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Mercury in Fish
ADVISORY STATEMENT FOR PREGNANT WOMEN
January 2001

序論
この勧告の目的は、特定の種類の魚の水銀含有量に関する情報を提供
妊婦や妊娠を考えている女性が妊娠の期間中、安全に消費することができる魚の種類や量について助言することである。
このアドバイスは、現在調査中である。
この勧告は妊娠期間中の魚の消費を控えるよう奨励するものではなく、特定の魚に関し安全に消費することができる量について勧告するものである。

魚の消費の有用性
魚を定期的に食べることは、多くの栄養的な利点がある。
魚は、優れたタンパク質源であり、飽和脂肪で低く、不飽和脂肪酸とω-3脂肪が高い。Heart Foundationは心臓血管系への保健効果のために週に2回魚を消費することに勧めている。

魚類中の水銀

水銀は環境中に自然に存在し、空気や水を通して、また食品を経由して水銀に暴露される。多くの人にとって食品、特に、魚は水銀の主要な暴露源となっている。水銀のレベルは、生息地や餌の違い等により魚種によって異なる。サメ/フレーク、エイ、メカジキ、バラマンディ、ギンサワラ、オレンジラフィー、リングやミナミマグロのような魚は高レベルの水銀を蓄積する傾向があるが、それらは大型であり、より長寿であり、食物連鎖の最上位に位置するためである。また、ニュージーランドの地熱湖や川に生息する淡水魚は、同様に高レベルの水銀を蓄積する可能性がある。
缶詰のマグロは、生鮮のマグロより水銀の含有量が少ないが、缶詰の原料となるマグロは別の種類の小型のマグロで、一般に1年未満のものが使用されるからである。

水銀に関する懸念

水銀は、高用量の暴露で人の神経系に有害な影響を与える恐れがある。
大半の人々は、有害な影響を及ぼさない程度の水銀に暴露されている。
しかし、いくつかの研究では、食品由来の水銀の影響については大人よりも胎児の方がより感受性が強い可能性があると指摘している。
これらの影響は、出産後、幼児の成長の指標の達成において微妙な遅れ(例えば、会話や歩行の遅れなど)として明らかになるまで、一般に明白ではない。
これらの影響を与える水銀の暴露レベルは、母親には何らの有害な影響も引起さないようである。胎児への水銀の影響については、現在も研究が続けられており、これらの研究が完了する迄には、妊娠中に水銀を含有する食品を過剰に消費することに対する警告は正当なものとなる。

現在の規則

規則では、すでに市販の魚中に許容される水銀の最大のレベルを定めている。
これらの限度量は、ある地域の圧倒的多数の人々が魚に存在する水銀により重大な健康リスクを受けないことを保証している。

妊婦へのアドバイス

魚を定期的に消費することで多くの栄養的な利益があるが、一方で水銀の暴露による未解決の不安がある。
妊婦(妊娠を考えている女性を含む)は、以下の種類の魚については、消費を1週間当たり4食分に制限するべきである:サメ/フレーク、エイ、メカジキ、バラマンディ、ギンサワラ、オレンジラフィー、リング、ミナミマグロと地熱水域の魚(魚1食分は平均、約150gとなるだろう)。
マグロ缶詰を含むその他の魚は、頻繁に消費しても差支えない。できるだけ、多種類の魚を摂食することが望ましい。


共通の質問に対する解答

魚中の水銀

1.缶詰の魚は、生鮮の魚よりリスクが高いか?

いいえ、缶詰や冷凍などの加工によって水銀の含有量は変化しない。
実際、マグロの缶詰はミナミマグロより水銀のレベルは低い。これは缶詰に使用するマグロは、より小型の種類で一般に1才未満であるからである。

2.加熱調理は、水銀のレベルに影響を及ぼすか?

加熱調理は、魚や甲殻類の水銀の量に変化は及ぼさない。

3.私がフレークだけが好きな場合は?

妊婦は、以下の大型魚の消費は程ほどにするよう勧告している:サメ/フレーク、エイ、メカジキ、バラマンディ、ギンサワラ、オレンジラフィー、リングとミナミマグロ
あなたの好きな魚がフレークのように、これらのうちの1種類である場合は、消費を制限するよう勧めるFSANZのアドバイスを考慮して、多種類の魚を食べるべきである。
好きな魚がこれら以外である場合、水銀について心配することなく、定期的に消費して差支えない。
注:フレークは小型の白い魚;hake(水銀の含有量が高くない)と混同しないこと。

4.私が大量の魚を摂取している場合、赤ちゃんに母乳を与えることについて心配するべきか?

