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アイルランド食品安全局の要請による

背根神経節のBSE感染性に関するリスク評価



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アイルランド食品安全局の要請による
背根神経節のBSE感染性に関するリスク評価






承認:
               
Philip J Comer
DNVコンサルティング営業主任


Job No.100103
改訂第3版
2001年8月2日


背根神経節のBSE感染因子に関するリスク評価


作成記録

改訂 発行日 作成 査読 承認 コメント
0 2001年5月14日 Philip Comer John Spouge Philip Comer 検討案
1 2001年5月24日 Philip Comer John Spouge Philip Comer 改訂案
2 2001年7月18日 Philip Comer John Spouge Philip Comer 最終案
3 2001年8月2日 Philip Comer John Spouge Philip Comer 最終稿



実施概要


2000年にアイルランドで、国内消費用に販売されている牛肉に関して、背根神経節に存在する感染性に起因するBSE感染因子への曝露のリスクについて評価が実施され、併せて牛肉の脱骨によるリスクの低減に対する評価が実施された。

背根神経節(DRG)は末梢神経系の一部であり、脊柱の中に位置している。背根神経節は脊髄につながっているが、屠殺においてせき髄が特定部位として除去される際、脊髄とともに除去されるわけではない。Tボーンステーキやリブ肉などの牛肉の切り身が、脊柱がついたままで消費者に販売されている場合もある。したがって、消費者は感染物質に曝露されている可能性がある。

アイルランドでは2000年に約190万頭のウシが屠殺されたが、国内で消費されたのはわずか20万5,700頭(11%)であった。国内消費用に屠殺されたウシの5%は3歳を超えており、またこの年齢層のウシは屠殺されたウシ全体の30%を占めていた。アイルランドにおけるBSE感染に関する統計モデルによると、2000年は、BSEの臨床症状発現前の1暦年にと殺されたものは79頭と推定される。この79頭のうち国内市場に出荷されたのはわずか0.9頭であった。BSEの臨床症状発現前の1暦年に屠殺されたウシは、臨床症状が発現したウシほどではないが、有意の水準のBSE感染性を持っていると推定される。また、症状発現の1暦年より前に屠殺されたウシが有意の感染性を持っている可能性はないと推定される。同モデルでは、症状発現前の1暦年に屠殺されたウシには、3歳未満のものはいなかったと推測している1。さらにこのようなウシの数は、2000年の79頭から2001年には38頭へ、そして2002年には20頭に減少すると予測している。予測されるリスクレベルも、これらの数の減少に伴って低減すると考えられる。この予測が実現するか監視・チェックする必要がある。

リスク評価には、確率的リスク評価手法を使うイベントツリーを採用した。この方法では入力データの範囲や不確実性を評価することができる。評価における主要な仮定は1)精肉店で牛肉を脱骨する際、肉に残るDRGの割合、2)Tボーンステーキなどの切り身の骨に存在する摂取されるおそれのあるDRGの割合、に関するものである。前者について2つの対立仮説を検討した。ケース1では肉とともに切り取られるDRGを1%と仮定し、一方ケース2ではこれを0.1%のみとした。後者については、正規分布で第95百分位数の範囲が5%から95%である分布を採用した。 DRG特別部会は、アイルランドで販売されている骨付き牛肉の量に関して情報を収集するため、食肉処理場と精肉店の調査および消費者調査を実施した。処理場の調査から、Tボーンステーキは国内消費用に屠殺されたウシのほぼ半数(44%)から生産されていることが分かった。

ケース1.1(Tボーンステーキやリブ肉などが販売されている場合)で摂取されている感染因子の総量は、0.6 ヒト経口 ID50、第95百分位数の範囲は0.003から110と推定される。感染因子はアイルランドの牛肉消費者全般に広まっており、牛肉を定期的に食べる人(牛肉を週に1回以上摂取する人―調査対象者の67%)の平均個人リスクは、1人当たり年間2×10-7 ヒト経口 ID50、第95百分位数の範囲は1×10-9から4×10-5と推定される。Tボーンステーキを頻繁に(週に1回以上)食べる人の最大個人リスクは1人当たり年間7×10-6 ヒト経口 ID50、第95百分位数の範囲は4×10-8から1×10-3と推定される。

