| ○ |
こうした背景を踏まえ、平成10年10月21日に、厚生科学審議会先端医療技術評価部会の下に、「生殖補助医療技術に関する専門委員会」(以下「専門委員会」という。)が設置され、この問題を幅広く専門的立場から集中的に検討することとされた。
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| ○ |
生殖補助医療のあり方については、医療の問題のみならず、倫理面、法制面での問題も多く含んでいることから、専門委員会においては、医学、看護学、生命倫理学、法学といった幅広い分野の専門家を委員として検討が行われた。
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| ○ |
また、この問題は国民生活にも大きな影響を与えるものであり、広く国民一般の意見を聞くことも求められることから、専門員会においては、宗教関係者、患者、法律関係者、医療関係者等の有識者から5回にわたるヒアリングを行い、また、一般国民等を対象として平成11年2月に行われた「生殖医療技術についての意識調査」の結果も踏まえ、この問題に関する慎重な検討が行われた。
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| ○ |
さらに、生殖補助医療をめぐる諸外国の状況を把握するために、平成11年3月には、イギリス、ドイツ等ヨーロッパにおける生殖補助医療に係る有識者からの事情聴取、平成12年9月には、イギリスにおいて生殖補助医療に係る認可、情報管理等を管轄するHFEA(ヒトの受精及び胚研究に関する認可庁)の責任者との意見交換が行われた。
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| ○ |
なお、生殖補助医療には、夫婦の精子・卵子・胚のみを用いるものと提供された精子・卵子・胚を用いるものがあり、また、人工授精、体外受精、胚の移植、代理懐胎等様々な方法が存在しているところである。AID、提供された精子による体外受精、提供された卵子による体外受精、提供された胚の移植、代理懐胎(代理母、借り腹)といった精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方については、その実施に当たって、夫婦以外の第三者の精子・卵子・胚を用いることとなることや妻以外の第三者が子を出産することから、親子関係の確定や商業主義等の観点から問題が生じやすいため、専門委員会において、これらを適正に実施するために必要な規制等の制度の整備等を行う観点から検討が行われた。
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| ○ |
専門委員会は、2年2か月、計29回にも及ぶ長期にわたる慎重な検討を行い、平成12年12月に専門委員会としての精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての見解を「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」(以下「専門委員会報告」という。)としてとりまとめた。
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| ○ |
専門委員会報告は、インフォームド・コンセント、カウンセリング体制の整備、親子関係の確定のための法整備等の必要な制度整備が行われることを条件に、代理懐胎を除く提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を認めるという内容であったが、同時に、その内容は精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の基本的な枠組みについて検討結果を示すにとどまるものであって、その細部については検討しきれていない部分も存在したことから、こうした点について、別途更なる詳細な検討が行われることを希望するものであった。 |
| ○ |
精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の具体化に関する更なる検討を指摘した専門委員会報告を踏まえ、平成13年6月11日に専門委員会報告の内容に基づく制度整備の具体化のための検討を行うことを目的として厚生科学審議会の下に生殖補助医療部会が設置された。
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| ○ |
専門委員会は、医学(産婦人科)、看護学、生命倫理学、法学の専門家により構成されていたが、本部会においては、小児科、精神科、カウンセリング、児童・社会福祉の専門家や医療関係、不妊患者の団体関係、その他学識経験者も委員として加わり、より幅広い立場から検討を行った。
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| ○ |
審議に当たっては、諸外国における生殖補助医療の状況や生殖補助医療における精神医学、心理カウンセリング、遺伝カウンセリング等も含め、生殖補助医療について有識者から5回にわたるヒアリングを行い、また、一般国民を対象として平成15年1月に行われた「生殖補助医療技術についての意識調査」(主任研究者 山縣然太郎 山梨大学教授)の結果も踏まえ、1年9ヶ月、計27回にわたり、この問題に対する慎重な検討を行った。
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| ○ |
審議の進め方として、専門委員会においても議事録を公開していたところであるが、本部会においては、より国民に開かれた審議を進めるため、審議も公開で行った。また、国民の意見をインターネットなどを通じて常時募集したほか、平成15年1月には、それまでの議論を中間的にとりまとめた検討結果についても意見を募集し、提出された意見についてはその都度部会で配布し、審議の素材とした。
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| ○ |
本部会においては、専門委員会報告の内容を基にその具体的な制度整備について議論がなされたが、具体化の議論に当たっては、前提となる専門委員会報告の内容自体についても再度検討しており、中には出自を知る権利の内容のように専門委員会報告と異なる結論となった箇所もある。こうした箇所については、結論に至る考え方も含めて本論において説明を行っている。
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| ○ |
なお、精子・卵子・胚の提供等により生まれた子についての民法上の親子関係を規定するための法整備については、平成13年2月16日に法務大臣の諮問機関である法制審議会の下に生殖補助医療関連親子法制部会が設置され、本部会の検討状況を踏まえ、現在、審議が継続されているところである。 |
| ○ |