いいえ、水銀暴露による胎児への影響のある期間は、子宮内で成長しているときである。妊娠中は特定の種類の魚の消費を制限することにより、胎児への暴露を制限することができる。出産後はリスクは非常により低く、大人のリスクと同じ程度であるため、追加の予防措置は必要でない。食品から摂取する大半の水銀は、糞便から排泄され、ミルク中には殆ど排出されない。

5.なぜ、いくつかの魚は、水銀の含有量が高いのか?

種類や年齢が水銀の検出レベルの主要な要因である。
水銀を多く含有する可能性のある魚は、より長寿で、より大型で、食物連鎖の最上位に位置する。
また、環境中の水銀の量も魚の水銀含有量に影響を及ぼす。例えば、地熱水域に生息する淡水魚はより高いレベルの水銀を蓄積する傾向がある。

6.魚油製品はどう?

魚油製品及びサプリメントは主要な水銀の摂取源ではなく、摂取を制限するよう勧告は出されていない。

7.甲殻類はどうか?

甲殻類(エビ、ロブスター、カキ、カニを含む)は一般に水銀の含有量が低く、頻繁には消費されないため、水銀の平均的な消費者にとって重大な摂取源とはみなされない。


魚中の水銀

保健専門家への追加情報

食品中に存在する汚染物質に関する潜在的リスクは、ある母集団の全てのグループに関し、これらのリスクが最少になることを保証するため、定期的な評価が実施されている。 Food Standards Australia New Zealandは、最近、食品中の重金属のリスク評価に着手した。
これらの評価結果は、胎児の健康を保護する予防措置として、妊婦が水銀の摂取源となり得る食事を制限すべきであることを示した。
妊婦以外の人々には危険性はない。


水銀の源

水銀は、土や岩(特に地熱か火山)中に自然に存在し、環境要因次第で様々な濃度で川、水路、湖、海に存在する。

水銀は、金属、無機、有機の3つの形態で存在する。

有機水銀(主にメチル水銀として)は、食品中に存在する水銀の最も有害な形態であり、また、多くの人にとって食品は水銀の主な暴露源である。結果的に胎児の水銀の主な暴露源は、母親の食事に由来している。

食品において水銀含有量が最も高いのは、魚である。
魚は、摂餌の過程で水がえらを通り抜ける時に、水から水銀を一緒に吸収する。
水銀は、筋肉等の魚の組織中のタンパク質と結合する。
現在の生産加工や家庭における加熱調理技術では、魚中の水銀濃度を大幅に減らすことはできない。

水銀は特定の種類の魚に、より多く蓄積する傾向がある。
これは、年齢や自然環境、餌等の多くの重要な要因による。
より高いレベルで水銀を蓄積する可能性のある魚は、捕食性の種である。これらは、より大型で、より長寿で、食物連鎖のより高い位置に存在する傾向がある。
例えば、サメ/フレーク、エイ、メカジキ、バラマンディ、ギンサワラ、オレンジラフィー、リング、ミナミマグロが含まれる。
ニュージーランドの地熱湖や川に生息する淡水魚は、同様により高いレベルの水銀を蓄積する可能性がある。(Kim 1997)

魚の有益性

ある種の魚は、より高いレベルの水銀を含有するが、魚の定期的な消費には多くの栄養的な利益があることについては広く認識されている。

魚は、高生物学価タンパクの優れた供給源であって、不飽和脂肪酸と長鎖のω脂肪の摂取に貢献している。さらに、Heart Foundationは心臓血管系に有益であるため、少なくとも週2回、魚を摂取する様に勧めている。

オーストラリアの約25%とニュージーランドの約20%、マオリ人と太平洋の島民で最大36%は、少なくとも週に一度は魚を消費しており、彼らの食事の重大な構成要素となっている。(1995のオーストラリアの国家の栄養調査、1997のニュージーランド国民栄養調査)

水銀の影響

水銀、特にメチル水銀は、速やかに腸から吸収され、血液を通して組織に速やかに分布される。非常に高いレベルで摂取された場合は、人間や他の哺乳類に非常に高い毒性を有する。
しかし、魚において通常検出される水銀のレベルは、メチル水銀を高いレベルで蓄積することが知られている種類の魚でさえ、また、多食した場合でも高用量の摂取に至るものではない。
それ故に、大半の人々にとって、魚中の水銀のレベルは、何ら有意の健康リスクを呈するものではない。

一方、胎児は大人より、水銀の有害な影響を受けやすいと考えられる。
このために、FSANZは食事由来の摂取につき、2つの別々の上限レベルを定めた。(一般の人のための暫定的耐用週間摂取量と胎児の保護を目的とする妊婦のための暫定的耐用週間摂取量(FSANZ 1999、2000))
PTWIは、健全で栄養価値のある食品の消費と非意図的な汚染物質につき、人に許容される週間の摂取量をいう。
妊婦に設定されるレベルは、2.8μgHg/kg体重/週であって、一般的の人々(5μgHg/kg体重/週)の半分のレベルである。

