戻る

「診療に関する情報提供等の在り方
に関する検討会」報告書




診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会
平成15年6月10日


目次

 はじめに

 本報告書における定義に

 診療情報の提供等の状況に関する把握・評価について
(1) 診療情報の提供の促進に関する取組
(診療情報の提供の促進に関する取組の進展)
(医療関係者による具体的な取組)
(患者支援団体による具体的な取組)
(国による具体的な取組)
(2) 診療情報の提供等の状況に関する評価
(診療情報の提供は着実に進展しているが、その環境整備はまだ不十分)
(若年の患者ほど診療記録の開示を要望)
(診療録の保存期間)

 診療情報の提供に関する法的位置付け及びルール作りについて
(1) 診療情報の提供の法制化
(2) 診療情報の提供等に関する指針について
(診療情報の提供等に関する指針の策定)
(診療情報の提供等に関する指針の留意事項)

 診療情報の提供に関する環境整備
(1) 診療情報の提供を促進するための環境整備の推進
(2) 診療情報の提供に関する考え方や取組の患者への周知
(3) 患者による診療情報の積極的な活用の促進

 おわりに

別添  診療情報の提供等に関するガイドライン(案)

参考1  委員名簿
参考2  これまでの検討経緯



 はじめに
 診療記録の開示を含めた診療情報の提供については、患者と医療従事者とのより良い信頼関係の構築、情報の共有化による医療の質の向上、医療の透明性の確保、患者の自己決定権、患者の知る権利の観点などから積極的に推進することが求められてきた。
 また、生活習慣病等を予防し、患者が積極的に自らの健康管理を行っていく上でも、患者と医療従事者が診療情報を共有していくことが重要となってきている。
 平成11年7月には、医療審議会「医療提供体制の改革について(中間報告)」において、「今後、インフォームド・コンセントの理念に基づく医療を一層推進するためには、医療従事者が、患者への説明の一環として、診療録等の診療情報の患者への提供を積極的に行っていくとともに、患者が診療記録の開示を求めた場合には、原則として診療記録そのものを示していくことが必要である。」、「(診療情報の提供・診療記録の開示についての法制化)方策の取扱いについては、今後の患者の側の認識、意向の推移、医療従事者の側の自主的な取組み及び診療情報の提供・診療記録の開示についての環境整備の状況を見つつ、さらに検討するべきである。」という意見が取りまとめられた。
 これを受け、医療関係者による診療情報の提供に向けた自主的な取組が行われるとともに、国においても、診療情報の提供の普及・定着に向けた環境整備が3年を目途に進められてきたところであるが、昨年度がその最終年度に当たることなどから、診療情報の提供等の状況を把握・評価しつつ、今後の診療情報の提供等の在り方について検討を進めるため、平成14年7月に本検討会が設置された。
 本検討会においては、医療関係者、医療事故被害者の親族、患者支援団体等からヒアリングを行うなど、計10回にわたり精力的に検討を重ねてきたところであり、患者と医療従事者が診療情報を共有し、患者の自己決定権を重視するインフォームド・コンセントの理念に基づく医療を推進するため、患者に診療情報を積極的に提供するとともに、患者の求めに応じて原則として診療記録を開示すべきであるという基本的な考え方の下に、今般、ここに報告書を取りまとめ、検討会の意見として公表するものである。

 本報告書における定義
 「診療情報」とは、診療の過程で、患者の身体状況、病状、治療等について、医師、歯科医師、薬剤師、看護師等医療従事者が知り得た情報をいう。
 「診療記録」とは、診療録、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約その他の診療の過程で患者の身体状況、病状、治療等について作成、記録又は保存された書類、画像等の記録をいう。
 「診療情報の提供」とは、(1)口頭による説明、(2)説明文書の交付、(3)診療記録の開示等具体的な状況に即した適切な方法により、患者等に対して診療情報を提供することをいう。
 「診療記録の開示」とは、患者等の求めに応じ、診療記録を閲覧に供すること又は診療記録の写しを交付することをいう。