生命倫理の観点から、人為的に生命を新たに誕生させる技術である生殖補助医療の利用はむやみに拡大されるべきではなく、生殖補助医療を用いなくても妊娠・出産が可能であるような場合における生殖補助医療の安易な利用は認められるべきではないことから、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる人を、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない人に限ることとする。
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| ○ |
精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、それによらなければ子を持つことができない場合のみに限られるべきであることから、受精及び妊娠可能な自己の精子・卵子を得ることができる場合には、精子・卵子の提供を受けることはできないこととする。
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| ○ |
なお、「自己の精子・卵子を得ることができる」ことの具体的な判定については、医師が専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とするが、授精及び妊娠する可能性がないと考えられる精子・卵子しか得ることができない場合は、上記の「精子・卵子の提供によらなければ子を持つことができない場合」に当てはまるものと考えられることから、「自己の精子・卵子を得ることができる」とは判断できないものと考えられる。
こうしたことを含め、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容は、精子・卵子・胚ごとに設けることとする。
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| ○ |
法律上の夫婦以外の独身者や事実婚のカップルの場合には、生まれてくる子の親の一方が最初から存在しない、生まれてくる子の法的な地位が不安定であるなど生まれてくる子の福祉の観点から問題が生じやすいことから、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる人を、法律上の夫婦に限ることとしたものである。
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| ○ |
また、加齢により妊娠できない夫婦については、その妊娠できない理由が不妊症によるものでないということのほかに、高齢出産に伴う危険性や子どもの養育の問題などが生じることが考えられるため、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の対象とはしないこととする。
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| ○ |
「加齢により妊娠できない」ことの判定については、医師が専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、具体的には、自然閉経の平均年齢である50歳ぐらいを目安とすることとし、それを超えて妊娠できない場合には、「加齢により妊娠できない」とみなすこととする。 |
| ○ |
提供された卵子による体外受精は、卵子の採取のために、卵子の提供者に対して排卵誘発剤投与、経腟採卵法等の方法による採卵針を用いた卵子の採取等を行う必要があり、提供された卵子による体外受精を希望する当事者以外の第三者である卵子の提供者に対して排卵誘発剤の投与による卵巣過剰刺激症候群等の副作用、採卵の際の卵巣、子宮等の損傷の危険性等の身体的危険性を常に負わせるものである。
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| ○ |
このため、提供された卵子による体外受精は、身体的危険性を負う人が当事者に限られる提供された精子による体外受精とは、提供者に与える危険性という観点から本質的に異なるものである。
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| ○ |
「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に照らせば、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を行うに当たっては、当該生殖補助医療を行うために精子・卵子・胚の提供等を行う人にいたずらに身体的危険性を負わせてはならず、本部会においても医学的な面から安全性について十分な議論を重ねたところである。
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| ○ |
これらを踏まえ、安全性の原則と卵子の提供者が負う危険性との関係については、第三者が不妊症により子を持つことができない夫婦のためにボランティアとして卵子の提供を行う場合のように、卵子の提供の対価の供与を受けることなく行われるなど、他の基本的考え方に抵触しない範囲内で、卵子の提供者自身が卵子の提供による危険性を正しく認識し、それを許容して行う場合についてまで卵子の提供を一律に禁止するのは適当ではないことから、これを容認する。
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| ○ |
なお、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、提供された卵子による体外受精を受けることができる人を「卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」に限定することとする。
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| ○ |
「卵子の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な基準は、専門的見地から行うべきものであることから、医師の裁量とする。
ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、妻に妊娠の継続が可能な子宮があり、かつ、臨床的診断として自己の卵子が存在しない場合や存在しても事実上卵子として機能しない場合などの卵子の提供を受ける医学的な理由がある場合(別紙2「卵子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)に限ることとする。
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| ○ |
なお、安全性の観点等により、より自然に近い受精方法が望ましいことから、提供された卵子による卵細胞質内精子注入法(ICSI:顕微授精)により体外受精が行われるのは、提供された卵子による通常の体外受精・胚移植では妊娠できないと医師によって判断された場合に限ることとする。 |
| ○ |
