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14年度 厚生労働科学研究費補助金(生活安全総合研究事業)分担研究報告書

食品中の有害物質等の評価に関する研究
主任研究者 国立医薬品食品衛生研究所 松田 りえ子
分担研究者 大阪府立公衆衛生研究所 堀 伸二郎
協力研究者 大阪府立公衆衛生研究所 桑原 克義,阿久津 和彦
    新潟県保健環境科学研究所 酒井 洋、樋口 鈴輔


PCB及び水銀試験法の開発に関する研究

要旨

1. PCB

1)アルカリ分解、フロリジルカラム精製/キャピラリーカラムーガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)によるPCB異性体分析法を確立した。
2)従来法(アルカリ分解/パックドカラム/ECD-GC、数値化法)とGC/MS法の比較を行った。魚介類(16試料)を用いて、分析値の比較を行った結果、総PCB濃度においては従来法とGC/MS法との間で差異が認められた。すなわち、従来法では眞値より低い値になることが明らかになった。

2. 水銀
1)従来法を用いて総水銀及びメチル水銀の測定を行った。
2)メチル水銀については、従来法のパックドカラムECD/GC法よりより精密なキャピラリーカラムGC/MS法を開発した。従来法との比較検討の結果、両分析法の間に高い相関が認められた。
3)マグロ類中メチル水銀の実態調査は、日本で常食されている4種類(インドマグロ、キハダマグロ、メ バチマグロ、ホンマグロ)のマグロについて総水銀及びメチル水銀を測定した。
各マグロのメチル水銀濃度の平均値は、インドマグロ(10試料)1.06 mg/kg(0.68-2.0)、キハダマグロ(26試料)0.24 mg/kg(0.05-0.46)、メバチマグロ(11試料)0.96 mg/kg(0.41-2.3)、ホンマグロ(12試料)0.99 mg/kg(0.29-4.2)であった。

I. PCB試験法の開発に関する研究

(略)


II. 水銀試験法の開発に関する研究

A.研究目的
魚介類中の総水銀の分析法は環流式湿式分解-還元気化原子吸光光度法が採用されている。水銀の場合、一般に用いられる高温のフレーム原子吸光光度法を用いるより還元気化または加熱気化したのち、室温の吸収セル中に水銀蒸気を導入する冷原子吸光光度法の法が著しく感度が高い。
 メチル水銀に関しては塩酸酸性ベンゼン抽出-システイン転溶-塩酸酸性ベンゼン再抽出/パックドカラム-ECD-GC(公定法)が一般的に行われている。しかしながら、検出器であるパックドカラム-ECD/GCは下記のような問題がある。
 パックドカラム仕様のGCは現在殆ど生産されていない。ECD検出器にパックドカラムを装着すると、カラム中の液相が溶出し、ECD検出器が汚れピークのドリフト等がおこり、正確な定量が困難になる。そこで、パックドカラムをキャピラリーカラムに変更して高感度。高精度のメチル水銀の測定法を開発する。

B.研究方法

1. 試薬・試料
 試料:日本で常食されている4種類(インドマグロ、キハダマグロ、メ バチマグロ、ホンマグロ)47試料のマグロについて総水銀及びメチル水銀を測定した(表1)。
 試薬:(1)硫酸:精密分析用、(2)硝酸:有害金属測定用、(3)過塩素酸:特級、(4)尿素溶液(10%):特級尿素50 gを水に溶かして500mLとする。(5)硫酸溶液〔硫酸(1+1)〕:水250mLをビーカーにとり、これを冷却し、かき混ぜながら精密分析用硫酸250mLを徐々に加える。(6)還元液〔塩化すず(II)溶液〕:精密分析用塩化第一すず(2水塩)10gに硫酸(1+20)60mLを加え、かき混ぜながら溶かして水で100mLとする。(7)水銀標準液(10μgHg/mL):原子吸光分析用水銀標準原液1000 ppm(2mLを200mLのメスフラスコにとり、硝酸5m1を加え、水を標線まで加える。(8)校正用水銀標準液(0.1μgHg/mL):100mLのメスフラスコに約80mLの水を入れ、硫酸(1+1)5mLを加えたのち、水銀標準液(10μgHg/mL)1mLをとり、水を標線まで加える。本液1mLは水銀100ngを含む。
(9)L一システイン・酢酸ナトリウム溶液:特級L一システイン塩酸塩一水和物1.0g、特級酢酸ナトリウム三水和物0.8g及び一級硫酸ナトリウム(無水)12. 5gを水に溶かして100mLとする。(使用時に調製する)(10)塩化メチル水銀標準原液:市販の塩化メチル水銀(II)10μg/mL(Hgとして)ベンゼン溶液を用いる。検量線:上記の標準原液をベンゼンで希釈し、0.005-0.1μg/mLの標準溶液を段階的に調製する。