 診療情報の提供等の状況に関する把握・評価について
(1)診療情報の提供の促進に関する取組
(診療情報の提供の促進に関する取組の進展)
 ○  平成11年7月の医療審議会「医療提供体制の改革について(中間報告)」を受け、医療関係者及び国によって、診療記録の開示も含めた診療情報の提供を促進するための様々な取組が行われており、また、患者支援団体によっても、診療情報の共有を促進するための取組が行われているところである。以下は、その主要な取組事例である。

(医療関係者による具体的な取組)
 ○  社団法人日本医師会は、医師が診療情報を積極的に提供することにより、患者が疾病と診療の内容を十分に理解し、医療の担い手である医師と医療を受ける患者とが、共同して疾病を克服し、医師、患者間のより良い信頼関係を築くため、平成11年に「診療情報の提供に関する指針」を策定し、原則的に患者本人に診療記録を開示するという方針を示したほか、社団法人日本歯科医師会や社団法人日本看護協会などの医療従事者の団体や医療機関の団体などにおいても、診療情報の提供に関する指針が策定され、これらの指針に基づき、診療情報の提供が行われている。1
 ○  社団法人日本看護協会では、「看護業務基準」(平成7年6月)において、「看護実践の一連の過程は記録される」と規定し、看護記録の記載を看護職員の責務として位置付けている。また、同協会においては、平成12年度から、「看護記録と診療情報開示」に関する継続教育プログラムを実施している。
 ○  社団法人全日本病院協会では、「病院のあり方に関する報告書(2002年版)」(平成14年9月)において、医療における信頼の創造のために、積極的な診療記録の開示が必要であるとの認識を示し、会員病院に、「診療記録の開示を確実に行うことを組織として確認し、そのための職員の教育研修を実施する」こと、「病院として診療情報を開示することを、掲示などを用いて患者に広報する」ことなどを求めている。
 ○  診療記録の開示ができない、又は、開示しない理由として、患者に理解しやすいような診療記録が書かれていないということが言われており、患者の側から見て理解しやすい診療記録が求められている。このため、医療従事者の団体や医療機関の団体などにより、診療記録の作成・管理の在り方に関する研究がなされ、その成果の普及が進められてきた。
 ○  社団法人日本病院会と財団法人医療研修推進財団が協力して、診療記録及び診療情報を適切に管理し、そこに含まれるデータを活用することにより、医療の安全管理や質の向上及び病院の経営管理に寄与する「診療情報管理士」を養成・認定している。
 ○  社団法人日本医師会が、都道府県医師会や郡市区医師会の協力を得て、平成12年1月に「診療に関する相談窓口」を設置し、患者からの相談等に対応している。
 ○  社団法人日本病院会が、患者が医療に参加し、医療提供者との相互理解と相互信頼を深めるために、医師などの説明を書き留めるための診療手帳「私のカルテ」を平成14年12月から発行している。
 ○  東京都病院協会では、「情報開示と患者のプライバシー」などを主題として公開シンポジウム「医療における信頼の創造」を開催するほか、会報において個人情報保護法案を解説するなど、医療従事者や患者に対して、診療情報の提供に関する周知・啓発を行っている。

(患者支援団体による具体的な取組)
 ○  平成11年6月に「NPO法人患者の権利オンブズマン」が設立され、患者・家族からの苦情相談に応じ、患者・家族と医療機関における対話による苦情の解決を促進し、又は患者・家族の調査申立てに基づき、苦情の適正な解決を支援するためオンブズマン会議による第三者的立場からの調査・点検・勧告等を行っているなど、患者を支援する取組が全国各地で行われている。
 ○  平成11年11月に「患者の権利法をつくる会」が、医療記録の作成、保管、開示手続等を定めた「医療記録法要綱案」を発表するなど、診療記録の開示の法制化を求める市民運動が展開されている。