提供された胚の移植については、提供された胚による子は、養育することとなる提供を受ける夫婦の両方の遺伝的要素が受け継がれないことから、親子の遺伝的な繋がりを重視する血縁主義的な立場からは慎重な意見があるところである。
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| ○ |
しかし、III1(2)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の施術別の適用条件」にあるように、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により生まれてくる子が父母の両方の遺伝的要素を受け継がないということのみをもって、当該生殖補助医療が子の福祉に反するとは言えないと考えられることから、各々の生殖補助医療そのものの妥当性の判断基準とするのは適当ではなく、生まれた子の福祉のために安定した養育のための環境が十分に整備され、子の福祉が担保された場合においては、移植できる胚を他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚であって、当該夫婦が使用しないことを決定したものに限定した場合、安全性など6つの基本的考え方に照らして必ずしも問題があるとは言えないことから、こうした胚に限り、胚の移植を容認することとする。(以後、「胚」とは、夫婦が自己の胚移植のために自己の精子・卵子を使用して得た胚でないことが文脈上明らかである場合を除き、「他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚であって、当該夫婦が使用しないことを決定したもの」のことを言う。)
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| ○ |
なお、本部会の議論においては、現状において、生まれた子の安定した養育のための環境整備が不十分であるので、当分の間、提供された胚の移植は認めないという意見もあったところである。
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| ○ |
また、専門委員会報告においては、胚の提供が十分に行われないことも考えられることから、胚の提供を受けることが困難な場合に限り、例外として、「精子・卵子両方の提供を受けて得られた胚の移植を認める」とされていた。
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| ○ |
しかし、不妊症のために子を持つことができない夫婦が子を持つためとはいえ、愛情を持った夫婦が子を持つために得た胚ではなく、匿名関係にある男女から提供された精子と卵子によって新たに作成された胚については、夫婦間の胚に比して、生まれてくる子がより悩み苦しみ、アイデンティティの確立が困難となることが予想されるところである。
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| ○ |
さらに、匿名関係にある男女から提供された精子と卵子によって新たに胚を作成することは、生命倫理上問題があるとの意見もあった。
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| ○ |
このため、本部会では、精子・卵子両方の提供によって得られる胚の移植は、認めないこととする。
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| ○ |
なお、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、胚の移植を受けることができる人を原則として「胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」に限定することとする。
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| ○ |
「胚の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な判定は、専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、男性に精子の提供を受ける医学上の理由があり(別紙1「精子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)、かつ女性に卵子の提供を受ける医学上の理由がある(別紙2「卵子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)こととする。
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| ○ |
III5(3)「実施医療施設における倫理委員会」で述べるように、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療については、個々の症例について実施医療施設の倫理委員会において実施の適否が審査されることとなるが、提供された胚による生殖補助医療については、提供を受ける夫婦のいずれの遺伝的要素も受け継がない子が誕生することとなることから、これに加え、個別の症例ごとに、公的管理運営機関の審査会にて、提供を受ける夫婦が子どもを安定して養育することができるかなどの観点から実施の適否を審査することとした。
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| ○ |
なお、卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦であって、卵子の提供を受けることが困難な場合において、提供された胚の移植を受けることについては、当分の間、認めないこととするが、この件については将来再検討を行うものとする。 |
| ○ |
代理懐胎には、妻が卵巣と子宮を摘出した等により、妻の卵子が使用できず、かつ妻が妊娠できない場合に、夫の精子を妻以外の第三者の子宮に医学的な方法で注入して妻の代わりに妊娠・出産してもらう代理母(サロゲートマザー)と、夫婦の精子と卵子は使用できるが、子宮摘出等により妻が妊娠できない場合に、夫の精子と妻の卵子を体外受精して得た胚を妻以外の第三者の子宮に入れて、妻の代わりに妊娠・出産してもらう借り腹(ホストマザー)の2種類が存在する。
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| ○ |
両者の共通点は、子を欲する夫婦の妻以外の第三者に妊娠・出産を代わって行わせることにあるが、これは、第三者の人体そのものを妊娠・出産のために利用するものであり、「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」という基本的考え方に反するものである。
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| ○ |