2. 装置及び器具

1)総水銀
 水銀測定装置:平沼産業社製
2)メチル水銀
 Me-Hg(パックドカラム)
 GC:日立 263-50 (ECD);カラム:3mmI.D. x 1m ;充填剤:10% Thermon-Hg Chromosorb W 80/100 AW-DMCS1m;カラム温度:165℃; 注入口温度:200℃; 検出器温度:200℃;キャリアーガス:N2(50mL/min)
 Me-Hg(キャピラリーカラム)
 GC:Agilent Technologies 6890N(ECD);カラム:ULBON HR-Thermon-Hg, 0.53mmI.D. x 15m;カラム温度:160℃; 注入口温度:200℃; 検出器温度:230℃;キャリアーガス:He(10mL/min)

3.分析方法

1) 総水銀
 試料を酸分解した後、塩化すず(II)で水銀(II)を還元する。この溶液に通気して発生する水銀蒸気による原子吸光を波長235.7mmで測定し、水銀を定量する、還元気化原子吸光法で測定した。(図1)。
2)メチル水銀
 前処理試料10g(0.01gまで)をビーカー50mLに採取し、水20mLを加えディスパーサーでホモジナイズする。このビーカーの試料及びディスパーサーに付着した試料を35mLで分派ロート(300mL)に洗いこみ、さらに濃塩酸14mL、塩化ナトリウム10g、ベンゼン70mLを加え約5分間激しく振り混ぜたものを350mL遠沈管に移し変え3000回転10分間遠心分離する。遠沈管のベンゼン層(上層)40mLを100mL分派ロートに分取し、中性になるまで4-5回20%NaCl溶液で水洗する。これにL一システイン溶液6mLを加え2分間振とうし10分間以上静置する。この水屑2mLを100mLの分派ロートに分取し、さらに6N塩酸1.2mL、ベンゼン4mLを加え10分間振り混ぜる。10分間静置した後、水層を捨て、ベンゼン層を脱水して共栓付き試験管に移し、試験液とする(図2)。

(1)Me-Hg濃度計算方法
計算式(定量下限値0.01mg/kg)
塩化メチル水銀(Hg mg/kg)=AXBXD/CXF/EX1/G
A:検量線より求めた塩化メチル水銀(Hgとして)mg/L
B:最終段階で分画のために添加したベンゼン量mL
C:分離回収システイン溶液 mL
D:システイン溶液添加重 mL
E:分離回収したベンゼン量 mL
F:添加ベンゼン mL
G:試料採取量 g

