。

2.具体的な評価内容
(1)業務運営の効率化について

 独立行政法人移行後の2年度目には、初年度に比べ、さらに独法化の利点を生かしたフラットな組織編成に基づく柔軟で効率的な業務運営を推進している。
 業務運営体制については、国際・産学共同研究センターの設置による成果の幅広い還元、機動的な研究推進の中軸となるプロジェクトリーダーによる行政関係者及び現場の栄養士双方との連携強化、DRIs(食事摂取基準)策定のための系統的レビュー等のニーズに応じた新規プロジェクトの構築、任期付研究員の長・短所を踏まえた採用等の有効な取組を行った。
 内部進行管理については、所内LANを通じた個人業績登録システムを構築し、これを活用して理事長自らが常勤研究員全員について面接して客観的な個人評価を行うとともに、外部審査員も交えた方式で所内公募により研究費配分を競争的に行う「創造的特別基礎奨励研究費研究」制度等を活用し、研究員のインセンティブを高めている。
 また、経費については、所内LANの活用による文書・業務用紙等の経費の削減、DRIs策定のための文献のデータベース化など研究の質の向上と矛盾しない効率化の推進など、その節減を図るとともに、外部からの競争的研究資金を前年度よりさらに多く獲得し、運営費交付金以外の収入の確保を図った。今後は、このようなシステム化の取組が、具体的に金銭面、時間面、研究の質的な面にどのように貢献しているかを示すことが課題である。
 研究施設等の利用については、当研究所が独立の建物を持たないなど制約面がある中で、市民へのプール施設の提供による健康影響調査の実施など、弾力的に運用しようとする工夫が見られる。制約条件があるため評価は難しいが、今後、ヒューマンカロリーメーターなどの主要な設備の共同利用の推進が課題である。

(2)国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上について
 (1)  調査研究に関する業務内容
 平成14年度においては、当研究所の目的である国民の健康の保持、増進に資するための調査研究等の業務を行政ニーズ及び社会ニーズに即して着実に実施し、概ね前年度以上の実績が認められる。
 社会的ニーズの把握については、意見交換会の対象をより現場に近い産業界、NPOなどにも広げ、栄養士会にも講師派遣を積極的に行うなど着実に進捗しているが、単発的な試行にとどまらず継続性に留意し、対象の拡大も検討すべきである。
 重点的調査研究については、より精度の高いエネルギー消費量等の測定・解析のため我が国初のヒューマンカロリーメーターを用いるとともに世界的な技術の進歩に合わせ二重標識水法を導入したこと、食品成分表の改定等に合わせて国民栄養調査データ処理・解析システムを充実したこと、健康食品の安全性・有効性評価などアップツーデートな調査・情報提供をしたことなど有効な取組がなされた。今後は一般消費者が身近に活用できるように成果を還元していくことが期待される。また、コンピュータシステムのセキュリティの確保については引き続き注意を払っていく必要がある。
 基盤的研究については、生活習慣病の遺伝子要因と食事・運動との関連など所内公募による将来発展性のある課題研究の推進、生活習慣改善のための自己学習システムの開発など、社会のニーズを踏まえ学術発表と社会一般への普及の双方を睨んで柔軟に取組を進めている。今後、自己学習システムの一般市民レベルへの早期普及や中長期的観点からの先見的研究への一層の取組を期待する。
 栄養改善法に基づく国民栄養調査の集計業務については、対象となる栄養素の大幅増加にかかわらず迅速なシステムの切り替えや作業効率化を行うことにより集計期間の短縮を確保し、特別用途食品の表示の許可等に係る試験及び収去食品の試験については、2月以内の処理期間達成率を昨年度より向上させ90%を超えるなど、所期の目的を十分に達成し、高く評価できる。今後も中期目標達成に向け、なお取組を継続することが期待される。
 また、新たな行政課題等に迅速に対応するため、新規に保健機能食品などについて消費者にアドバイスできるアドバイザー養成制度(NR)や健康食品に係る安全情報ネットワークシステムの構築を行うなど、積極的な取組がなされた。このような新規の取組については、独立行政法人としての機動的な対応と慎重・的確なニーズ把握及び財源の確保という双方向のトレードオフの関係に留意しつつ対応していくことが必要である。なお、具体的な評価については今後の実績を待たなければならない。
 職員の資質の向上については、全員発表を前提にした研究員向けの所内セミナーの開催に加え、事務職員についても知的財産権研修を受けさせたほか人事院主催の研修など必要な対応を行っている。
 また、外部評価委員会を設置し、研究課題はじめ業務・組織全般について年度の事前・事後に開催することにより、新規プロジェクトの立ち上げ等の業務運営の改善に反映させている。ただし、当該外部評価委員会については、独立行政法人評価委員会との役割分担を考慮し、評価の対象領域について検討するなどの配慮が必要である。