また、生命の危険さえも及ぼす可能性がある妊娠・出産による多大な危険性を、妊娠・出産を代理する第三者に、子が胎内に存在する約10か月もの間、受容させ続ける代理懐胎は、「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に照らしても容認できるものではない。
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| ○ |
さらに、代理懐胎を行う人は、精子・卵子・胚の提供者とは異なり、自己の胎内において約10か月もの間、子を育むこととなることから、その子との間で、通常の母親が持つのと同様の母性を育むことが十分考えられるところであり、そうした場合には現に一部の州で代理懐胎を認めているアメリカにおいてそうした実例が見られるように、代理懐胎を依頼した夫婦と代理懐胎を行った人との間で生まれた子を巡る深刻な争いが起こり得ることが想定され、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に照らしても望ましいものとは言えない。
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| ○ |
このように、代理懐胎は、人を専ら生殖の手段として扱い、また、第三者に多大な危険性を負わせるものであり、さらには、生まれてくる子の福祉の観点からも望ましいものとは言えないものであることから、これを禁止するべきとの結論に達した。
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| ○ |
なお、代理懐胎を禁止することは幸福追求権を侵害するとの理由や、生まれた子をめぐる争いが発生することは不確実であるとの理由等から反対であるとし、将来、代理懐胎について、再度検討するべきだとする少数意見もあった。 |
| ○ |
専門委員会報告においては、精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例として、「精子・卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない場合には、当該精子・卵子・胚を提供する人及び当該精子・卵子・胚の提供を受ける人に対して、十分な説明・カウンセリングが行われ、かつ、当該精子・卵子・胚の提供が生まれてくる子の福祉や当該精子・卵子・胚を提供する人に対する心理的な圧力の観点から問題がないこと及び金銭等の対価の供与が行われないことを条件として、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることとする。」とされていた。
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| ○ |
こうした結論に至った理由として、専門委員会報告では、(1)精子・卵子・胚の提供の対価を受け取ることを禁止することから、提供者がリスクを負うこととなる卵子の提供をはじめとして、精子・卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない事態が起こることも想定されること、(2)我が国においては、血の繋がりを重視する考え方が根強く存在していることから、精子・卵子・胚を提供する人と提供を受ける人の双方が、兄弟姉妹等から提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を希望することも考えられること、等の理由から、提供を受ける夫婦及び提供者に対して兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供による弊害についての十分な説明・カウンセリングが行われ、そうした弊害について正しく認識し、それを許容して行う場合についてまで一律に禁止するのは適当でないというものであった。
なお、兄弟姉妹等が精子・卵子・胚を提供した場合の弊害の発生の可能性を理由として、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供は認めるべきではないとの強い意見もあった。
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| ○ |
本部会においても、精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例を認めるのか、認めるとすればその特例の範囲をどこまで認めるかといった論点を中心に数回にわたる慎重な検討がされた。
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| ○ |
本部会においては、(1)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることとすれば、必然的に提供者の匿名性が担保されなくなり、また、遺伝上の親である提供者が、提供を受けた人や提供により生まれた子にとって身近な存在となることから、提供者が兄弟姉妹等ではない場合以上に人間関係が複雑になりやすく子の福祉の観点から適当ではない事態が数多く発生することが考えられること、(2)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることは、兄弟姉妹等に対する心理的な圧力となり、兄弟姉妹等が精子・卵子・胚の提供を強要されるような弊害の発生も想定されること等から、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供については、当分の間、認めないとする意見が多数を占めた。
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| ○ |
一方、精子・卵子・胚の提供が少なく、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねないことから、匿名での提供がない場合に限って兄弟姉妹等からの提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を認めるべきだという少数意見もあった。
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| ○ |
以上のことから、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供は、当分の間、認めず、精子・卵子・胚の提供者の匿名性が保持された生殖補助医療が実施されてから一定期間が経過した後に、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施の是非について再検討することとする。
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| ○ |
なお、海外の一部の医療施設では、精子・卵子・胚の提供を受けることを希望する者が、自らの兄弟姉妹や友人知人等を提供者として登録することにより、優先的に匿名の第三者から提供を受ける場合があり、こうした提供方法についても、今後、検討され得るものと考える。 |
