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資料1

2003年7月30日
「障害者(児)の地域生活支援の在り方に関する検討会第5回」資料


自閉症の人の地域生活を支えるために

自閉症協会北海道支部 佐藤 裕


◆どのようなサービスが必要か
 自閉症の子どもから大人まで、一生を通して必要なサポートは以下のようなものがあります。

療育相談、レスパイトケア、登校前と放課後のケア、サマープログラム、レクレーションプログラム、職業訓練、雇用の機会、グループホーム、援助つきアパート、日常的な地域生活支援、財産保全・金銭管理サービス、人権擁護相談、など。
 これらのサポートは、地域で生活する障害者とその家族に一般に必要とされるものであり、自閉症の人に限られたものというわけではありません。では、自閉症の人が地域で生活してゆくためのニーズは、自閉症ではない知的障害の人と比べて、どのように違うのでしょうか?それを端的に示すアンケート調査結果があります(平成14年度自閉症児支援システム調査報告書、日本自閉症協会)。この調査では、歯科医院で、どのような配慮をして欲しいかという設問に対し、以下の3項目で両者に有意な差が認められました。

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歯科医院への希望 自閉症 知的障害
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障害のことをもっと知って欲しい 70 (73) 46 (58)
絵や写真を使って、治療の手順を子どもに説明して欲しい 37 (39) 9 (11)
本治療の前に、予行演習などをして欲しい 21 (22) 6 ( 8)
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( )内は%

 このような違いは、自閉症の特性(添付の「自閉症Q&A」(PDF: 14KB)参照)がもたらすもので、自閉症の人には、知的障害とは異なる配慮が、歯科に限らず、一般の病院、警察、理容・美容院など、あらゆる場面で必要とされています。しかしながら、このような一般の生活の場はおろか、専門機関においてすら必要な配慮が受けられないというのが実態です。必要な配慮が受けられないサービスは、よほどのことがない限り利用できないため、それが自閉症の人の地域生活を困難にしています。
 現状では、保護者が個別に、サポートを実施する機関に自閉症の正しい理解と必要な配慮をお願いしていますし、医療機関・警察・美容理容院などの社会資源の開拓もまた保護者が行っています(→事例:添付資料・警察交番用ポスター(PDF: 26KB))。しかし、保護者の力だけでは当然限界があり、負担も大きすぎます。また、保護者の言うことはまともに取り合ってくれないという場合もあります。したがって、サポートを実施する機関を適切に指導・助言するコンサルテーションや社会資源を開拓するためのコーディネーター役の人や機関が不可欠です。日本各地に設置された「自閉症・発達障害支援センター」がその役割を先導的に果たしてくれることを大いに期待しています。

◆適切な配慮・支援方法とは
 自閉症の人は一人一人みな違う個性を持っていますし、知的発達のレベルやこだわりの強さや感覚の過敏さなども異なります。また、それらの多くが加齢とともに変化していきます。ですから、サービスを提供する側は、常に自閉症の人の現在の状態とニーズを把握しておかなければなりません。すなわち、過敏性を和らげる工夫、多すぎたり強すぎたりする刺激や情報を減らし、整理する工夫、時間と空間を視覚的に分かりやすく提示して場面の意味を理解しやすくする構造化、相手に伝わったという実感が確実にもてるコミュニケーションを実現するための方法、課題分析に基づくスモールステップの設定、バラバラの情報を関連付けたり順序付けるための援助(構造化のひとつ)などを自閉症の人に合わせてオーダーメイドしなければならないのです。このようなオーダーメイドは、自閉症の特性と支援方法に精通した専門家の指導・助言がなければ容易なことではありません。しかし、現状では、役立つ指導・助言ができる専門家が極めて少ないため、保護者がその役割を担わざるをえません。保護者自身が適切な指導・助言を切望しているというのに、です。「自閉症・発達障害支援センター」の存在意義は、センターがその役割を担えるかどうかにかかっていると思います。

◆家族支援
<孤立無援の保護者>
 自閉症の子どもは、親に一般的な意味での情緒的なフィードバックを与えてくれません。親が一生懸命に子育てをしても、無力感や孤独感におそわれてしまいがちです。自閉症を正しく理解し、ライフサイクルを通して支援し、励ましてくれる専門家がパートナーとなってくれれば、こんなに心強いことはありません。現在では、自閉症と診断されてから、すぐに家庭で始められる療育プログラムがありますから、そのプログラムに精通した専門家にコンサルテーションに出向いてもらえれば、その効果は計り知れないほど大きいものになります。しかし、残念ながらそれができるシステムもありませんし、専門家もほとんどいません。ぜひ、それができる専門家を育て、家庭でのコンサルテーションが可能となる仕組みを作っていきたいものです。
<理解と配慮>
 世界には、「この子は自閉症なんです」の一言で理解される社会があります。理解されるだけで、どれほど楽になれるかということを私はアメリカの暮らしの中で実感しました。障害の重さがいっきに軽くなるような思いです。アメリカで私たちと同様な経験をしたことのある自閉症の子どもを持つ母親から送られてきた手紙には、「どうしてこんなに楽に息ができるのだろう?私も家族も変わっていないのに」という印象的な一文がありました。理解と配慮があれば、障害の重さがいっきに軽くなるのです。アメリカやイギリスでは、「自閉症週間」を設け、TV、ラジオ、新聞などマスコミを活用して、社会に広く自閉症理解と配慮のお願いをしています。日本でも、このような取り組みができないものでしょうか。
<家族も自分の人生を生きるために>
 まず、自閉症の我が子に充実した教育を受けさせることができなければ、家族支援体制がいくら充実しても心が安まりません。ですから、個に応じた、一貫した療育・教育を実現することが大前提となります。アメリカでは、個別教育計画に基づいて、子どもに必要な様々な学習事項がプログラムされていましたから、親が子どもを訓練に連れ回したり、自宅で個別指導をしたりする必要がありませんでした。これに、デイサービスやレスパイトケアサービスなどが加われば、親、特に母親が自分の人生を生きることが十分可能となり、その結果「障害児の誕生=家族の不幸」ではなくなります。

◆医療・教育・福祉のネットワーク
 本人と家族の支援の基本となるのは、本人と家族を中心に据えた医療・教育・福祉の連携です。これらの3機関がバラバラのままでは、自閉症の人の一生をトータルにサポートすることができません。また、本人・家族とそれぞれの機関をつなぐ一本化された窓口(コーディネート部門)があれば、一生をサポートするための共通理解と一貫性がさらに確実なものになります。
 全国各地にさらに多くの「自閉症・発達障害支援センター」が必要に応じて設置され、自閉症の人のための医療・教育・福祉のネットワークの中核となり、同時に地域のあらゆる社会資源を発掘して利用できるようにする役割を担って欲しいと思います。そのためには、まず、自閉症を正しく理解し、適切で役に立つ支援方法を指導できる専門家を日本全国各地で育てる仕組みを作ることが急務です。

添付資料: 自閉症Q&A、北海道警察交番配布用ポスター (PDF: 26KB)
参考資料: 平成14年度自閉症児支援システム調査報告書、日本自閉症協会
「アメリカ障害児教育の魅力」佐藤恵利子・佐藤裕 学苑社


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