(2)Me-Hg検量線作成方法
検量線:Me-Hg高濃度液から希釈し、0.005〜0.1ppmの標準溶液を段階的に作成する。

C. 結果及び考察

1.還元気化原子吸光法のバリデーション
還元気化原子吸光法による総水銀分析法(ベンゼン抽出は2回行った)を魚類を用いて分析法の評価を行った。
マグロを用いて添加回収試験(n=6)を行った結果、総水銀の添加回収率は98%(変動係数は4.5)と良好な結果が得られた。
2. マグロ中の総水銀分析結果
還元気化原子吸光法を用いてマグロ47試料の総水銀を測定した結果を表2に示した。
各マグロ中総水銀濃度の平均値はインドマグロ(8試料)1.27ppm (0.79-2.60)、キハダマグロ(16試料)0.30ppm (0.09-0.54)、メバチマグロ(11試料)1.23ppm (0.46-3.10)、本(クロ)マグロ(12試料)1.43ppm (0.39-6.10)であった。本結果からマグロ類には総水銀が高濃度含まれていることが明らかになった。
 他のマグロ類に較べて低い総水銀値を示したキハダマグロの魚体重平均値は45kgであり、他のマグロ類(インドマグロ(85kg)、メバチマグロ(86kg)、本(クロ)マグロ(116kg))にくらべて魚体重量が低かった。すなわち、マグロ類の総水銀蓄積量は魚体重(魚齢)に大きく影響されることが考えられる。
3. マグロ中のメチル水銀分析結果
マグロ類中メチル水銀の実態調査は、日本で常食されている4種類(インドマグロ、キハダマグロ、メバチマグロ、ホンマグロ)のマグロについてメチル水銀を測定した。  各マグロのメチル水銀濃度の平均値は、インドマグロ(10試料)1.06 mg/kg(0.68-2.0)、キハダマグロ(26試料)0.24 mg/kg(0.05-0.46)、メバチマグロ(11試料)0.96 mg/kg(0.41-2.3)、ホンマグロ(12試料)0.99 mg/kg(0.29-4.2)であった。(表2)。
メチル水銀/総水銀比(%)の平均値はインドマグロ87%、キハダマグロ79%、メバチマグロ79%、本(クロ)マグロ73%で、総水銀の70%以上がメチル水銀であることが確認できた。
4.メチル水銀分析におけるキャピラリーカラムの検討
 ULBONHR-Thermon-Hg (0.53mm×15m) キャピラリーカラムを用いてメチル水銀のカラム分離及びピーク形状等を検討した結果、本カラムは分離及びピーク形状等、メチル水銀測定に十分適用できることが明らかになった。検量線も0.05ppm-0.1ppmの範囲で良好な直線性(R2=0.9999)が得られた。
 マグロ試料(n=10)及びその他の魚種(n=26)についてパックドカラム法及びキャピラリーカラム法によりメチル水銀の定量を試みた。
 両測定値の相関係数はマグロでR2=0.999(図4)、その他の魚種でR2=0.955(図3)というように、キャピラリー法は従来法(公定法)とよく一致した。この結果は、食品中のメチル水銀測定においてキャピラリーカラム-ECD-GCの可能性を示唆するものである。

D.結論

1.従来法を用いて総水銀及びメチル水銀の測定を行った。
2.メチル水銀については、従来法のパックドカラムECD/GC法より精密なキャピラリーGC/MS法を開発した。従来法との比較検討の結果、両分析法の間に高い相関が認められた。
3.マグロ類中メチル水銀の実態調査は、日本で常食されている4種類(インドマグロ、キハダマグロ、メ バチマグロ、ホンマグロ)のマグロについて総水銀及びメチル水銀を測定した。
各マグロのメチル水銀濃度の平均値は、インドマグロ(10試料)1.06 mg/kg(0.68-2.0)、キハダマグロ(26試料)0.24 mg/kg(0.05-0.46)、メバチマグロ(11試料)0.96 mg/kg(0.41-2.3)、ホンマグロ(12試料)0.99 mg/kg(0.29-4.2)であった。
E.研究発表

1.論文発表
なし
2.学会発表
なし
F.知的所有権の取得状況
なし



表1 分析試料
図


表2 マグロ類中の総水銀及びメチル水銀濃度


表3 パックドカラムとキャピラリーカラム分析法によるメチル水銀定値の比較


図1 給水銀分析フローシート


図2 メチル水銀分析フローシート


図3

図4 マグロ中のメチル水銀分析値の比較
図4
パックドカラム(Hg mg/kg)
f(x)=9.751998E-1*x+1.125379E-2
R^2=9.997149E-1


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