| ○ |
専門委員会報告においては、出自を知る権利について、「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子は、成人後、当該提供者に関する個人情報のうち、当該提供者を特定することができないものについて、当該提供者がその子に開示することを承認した範囲内で知ることができる。」とされていた。
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| ○ |
こうした結論に至った理由として、専門委員会報告では、提供者の個人情報を知ることは精子・卵子・胚の提供により生まれた子のアイデンティティの確立などのために重要なものではあるが、(1)提供者が開示を希望しない情報についても開示することとすれば、提供者のプライバシーを守ることができなくなること、(2)提供者を特定できる情報を開示することを認めると、生まれた子や提供者の家族関係等に悪影響を与える等の弊害の発生が予想されること、(3)個人情報を広範に開示すると、精子・卵子・胚の提供の減少を招きかねず、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねないこと等を挙げている。
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| ○ |
本部会においては、精子・卵子・胚の提供により生まれた子が知ることができる提供者の個人情報の範囲について、子が希望すれば提供者を特定できる情報を含め開示するのか、あるいは、開示する範囲は提供者が決めることができることとするのかといった論点を中心に数回にわたる慎重な検討がなされた結果、当該生殖補助医療によって生まれた子は提供者を特定できる内容を含め開示請求ができることとするとの結論に至った。
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| ○ |
本部会における結論は専門委員会の結論と異なるものであるが、本部会においては、次のような考え方により、こうした結論に至ったものである。
| ・ |
自己が提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子であるかについての確認を行い、当該生殖補助医療により生まれた子が、その子に係る精子・卵子・胚を提供した人に関する個人情報を知ることは、アイデンティティの確立などのために重要なものと考えられるが、子の福祉の観点から考えた場合、このような重要な権利が提供者の意思によって左右され、提供者を特定することができる子とできない子が生まれることは適当ではない。
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| ・ |
生まれた子が開示請求ができる年齢を超え、かつ、開示に伴って起こりうる様々な問題点について十分な説明を受けた上で、それでもなお、提供者を特定できる個人情報を知りたいと望んだ場合、その意思を尊重する必要がある。
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| ・ |
提供は提供者の自由意思によって行われるものであり、提供者が特定されることを望まない者は提供者にならないことができる。
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| ・ |
開示の内容に提供者を特定することができる情報を含めることにより、精子・卵子・胚の提供数が減少するとの意見もあるが、減少するとしても子の福祉の観点からやむを得ない。
ただし、国民一般への意識調査の結果からは、提供者を特定することができる情報を含めて生まれる子に開示するとしても、一定の提供者が現れることが期待される。 |
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| ○ |
なお、現在のAIDについては、精子の提供は匿名で行われるのが一般的であり、この出自を知る権利の適用について過去に遡って適用することは、提供の際には予期しなかった事態が起こることとなるため、上記の結論については一定の制度整備がなされた後に実施されるべきものと考える。
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| ○ |
開示請求できる者の条件についてであるが、アイデンティティの確立のためには、自らが精子・卵子・胚の提供により生まれた子であるかどうかを含めて確認することが重要であることから、開示請求ができる者については、自らが提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療によって生まれたとわかっている者に限定せず、自らが当該生殖補助医療によって生まれたかもしれないと考えている者についても対象に含めた。
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| ○ |
開示請求ができる年齢については、自己が精子・卵子・胚の提供により生まれてきたこと及び提供者に関する個人情報を知ることによる影響を十分に理解し、開示請求を行うことについて自ら判断できる年齢であることが必要であるが、アイデンティティクライシスへの対応という観点から思春期から開示を認めることが重要であること、民法における代諾養子や遺言能力については15歳を区切りとしていること等を踏まえ、15歳とした。
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| ○ |
開示請求は、書面により開示範囲を指定して行うこととし、開示は書面により行われることとする。
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| ○ |
本部会においては、上記のように出自を知る権利を認めることとしたが、精子・卵子・胚の提供を受けることを希望する夫婦及び提供を希望する者が、出自を知る権利や予想される開示に伴う影響について、あらかじめ了解した上で提供を受け、あるいは、提供することとしなければ、不測の事態が生ずることになるため、こうした事項についてインフォームド・コンセントを行うこととする。
また、出自を知る権利については精子・卵子・胚の提供により生まれた子のアイデンティティの確立などのため重要なものであるが、生まれた子が出自を知る権利を行使することができるためには、親が子に対して提供により生まれた子であることを告知することが重要であるので、その旨インフォームド・コンセントを行うこととする。
なお、実際に出自に関する告知をいつ、どのような形で行うのかは一義的には提供を受けた夫婦の判断に任せられるものであり、このインフォームド・コンセントは当該夫婦に対して出自の告知を一律に強制する趣旨のものではない。
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| ○ |