(国による具体的な取組)
 ○  平成12年度から3年にわたる診療情報の提供に関する環境整備事業として、
(1)  診療記録の作成、管理体制等診療記録の開示に当たっての諸問題の調査研究
(2)  診療録管理に従事する者の研修経費の補助
(3)  社団法人日本医師会の「診療情報の提供に関する指針」の普及・啓発及び診療情報の提供に関する研修の経費補助
が実施されてきた。
 ○  また、平成12年の診療報酬改定において「診療録管理体制加算」を新たに設け、一定水準以上の診療録管理体制を確保し、かつ、現に患者に対し診療情報の提供が行われている医療機関を診療報酬上評価している。2
 ○  さらに、診療情報を積極的に提供している医療機関がそのことを広告することにより、診療情報を提供している医療機関を患者が選択することができるよう、平成12年の医療法改正において、医療機関が広告できる事項として「診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報を提供することができる旨」が追加されている。
 ○  「医師国家試験出題基準(平成13年版)」において、医師が医療の場に第一歩を踏み出す際に少なくとも具有すべき基本的知識・技能に関しての必修の事項として、「診療録・医療記録の管理と保存」、「診療情報の開示とプライバシーの保護」など診療情報に関する事項を掲げ、医師国家試験がこの基準に拠って出題されている。
 ○  卒前の医学教育又は卒後の臨床研修において、医学生又は研修医が身に付けるべき事項として、診療記録の記載方法、管理方法等が位置付けられている。

(2)診療情報の提供等の状況に関する評価
(診療情報の提供は着実に進展しているが、その環境整備はまだ不十分)
 ○  (1)の医療関係者、患者支援団体及び国の取組などにより、診療情報の提供に関する医療従事者の意識が高まってきており、例えば、平成14年9月に東京都病院協会が会員病院等に対して行った「診療録管理に関する調査」3 によると、診療録の開示が患者満足度向上に寄与すると思う(「どちらかといえば」を含める。)と回答した病院は90.6%(平成10年は76.3%)、診療録の開示が医療の質向上に寄与すると思う(「どちらかといえば」を含める。)と回答した病院は82.3%(平成10年は70.7%)であり、今後も診療録の開示を積極的に進めるべきであると考えると回答した病院は42.4%(平成10年は33.3%)となっており、診療記録の開示について肯定的に考える病院が増加している。また、診療記録の管理体制の整備、診療記録の開示に関する規程の整備など診療記録の開示を行う体制の構築が進んでおり、平成14年10月に社団法人日本看護協会が会員の勤務する病院に対して行った「病院における看護職員需給状況調査」4によると、「患者の請求に基づく診療記録の開示」に関する規定(指針・手順)がある病院は49.2%(平成12年は36.4%)となっており、上記「診療録管理に関する調査」によると、診療録の開示についての明文化された院内規定を有している病院は48.8%(平成10年は0.0%)と伸びが見られる。診療録開示の状況については、同じく「診療録管理に関する調査」によると、「病院として積極的に行っている」又は「患者・家族からの求めがあった場合にのみ行っている」と回答した病院は90.5%、(平成10年は75.9%)となっており、平成14年2月に日本診療録管理学会が社団法人日本病院会会員病院に対して行った「診療情報の開示・提供に関するアンケート調査」5によると、診療録管理体制加算の承認を受けている病院が48.6%(平成13年は21.7%)となっているなど、この3年間で、診療記録の開示を含めた診療情報の提供は着実に進展している。
 ○  個人情報保護条例を制定している都道府県は44自治体に上っており、それらの自治体では、既に、同条例の適用を受ける医療機関において、本人に対する診療記録の原則的な開示が行われているところである。6
 ○  しかしながら、診療情報の提供に向けての国及び医療関係者の取組は不十分であり、診療情報の提供に関する環境は未だ整っておらず、すべての医療機関において診療記録の開示が実現されているわけではないなど、医療機関によって診療情報の提供に関する対応にばらつきがある。また、医療従事者の説明不足や、患者の受動的な受診姿勢などに起因した、患者と医療従事者とのコミュニケーション不足が医療不信を招いている。さらに、診療記録の開示が行われていることについての情報が必ずしも十分に患者に伝わっていないという指摘もある。7