個人的リスクの分布は図1a)のリスク展望尺度に示すとおりである。これは対数尺度であり、英国安全衛生庁(HSE)が使用しているリスク受容基準を比較のために示した。同図から、平均個人リスクの中央値は通常受け入れ可能と考えられる範囲内であるが、値の範囲は最大許容限度に向かって広がっていることが明らかである。

すべての牛肉が骨を除去して販売された場合、摂取される感染因子総量の中央値は0.08 ヒト経口 ID50(ケース1.2)と推定され、個人的リスクの中央値は3×10-8 ヒト経口 ID50に低減する。このケースの分布は図1b)に示すとおりで、ほとんどがリスク受容レベルである100万分の1を下回っている。

前述のとおり、アイルランドにおけるBSE感染モデルでは、BSEの臨床症状発現前の1暦年に屠殺されたウシに3歳未満のものは含まれていないと推測している。これは、国内消費用に出荷されるウシの95%を占める3歳未満のウシの屠殺にはリスクが伴わないことを示唆するものである。しかし、統計的評価では、3歳未満であっても症状発現前の1暦年に屠殺されるウシがいる可能性が若干あると推定している。リスク評価では、3歳を超えて屠殺されるウシの全体的リスクについて、93%と推定している。したがって、ウシ全体ではなく、3歳を超えるウシの骨付き肉の販売を禁止することにより、リスクの90%以上が低減される。

対立シナリオ(ケース2)では、処理業者が脱骨する際に切り取られる感染因子の量について、あまり悲観的ではない仮説を立て(ケース1が1%であったのに対して0.1%とする)、評価を行った。このように仮定に変更を加えても、骨付き肉についてはあまり大きな差は生じなかった(摂取される感染因子の総量はケース1が0.6 ヒト経口 ID50であったのに対し、0.5 ヒト経口 ID50であった)。これは、曝露の大半は肉に付いている骨から生じているためである。肉が骨なしで売られている場合、このような仮定の変更によりリスクが10分の1低減する。摂取される感染因子の総量は0.008 ヒト経口 ID50に減少し、平均個人リスクは1人当たり年間3×10-9 ヒト経口 ID50に低減する。この後者の結果は図1b)に示すとおりであり、この分布は「広く受け入れ可能な」レベルである100万分の1をすべて下回っている。

リスクを評価するもうひとつの手法は、有意の感染性を持つウシの骨付き肉を食べた人の感染因子への曝露を検討することである。1個のDRGに存在する感染因子は0ないし22 ヒト経口 ID50、中央値は0.1と推定されている。任意のTボーンステーキがDRGを含む可能性は約50%であり、全DRG(平均重量は0.5g)の72%は、含まれる感染因子が1 ヒト経口 ID50未満である。2000年に摂取された1枚のTボーンステーキが、1 ヒト経口 ID50以上の感染因子を持っていた可能性は7×10-7(約100万分の1)と推定される。

a) ケース1.1 平均・最大個人リスク

平均・最大個人リスクのグラフ

b) ケース1.2および2.2 骨なしで販売される肉全体

骨なしで販売される肉全体のグラフ

図1. 感染因子摂取の個人的リスク(ヒト経口 ID50/人/年)


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1  確率的評価では、臨床症状発現の1暦年前に屠殺された牛は0頭、第95百分位数の範囲は0から3と推定される。


目次


1. 序論
 1.1 背景
 1.2 研究の目的
 1.3 手法

2. 牛肉の生産および消費
 2.1 牛肉の生産
 2.2 DRGの位置
 2.3 牛肉の消費
 2.4 DRGへの曝露

3. アイルランドにおけるBSE
 3.1 概況
 3.2 屠殺されたウシの感染性
 3.3 拠り所となる条件

4. 中枢神経系組織の感染因子
 4.1 ウシの感染量
 4.2 種の壁
 4.3 ヒトの感染量

5. リスク評価
 5.1 全般的手法およびリスクの尺度
 5.2 イベントツリー
 5.3 リスク評価
 5.4 結果
  5.4.1 ケース1
  5.4.2 ケース2
  5.4.3 感染しているウシからの曝露

6. 参考文献

添付資料

添付資料I 確率的リスク評価のための入力データ


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