精子・卵子・胚の提供により生まれた子に対し、提供者に関する個人情報を開示することは、当該子のアイデンティティに関わる重要な問題であり、開示請求があった場合に機械的に開示するという対応では、開示請求者の抱える問題をより複雑化させる場合も生ずると考えられる。
このため、開示の請求を求めてきた者に対し、公的管理運営機関は開示に関する相談に応ずることとし、公的管理運営機関は予想される開示に伴う影響についての説明を行うとともに、開示に係るカウンセリングの機会が保障されていることを相談者に知らせることとする。特に、相談者が提供者を特定できる個人情報の開示まで希望した場合は、その事案の性質上、特段の配慮がなされる必要があると考える。
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| ○ |
また、開示を求めてきた者やその家族等が開示に際して様々な悩みを持つことが考えられるが、III4(4)で述べるように、これらの者は、児童相談所等に相談できることとされており、児童相談所等は、必要に応じて公的管理運営機関と連携を取りつつ、相談に対応することとなっている。
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| ○ |
なお、出自を知る権利については、精子・卵子・胚の提供により生まれた子が、提供者に関する情報を知るものであるが、提供者については、希望した場合、提供を行った結果子どもが生まれたかどうかだけを、公的管理運営機関から知ることができることとする。これは、匿名性が守られる限り、提供者と提供を受ける夫婦や生まれた子の間に何らかの問題が生じることは想定されないためである。 |
| ○ |
提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けることを希望する夫婦は、生まれてくる子の福祉やその子が生まれてくることによる家族関係への影響、生まれてくる子の法的地位、出自を知る権利の問題、提供者の身体的危険性等、当該生殖補助医療に関わる問題点を十分に理解し、それを十分に納得した上で、当該生殖補助医療を受けることを決定すべきである。
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| ○ |
そのためには、当該生殖補助医療を受けることを希望する夫婦が生殖補助医療を受けることを決定する前に、当該生殖補助医療に関する十分な説明を受けることが必要である。
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| ○ |
精子・卵子・胚の提供を受ける者に説明を行う者は、当該生殖補助医療を受けることを希望する者の診療を行う医師であって、生殖に関わる生理学、発生学、遺伝学を含む生殖医学に関する全般的知識を有し、生殖補助医療に関する診療の経験が豊かで、かつ、医療相談、カウンセリングに習熟した医師であることとする。
また、提供による生殖補助医療に関する説明を行うに当たっては、提供を受ける夫婦の状況に応じて法律、心理等の専門性の高い内容についての説明が必要になってくる可能性があることから、説明に際して必要があれば、他の専門職に説明の補足を依頼することができる体制が整備されるべきである。
|
| ○ |
提供を受けることを希望する夫婦は、同一の説明を受けることが望ましいため、原則として同時に揃って説明を受けることとし、また、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療における説明の重要性に鑑み、説明は施術ごとに行われることとする。
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| ○ |
説明の内容としては、医学的事項や提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の諸条件及び生まれた子の権利や福祉などの当該生殖補助医療全般にわたるものとする。(別紙4「精子・卵子・胚の提供を受ける夫婦に対する説明の内容」参照)
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| ○ |
説明の方法は、提供を受ける夫婦が説明を受けた後も当該説明について確認できるよう、説明する医師が説明する内容について記載されている文書を配布した上で、それを用いて説明することとする。
提供を受ける者が再度の説明を求めた場合または担当医師が当該夫婦の理解について不十分であると判断した場合、担当医師または当該医師の指示を受けた他の専門職は、当該提供者に対して繰り返し説明しなければならないこととする。
提供を受ける夫婦は、説明を受けたあと、記名押印もしくは自署による署名を行うことによって説明を受けた確認を行うこととする。 |
| ○ |
精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者(婚姻の届け出をしていないが事実上夫婦と同様の関係にある者を含む。以下同じ。)は、生まれてくる子の福祉やその子が生まれてくることによる家族関係への影響、生まれてくる子の法的地位、出自を知る権利の問題、提供者の身体的危険性等、当該提供に関わる問題点を十分に理解し、それを十分に納得した上で、提供を決定すべきである。
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| ○ |
そのためには、精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者が提供を決定する前に、提供に関する十分な説明を受けることが必要であることから、提供医療施設は、提供者及びその配偶者が提供に同意する前に、提供者及びその配偶者に対し、提供に関する十分な説明を行わなければならない。(提供者に配偶者がいない場合は提供者本人のみに説明するものとする。)
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| ○ |
提供者及びその配偶者に説明を行う者は、生殖に関わる生理学、発生学、遺伝学を含む生殖医学に関する全般的知識を有し、生殖補助医療に関する診療の経験が豊かで、医療相談、カウンセリングに習熟した医師であることとする。
また、説明を行うに当たっては、提供者及びその配偶者の状況に応じて法律、心理などの専門性の高い説明が必要になってくる可能性があることから、説明に際して必要があれば、他の専門職に説明の補足を依頼することができる体制が整備されるべきである。
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| ○ |
提供者及びその配偶者は、同一の説明を受けることが望ましいため、原則として同時に揃って説明を受けることとする。
説明は、期間をあけないで実施される場合には1度の説明でよいこととするが、期間があけば提供する意思に変化がある場合が相当程度あることが想定されることから、1年以上の期間をあけて実施される場合には、再度説明する必要があることとする。