 (2)  調査研究成果の普及及び活用
 平成14年度においても、調査研究成果の普及・活用について着実に実施され、所期の目的を達成していると考えられる。
 学会発表、論文発表数等については、中期目標を大幅に上回っており、研究員一人当たりの発表数等の密度が高く、特にインパクトファクターの高い欧米誌への掲載が多いなど、水準も高い点が高く評価できる。
 インターネット等による情報の発信については、前年度と比べてホームページの内容が充実し、機関誌、マスコミ等を通じた多面的な情報発信がなされ、講演会等への講師派遣も積極的に行っている。
 講演会の開催や研究所の一般公開等については、対象者の拡大や地方での開催など工夫が見られ、中高生に対する見学機会の提供などは好事例といえる。今後は、さらなる戦略に基づく普及方策を考え、産業界、消費者団体、一般国民への普及を推進していくことが期待される。
 知的財産権の取得等については、専門家を講師に招くなどして研究員自身の意識改革を進め、実績としては出願1件を行ったが、研究分野からしてパテントの取得は難しいという制約がある。国際・産学共同研究センターの設置など積極的な取組はなされているが、知的財産権についてはまだ具体的な成果には至っていない。我が国の国際的なバーゲニングパワーとして活用できる意味からも知的財産の獲得に今後とも努力すべきである。一方、知的財産の還元という意味では、健康づくりを行っている栄養士等への技術支援・相談等にも配慮していくことが重要である。

 (3)  外部機関との協力の推進
 平成14年度においても外部機関との協力の推進を着実に実施している。
 若手研究者等の育成については、特別研究員規程の見直しにより、より現場に還元できる形での多くの若手研究者の育成が図られるようになり、大学・大学院等との連携のための制度創設を図るなど、外部に対し人材の育成や協力に努めるとともに、これが研究所自体にとっても活力源となっている点が評価できる。今後は、特別研究員の自己評価も行い、さらなる改善につなげることを期待する。
 研究協力については、アジア諸国、WHO等の国際機関などとの国際協力及び産業界との連携を重視した積極的な取組を行っている。ただし、協力件数、受託研究件数が多いため、マンパワー面で支障が出ないよう、他業務との配分等に注意する必要がある。

(3)財務内容の改善等について
 平成14年度においても独立行政法人化の利点を生かし、経費の節減を図るとともに、運営費交付金以外の収入の確保を進め、必要な人材の弾力的な採用に努めている。
 競争的研究資金、受託研究収入については、広く多領域より獲得しており、総額も前年度を大幅に上回り、運営費交付金収入の3割以上に達しており、研究の質の高さと信頼性を認知されているといえる。ただし、運営費交付金を充当する業務との人的・時間的バランスに注意し、適正な水準の把握と確保が課題である。自己収入についても、それに係る費用を適切に管理し、経費節減に取り組むことが望ましい。
 施設・設備の整備も計画通りに執行され、職員の人事についても国立公衆衛生院の組織の一部が移管されたことに伴う組織の再編成、必要に応じた任期付研究員の6人の採用等を適時に行っている。ただし、今後、任期付研究員等の採用による人材の流動化の促進については、優秀な人材を常勤として如何に確保するかという点との整合性について留意する必要がある。
 なお、国際・産学共同研究センターにかかる経費等については、目的積立金の取り崩し等による工夫をしているが、今後、このように予算と執行に乖離のある業務経費等については、予算計画に反映させ、予算と執行に継続的な乖離が生じないように配慮する必要がある。
 また、積極経営は評価できるが、新規事業等について中期的に財務面の見通しを十分検討しておくことが重要であると考える。


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