(若年の患者ほど診療記録の開示を要望)
 ○  平成11年の「受療行動調査」によると、患者のカルテ開示要望については、6割強の患者が「ぜひ知りたい」又は「病名・病状によっては知りたい」と答えており、その割合は若年の患者ほど高くなっている。
 ○  また、患者がカルテの内容を知りたい理由は、「受けている治療の理解を深めたい」が約5割であり、患者の側も自ら医療に参加するという意識が高まっていると考えられる。8

(診療録の保存期間)
 ○  診療録の保存については、「わが国の病院における診療録管理の現況調査」によれば、5割強の病院が10年を超えて診療録を保存しているが、保存期間を10年とした場合には、なお15%強の病院において相当な対応が必要となると回答している。これには、診療録の現物を保存している病院が全体の8割弱を占めていることが影響していると考えられる。9
 ○  平成11年に「診療録等の電子媒体による保存について」(平成11年4月22日健政発第517号)が発出され、診療録等を電子媒体に保存する場合に満たすべき基準及び留意事項が示されており、今後、診療録の電子媒体による保存が進み、診療記録の長期保存に関する保存スペースの問題が解消されることが期待される。
 ○  医師法により義務付けられる診療録の保存期間については、現行の5年は短いという意見が多かったが、保存場所の問題から、保存期間の延長には慎重な主張もなされており、診療録の電子媒体による保存の進展も踏まえ更に検討する必要がある。

 診療情報の提供に関する法的位置付け及びルール作りについて
(1)診療情報の提供の法制化
 ○  患者と医療従事者が診療情報を共有し、患者の自己決定権を重視するインフォームド・コンセントの理念に基づく医療を推進するため、医療従事者が患者の権利を十分に理解し、医療機関は、患者に診療情報を積極的に提供するとともに、患者の求めに応じて原則として診療記録を開示すべきである。
 ○  最近の動きとして、(1)「個人情報の保護に関する法律」、(2)「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」、(3)「独立行政法人等の保有する個人情報保護に関する法律」(以下「個人情報保護法等」という。)が国会で成立したところである。
 ○  個人情報保護法等における「個人情報」(生存する個人に関する情報であって、特定の個人を識別できるもの10)には、各医療機関の保有する診療情報も該当するものと考えられるため、個人情報保護法等が施行された場合には、個人情報保護法等の対象となる医療機関は、本人からの診療情報の開示の求めに応じて、原則として診療情報を開示する法律上の義務を負うこととなる。
 ○  個人情報保護法等と既に多くの地方自治体により制定されている個人情報保護条例とを合わせた個人情報保護法制によって、ほとんどの医療機関が、本人からの求めに応じて、原則として診療記録を開示する義務を負うこととなり、診療記録の開示も含めた診療情報の提供についての法的基盤が整ったことになる。
 ○  その上で、診療記録の開示を含めた診療情報の提供に関する個別法による早急な法制化を求める意見としては、
(1)  すべての医療機関において、患者が診療情報にアクセスする権利・患者の知る権利を保障し、医療の透明性を高め、医療に対する不信を取り除くためには、個別法による法制化が必要である
(2)  個人情報保護法等においては、遺族からの求めに応じた死者に関する診療情報の開示が対象とならないことなどから、診療情報に関する個別の法律が必要である11
などの意見があった。
 ○  一方で、今後の診療情報の提供促進に当たっては、個人情報保護法制において医療機関が原則として開示義務を負うことを前提にすれば、個人情報保護法制に加えて個別法による法制化を行う必要性は乏しく、
(1)  個人情報保護法等の対象とならない遺族への開示などについては、様々な状況が想定されることから、法律で一律に決めるのではなく、医療を提供する側と遺族などとの間において自主的な取組を促進すべきである
(2)  法律上の義務とすることにより、見せるために書く診療録と診療のために書く診療録が書き分けられるおそれや、診療記録に最小限の事項しか記載しなくなり、診療に差し障りが出るおそれもあることから、診療記録の記載の在り方も含め診療記録の開示のための更なる環境整備が必要である
といった意見があった。
 ○  また、医療に関する基本理念を規定する医療基本法を制定すべきではないかという意見があった。
 ○  さらに、現在の医療法等においても、医療提供の理念、医師等の基本的な責務などは規定12されており、まずはこれを実行することが重要であるという意見もあった。
 ○  いずれにしても、個人情報保護法等が施行されるまでの間にも診療情報の提供をできる限り促進し、また、個人情報保護法等では対象外となる一定の小規模医療機関による診療情報の提供や、遺族への診療記録の開示についても促進するために、診療情報の提供を促進するための環境を可及的速やかに整備するとともに、個人情報保護法等で対象外となっている問題も含めて、まずは、診療情報の提供等に関して各医療機関が則るべき運用指針を策定するべきである。
 ○  今後、環境整備の状況や診療情報の提供の進捗状況等を適宜把握し、その評価を行った上で、必要な措置について検証していく必要がある。