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| ○ |
説明の内容としては、医学的事項や提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の諸条件及び生まれた子の権利や福祉などの、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療全般にわたるものとする。(別紙5「精子・卵子・胚の提供者に対する説明の内容」参照)
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| ○ |
説明の方法は、提供者及びその配偶者が説明を受けた後も当該説明について確認できるよう、説明する医師が説明する内容について記載されている文書を配布した上で、それを用いて説明することとする。
提供者及びその配偶者が再度の説明を求めた場合、または担当医師が提供者及びその配偶者の理解について不十分であると判断した場合、担当医師または当該医師の指示を受けた他の専門職は、当該提供者及びその配偶者に対して繰り返し説明しなければならないこととする。
提供者及びその配偶者は、説明を受けたあと、記名押印もしくは自署による署名を行うことによって説明を受けた確認を行うこととする。 |
| ○ |
専門委員会報告においては、親子関係について、「妻が提供された精子・胚による生殖補助医療により妊娠・出産した場合は、その夫の同意が推定される」ことを法律に明記するとされている。
提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療によって出生した子についての親子関係を規律するための法整備については、法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会において審議が進められているところであるが、同部会の審議に当たり、同意書の開示の有無、その条件等が、父子関係の決定の要素である夫の同意に係る議論に影響を与えることとなることから、同意書の開示の有無、その条件等について大枠の議論を行った。
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| ○ |
当該生殖補助医療に係る親子関係の争いの具体例としては、精子の提供を受けた夫が精子の提供により生まれた子との間に血縁関係がないため、父子関係の否定を主張する嫡出否認訴訟などが想定されるが、こうした争いがある場合に同意書は親子関係を確定する重要な証拠となる。
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| ○ |
調停や訴訟となった場合は、裁判所から文書の所持者に対し、その提出を求め(文書送付の嘱託)、また、命ずる(文書提出命令)ことができるが、調停や訴訟に至る前に、当事者が同意書の有無を確認し、同意書を公的管理運営機関から入手できるようにすることは、調停や訴訟に至る前に争いが解決することや調停や訴訟となった場合でもその準備が円滑に進むことが期待される。
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| ○ |
このため、親子関係について争いがある場合は、調停や訴訟に至っていない場合でも、争いとなっている親子関係について同意書に署名する立場にある者、親子関係の争いの当事者となっている子、その他これに準じる者は、公的管理運営機関に対して、同意書の開示請求をすることができることとした。
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| ○ |
なお、本事項については、生殖補助医療関連親子法制部会における議論の前提として同意書の開示について一定の整理をしておくことが要請されたため検討を行ったものであり、紛争解決手続きの実務とも関連性が強く、加えて、本事項は同意書という出自に関わる重要な個人情報の開示に関わる問題であることから、制度の運用が開始されるまでにその適正な実施について別途精査される必要があると考える。
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| ○ |
同意を撤回する文書についても同意書の開示請求と同様の対応をすることとする。 |
| ○ |
本報告書の結論の実効性を担保するための規制の態様については、学会の自主的な指針による規制、法律に基づく指針による規制、実施医療施設及び提供医療施設の指定及びこれらの施設に対する指導監督、罰則を伴う法律による規制等様々な態様が考えられるところであるが、「生命、自由及び幸福の追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(憲法第13条)こととされており、国民に対して法律に基づく規制をすることは慎重な検討を必要とするものであり、その中でも特に、身体の自由の制限または財産権の侵害を内容とする最も重い規制の態様である罰則を伴う法律によって規制することは、特に慎重とならなければならない。
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| ○ |
こうした規制のあり方に関する基本的な考え方は、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療に関する規制についても当てはまるものと言え、当該生殖補助医療に関する規制の態様については、国民の幸福追求権と公共の福祉の観点との均衡を勘案し、それが過度なものとならないよう留意する必要がある。
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| ○ |
また、生殖補助医療は、先端医療技術であり、現在においても急速な技術進歩が継続している分野であることから、本専門委員会における結論のうち、急速な技術進歩に法律の規定を合わせていくことが困難と考えられる範囲のものについては、法律による規制になじむものとは言えず、規制を現実に柔軟に対応させるため、規制の実効性を担保できる他の態様の規制が検討されるべきである。
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| ○ |
これらの観点を総合的に勘案して、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療に関する規制の態様は、規制が過度なものとならないよう、また、規制が現実に柔軟に対応できるよう、規制の実効性が担保できる範囲内の必要最低限のものとすることが適当である。
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| ○ |
このため、以下の理由により以下のものについては、罰則を伴う法律によって規制することが適当であることとするが、最も重い規制の態様である罰則を伴う法律によって規制する範囲については他の法律における罰則との均衡をも鑑み、立法過程において更なる慎重な検討が行われることが必要と考える。