FSANZが妊婦のために設定したPTWIは、毎日、人口の約85%が海水魚を消費するSeychelle共和国で、現在実施中の母親と幼児のペアを対象とした10年間にわたる試験の予備結果に基づくものである。
試験は、毎年約700の妊娠について行われている。

胎児にとって妊娠中の重要な期間は、妊娠の第3及び第4ヶ月目であると考えられる。
母親の魚の消費によるメチル水銀の胎児期暴露に関連した幼児の典型的症状は、成長指標達成の(例えば、歩行や会話の開始の遅れ)の遅延である。
そのような影響はわずかで、通常テストを通してのみ明らかとなる。
これらの影響をもたらす水銀の暴露量は、母親において少しの有害な影響も認められない。これまでSeychelle共和国の試験から得られた結果は、どんな発達上の遅れも成長とともに減少する可能性があると指摘している。
FSANZは試験が公表されば、最終的な結果を詳細に調べることとなる。

魚中の水銀のための現行及び提示された規則

オーストラリアの食品規格規定(Food Standards Code)は、現在、魚等の食品中の水銀の最大のレベルを規定している。
魚については2つの別々の最大レベルを規定している。
一つは1.0mgHg/kgで高レベルに水銀を含むことで知られている魚類(例えばメカジキ、ミナミマグロ、バラマンディ、リング、オレンジラフィー、エイ、サメ)を対象としており、もう一つは0.5mgHg/kgであって、その他の魚を対象としている。
0.5mgHg/kgは、甲殻類と二枚貝にも適用されている。
これらの基準値は、大多数の人々が、魚中の水銀を通して何らの重大な健康リスクにさらされないことを保証している。

最近終了した食品規格規定の見直しにおいて、FSANZは食品中の重金属の汚染物質のリスク分析を実施し、また、その過程の一つとして、魚に設定されている水銀の最大レベルを見直した。その分析に基づき、FSANZは、魚中の水銀の最大レベルは現在のレベルを保持すると公表した。

勧告において使用された魚摂取量の算定

一日に摂取すべき魚の量についての勧告を作成した。これは母集団中の全てのグループが摂取可能な魚の最大量(全ての食品源に起因する暫定的な一週間当たりの耐容摂取量(PTWI)を超えないものとして)を算定することにより作成された。
この算定において使われたステップは、次の通りである:

1.異なる魚種の水銀レベルを測定した。3つのタイプを生息地、餌、報告された水銀レベルにより分類した。
水銀含有量の高い魚(サメ/フレーク、エイ、メカジキ、バラマンディ、ギンサワラ、オレンジラフィー、リング、ミナミマグロ等)
サケ
その他

2.PTWIを超えることなく、1週間に消費できる魚種別の量を算定した。ここでは1種類の魚のみを食べると仮定した。
算定では全体の水銀暴露への他の食品からの影響を考慮した。魚のこれらの量は、約150gとされた。

表1:算定例 ―オーストラリアとニュージーランドにおける妊婦のための魚の最大摂取量

  オーストラリア ニュージーランド
妊婦の水銀のPTWI 2.8μg/kg体重/週 2.8μg/kg体重/週
許容できる水銀摂取量 184.8μg/週
(2.8×66kg体重)
179.2μg/週
(2.8×64kg体重)
食事由来の水銀摂取量* 10.5μg/週 14μg/週
魚以外の食品由来の摂取量* 0.7μg/週
(7%total)
0.8μg/週
(6%total)
魚から安全に摂取できる水銀の量 184.8−0.7
=184.1μg/週
179.2−0.8
=178.4μg/週
水銀値の高い魚における1週間当たりの消費可能量
(280μgHg/kg)
184.1μg/週÷280μg/kg=658g/週
=4食/週
178.4μg/週÷280μg/kg=637g/週
=4食/週
サケにおける1週間当たりの消費可能量
(10μgHg/kg)
184.1μg/週÷10μg/kg=18410g/週
=122食/週
178.4μg/週÷10μg/kg=17840g/週
=119食/週
その他の魚における1週間当たり消費可能量
(90μgHg/kg)
184.1μg/週÷90μg/kg=2046g/週
=13食/週
178.4μg/週÷90μg/kg=1982g/週
=13食/週

* 食品由来の水銀の摂取量評価は以下に示した食品中の水銀濃度に関する調査データに基づいた。これらは食品規格規定の見直しにおいてFSANZに提出されたものである。
1995年のオーストラリアの国民栄養調査又は1997年のニュージーランド国民栄養調査から得られた食品の消費データ(全ての食品源及び出生可能年齢の女性(16-44歳)における平均体重に基づいた)