(2)診療情報の提供等に関する指針について
(診療情報の提供等に関する指針の策定)
 ○  上述の診療情報の提供等に関する指針は、診療情報の提供等に当たっての具体的な手順等を明らかにすることにより、各医療機関による円滑な診療情報の提供に資することを目的として、どのような事項に留意すれば医療従事者及び医療機関の管理者が求められる診療情報の提供等に関する職責を全うできると考えられるかを示すものであり、医療従事者等が指針に則って積極的に診療情報を提供することを促進するものである。

(診療情報の提供等に関する指針の留意事項)
 ○  診療情報の提供等に関する指針(ガイドライン)の案については、別添のとおりであるが、これに関する留意事項は以下のとおりである。
 ○  本人からの求めがあった場合であっても、診療記録を開示しないことができる事由については、(1)診療情報の提供が第三者の利益を害するおそれがある場合及び(2)診療情報の提供が患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがある場合とが考えられる。これに対して、そもそも、患者から診療記録の開示請求があった場合には、一切の例外なく開示をするべきであるという意見もあった。診療記録を開示しないことができる場合を(1)及び(2)とするか、あるいは、(1)のみとするかについては、各医療機関において選択することが適当と考える。ただし、患者が医療機関を選択する際に、当該医療機関の不開示事由について知ることができるよう、各医療機関において、診療情報の提供に係る方針に関する院内掲示などを実施することが必要である。
 ○  訴訟を前提とした診療記録の開示の求めについては、訴訟を前提としていることのみを理由に診療記録の開示を行わないことは適当ではない。
 ○  また、診療記録の字句などを不当に変える改ざんは、あってはならないことであり、状況に応じて、厳正な司法処分や行政処分が求められる。診療情報の提供等に関する指針においても、診療記録の正確性の確保や診療記録の訂正のルールについて規定し、診療記録の改ざんを防止する環境を醸成するべきである。
 ○  なお、診療記録の改ざん防止措置について、「法的に整備すべき」という意見があったが、「改ざんであるか否かの判断は実際には困難であることが多いことから、法的な対応は困難であり、むしろ、診療記録の修正の在り方を明確に示すべき」との意見などがあり、この問題については、別途慎重な検討を要する課題と考える。
 ○  診療情報の提供等に関する指針については、できる限り広く普及させることが必要であり、国や医療関係者を含め関係者が一丸となって周知を進めるべきである。