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営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋及び代理懐胎のための施術の斡旋は、「商業主義を排除する」及び「優生思想を排除する」という基本的考え方に著しく反し、なおかつ、医師以外の人々によっても行われる可能性が高いことから、実効性を担保するために罰則が必要であること
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| ・ |
代理懐胎のための施術は、「生まれてくる子の福祉を優先する」、「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」及び「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に著しく反すること
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| ・ |
生殖補助医療は特に人のプライバシーを重視しなければならないという観点から、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に関する職務上知り得た人の秘密を正当な理由なく漏洩することは、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に反し、また、医師以外の者も罰する必要があること |
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| ○ |
なお、医事に関し犯罪または不正の行為があった医師については、医師法に基づく免許の取消しがあるなど、医療の適切な実施について、現行においても規制があるところであり、代理懐胎のための施術を行った医師に対して別途罰則規定を設ける必要があるかどうかについては、これらの規制との関係にも留意する必要がある。
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| ○ |
また、上記により罰則を伴う法律によって規制するものを除き、III1「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けることができる者の条件」からIII4「インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)、カウンセリング」において述べた結論については、国民の幸福追求権と公共の福祉の観点を勘案し、また、規制の実効性を担保しつつ、規制の現実に対する柔軟性を確保する観点から、罰則を伴う法律によって規制することは適当ではなく、法律に基づく指針等規制の実効性を担保できる他の態様によって規制することが適当である。 |
| ○ |
以上、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の具体化について、27回にわたり、慎重な検討を経て取りまとめられた本部会の検討結果を報告した。
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| ○ |
本報告書の冒頭で述べたように、生殖補助医療が社会に着実に広まっている一方、生殖補助医療をめぐり様々な問題が発生している。
本部会における検討を開始した後も、日本産科婦人科学会の会告に違反する生殖補助医療を実施したため、学会から除名された医師が、学会の会告では認められていない生殖補助医療を引き続き実施するといった事例が見られており、本部会としても、学会の会告に一定の限界があることは認めざるを得ず、精子の売買や代理懐胎の斡旋など商業主義的な行為への規制を含め、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の適正な実施のためには新たな制度が必要との認識に至った。
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| ○ |
すでに専門委員会報告において、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療について法整備を含めた制度整備の必要性が指摘されていたところであるが、本部会としても、こうした状況を踏まえ、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の適正な実施のためには、法整備を含めた制度整備が必要との結論に至った。
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| ○ |
本報告書は、生殖補助医療をめぐる様々な状況を総合的に勘案し、一定の条件のもとに、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を一定の範囲で容認することとするが、当該生殖補助医療が、特に生まれてきた子の福祉に直結する問題であることを踏まえ、本報告書における結論を実施するために必要な制度の整備が早急に行われることを求めるものである。
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| ○ |
なお、本部会において容認することとされた各生殖補助医療といえども、こうした必要な制度の整備が行われるまでは、匿名性を担保できる者から提供された精子による人工授精以外は実施されるべきではなく、こうした人工授精についても、その適用が可能な範囲内で本報告書における結論にそった適切な対応がなされることを望むものである。
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| ○ |
また、本部会としては、生殖補助医療をめぐる様々な状況を総合的に勘案し、現時点における結論をまとめたものであるが、必要な制度が整備され、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施が開始されてから一定期間経過後に、その実施状況やその時点における国民世論等を勘案しつつ、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方について必要な見直しが行われるべきと考える。
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| ○ |
専門委員会及び本部会においては、親子関係の確定や商業主義等の観点から、その実施に当たって特に問題が生じやすい精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療について検討を行い、その検討結果を取りまとめたところであるが、本報告書における結論の中には、生殖補助医療一般に関しても適用できるものが存在することから、他の形態の生殖補助医療についても、その適用が可能な範囲内で本報告書における結論にそった適切な対応がなされることが望まれる。 |