オーストラリアのマグロ缶詰業界からFSANZに提出されたデータは、マグロ缶詰の水銀濃度(中央値80μgHg/日)は、高濃度の魚より低く、その他の魚に匹敵することを示している。

理論的にPTWIを上回ることなく、消費することができる魚の量は、表2に示した。
これらの計算は、水銀濃度は魚種によってかなりバラツキがあることを考慮し、魚は報告された最大レベルでなく、平均的な量(中央値)を含有すると仮定したものである。

表2:水銀がPTWI*1を超えることなく、一週間に消費することができる理論的な魚の食事量(150g/1食)

魚のタイプ 妊婦 一般的な人々
水銀濃度の高い魚種
(280μgHg/kg)
4食 8食
サケ(サケ缶詰を含む)
(10μgHg/kg)
119食 223食
その他(マグロ缶詰を含む)*2 13食 25食

*1 妊婦のPTWIは、2.8μgHg/kg体重、一般的の人々のPTWIは5μgHg/kg体重である。

*2 オーストラリアのマグロ缶詰業界からFSANZに提出されたデータは、マグロ缶詰の水銀濃度(中央値80μgHg/日)は、高濃度の魚より低く、その他の魚に匹敵することを示している。

報告された魚摂取量

オーストラリア

1995の国民栄養調査(NNS)では、2歳以上の13,500人以上につき、24時間以内に食べられた食品を記録した。
調査では、8%の人々は、調査の日に魚を食べたと報告した。
これらの人々の海水魚の平均摂取量は96g(魚の1食未満)、多食者では298g(魚の2食分)であった。
同様に、妊娠可能年令(16-44才)の女性では、6%が調査の日に魚を食べたと報告した。
彼女らの海水魚の平均摂取量は79g(魚の1食未満)、多食者では250g(魚の1-2食分)であった。
24時間の回想調査では、魚を週にどのくらいの頻度で食べたかについては示していない。
24時間の回想調査と同時に実施した、摂食頻度調査では対象者の25%は少なくとも週に一度魚を食べると報告した。

ニュージーランド

1997の国民栄養調査(NNS)において、15歳以上の4,600人以上について、24時間以内で食べられた食品を記録した。
これらの調査では25%の人々は調査の日に魚を食べたと報告した。
これらの人々の海水魚の平均摂取量は、122g(魚の1食未満)で、多食者では372g(魚の2-3食分)であった。同様に、妊娠可能年令(16-44才)の女性では、25%の女性が調査の日に魚を食べたと報告した。彼女らが食べた海水魚の平均摂取量は、104g(魚の1食未満)で、多食者では362g(魚の2-3色分)であった。
24時間の回想調査では、魚を1週間にどのくらいの頻度で食べたかについては示していない。調査と同時に実施した摂食頻度調査では、対象者の最大20%は少なくとも1週間に1種類の魚を食べると報告した。
しかし、ニュージーランドに住んでいるマオリ人と太平洋諸島の人々の多くは、少なくとも週に一度魚(最高36%)を食べると報告した。
より多くのマオリ人女性は他のニュージーランドまたはオーストラリアの女性より多くの量を、少なくとも週に一度食べると報告しているが、全てのニュージーランド女性と比較すると、彼女らの体重は重いため、理論的には、妊婦のためのPTWIを超えることなく、より多くの魚を消費することが可能である。

調査結果から、オーストラリア又はニュージーランドの妊娠可能年令の多くの女性は、週間あたり魚の最大勧告量を超えるほど大量の魚を消費していることはありそうもないと考えられる。
それに加えて、実生活において、人々は長期にわたって1つ以上の魚のタイプを消費するので、水銀濃度の高い魚のモデルは『最悪の場合』と考えられ、魚中の水銀レベルはこのモデルで仮定される280μgHg/kgより少ないものと考えられる。

妊婦のためのアドバイス

魚の定期的な消費は、栄養的な効果をもたらすが、一方で水銀の暴露に係わる未解決で現在する不安を考慮すれば、妊婦(妊娠を考えている女性を含む)は、以下の特定の種類の魚の消費は、1週間当たり4食迄(1食平均、約150gの魚を含むだろう)に制限すべきである。

サメ/フレーク、エイ、メカジキ、バラマンディ、ギンサワラ、オレンジラフィー、リング、ミナミマグロと地熱水域の魚
マグロ缶詰を含むその他の魚は、好みに応じて頻繁に消費しても差支えない。できるだけ、いろいろな魚を食べることが望ましい。


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