 診療情報の提供に関する環境整備
(1)診療情報の提供を促進するための環境整備の推進
 ○  患者が自分の疾病を十分に理解し、患者と医療従事者とが共同して疾病を克服するために、患者と医療従事者がより良い信頼関係を構築することは重要である。患者の知る権利や患者の自己決定権が重視される近年においては、従来にも増して積極的に患者に対して診療情報を提供することにより、患者と医療従事者が情報を共有することが求められており、国、地方公共団体及び医療関係者においては、引き続き、診療情報の提供に関する次のような取組を行い、可及的速やかに、診療情報の提供を促進するための環境を整備することが必要である。
(1)  卒前の医学教育や卒後の臨床研修における取組を始め、医療従事者の診療情報の提供に関する理解を深めるための教育
(2)  診療記録の記載の整備、診療記録の開示などを行う管理体制の充実
(3)  都道府県等における医療に関する患者や家族等からの苦情・心配・相談への対応などを行う「医療安全支援センター」の設置や、特定機能病院や臨床研修病院を始めとする病院における患者相談窓口の活用
(4)  診療情報の管理・提供体制に関する診療報酬上の評価、広告制限の緩和等の取組
(5)  診療情報の提供促進に向けた調査研究及びその成果の普及
 診療記録の作成に関する標準化についての調査研究
 診療記録の開示のコストに係る調査研究
 外来診療録の在り方に関する調査研究
 看護記録の実態及び法的位置付けも含めた在り方に関する調査研究
 医療従事者による患者に対する説明や医療従事者と患者とのコミュニケーション確保の支援に関する調査研究

(2)診療情報の提供に関する考え方や取組の患者への周知
 ○  医療従事者が診療情報の提供を行っていることを患者が知らないことがあるため、国や医療関係者においては、個人情報保護法等において原則として医療機関が患者の求めに応じて診療記録を開示する義務を負うこととなる旨を周知するとともに、診療情報の提供に関する医療機関の理念、行動指針、規程等についての院内掲示やホームページによる広報、診療情報を提供している医療機関であることの広告を推進するなど、医療従事者の行う診療情報の提供に関する考え方や取組を積極的に患者に伝える必要がある。

(3)患者による診療情報の積極的な活用の促進
 ○  患者と医療従事者が情報を共有し、患者自らも医療に参加することにより、患者と医療従事者とのより良い信頼関係の下、患者と医療従事者が共同して疾病の克服を図る患者参加型の医療を実現するためには、患者自身にも、医療の当事者としての主体的な受診姿勢が求められる。すなわち、患者は、自らの健康管理を日頃から行い、医療に関する諸制度を理解するよう努めるとともに、医療機関を受診する際には、症状の適切な説明に努め、分からないことや疑問に思っていることを医療従事者や患者相談窓口に積極的に質問することが求められる。
 ○  また、国や医療関係者においては、医療に関する諸制度、疾病等についての患者の理解を促進するとともに、患者が気軽に相談でき、患者に対して分かりやすい説明を行う窓口を設けるなど患者が診療情報を積極的に活用できるような環境を整備することも必要である。
 ○  さらに、診療情報の提供に関する苦情等に適切に対応するためには、研修等により相談に応じる担当職員の資質の向上を図るとともに、相談事例を有効に活用することなどを通じて、苦情処理体制が有効に機能するよう取り組むことが重要である。

 おわりに
 ○  本報告書においては、今後の診療情報の提供の在り方として、患者と医療従事者が診療情報を共有し、患者の自己決定権を重視するインフォームド・コンセントの理念に基づく医療を推進するため、医療機関については、患者に診療情報を積極的に提供するとともに、患者の求めに応じて原則として診療記録を開示すべきであるという基本的な考え方を示したところである。
 ○  また、医療機関における積極的な診療情報の提供を支援するために、国及び医療関係者については、可及的速やかに、診療情報の提供を促進するための環境を整備すべきであり、患者自身については、医療の当事者として主体的に医療に参加することが求められる。国、医療関係者及び患者は、本報告書に基づき、それぞれの立場から、診療情報の提供及び活用の促進に向けた取組を行うことが期待されるものである。
 ○  国においては、本検討会の結論を踏まえ、早急にパブリックコメント手続を行い、国民の声を聴いた上で、診療情報の提供等に関する指針を整備することが望まれる。


1  医療従事者や医療機関の団体等により定められた主な指針として、「診療情報の提供に関する指針」(平成11年4月、社団法人日本医師会)、「診療情報を適切に提供するために」(平成14年3月、社団法人日本歯科医師会)、「看護記録の開示に関するガイドライン」(平成12年5月、社団法人日本看護協会)、「国立大学附属病院における診療情報の提供に関する指針」(平成11年2月、国立大学医学部附属病院長会議)、「国立病院等における診療情報の提供に関する指針」(平成12年7月、厚生省(当時))などが挙げられる。
 なお、社団法人日本医師会による「診療情報の提供に関する指針」については、平成14年10月に、患者が死亡した際の遺族に対する説明についての定めを設けるなどの改定が行われている。
2  「診療録管理体制加算」の施設基準は、(1)患者に対し診療情報の提供が現に行われていること、(2)診療記録の全てが保管及び管理されていること、(3)1名以上の専任の診療記録管理者の配置その他診療記録管理を行うにつき必要な体制が整備されていること、(4)中央病歴管理室等、診療記録管理を行うにつき適切な施設及び設備を有していること、(5)入院患者について疾病統計及び退院時要約が作成されていることとなっている。
3  「診療録管理についての調査」(平成14年9月に東京都病院協会が会員病院等に対して行ったアンケート調査。平成10年11月に同協会が行った同様の調査(回答数127病院、回答率36.9%)と比較するため、ここでは、会員病院からの回答のみの集計結果(回答数85病院、回答率23.9%)を用いている。)
4  「病院における看護職員需給状況調査」(平成14年10月に社団法人日本看護協会が会員の勤務する病院に対して行ったアンケート調査(回答数3,434病院、回答率52.1%)。本文において比較している平成12年の調査は、平成12年9月に同協会が会員の勤務する病院に対して行ったアンケート調査「患者への診療情報提供に関する調査」(回答数3,066病院、回答率49.3%)である。))
5  「診療情報の開示・提供に関するアンケート調査」(平成14年2月に日本診療録管理学会が社団法人日本病院会会員病院に対して行ったアンケート調査(回答数664病院、回答率25.4%)。)本文において比較している平成13年の調査は、平成13年2月に同学会が同協会会員病院に対して行った同名のアンケート調査(回答数743病院、回答率28.7%)である。
6  平成14年12月厚生労働省医政局医事課調べ。
7  上記「診療情報の開示・提供に関するアンケート調査」(平成14年2月)によると、日常的な診療情報の提供を行っていない病院が24.8%、カルテ開示の要求があった場合にカルテ開示を実施していない病院が9.5%存在している。なお、カルテ開示を阻害する要因(複数回答)については、診療録そのものに問題がある46.1%(その内訳(複数回答)としては、記載が不十分75.5%、第三者に見せるような配慮がない57.2%)、診療録を管理する体制に問題がある26.1%(その内訳(複数回答)としては、内容の点検がなされていないので不適当な診療録があったとしてもチェックがなされていない65.3%、診療録を管理する体制やルール自体が存在しないか不十分なので全般的に自信が持てない44.5%)、争議に発展する可能性26.8%となっている。
 また、上記「病院における看護職員需給状況調査」によると、「患者の請求に基づく診療記録の開示」の患者への周知方法について、掲示板・パンフレットなどで分かるようにしている29.5%、患者から問い合わせがあったときに口頭で説明している65.8%となっており、「患者の請求に基づく診療記録の開示」ができることについての患者の認知度は、「どちらかといえば知らない患者が多い」病院と「知らない患者が多い」病院を合わせて71.5%であった。
8  平成11年「受療行動調査」(厚生労働省大臣官房統計情報部)。
9  平成11年8月に日本診療録管理学会が病床数200床以上の病院等に対して行った「わが国の病院における診療録管理の現況調査」(回答数991病院、回答率33.9%)による。
10  個人情報の保護に関する法律第2条第1項において、「この法律において『個人情報』とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」と規定されている。
11  死者に関する情報が、同時に遺族に関する情報でもある場合には、当該遺族に関する情報として、個人情報の保護に関する法律の対象となる。
12  例えば、医療法第1条の2第1項「医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。」、同法第1条の4第2項「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」など。


トップへ
戻る